表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
95/373

прицел в глаза(瞳に映る照準)

 騒然のバシュターンの町に現れた黒き闇竜は、それはとても美しかった。黒き甲殻は適度な光沢としなやかで絶妙な曲線を描き、女性のドラクラット特有の体の細さが竜の状態にも反映されておりどこか柔らかさを併せ持っていた。その上から銀の鎧を纏った黒き竜は、深紅と漆黒二つの眼で空を睨みつけると、大きく、そして光をすかすほど薄い翼膜をゆったりと広げ地上の風を全体で感じ取っていた。

「エリア……遂に再び……それがあなたの姿」

 ライマはうっとりとした表情で目の前に現れた、生まれて初めて見る闇竜に意識を奪われていた。四本の胴体から生えた四肢から彼女が竜族であることが判明し、飛竜族でなかったのは残念であったがそれでもやはり、嬉しいものは嬉しかった。

 周りの人々は逃げるのも忘れ、目の前に突如として現れた摩訶不思議な生き物を黙って見上げている光景を目にし、彼女は確信する。彼女こそ、ドラクラットの再興を導くものだと。

 ライマの心を奪っているエリアに対し、複雑な心境で見つめる者もいた。ドレスである。かつて村を闇竜族の男によって破壊され、あまつさえ両親も失っている彼には、その男と彼女を一緒くたに見るべきではないと理解はしていたが、それでもやはりその時の苦しい記憶が蘇ってしまい、素直に喜べぬ自分がはっきりと存在していた。

 拳を強く握りしめていた彼は、一つの決断を下した。彼女は彼女、あの男はあの男だ。自分が守ってやろうと決めたのだから彼女は守り通さねばならない。だから、彼女に憎しみを微塵も感じることはない、と。決意を固めたドレスは、人々がいないところまで急いで離れると自身も変身した。同時に二頭の竜が現れたことで人々は再び混乱を始め、右往左往と逃げ惑い始めたが二頭の竜は眼下で蠢く小さな存在たちには少しも目はくれず、ただ空を見上げていた。

(エリア、俺について来い。とにかく奴らは脆いがその攻撃は強力なうえにあちこちへと飛ばせる。撃たれると痛いぞ)

 テレパシーでエリアにそう伝えたのだが、返答はない。まだテレパシーの使い方がわからないのかそれとも我を失って聞く耳も持たないというのか。恐らく後者であろうことは、黙って空を見上げている彼女の目を見ればわかる。彼女が見ているのは空でもドラクラットの未来でも、墜ちたエマーヘルでもない、憎い飛行機である。彼女は家族の仇を大きな目で睨みつけると、おもむろに羽ばたき始める。一対の翼がはためくことによって生じた風が周囲に転がっているものを転がし、人々は煽られて倒れていく。そんなことはお構いなしに彼女は少しずつ体を浮上させると、そのまま空へと上昇していった。それを追い抜くようにドレスも急上昇して常に彼女の前を飛んでいった。目指すは空を舞っている飛行機たちだ。



 オーバーハリケーンの操縦桿を握るヒューは久々に感じる高揚感に心を躍らせていた。中将のくれたこの機体はシュバステンの最新鋭機だけあって、中型機ながらも旋回性は申し分なく、二発のエンジンの生み出す馬力を生かしての高速飛行は暴風になった気分にさせてくれる。そして何より、この速度と火力によってあのドラゴンを一頭仕留めたことが彼の心を最高にハイにしていた。後部座席のジャンも、そこから地面に吸い込まれていくドラゴンを見てはしゃいでいるようだった。

「わーお!何というか、すごくスゴイですよ!!あんなファンタジー小説の怪物が実在するっていうのに驚きですし、それを倒してしまったってことにも驚きで……なんというか、なんというか……スゴイ!」

 どうやら嬉しいのとあれを倒してよかったのかという気持ちとで複雑な心境のようだが、それはヒューもおおよそ同様であった。確かに彼は仲間の命を奪ったドラゴンへの復讐心はあるが、先ほど墜としたのはあの夜遭遇したのとは異なる姿をしていたように見えた。暗かったので断言ができないが、もっとあの時のはとげとげしく赤みがかっていたような気がするのに対し、墜としたドラゴンは黄色で丸みを帯びた体表であった気がする。だとすると、少し申し訳ないことをしたような気分に駆られてしまう。

