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ゾンビ勇者  作者: 石破健
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第五話

 


 ――数年前――



「アレ兄っ! マティ姉にいじわるするのやめなよっ!」


 先生におつかいを頼まれて、食堂で受け取った麻袋を運んでいると、馬小屋の方からメイシィの声が聞こえた。

 またケンカしているのか、声を聞いた感じでは怒ってるみたいだ。

 おれは馬小屋に走った。


「うるっせえなあ。ちょっと能力の練習してるだけだろ? てか、ちょ、殴ろうとすんのやめろっ」


「他の鉄でやりなよ! マティ姉を練習道具にしないでっ!」


「メイちゃん……。ウチ、だいじょぶ、だか……らぁっ!」


「ほーら本人がいいっつってんだ。アホは引っ込んでろ!」


 到着したおれが見たのは『光』に貰った能力でマティを飛ばしているアレストラにメイシィが殴りかかっている光景だった。全部避けられてるけど。

 マティも能力を貰ってて、全身金属になれる能力だからアレストラの鉄を操る能力で動かせるんだ。

 マティは口では大丈夫と言っているけど、それが強がりだってことは顔を見ればわかった。

 ものすごく青ざめてるし、ギュッと目をつぶっているし、なにより震えてる。


「やめろよアレストラ! マティが恐がってるのがわかんないのか!?」


「テッド! いい所に」


「ちっ、アホ二号まで来やがった。気が散るからあっち行ってろって! ――あっ」

「「「あっ!」」」


 アレストラがマティから目を離しておれをにらんだ次の瞬間、それまで空中をふわふわ飛んでいたマティが急に地面に向かって落ち始めた。


「きゃあああっ!?」


 一瞬、助けようとした体に待ったをかける。

 金属になっているんだからケガはしないんじゃないか? いやでもあんなにおびえてるからびっくりして能力を解除しちゃうかも。

 でもだからってキャッチしようとして金属のままだったらこっちが大ケガするし……。

 そもそもアレストラがコントロールを取り戻すかも……。

 あああどうしよう迷って体が動かない!


