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わたしたちのお兄ちゃん戦争  作者: 二位さとし
1/7

 俺は風呂に入っていた。一日の内で一番くつろげるのは、湯船につかっている時に決まっている。男子たるものは、そこで、その日一日の出来事を、幸せに包まれながら、反芻するものだ。そして、自分自身を評価し、反省すべき点は反省し、認識を新たにして、明日に備えるものだ。少なくとも、俺に関してはそうだ。だから、風呂の時間は、誰にも邪魔されたくは無い。

 しかし、俺のすぐ横で頭をわしゃわしゃと洗っている、この小さな生物は、俺の崇高な目的を理解していない。それどころか、俺が風呂に入ろうとすると、必ずついてくる。

 ぶっちゃけ邪魔なのだが、何度言っても言うことを聞かない。仕方ないので、俺はこいつの事を、バランだと思うことにしている。よくコンビニ弁当に入っている、緑色でギザギザしている、あってもなくてもどうでもいいようなアレだ。だから、視界に入っても、気にならない。気にしない。気にも留めないのだ。

剛健(ごうけん)~。シャワーで頭流してよ」

 バランが、甲高い声を発した様な気もするが、気にしない。

「剛健! しゃ・わ・あっ!」

 こいつは地声がでかい。日頃からでかいのに加えて今は風呂場の残響もプラスされている。うるっさいわ。流せばいいんだろが。流せば……。

 俺は湯船につかったままシャワーヘッドをつかむと、バランの頭に向け、黙って蛇口をひねった。

「ちょっ! 冷たっ! なに考えてんの! シャワーの出鼻は冷たいに決まってんでしょうが。殺す気?」

 耳がキーンとなるようなでかい声だ。超音波で怒鳴られたらたまらんわ。当のバランはくねくねと体をひねって水流から身をかわしている。

「ここは美容院じゃないんだから贅沢言ゆーな! そもそも、シャワーくらい自分で使えばいいだろが」

「目ぇ開けるとシャンプーが目に入ってしみるんだよ」

「ガキだな。どうしようもなくガキだな」

「ガキじゃないし。もう中二だし。二回も言うなし」

 バランはそう言いながら、また頭をわしゃわしゃとやりだした。女の子の洗髪がそんなに雑でいいのかとも思うが、こいつのは短いからいいのかもしれない。多少痛もうが、次々生えて来るもんだしな。

「おっけー。ありがと。止めていいよ」

「ん」

 俺が蛇口を逆にひねってお湯を止めた瞬間、バランがいきなり湯船に飛び込んできた。お湯がしぶきを上げてあふれ出す。くつろぎのひと時が台無しだ。

「ちょっ。お前馬鹿じゃねぇの? 一体何がしたいんだよ!」

 普段は温厚な性格の俺だが、ものには限度ってものがある。血の繋がりがなかったら、このちびジャリ……もといバランは俺にたたき出されてしかるべきだ。

「へっへ~。実妹と混浴だじぇ? 嬉いっしょ? 嬉いっしょ?」

 白い歯を見せながら、ニタニタ笑っていやがる。

「嬉しくねーし。二回も言うなし」

 さして広くも無いマンションの湯船に、俺たち二人は対面して浸かっていた。

 俺は改めてまじまじと妹の体を観察した。これが中ニだというのは絶対間違いだと思うのだが、どうなんだろうか。手足はすらっと長く、細身ながらも均整の取れた体躯だ。スタイルがいい事は間違いない。

 だが、どう考えても小さすぎる。実年齢と比べて、体の発達が悪すぎるのだ。

 これは、背丈だけに限った問題じゃない。わざわざ言うのもはばかられるが、胸もおしりも女性らしさがまったく無い。胸にいたっては、小さいのではない。全く無いのである。ここまで清々しいと、いっそ博物館にでも飾っておきたくなるほどだ。

 俺の語彙がおかしくなければ、コイツには『つるぺた』という表現は似合わないと思う。『つるぺた』というのは、子供っぽい体型を揶揄するための言葉だ。本物の幼児体型には当てはまらない。残念ながらバランもとい我が妹は、本物の幼児だ。

