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あなたの剣になりたい  作者: 四季
7.親子の外出、それと遭遇
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episode.99 二対一

 肩を打ち、倒れ込んでしまったが、そこまで重傷ではないため速やかに体勢を立て直すことができた。


 高齢男性はリゴールをキッと睨み、舌打ちをする。

 それまでずっと「ふぉ」しか言っていなかったため、舌打ちをするなんて想定外で、正直かなり驚いてしまった。


「エアリに攻撃などさせませんよ!」


 リゴールはらしくない勇ましい表情で言い放つ。


 一見、かっこいい場面。

 だが……助けるためとはいえ自分が攻撃を当てておいて、それを言うのはどうなのだろうか。


「ふぉ、ふぉ、ふぉ」


 一時は不機嫌そうになっていた高齢男性だが、すぐに元通りの穏やかな表情に戻り、柔らかな笑い声を漏らし始める。


 そんな高齢男性に向け、リゴールは魔法を放つ。

 遠慮がない。


 黄金に輝く幾本ものラインは、目標である高齢男性に集中していく。


「ふぉぉぉぉぉ」


 刹那、高齢男性は跳んだ。天井へ達するのではないかというほどの高さにまで。


 信じられない。

 恐ろしい脚力だ。


「かわされましたか……!」

「ふぉぉぉぉぉ!」


 天井付近まで跳び上がっていた高齢男性は、甲高い声を発しながら垂直落下。

 その下にいるのは、リゴール。


「来るわよ!」

「はい!」


 リゴールは咄嗟にその場から移動し、高齢男性の垂直落下攻撃を回避する。


 高齢男性が着地した直後。

 彼の杖の一番下側——地面に接している面に、果物ナイフのような刃が現れる。


「ふぉ!」


 杖を振り、リゴールに攻撃を仕掛ける高齢男性。

 リゴールは刃をすれすれのところでかわす。


 ——だが。


「ふぉぉ!」


 一度目の振りから間を空けず、高齢男性はもう一度攻撃を仕掛けた。

 お年寄りとは思えぬ挙動。


「くっ……!」


 リゴールは背を反らせ回避しようとした。


 が、今度は先ほどのようにはいかず。

 刃を右脇腹に受けてしまった。


「リゴール!」


 思わず高い声を発してしまう。


「問題ありません! エアリ、援護を!」

「そ、そうね!」


 この高齢男性、ただの高齢者ではなさそうだ。

 常人とはかけ離れた戦闘能力を持っている。油断はできない。


 ただ、二人でかかれば、そう易々と負けはしないはず。


「挟み撃ちね!」

「はい!」


 そうは言ったものの、仕掛けるタイミングが難しい。というのも、高齢男性は常にこちらにも意識を向けているのだ。見ているのはリゴールの方なのだが、背後への警戒も怠っていない。隙の無い背中だ。


「ふぉ!」

「……くっ」

「ふぉ、ふぉ、ふぉ」

「……っ」


 高齢男性とリゴールの攻防が続く。


 だが、リゴールは防御に必死で、反撃する隙を見つけられていない。


 彼は小柄ゆえか動きが素早い。その素早さのおかげで、高齢男性の杖による攻めを何とかかわし続けられているようだ。


 けれど、得意の魔法を放つタイミングは与えてもらえていない。


 このまま同じことを続けていたら、リゴールはいずれ負けてしまうことだろう。彼の体力が尽きた時が、敗北の時だ。


 高齢男性の背に隙はない。

 それでも、仕掛けなければ。


 倒せなくてもいい。

 リゴールに魔法を打つ隙を与えられるだけでも十分。


 そう考え、私は踏み出す。


 大きな一歩。そして、剣を振る。


「ふぉ、ふぉ」


 剣の刃部分が背に触れかけた刹那、高齢男性は振り返る。

 ほうれい線がくっきり現れた口元にうっすらと笑みが浮かぶのが見えた。


「え……」

「ふぉぉぉぉ!」


 直後、剣を握る右腕に鋭い痛みが走る。


「あっ……」


 痛みのせいでほんの数秒脱力し、剣が手からするりと落下する。


 これでは攻撃できない!


 そう焦った、直後。


「ふ——ふぉぉぉぉぉぉ!?」


 私へ意識を向けていた高齢男性の背に、黄金の光の線が幾本も突き刺さる。


 凄まじい黄金の光が、室内を満たす。

 恐ろしいくらいの輝き。


 私はハッとしてリゴールの方へ視線を向ける。すると、本を片手に険しい表情をしている彼の姿が見えた。やはり、この凄まじい魔法を放ったのは彼だったようだ。


「ふぉ、ふぉ、ふぉ……」


 リゴールの魔法をもろに受けた高齢男性は、掠れた声を漏らしつつ、ゆっくりと倒れ——床に倒れ込んだ直後に消滅した。


「エアリ!」


 高齢男性が消滅したのを見るや否や、リゴールは駆け出す——そして、飛びついてきた。


「えぇ!?」

「あ、あわわ……!」


 リゴールの体は華奢で軽い。だがそれでも、勢いよく飛びかかってこられたら、何事もなかったかのように立ってはいられず。私はよろけて、地面に倒れ込んでしまった。私が倒れ込んだことによって、リゴールも倒れ込んでしまう。


「……っ!」


 結果、リゴールに被さられる形になってしまった。


 顔と顔が近づく。

 彼の青い瞳が、すぐ傍にまで迫る。


「り、リゴール……」


 私がそう漏らした、直後。

 リゴールの顔が真っ赤に染まった。


「あっ、あああ!」

「え、ちょ、何? 何なの?」

「申し訳ありません! こんなことになってしまって!」


 リゴールはリンゴのような顔になりながら、私の上から飛び退く。表情を見た感じ、かなり慌てていそうだ。


「こ、このような積極的なことをするつもりでは……」


 いや、ちょっと待ってほしい。


 積極的なこと?

 何なのか、その表現は。


「大丈夫よ。落ち着いて、リゴール」

「は……はい……」


 頷きはするものの、リゴールはまだ赤い顔をしている。


 ——そんな時。


「王子、先に怪我の手当てを済まされた方がよろしいかと」


 ベッドに寝たまま一部始終を見ていたデスタンが、淡々とした口調で言葉をかけてきた。

 その言葉を聞いて、私は思い出す。リゴールが負傷していたということを。


「そうだったわね。リゴール、脇腹は?」

「え?」

「怪我してたでしょ」


 するとリゴールは目をぱちぱちさせ、続けて、自身の脇腹へと視線を落とした。それから二三秒が経過した後、面を上げて苦笑する。


「そうでした。失念していました。思い出させて下さってありがとうございます」

「思い出させてくれたのはデスタンさんよ」


 するとリゴールは、ベッドの上で横になっているデスタンへ視線を向ける。


「思い出させて下さってありがとうございます、デスタン」

「いえ。当然のことです」

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