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わたしたちのお兄ちゃん戦争  作者: 二位さとし
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 俺はリビングでソファに腰を下ろして少女マンガを読んでいた。別に少女マンガが好きなわけではない。テレビがあまりにもつまらないんで、目の前にあったマンガを読んでいるだけだ。しかし、女の子ってのはすごいもんだよ。脳みその九十九パーセントは恋愛の事で占められてるんじゃないだろうかね。呆れるを通り越して一周して畏怖にまでたどり着いたところで、景気良く頭をたたかれた。

「剛健、洗濯終わってるよ。早く干してこいよ」

 兄を兄とも思わない、あゆの所業だ。

「今、掃除が終わったところなんだよ。ちょっとは休ませろよ」

「女の子は、いつでも可愛い服を着られるようにしておかないといけないわけ。洗濯できてないせいでコーデのバリエーションが減るとかマジありえないから」

「すぐ干さなくたって、服は逃げやしないって」

「逃げるの! 現に今、あたしが着たい服は洗濯機の中なんだぜ?」

「わかったよ。ドライヤーで乾かしてやるよ。どれなんだ?」

 俺はゆっくり立ち上がると、あゆの背中を押した。そもそも、何で俺が家事をやらなきゃいけないのかが分からないよな。初音は、料理だけは得意だけど、皿洗いはやらないからな。俺が事実上の主夫ってわけだ。何か納得行かない。家事は公平に分担すべきだと思うんだが、どうなんだ?

 あゆは洗濯槽からTシャツを一枚取り出した。

「はい、これお願い」

「なんでだよ。Tシャツなんか、どれでも一緒だろう? 何この金ラメ。リズ……何? 趣味悪くね?」

 俺は不平を言いつつも丁寧にハンガーにかけてドライヤーの電源を入れた。

「ブランドなんだってば。ちっとは勉強しろよ」

「や、どうでもいいよ。つか、知りたくもないわ。女の服なんて高いばっかりだし、一年も経てば流行変わるし。いやー、俺は男に生まれてきてつくづく良かったと思うね」

「女の子は着たい時に着たい物を着るの! このトウヘンボクめ!」

「なんだよもう。どこでそんな言葉を覚えてくるわけ?」

「あっ。これ! なんなんだよこれ。これっ!」

 俺はあゆの視線を追った。洗面器にぬるま湯がはられて下着がつけてある。

「圭のパンツとブラだよ。なんか高そうだから手洗いしたんだ」

「ちょっとちょっと、何か待遇違いすぎない?」

「お前らのパンツは安物なんだから洗濯機で十分だろ? つーかさぁ。女の子として、自分のパンツは自分で洗うとか、そういう発想はないわけ?」

「いいじゃん別に。どこに問題があんの?」

「家族とはいえ、俺は男なんだよね。自分のパンツを男に洗わせるのに、何の疑問も持たない方がおかしくね?」

「いえいえ。日々かいがいしく働いてるお兄様は、とっても魅力的ですわよ」

「言い方がなんかイラッとするわ。あっち行ってろ」

 俺はドライヤーをくるくると動かしながら、あゆのすねをペシペシと蹴った。

「はーい。あ、早いとこお願いね。もうすぐ出かけるから」

 あゆはリビングの方へ戻って行った。なんだかんだで、うまいこと使われちゃってるな、俺は。ま、いいけどね。なんだかんだ言っても、妹は可愛いよ。多少のわがままなら言いなりになってやるさ。多分、猫を飼ってる奴も、同じようなことを言うんだろうな。

 ドライヤーをくるくるとやっていると、丁度そこへ圭が通りかかった。一日中部屋に引きこもっているくせに、ドレスみたいなひらひらした服を着ていやがる。こいつの洗濯は無駄に手間がかかるんだよな。外に出ないんだったらもっとラフな服でかまわないだろうに。

「おい、ちょっと圭?」

 圭は通り過ぎたところを戻ってきた。

「何かしら。兄様」

 異様に色っぽい流し目を使いやがる。まだ小学生だって言うのに、今から無駄に色気を垂れ流してると、大人になって枯渇するぞ。

「いやなぁ。お前、外に出ないんだったら、普段からよそいきを着るのはやめないか?」

「あら、心外ね。これは普段着よ」

「うそつけ。結構高いもんなんだろう? ゴスロリって奴じゃないのか?」

「ふふふ。兄様も特殊な性癖に目覚めたのかしら?」

「違うって。洗濯が面倒なんだよ。そうそう、パンツももうちょっと安いのにしろ。三枚千円位のに……」

「いいえ。たとえ下着といえど、私にふさわしい品格をそなえたものを身に付けなければいけないと思いますわ。そう思いませんこと?」

 俺は何か言外の迫力のような物を感じた。目で射殺すような何かだ。魔法でも使われたのかと思った。一瞬、納得しかかった。危ない危ない。

「いやいやいや。お前にふさわしいのはお子様パンツだから。どうやって買ったのかは知らないけど、姉妹の間で服に差がありすぎだろう。お前も姉ちゃん達を見習って、それ相応の服にしなさい」

 圭は一瞬驚いたような顔をした。俺から目線を外すと、唇に人差し指をつけて、何か考え始めた。

「ちょっと、圭? 聞いてるのか?」

 今度はポケットからスマホを取り出して少し操作すると、俺の方をじっと眺めはじめた。スマホの表示と俺とを見比べているようにも見える。何を考えているのかよくわからない奴だ。圭は、しばらくしてからスマホをポケットに戻すと喋り始めた。