「マティ姉っ! ――ンゲゥっ!」


「メイシィ!?」


 おれが迷っている間に、結局能力を解除せず落ちたマティ。

 そして、彼女は迷わず飛び込んだメイシィの背中に着地。

 と、同時にメイシィのものすごい声が響き渡った。


「メ、メイシィ!」


「お、おい。大丈夫かよ」


「うわっ、ごめんメイちゃん! ケガは!?」


 三人でメイシィの様子をうかがう。

 すると彼女はうぅ。とうめき声をあげてから、


「だ、大丈夫。すっごい痛いけど。ケガは……ないと思う」


 苦しそうに、だけど笑顔でガッツポーズするメイシィにとりあえず三人揃って肩を下ろす。

 最近気づいてきたけど、もしかしたらこの子はすごく頑丈なのかもしれない。


「……あ、私先生呼んでくる! 一応診てもらわないと」


 そう言って、マティは俺がきた方角でもある母屋の方へ走っていった。

 落ちた本人の彼女は心配ないみたいだ。

 そして残ったのは俺としばらく動けそうにないメイシィと、


「アレストラ! マティとメイシィに謝れよ!」


「はぁあ? そもそも、てめえらが邪魔すっから落としちまったんだぞッ!」


 この騒ぎの犯人であるアレストラ。

 コイツ、まったく反省してないぞ。

 やめろって注意してやめなくて、そのせいでマティとメイシィが危険な目にあったのに謝らないなんて、絶対間違ってる。


「謝るまで許さない……!」


「上等だ。かかってきやがれ」


 男には負けられない戦いがあるもんだ。ってロキンさんとクーフさんが言ってた。

 きっと今がその時なんだ。


「う、うぅ。テッド……がんばれ〜」


 メイシィの力ない応援を背に、俺はアレストラへと飛びかかった。



 ――現在――



「それで結局あの時もボコボコにされてたよね〜」


「うるさいな。次は勝つ」


 博士とロキンさんが待つ研究所へと向かう道すがら、俺はメイシィと昔話をしていた。

 正直、俺としてはあまり思い出したくない類の思い出だが。

 メイシィは楽しそうに話している。


「でもまあ、テッドもちゃんと強くなってるよ。今じゃ立派な勇者様だもんね」


「――――」


 あっけらかんとしたメイシィの言葉に、俺は返事ができなかった。


「……あ、ロキンさんだ。おーい!」


 メイシィが指差す先を見ると、研究所の前にロキンさんが立っていた。

 彼はこちらに気がつくと明らかに安堵した表情で大きく手招きしてきた。

 ずいぶん待たせてしまったからな。

 俺とメイシィは急いで彼のもとへ向かった。


「お待たせしてすみませんでした。先輩の稽古が思ってたよりハードでして……」


「いや、よい。お前とアレストラの事だからどうせ熱くなって長引くだろうとは思っておったからな! 若者はそうでなくちゃならん!」


 ガッハッハッとお馴染みの笑い方で許してくれるロキンさん。

 さすがだ。

 こういう大人になりたい。


「ところで、なんで外に?」


「ああ、待っておる間博士と話しておったのだが、彼の話は俺にはちと難しすぎてな。お主たちの様子を見てくると言って出ておったのだ」


「あー、博士って研究の話になると相手の事考えずに延々と喋っちゃいますからね〜」


 メイシィが苦笑いでそう言った。

 ロキンさんはロキンさんで大変だったようだ。


「じゃあ、入りましょうか」


 と、俺はやっと研究所へと到着した。


 白い扉を開けて中に入ると、そこは色んな形や大きさの物体がそこかしこに散らかった部屋だ。

 中にはガラクタにしか見えないような物もあるが、どれも博士にとっては大事な発明品。らしい。


「博士ー、テッドが来ましたよー!」


「遅くなってすみませんでした」


「おぉ、遅いぞテッド。はようこっちにこんか」


 奥から聞こえる声の方に進むと、メイシィと同じ白衣を着た痩せぎすで白髪の老人が立っていた。

 彼はそのまま奥の机からなにかを掴んでこちらへ持ってきた。


「ほれ、頼まれとった槍を作ってみたから試してみぃ。はよしてみぃ」


「ああ、はいはい」


「あ、博士私ごはん作ってきますからね」


 博士は、せっかちだ。

 効率主義というかなんというか、とにかく研究に無駄な事をやりたがらず、来客にお茶という概念も存在しない。

 いや、別にお茶が飲みたい訳じゃないが、なんで遅れたかとか聞かなくていいのだろうか。

 すぐに用件に入ってくれるのは忙しい勇者の身としてはありがたくはあるが。


 などと思いつつ、博士から()()()()()()()()の長さの棒を受け取る。


「持ち運びやすいように最初は棒状にしとる。エルを流せばお前さんが今持っとる三又槍になる」


 言われた通りにエルを流すと、棒の両端が開いて中からさらに棒が伸びていき、あれよあれよという間に馴染みのある三又槍になった。

 こ、これは控えめに言って。


「かっけぇ……」


「そうじゃろうて。あと、ここにこんな風にエルを流すとこれがこうなるんじゃが……」


「んん? どうやったんですか? こう?」


「違うわい、こうじゃこう! ああ、もうセンスないのう。貸してみい!」