「死んだんでしょうか」

 ジャンがまだ地面の方を覗き込みながらそう尋ねた。

「わからないが、あくまで殺さずに負傷させて捉えろってのが将軍の命令だからな。膜を破るのがドラゴンにとってどれくらいの怪我なのかはわからないが、少なくとも殺すつもりはなかった。地面に激突して死んだかもしれないが」

「えっ、じゃ、じゃあもし死んでたら?」

「その時はその時さァ」

 のんきにそう答えるヒューの下に、突如爆撃機隊からの悲鳴が飛び込んできた。

〈ザザ……助けてっ!まだズズッ……いやが……墜ちた!誰かーっ!!〉

「なんだ!何が起きてる!」

 彼は無線機をむしり取ると何度も爆撃機隊に呼びかけるのだが、聞こえてくるのはノイズと悲鳴ばかりでまったく要領を得ない通信に業を煮やしたヒューは機体を思い切り反転させ一旦離れ始めていた空域へと全速力で戻っていった。隊長機の急激なターンに遅れて部下のオーバーハリケーンも旋回し高度を上げつつバシュターン上空へと戻る。

「まさか、まだあれがいたんですか?」

 共に通信を聞いていたジャンが不安げに尋ねてきたが、彼はそれにはっきりと答えてやることはできない。だが、不明瞭な通信を聞く限りでは、恐らく彼の言う通り他のドラゴンが潜んでいたという可能性が高かった。そして、それはすぐに事実として彼らの目に飛び込んできた。

「なんてこった……」

 彼らが見たのは、残りの爆撃機隊に襲い掛かる二頭のドラゴンであった。これでつまり三頭がここにいることになる。もしこの光景を間近で見ることが出来たのなら、きっとゲイツは感涙にむせぶことになりそうである光景であった。一頭のドラゴンは黒くしなやかで一種の芸術品のような美しさがあったが、その見た目に反して戦い方は実に凶暴で本能のままにあばれくるっているようであった。一方の赤いドラゴンは一定の距離を取りつつ上手いこと他の爆撃機の影に入り射線をかぶせてくるという巧みな戦術を使いつつも時折黒いほうを庇うように敢えて気を引くように大きく動いて見せていた。だが、そんなことよりもヒューが意識を奪われていたのは赤いドラゴンがいたことだった。

 あの時のドラゴンかどうかなどわからない。だが、そんなことはどうでもよかった。赤いドラゴンを前にしたヒューにとっては、個々の違いなど取るに足らないもので、兎に角赤いドラゴンさえ殺せればよかったのである。

 目の色を変えたヒューは、スロットルを最大まで上げると混戦の最中へと突っ込んだ。

「正気ですか!!」

 彼の常軌を逸した行動にジャンが悲鳴を上げる。ただでさえ味方機が隣接し機銃が飛び交っている最中に、高速で大きなこの機体が突っ込めば味方の機銃に当たることは必至であるし、それどころか味方機と接触する危険性が極めて高いのだ。とち狂ったとしか思えない彼の操縦には流石に僚機もついていくことが出来ず混戦の周囲を大きく旋回しながらドラゴンが飛び出てくる瞬間を待つことにした。

「やめてください准尉!僕はまだ死にたくなあい!」

 後部座席でわめくジャンを無視し、彼は操縦桿を握る両手と、機関銃を撃つスイッチに添えた親指に全神経を集中させた。黒いドラゴンが一機のクレインをバラバラに引き裂き飛び出した乗員を強靭な足で弾き飛ばすと、機銃弾を頭部の鎧で受けつつ撃ってきた別のクレインを墜とすために離れた。それにより空いた空間の向こうに、編隊の下を旋回しつつ急上昇をかけている赤いドラゴンが照準に収まったのを彼は見逃さなかった。

 彼は黙ってスイッチを押す。四門の機関砲が、一斉に炎を噴いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