「な~に見てんのー」

「よくまぁ、こんなに控えめに育ったもんだなと。そんな感じですよ」

「なんだとコラ。それは、何について言ってるわけ。背? それとも胸?」

 残念ながら両方だ。

「背丈は一二五センチくらいか? 胸なんかは脂肪どころか皮一枚だもんなぁ」

 俺は妹の薄紅色をした皮膚をつまんでみる。ちょっとピンク色がかっただけの少年のような乳首だ。

「はひぅっ! ちょっとっ! この変態どスケベロリコンシスコン!」

 バランは、肩をひそめながら、俺にいじられるままじっとしている。

 いやいや、どうして。ちょっといじってみると、こいつの胸は意外に硬いのが分かる。こいつはこんなナリでも、スポーツ少女だ。筋肉が発達していて、大胸筋が感じ取れる。

 おかしな話かもしれないが、英雄の彫像のような美しさがある。締まった筋肉と、脂肪の無い体。ものは考えようだ。これはこれでアリかもしれない。

「おまえ、いい体してんじゃないか」

「え? 意外だね。それって褒めてる?」

「褒めてるよ。結構鍛えてんだな」

「まぁねぇ~。運動全般大好きだし、得意だから。部活も結構掛け持ちしてんだよ」

 なんか楽しそうだな。バランは狭い湯船の中で両足を投げ出すと、俺の両肩に乗せた。女の子のする格好としては、ちょっとどうかとも思ったが、子供のやりそうな事なんで黙っていることにする。

「あゆは部活をそんなに掛け持ちして、怒られたりしないのか?」

「しないしない。つかさ。どっちかって言うと引っ張りだこだったりするわけよ。あたし、天才だから。試合の前なんか大変だぜ? みんなであたしの事取り合っちゃってさ。にははっ」

 自分で天才とか言っちゃうあたり相当うざいんだが、多分それなりの実力はあるんだろう。勧誘する方も、勝つために、うざいのを我慢して、断腸の思いで引っ張って来てるに違いない。そんな事にも気付かないとは、ホントにおめでたい奴だ。

 こんなやつのせいで一所懸命努力している子がレギュラーから外されていると考えると、それはもう不憫でならない。

「で、何。どんな種目が得意なわけ?」

「んー。何でもありだよ。特に球技が得意かな。バスケとかバレーとか」

 ちょっと我慢できずに吹いてしまった。一ニ〇センチ台で、いうに事欠いてバスケとバレーだとよ。いくらなんでも、そりゃ迷惑ってもんじゃないのか?

「ちょっと! 今、鼻で笑っただろ! バカにしてるだろ! あたしのジャンプ力をなめないでよね。バックアタックの日下部(くさかべ)って言えば、ちょいと名が知れたもんなのよ? あと、トマホークの日下部ってのもあったわね」

 一気に捲くし立てられた。ただでさえ甲高い声なのに大声を張り上げられると、それはもう凶器に等しい。耳がキンキンする。しかし、言ってる内容にはかなり興味を引かれた。

「ちょ、女子で? 中学で? 一ニ五センチでダンクシュート? ありえないだろ。頭わいてんじゃねぇの?」

「一三〇センチはあるって。バカにすんなよ? そんなに言うなら、今度見に来る? あたしの勇士」

「おう。そこまで言われたら、見ないわけには行かないな。是非とも拝ませてもらおうじゃないの。そのトマホークとやらをさ……」

 丁度そこで邪魔が入った。風呂のガラス扉の外に、長女の初音(はつね)の気配がする。

「ちょっとぉ。おにいちゃん~。あゆ~。あんまり長湯してると、のぼせるわよ~?」

「おう。今出るとこ」

 しかし、初音は遠慮なく扉を開けた。初音は俺の双子の妹だ。したがって、俺と同い年の高一の女子という事になる。さすがに。裸を見られるのは、ちと避けたいものがある。

「ちょっ。こらっ! はしたないだろっ。ドア閉めろ閉めろ」

「あー、おにいちゃん。あゆとお風呂で、イチャコラしてるー。もうー、いつも言ってるじゃないの。シスコンはいいけど、ロリコンは駄目だよって。お巡りさんに、捕まっちゃうんだよ?

 なんか今、どえらく罵倒された様な気がする。

「あゆは妹だぞ。体つきはガキそのものだが……、いや頭の方もガキ……か。まぁ、それをおいても、中ニだぞ? ロリコン呼ばわりは、はなはだ遺憾だ!」

 うっかり口をついて出てしまったが、あゆはガキ呼ばわりされるのを事の外嫌がる。失敗失敗。予想通り俺に反論しようと声を荒げるあゆ。

「ガキってゆーなっ! 一三歳だ! 立派な大人だ!」

 また耳キーンだ。声質に関してはしょうがないとしても、声を荒げないように言って聞かせる必要はある。これは、隣近所に怒鳴り込まれてもおかしくないレベルだ。

 そんなあゆの言葉を受けて、初音がまたフニャフニャした声で反論する。

「あゆったら何言ってるの? 見た目が子供だったらロリータなんだよ? あゆは身長一ニ七センチでしょ? お胸もペッタンコだしー。もう、誰がなんと言ったって、ロリータそのものじゃないの。そんで、それを大好きなのがロリコンなの。今のおにいちゃんがまさにそう」

