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殺し屋少女の青春  作者: ミント
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恋には不器用な殺し屋だった。

       1、中学生のごとく


「…昨日の午後6時頃に佐藤みゆきさんの殺人が行われたと考えられた事件、警察は犯人を………」

血のついた包丁を丁寧に洗っていたとき、そんなニュースが耳に入ってきた。

私が犯人となった事件。

無論、殺したのは今日の午前2時だ。人の体を速く腐らせる事など私にかかれば簡単なことだ。


『妻が不倫している。証拠は掴んでるのに問い詰めても嘘ばっかつくから、殺意が沸いた。残虐な殺しかたをしてくれ。』

そんな依頼を聞いたときは正直、夫婦愛とは?と、言いたくなるようなうんざりした気持ちになった。陳腐でくだらない依頼だが、されたからには果たすしかないので、とりあえず包丁を何回も突き刺した。食欲が無くなる光景だった。


ニュースを耳で聞きながら、洗い終わった包丁を元に戻して、学校の支度をする。ご飯として、昨日買ったパンを食べて、顔を洗って、歯磨きをする。

髪をとかしているときに、今日はやけに髪が絡まることに気づいた。血飛沫でも付いたのか。一回水で入念に流した。


ドライヤーで乾かしていると、自分のスマホがブブブと、バイブを鳴らした。来たメールのメッセージを見て、胸がドキッと跳ねる。

『警察が俺の家に来た。』

佐藤の殺人に協力してもらった殺し屋仲間(通称:殺し屋の兄さん)からのメールだった。いそいで、『大丈夫?』と打ったが、それ以降しばらくメールは来なかった。

心配しながら髪を結んで、着替えようとした時、10分くらい経っただろうか。またメールが来た。

『けいさつつまくたまされてかえていった』

始めは、何かの暗号に見えた。だけど、それが、『警察うまく騙されて帰っていった』ということだと分かると安心した。帰っていったのが嬉しくて速く伝えたいあまり、焦って打ったのだろう。

23歳の男の人でも、可愛いときはある。

『良かった』と送ったところで、学校に行く時間まであと10分なのに気づいて、急いで準備を再開した。

─────────────

「あ、若菜ちゃん、ひさしぶり」

「若菜5日も休んでたやん、どうしたの?」

「おはよう」

私が来ると、クラスがざわつき始めた。みんなから見て、「勉強も運動も抜群にできる優等生」な私はなにかと目立っているようだ。確かにテストはほとんど100点だけど、まだまだ本気じゃない。なんなら東大の入試問題も楽勝だ。

「若菜ちゃん、机の中に休みの間に配られたプリント入れておいたよ」

「ありがとう」

私の前の席に座っている真衣は普段は不思議キャラとしてクラスに愛されているが、やった方がいいことを判断して、役にたつことができる、しっかり者な一面もある。こんな私にも優しくしてくれる彼女はいい人だなといつも思う。

だけど、彼女は─みんなは知らない。私は、裏では日本中、時には海外で人殺しをしている殺し屋の闇会社─マフィアのような組織の中でも1、2位の腕前を持っている凶悪な犯罪者ということを。

今まで100人以上殺してきたにも関わらず、警察には1度も疑われたことがない。組織でも近々、最年少でトップの座につきそうだと期待されている。トップについたら学校は行けないだろうけど。


「今日は──転校生が来る日だってのは覚えてますか?」

先生の一言でざわざわとみんなが騒ぎ始めた。もちろん私も驚いた。5日の間に知らされたのか。

「待ちに待った新しい仲間はもうドアの向こうにいますよ。では、入ってください。」

ドキドキしながら待っていると、次の瞬間、みんなが息を止める勢いで驚いたのが分かった。みんな目玉が飛び出そうなほど目を見開いていて、なんだか面白かった。



入ってきた転校生は超絶イケメンだったのだ。



その子は『野田修騎、趣味はサッカー、よろしく』

と簡単に言って、先生に促されて私の隣に座った。

──男子は私に向かってヒューヒューと言って、

──女子はいいなぁと言う子もいれば、恨めしそうに私を睨む子もいた。


修騎と名乗ったイケメンは私を見て、驚くほど爽やかな笑顔で『改めてよろしく』と言ってくれた。

その笑顔で私のハートは射ぬかれた


──なんてことは無かった。

──────────────

それから数日。修騎は女子に大人気だった。さっそくラブレターを貰ったり、遊ぼうと誘われたり。それでも修騎は根気強く(?)私にだけ、積極的に話しかけた。正直嬉しくないことはないけど、理由も分からず、怖いなぁとも思った。

そして今日。

「ねぇ、今日暇だからさ、一緒に遊ばない?」

「え?」

国語の授業中、修騎が遊びに誘ってきた。相手が暇か聞くのでは無く、自分が暇だから遊ぼうと言っている気がしてむかっとする。

「どこで?他に誰誘うの?」

「──ふ、二人で…」

修騎が困ったような顔をしているところは初めて見た。そんな様子を見てると、何故か断る気力が失せる。

まあ、殺しの仕事も特に無かったので、二人で遊ぶことにした。


どこで遊ぶか迷った末、公園に行った。

家から持ってきた飴を舐めながらベンチで喋っていた。

「俺さ、あーやってグイグイ来る女子、苦手なんだよね」

「へぇ、意外。女子がたくさん集まってきて喜んでるのかと思ってた」

修騎は首をブンブン振った。

「世の中、顔良ければ全て良しなんだよ。だから俺よりイケメン見っけたらそっちにみんな行く。それがほんと、苦手」

私が反応に困っていると修騎は「でも」つけ足した。

「若菜は違うよな。俺に好かれるために媚びとか売らないし、俺から話しかけてもあっさりしてる。人によって態度を変えようとしない。俺、そういう人の方が─いい」

「…なにそれ」

と、私が言うと、修騎と目が合い、二人で吹き出した。

自分が人殺しなんてしてない、普通の中学生に感じた。それが無性に嬉しかった。

しばらく話していると、唐突に『ひとつ聞いていい?』と質問を私に投げ掛けた。

「なに?」

「あのさ……変な質問なんだけど」

そこまで言って急に顔を近づけてきた。近くで見てもすごく顔立ちが良くて、少しドキッとする。

修騎はわずかに顔をしかめた後、私にこうたずねた。



「──若菜、ってさ、異常に血のにおいがするんだけど、なんかあった?」





…………飴を喉に詰まらせそうになった。


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