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あなたの剣になりたい  作者: 四季
8.躊躇いと、告げられる言葉
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episode.107 煽る

 煽り過ぎるのはどうか、と、思わないこともない。だが、今はそれしかないから、仕方がないのだ。


「かっこつけてるのがダサいならね! 弱い者虐めをするのは、その百倍ダサいのよ!」

「……ウッザ」


 少女は不快そうに顔をしかめながら漏らす。

 どうやら彼女は、挑発に乗ってきてくれるタイプのようだ。それならまだ、やりようはある。


「分かったなら離しなさい!」

「離せ? バーカ。言われて離すわけないカラ!」


 少女は舌をべーっと伸ばしてくる。だが、そのような態度を取られることは想像の範囲内。むしろ、乗ってきてくれてありがとう、という感じだ。


「残念だけど、馬鹿はそっちよ。他人のことを簡単に馬鹿呼ばわりするんだもの」


 少女の意識が私へ向いている隙に、リゴールは後ろへ飛ばされた本を拾っていた。

 ただ、意外なことに、少女はリゴールを攻撃しなかった。小型の銃はまだ構えている。だから、すぐにでも攻撃できそうなものなのに。


「私や彼を見下したいなら、せめて、名乗ることくらい覚えたら?」

「うっさい、黙レ!」


 少女は叫び、リゴールに向けていた小型銃の先端をこちらへ向け直す。


「魔弾銃の餌食になレ!」


 小型の銃——魔弾銃より、灰色の弾丸——厳密にはエネルギー弾が、飛ぶ。風を切り、飛ぶ。その速度は、目に留まらぬほど。


 魔弾銃の先端から飛び出したエネルギー弾は、動けない私に命中。

 ただ、包帯のようなものがあったおかげで、エネルギー弾の直撃を受けることは免れた。


 破裂音と衝撃は確かにあったけれど、ダメージ自体はあまりない。多少驚いた程度である。少女も愚かだ。包帯を外していれば、私へダメージを与えることだってできただろうに。


 ……もっとも、私からすればラッキーだったのだが。


「エアリ! すぐ助けます!」


 リゴールが言い放つ。


 私はこんな時に限って、「それを言ったら、敵にバレてしまうのではないか」などという冷めたことを考えてしまった。


 助けると言ってくれたこと自体はありがたいことなのに。


「プププ! そんなこと言うとカ、馬鹿っみたイ!」


 やはり予想通りの展開。

 案の定、少女の意識がリゴールの方へ向いてしまった。


 少女は一瞬にして、魔弾銃の銃口をリゴールの方へ戻す。そして、引き金を引いた。灰色のエネルギー弾が宙を駆ける。


 が、リゴールはそれを防御膜で防ぐ。


 そして、少女に向かって直進する。


「直進!?」


 リゴールが真っ直ぐ突っ込んでくることに動揺しつつも、少女は弾丸を放つ。

 しかしリゴールには防御膜がある。だから、少女の放つ弾丸は効かない。命中はしても、黄金に輝く膜が威力を殺してしまうのだ。


 みるみるうちに距離が詰まる。


「……参ります!」


 本を開く。


 溢れるは、黄金の輝き。


 目を傷めそうなほど目映い光に、少女の顔がひきつる。


 ほんの一瞬だけ、青い双眸が煌めいて見え。数秒経つと、放たれる輝きは増す。光の洪水は、やがて、剣のようにも槍のようにも見える形を作り出す。


「覚悟を」


 リゴールの唇が微かに動く。

 それを合図にしたかのように、剣と槍を混ぜたような姿の光は少女に向かう。


「チョ……!?」


 生意気だった少女も、リゴールの想像を軽く越える攻撃には、さすがに怯んでいるようで。顔は強張っているし、発する声も上ずっていた。少し可哀想に思えてくるくらいに。


 ——そして、突き刺さる。


 少女に、リゴールの生み出した輝きが。


 武器のような形となった光が、少女に、包み込むように命中する。ただそれだけのことで、血の一滴も流れないというのに、凄まじい熱量。


 信じられない。

 理解できない。


 私はただただ、呆然とする外なかった。


 しかし、そのような状態になっているのは私だけではなく。ベッドの脇に移動しているミセも、同じように、呆然としていた。


 空気の流れが乱れ、熱いものが迫り来る。

 自分が攻撃されていると錯覚してしまうほどのエネルギー。


 ——気づいた時には、少女の姿は消えていた。


 もちろん、少女だけではない。私に巻き付いていた包帯のようなものも、すべて消滅していた。


「エアリに意地悪なことをする人は嫌いです!」


 リゴールは唇を尖らせつつ、吐き捨てるように言い放っていた。

 晴れて自由の身となった私は、リゴールに駆け寄る。


「ありがとう、リゴール」

「お怪我はありませんか?」

「大丈夫よ」

「良かったです」


 リゴールは笑みを浮かべる。

 どことなく切なげな雰囲気のある笑みを。


「また役に立てなかった……ごめんなさい」

「いえ。怪我がないようで安心しました」


 すべてが終わった証拠もないのに気を抜くのは、良くないかもしれない。けれど、今だけはどうか、ホッとさせてほしい。


「リゴールくんって……案外凄いのねぇ……」


 デスタンの傍で待機していたミセが、感心したように漏らした。

 それに言葉を返すのは、デスタン。


「王子は本当はお強いのです」

「あーら、そうなのぉ? さすがアタシのデスタン! 詳しいのねぇ!」


 ミセは相変わらず、粘り気のある甘い声を出している。デスタンの方は少しずつ素を出していっているようだが、ミセは今でも最初と変わらない振る舞いだ。


「リゴールくんが超能力者だったなんてぇ、アタシ、知らなかったわぁ!」

「王子が本気を出した際の力。それは、どんな者でも倒せてしまうようなお力なのです」


 デスタンは淡々と、リゴールの強さについて語る。それを聞いたリゴールは、恥ずかしいからなのか、頬を赤らめていた。


「デスタンったら、知り合いが凄ぉい!」


 知り合いが凄い、て。


 少しばかり突っ込みを入れたくなってしまった。

 無論、実際に入れることはしなかったが。


「さすがねぇ! デースタン!」


 ミセは、両手でデスタンの片手を包むように握ると、自分の胸元まで引き寄せる。


「どうしたのです、ミセさん」

「いやね、デスタン! どうもしてないわぁー。アタシはデスタンのことが好き! それだけよぅ」


 この期に及んで、まだいちゃつくか。

 思わずそう言いそうになったくらい、ミセはデスタンに擦り寄っている。


 平常運転というか何というか。


「失礼かもしれませんが、少し鬱陶しいと思ってしまいます」

「あぁん、冷たいー!」


 ミセはデスタンを二人の世界に引き込もうと必死だ。だが、デスタンはさすがにデスタン。そう易々と乗せられはしない。


 そんな二人を見ていたところ、リゴールが声をかけてきた。


「そろそろ帰りましょうか、エアリ」

「もういいの?」

「ミセさんの交流を邪魔するわけには参りませんから……」


 空気を読んで、ということだったようだ。

 そういうことなら、と、私は頷いた。

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