 コンプレックスをゴリゴリとほじくり返されたあゆが、かぶせ気味に反論する。

「一三〇センチはあるんだってば! 身長! 絶対絶命ロリータじゃないから! 中ニだから! 花も恥らう乙女だから!」

 俺は俺で、自己弁護のために反論する。

「おいおい。だからー。俺は妹を風呂に入れてやってるだけで、ロリコンじゃないんだって!」

 初音は、人差し指を唇に当てながら『むー』と唸ると、またおっとりと話し始めた。

「じゃぁさ。おにいちゃん。あたしも一緒にお風呂入る」

 とんでもない事をしれっと言いやがりましたよ。こいつは。

「おいおい、それこそ犯罪じゃねぇか。そりゃだめだろう」

 初音は眉根を寄せて怒り出した。いつも情け無さそうな声で喋る奴だが、怒る時もさして口調は変わらない。

「なーんでよぅ。あゆは良くても私はダメなの? おにいちゃんのロリコンは、すぐにでも治すべきなのが分からないかなー」

「だから待てって。冷静になれよ。高校生にもなって、一緒に風呂に入る兄妹なんて居ないって。そもそも、初音と風呂に入ってロリコンが……、違うって。俺は断じてロリコンじゃないんだ!」

「なーんか不公平だなぁ。私は、愛し合う二人のおじゃま虫?」

「話が飛びすぎだろ! ちゃんと説明し直すぞ? 俺はあゆが一緒について来ちゃうから、やむなく一緒に風呂に入ってる。入れてやってる。初音の方は、もう立派なレディーだろう。兄妹とはいえ、裸を異性に晒すのは嫌だろう? 道徳的にもまずいだろう? つまりは、そういうことだ」

「じゃぁ、水着着ようかな……」

「ここは風呂なの! 体を洗うところなの! アホか!」

 思い切り大声で怒鳴ってやった。初音と話していると、論点がどんどんずれていく。いや、そんな事はこの際どうだっていい。風呂の時間は、俺の大事なプライベートタイムだ。俺は、一人でゆっくり、お風呂タイムを味わいたいんだ。妹共のせいで、邪魔されてたまるか。俺は腕を組んで、そっぽを向いた。ほらほら、怒ってんだから、とっとと出てけ。

 俺の怒髪天によって、ちょっとした静寂がおとずれた。ところが突然、またもや耳キーンだ。

「あ! やべーっ! あたし、九時から狩り行く約束してたんだった!」

 あゆが、超音波で人語を発してるのか? 「うるっさいわ」と怒鳴ろうとした瞬間だった。あゆの蹴りが、左側頭部に炸裂。さらに、勢い余って、右側頭部が壁に激突。俺はカエルの様なうめき声と共に、無様に湯船の中で丸まった。痛いなんてもんじゃないわ。ふざけんな。殺す気か。

 あゆは、慌てて湯船から出ると、なにやらドタバタやった後、居間の方へと走り去ったようだ。俺はその間も、ずっと頭を抱えながらもがき苦しんでいた。うううっ。ごめんの一言も無しかよ。それが年長者に対する態度かね。ぶっとばす。ここは切れていいところだぞ、俺。絶対ぶっとばしてやる。

 しばらく置いて、初音が俺に、蚊の鳴くような声で話しかけてきた。

「だ、だいじょうぶなのかな。おにいちゃん……」

「お前はこれが、大丈夫に見えるのか!」

「ちょっと……、いたそうかも? ちょっと見せて?」

「いいから! もういいから! 俺は一人で、風呂を楽しみたいだけなんだから! 出てけ出てけ」

「えー、しょんぼりだよぅー」

「うっさいわっ!」

 浴室の扉が静かに閉まり、初音が退散して行った。これで、やっと俺の時間が持てる。俺一人が思索にふけるためだけの、くつろぎの時間だ。風呂ってのは元々こうでなきゃいけない。元々こうあるべきだったんだ。