 と、博士は子どもみたいに俺から槍を取り上げてしまった。

 新機能の使い方はあとでまた教わるとしよう。


「あと、またお願いしたいのがあって」


「なんじゃ言うてみい」


「千里鏡のことなんですが……」


 と言いつつ俺が懐から千里鏡を取り出すと、


「ああ、他の勇者達からも言われておるわ。親玉を探しにくいんじゃろ?」


「ああ、はい」


 なんだ、既に話が出てたのか。

 博士は、まったく文句ばっかり言いおって。とぶつくさ言いながらまた奥の机からなにかを掴んで、こちらに放り投げてきた。


「ちょうどさっき試作ができたとこでの。千里鏡に取り付けて使えば映像を拡大縮小できる。それで探しやすい範囲に調節するんじゃよ」


「……相変わらず仕事が早いですね」


「当然じゃ。わしゃベリグトゥン一の発明家じゃぞ」


 と言って博士はニヤリと笑った。

 実際、勇者達の特殊な装備の全ては博士産なのでその評価は正当な自信だ。

 今日の勇者の活躍は彼の功績によるところが大きく、議長と並んでベリグトゥンに欠かせない人物だ。


 そうして、一通り新しい発明品の解説を聞き終えると、メイシィが夕飯を振舞ってくれた。

 ロキンさんは都の中に自宅があり、奥さんが料理を作って待ってくれているらしく、遠慮して帰っていったが、俺の家は都から少し外れた村にあるため遠慮なくご馳走になる。


「どうどう? おいし?」


「この魚の切り身は美味いな」


「それ、切っただけなんだけど……。博士はどうですか?」


「わしは栄養が取れれば味は気にせん」


「……はぁ。精進します」


 などと、やり取りをしていると――


「――っ!」


 研究所に大音量のブザーが鳴り響いた。

 咄嗟に身構え、メイシィと共に博士を囲む。

 この研究所にはガラクタばかりでなく、重要なアイテムも相当数あり、それらは勿論売れば高額になるであろう物ばかりだ。

 そういう理由で侵入者対策のアラームが設置してあるのだが……。


 何者かの襲撃か? だとしたら敵はなんだ?

 なんだとしても博士だけは守らなければならない。

 俺は先程受け取った槍にエルを流して構えた。

 その刹那。


 視界の端に小さな影を捉えた。

 攻撃か?

 槍で叩き落とすと、それは鉄球だった。

 叩き落とした鉄球は地面に埋まり、しかし再び浮き上がると先程と比べるとずっと遅い速度で俺の方に飛んできた。

 俺は槍で受け止める。


「これは……。なんだ?」


「攻撃、だよね。まだ来るかも」


「おお、これは」


 博士は鉄球を眺めると、なにか思い出したような声を出して鉄球に触れた。


「ちょっと! あぶないですから博士は下がって!」


「待て待てこれはワシの発明品じゃよ。確かアレストラに渡したやつじゃ。ほれ、テッド後ろ向いてみい」


 博士に従い後ろを向くと、背中からなにかを剥がされたような感覚。


「稽古しとった時にでもこの鉄板を貼られとったんじゃろ。あやつの能力と合わせるとこの鉄板に向かって遠隔攻撃できる発明品じゃ!」


「え!? アレ兄がなんで」


 自慢げな博士の説明をよそに、メイシィは驚愕の声を上げる。

 まさか勇者であるアレストラが研究所を襲撃したのか。

 と、メイシィが思うのも無理はない。

 がしかし、俺は思い出していた。

 彼との稽古の前に交わした会話を。


「たぶん、俺の特訓だな」


「特訓?」


 これはおそらく、アレストラによる俺の不意打ち克服の特訓だろう。

 しばらく油断できないとは思っていたが、まさか当日から襲ってくるとは。ていうか殴りかかるっていってなかったか。


 ともあれメイシィと博士にその説明をすると、まあ奴ならやりかねない。との結論に至った。


 その後、鉄球に破られた窓を修理し、アラームを止めて研究所を後にする。

 メイシィは研究所近くに下宿しており、そこまで送っていく。


 月明かりでさほど暗くない夜道を二人で歩く。


「今日は大変だったねえ」


「ああ……。さすがに疲れた」


「アレ兄も、本気でテッドを鍛えようとしてるんだね」


 確かに、メイシィの言う通りだ。

 アレストラはその性格から勘違いされることも多いし、実際俺も正直苦手だ。

 だが、人一倍勇者としての義務を果たそうと努力しているのもまた事実で、そこは他の勇者も認めている。


「それでも、昔も今もやり過ぎだけどな」


「ふふ。でも『不屈の勇者』なんだから負けちゃだめだよ」


 月の白い光に照らされたメイシィが柔らかい笑顔で俺に言った。

 それは、激励だったが、それと同時に俺には呪いの言葉にも感じられた。


「……ああ。誓うよ」


 誓うしかない。

 ()()()()()()()にはその義務があるのだから。





読んでくださってる方々、ありがとうございます!

あなたはなんとなーく読んでるだけかも知れませんが、僕にとってはそれが励みになってます!

少しずつですがこれからも書いて行くので、続きもよろしくお願いします!

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