「分かりましたわ。こちらの時間で三日ほどたちましたら、また話し合いの場をもうけたいと思います。それでよろしいでしょうか?」

「いや、意味分かんないんだけど。俺は、姉妹間服装格差を是正するためにだなぁ――」

「すみません。私、お花摘みに行ってまいりますので。失礼」

 圭はしなを作ると立ち去ってしまった。

 あいつは、人の言う事を全く何も聞いてないし、変に色気を振りまくし。ついでに言わせて貰うと、あの持って回った口調がイラっとするわ。なんなんだろうなぁ。反抗期なのかな。

 本当は引きこもりからも救い出したいんだけど、デリケートな問題だしな。まぁ、それもこれも俺の記憶が戻ってからって事になるかな。何にも知らない只の同居人じゃ、出来ることにも限界があるからな。

 Tシャツもそこそこ着られる位には乾いたのでドライヤーを置いた。変な匂いが残っていないか嗅ぎながらリビングの方へ戻る。一応大丈夫だろう。着ても問題無さそうだ。

「ちょっとぉー。剛健さんやー? それは変態すぎやしませんか?」

 あゆからツッコミが入る。

「いや。変な臭いが残ってないか気になったからさ」

「やれやれ。それなら直接私の匂いを嗅いでよ。そのほうが健全だし」

 あゆはそう言いながら今着ているシャツを脱いだ。あたりまえのように下着はつけていない。胸はぺったんこだから別に下着なんて必要無いんだろう。骨と筋肉だけで構成されている体。腹筋が割れててもおかしくない。こいつは生まれてくる性別を間違えたんだな。

 あゆは俺の手からTシャツをひったくると身に着けた。でも金ラメはなぁ。そういえば、女ってのは何かキラキラしてるものを好むよな。カラスの習性みたいなもんかな? そうだとしても、子供服に金ラメを使うデザイナーの神経とはいかばかりのものか。

「ほれ。ほれ……」

 あゆは目を閉じて自分を指差した。よく分からんけど匂いを嗅げって事なのかな? 俺はかがんで顔をあゆの首筋に近づけた。

「どうよ。女の匂い。欲情しちゃうでしょー」

「乳臭い」

 鞭のようにしなるムエタイキックが、俺のテンプルに会心の一撃。

「バカ剛健! 死ねっ!」

 朦朧とする意識の中、耳をつんざく激しい罵倒の声が遠ざかって行くのを感じた。推定体重二十五キロのお子ちゃまキックで脳震盪とは洒落にならない。何とか立ち上がろうとするが、平衡感覚が回復しないので上手く行かない。

 とりあえずソファまで這いずって行って横になった。仕方ない、このまましばらく休もう。この程度なら多分すぐに回復するだろう。そこへ初音がやってきた。

「あゆが凄い勢いで飛び出してったけど、何かあったの? おにいちゃん」

「こめかみを蹴られた。一発KO。あいつは凶器だ。人間凶器だ」

「どうせまたロリコンしたんでしょー」

「またロリコンかよ。ロリコンするって具体的には何なわけ?」

「胸部血管腫様部位もしくはそれに類する局所を擦過する等の行為」

「何を言ってるのか分からないぞ! あ……、それ、したかも。昨日」

「ええええー! もうー! ろりこーん! へんたーい!」

「風呂でだよ。ちょっと胸んとこ、つまんだだけだよ」

「あゆはハァハァしてた? それともおにいちゃんがハァハァしちゃった?」

 むしろ初音がハァハァしている。

「し・な・い・よ。それより初音は、一般的な道徳観念が欠落してないか? その辺もうちょっと何とかしろよ」

「んー、そうかなー。私も結構、余所での暮らしが長かったからー」

「あーれ? 初音は留学とか寮住まいとかしてたの?」

「あ、ううん。そうじゃなくてー。えーっと。あっ! ラザニア全部食べてないじゃないの! おにいちゃんが食べたいって言ったから作ったのに!」

 食卓にはラップのかかった食いかけのラザニアがのっている。だが、食いきれなかったのは俺のせいじゃない。初音が嫌がらせのように盛りすぎたからだ。

「食べるから。後で食べるから……」

「絶対だからね? 私の手作りなんだからね?」

 実際にはホワイトソースもミートソースも缶詰にちょっと手を加えて作られたものだ。しかし、それでも俺の無茶な要求に応えてくれたんだから、こちらも礼を持って接さねばなるまい。

「わかった。ちゃんと食べるよ」

「夕飯は酢豚だけど、それもちゃんと食べてよねー」

「あ……。あぁ……」

 身から出た錆とはいえ、ちょっと報復がきつすぎやしませんかね。初音さんや。

 分かった。誓おう。天地神明にかけて。これからは、出まかせで人を煙に巻くのはやめる。やるなら、ちゃんと計画性を持ってやろう。でないと手痛いしっぺ返しを食うことになる。今からあのラザニアと酢豚だからな。いわゆるフードバトルというやつだ。先に胃薬を買っておいた方がいいかもしれないな。

 俺は、一旦身を起こそうとしたが、まだ平衡感覚がおかしかったので、そのまま倒れた。まさに踏んだり蹴ったりってやつだ。プラス蹴られたりかな。


なんか、やってることが違うらしいということで、いったん中断します。

読んでくれた皆さま、ありがとうございます。

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