 俺は、一人で今日一日の事を思い返す。

 そう、今日は高校の入学式だった。俺は詰め襟を着て、妹の初音と二人で、受験した覚えの無い高校へ、行って来た。校門をくぐるのも、初めての経験だった。別に推薦で受かったとか、そういうわけでは無い。俺は初音と一緒に、普通に入試を受けて、普通に合格した、という事らしい。しかし、その辺の事が、どうしても思い出せない。それは何故か。どうやら俺は、記憶喪失と言う状態にあるらしい。俺は少し体を起して、備え付けの鏡を覗き込んだ。チンピラ風の三白眼が、こちらを睨んでいる。こいつが俺だ、という事は明白なのだが、全く覚えが無い。ここ数日で、見慣れたはずなんだが、根っこの部分では納得がいっていない。俺はこいつだ。それは、否定しようも無い事実だ。だが、こいつは一体誰なんだ?

 記憶喪失なんてものは、ドラマの中にしか存在しないもんだと思っていた。小説にある○○ものの、一ジャンルだと思っていた。そもそも、人間、そんなに都合よく面白体験が出来るわけが無い。だが、実際に自分の身に降りかかってしまうと、これは信じざるをえない。俺は俺を思い出せない。家族を思い出せない。生まれて育った、この町を思い出せない。

 一応医者にも行ってみた。まぁ、実の所は、初音に手を引かれて連れて行かれたわけだが。そこは医大病院で、俺はちゃんとした医師の、ちゃんとした診察を受けた。しかして医者曰くに、この手の症状は原因不明で、治療法も確立されていないとの事。別に頭を打ったからといって、記憶喪失になるわけでは無いらしい。逆に、殴られて治るものでもないらしい。現にたった今、あゆに蹴られて酷い目に遭ったわけだが、記憶には何の変化も無い。医者の弁では、何もしなくても、少しずつ治って行くものらしい。劇的にスカッと治るわけではないらしい。ちょっと残念な結果だった。ちなみに、記憶喪失当事者の意見を言わせてもらえれば、こいつはカケラほども面白い体験では無い。ただただ、心細いばっかりだ。

 初音やあゆは、俺を励ましてくれている。しかしこれも、いまひとつしっくり来ない。あいつ等は、口ばっかりだ。俺自身については、あんまり心配していない。本当に兄妹なのか心配になるくらいだ。ひょっとすると、本当は赤の他人なのかもしれない。で、俺が居間に戻ったら、『ドッキリ大成功』のプラカードを持って、クラッカーを鳴らす用意でもしているのかもしれない。

 ともあれ、俺に与えられていた境遇は、それほど暗い物ではない。俺の記憶では、男兄弟は、女兄弟からゴキブリ以下の扱いをされるはずだ。だが、うちは違った。俺の妹たちは、俺を嫌っているわけではない。むしろ、熱い好意をもって接してくれている。これは、素直に喜ぶべきだろう。

 そうだな。妹達が、俺の記憶喪失の心配をしていないのは、わざとなのかもしれない。俺が、くよくよしないように、そしらぬふりをしているのかもしれない。あっさり接してくれると、確かにそのほうがありがたい。そう考えると、暖かい家族に恵まれたのは、喜ばしい事だ。

 ただなぁ。ちょっと、イラッとするんだよな。あいつ等は俺に、必要以上にベタベタして来るんだよな。俺の事を、シスコンだのロリコンだのと言っておきながら、自分から擦り寄って来るんだよ。もちろん、さけてほしいわけじゃない。ただ、記憶が無い俺にとっては、あいつらは、よその女の子に見えるんだよ。そこはちょっと問題だ。

 不謹慎かもしれないが、あいつらの無防備な所に、ドキドキさせられる事も多い。例えば、あゆだ。あいつは中ニだって言うのに、高一の兄貴と、一緒に風呂に入っている。一般御家庭基準で考えても、教育上よろしくない事はなはだしい。俺は、あゆの裸を見てドキドキするわけじゃない。確かにあゆは可愛い。髪はちょっと短かすぎる気もするが、顔の造作は悪くない。悪くないどころか、かなりいい方に属する気もする。童顔だが、人気子役と言っても、通用するくらいだ。実際、あゆの瞳に射すくめられると、一瞬呼吸が止まることもあるくらいだ。あゆには、それくらいの魅力がある。魔力と言っても、いいかもしれない。妹じゃなければ、好きになっていたかもしれない。しかし、それは俺が小学生だったらばの仮定の話だ。あいつは子供だからな。心身共に。

 そうそう、初音についても言及しなければならない。今までは兄妹だと思って特に意識してはいなかったが、間違いない、あいつは美人だ。今日、一緒に入学式に行って確信した。道で出会う人のほとんど、老若男女があいつに目を奪われていた。すれ違った後、振り返って何度も確認する奴までいた。初音の存在感は、それほどまでに大きい物らしい。実際俺も可愛いと思ってはいた。ただ、今まで比較対象が無かったから、それと意識しなかっただけの事だ。力強くも愛らしい眼。優美なラインを描く鼻梁。微笑を湛えた薄紅に染まる清楚な唇。そして春風にたなびく長い黒髪は、散りゆく桜とあいまって、妖艶なまでの美しさを醸し出していた。いや、ちょっと欲目に見すぎか。だが残念な事に口を開くとフニャフニャだ。何を喋っても情け無さそうな声しか出さない。いや、出せないんだろうな、多分。

 つまらない事をつらつらと考えていたら、ちょっとのぼせてきた。そろそろ上がってもいい頃だ。そう思った丁度その時、曇りガラス越しに、脱衣所に誰かが立っているのに気付いた。それまで全く気配無しだ。なんか怖いんですけど、ちょっと……。

 ひょっとすると三女の圭かな? あいつが考えてることは全く分からんからなぁ。そう思うや否や、扉が開いた。うちの女共は、どうしてこう恥じらいが無いもんかね。

「兄様、そろそろ上がって頂戴」

 いきなり有無を言わせぬ口調だな。いや、問題は口調なんかじゃなく、圭も全裸だという事だ。こいつは子供だよ。今年から小六だよ。でも圭は、あゆとはちょっと事情が違う。何故だかこいつだけは、うちで一番発育がいい。特に女性的な部分について顕著。つまり、見た目が大人である。さらにいうと、特に胸のあたりが非常に豊かな感じだ。そして、うちの血筋のせいか、こいつも相当の美形だ。切れ長の目と、高い鼻。大人びた立体的な顔立ちとぬけるように白い肌。そしてなにより、色気が半端ない。まさに匂い立つような色気だ。全身に鳥肌が立ってくる。そんなところで仁王立ちされていると、目のやり場に困る。慌ててしまう。混乱してしまう。

「兄様。私が入るんですから、兄様はあがって下さらないかしら」

 発せられる言葉は、いつも妙に冷ややかだ。

「いや、上がれったって、圭がそこに居ちゃ上がれないって……」

「別に、兄様の躰には、興味はありませんわ。恥ずかしいのでしたら、これを使ってくださいな」

 圭はそう言うと、俺にバスタオルを手渡した。

「わかった。わかったから、ちょっとむこう向いててくれる?」

「しようのない人ね」

 圭は素直に後ろを向いた。あ、おしりはそんなに大きくないのね。そんなバカなことを考えながら湯船から出ると、バスタオルを腰に巻いた。

「んじゃ交代な。ごゆっくり」

 圭は俺とすれ違いに浴室に入った。そのすれ違い様、圭は俺に意外な一言を向けた。

「兄様は、私の躰に興味は無いのかしら?」

 妹になんか怖い事言われてるんですが、どう答えたらいいんですか? この人と、どう接していけばいいのか、本気で分からないんですが。あと、そのしゃべり方、怖いからやめて欲しいんですけど。とりあえずは、無言で去らせていただきます。

「兄様は、先ほどから目が泳いでいらしてよ。私、兄様にご覧になっていただくのは、嫌ではありませんわよ。むしろ視姦されたいくらいですのよ」

 うわ、動揺してんの、気取られてるじゃないか。兄としての威厳が台無しだ。しかも、何言ってるんですかこの人は。痴女か? 痴女なのか?

「いやっ、あのさっ。女の子は、裸をむやみにさらすべきじゃないというか……、こう、自分を大事にした方がいいって言うかさ……。俺も男なんだすひ……」

 慌ててしゃべり倒したせいで、声が裏返ってしまった。しかも最後噛んでるし。ああっ、もう誰か助けて!

「ふふふ。兄様は意気地なしでいらっしゃるのね」

 圭は扉を閉めた。なんか、冷たく罵られてしまった。完全に手玉に取られてる感じが嫌過ぎる。もうね、圭だけはホント、どうにかしてほしい。

 俺はガシガシと、体を拭き始めた。分かりましたよ。認めますよ。俺は、圭の姿に興奮しましたよ。性的な意味でね。洗面台の前に立って、鏡の中の俺にに問う。だって、しょうがないじゃん。俺にとっては、数日前に初めて会った女の子なんだから。妹とか言う前に、女に見えちゃうんだよ。そういうもんだろう?


近いうちに続きをアップロードします。

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