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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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Cattivo vento(悪しき風は大陸に吹きすさぶ)

 ライマが消えてから、エリア達はすぐにその場を離れ探しに出た。まさか六人もいながら誰一人として彼女の最後の姿を見ていないとは思ってもおらず、大慌てで東奔西走し彼女のあの特徴的な姿を探す。変装していたとはいえ、隙間隙間から見え隠れしていたあの緑色の髪などまずいるわけがない。少なくとも人間にあんな地毛をもった遺伝子など存在しないはずなのだから。

 彼らはエリア・ドレス組、サビーナ・フサン組、そしてエマーヘル・ムハンマド組の三組に分かれると捜索を開始した。数の都合上仕方なかったことだが、言葉の通じえないエマーヘルとムハンマドの組がいささか不安ではあったものの今の状況でああだこうだのたまっている暇はなかった。特にサビーナが険しい表情で急いで探さなければならないといったことにエリアは疑問を抱きその理由を尋ねると彼女は手短に、だがとても重要で恐ろしいことを述べたのだった。

「この町は明るい部分だけではないわ、最近若い女を攫う集団が出てきているの、それだけよ。エリア、あなたも気を付けて!」

 人さらい、まさかそんな凶悪な集団がこの町に存在しているとは思ってもみなかったエリアは、もしかすると今ライマは人さらいに攫われて凌辱を受けているのではないかという恐怖に、血も凍る思いであった。ライマのことだから、きっとついつい何かにつられてのこのこ見知らぬ人間についていってしまったのかもしれない、何か彼女の興味を引くようなものを用いて。だがそう簡単にドラクラットであるライマが人間たちに捕まるとも思えないのがエリア、ドレス、エマーヘルらドラクラット達の共通の考えであった。女性でもドラクラットの成人女性の力ならば人間の男二、三人くらいは跳ね飛ばせるほどの力は持ち合わせている。そんな彼女が一度抵抗のために暴れでもすれば、この人の量だ、すぐに人目について騒ぎになりエリア達だって気づくはずだ。それがないということは、不意でも突かれたかそれとも何か異変が……

 エリアとドレスは北部の住宅街を進んでいた。今の時間帯、人々は皆市場の方や歓楽街へと繰り出しているためこのあたりは人ごみが少なく行動がしやすかった。ただその分変な動きを見せればかえって目立ってしまうのでさりげない様を装いつつも捜索を行わなければならないという制約がついていた。

「ライマ……どこ……」

 人さらいがいったい何のためにそんな極悪非道な行為をするのかはわからないが、確実に良くないことがライマの身に起きていることはわかっているので、彼女の無事を祈りつつ目を皿のようにして周囲に視線を向け続けていた。彼女の髪一本すら見逃さぬほどに。

「……どうも家が多すぎる………これではな」

 エリアの半歩ほど後ろを行くドレスは、障害物となる建物の多さに辟易していた。ドラクラットの平均的な村であればこれほど土地を埋め尽くさんばかりに集合して建物が立っていること等あり得ない、空間なければ風通しが悪くなり、風通しが悪いと様々な良くないことが起きるというのがドラクラットの考え方であった。病気や災害、そう言った類の災いは常に身の回りに蓄積していくが、それらは皆風によって運ばれ流されて散っていくのだが、風が上手く通らなければそれらは積もり積もっていくままでやがて大きな塊となって村を襲うというものである。

 ドレスはこの町を訪れた時から祖父が言っていたことを思い出しており、こんなことが起きたのも必然だと考えていた。もっと風通しを良くしなければ、風が濁る。濁った風には乗れない。

「ん?」

 エリアは行き止まりであることに気づき引き返そうとしたところで突き辺りから家同士の隙間があることに気づいた。丁度人が一人なら通れそうな隙間で向こうまでつながっている。こちらには何があるのだろうとエリアが先に行こうとしたところでドレスがその肩を力強く握って立ち止まらせた。

「いった!痛い!」

「すまない」

 彼としてはそこまで力を込めたつもりはなかったのだが、握られた当の本人にとってはそうではなかったようだ。ゆっくりとその手を離すと手を何度か開いたり閉じたりして自分がどれくらいの力で握っていたのだろうかと思い詰めるが、エリアがそうはさせなかった。

「何?」

 彼女は腕組みをして彼を不機嫌そうに見上げていた。そう言えば自分が引き留めたのだったということを思い出し、彼は彼女の前に立つと自分が先に隙間に入った。

「危険かもしれない」

「えっ、あっ、そ、そういうことね」

 まさか自分を庇ってのことだとは思ってもいなかった彼女は、声を上ずらせて挙動不審な手の動きをするとぎこちない様子で彼の後に続いた。どことなく、生ごみの溜まったような臭気が通路の向こうから漂ってくるが、その臭いも限りなく薄いものであったため、その臭いが何から発生しているのかまではわからなかった。

「汚い……」

 通路を抜けた先には、表の通りとは打って変わって建物はちぐはぐでボロく、そこかしこにゴミや塵が転がっている街並みが広がっていた。町自体がそこまで大きいわけではないため、このあたりもそう大きくはない筈だが、まるで巨大な迷路のように果てしない底が続いているようにも感じられるような雰囲気が漂っていた。そしてここの治安については、景色とそこにたむろする連中を見れば嫌という程理解できたエリアであった。

「あー、ドレス?ちょっとここら辺はあんまりよくないかも……」

 危ないので帰ろうという旨をやんわりと伝えるエリアであったが、彼はむしろどんどん前へと進んでいった。

「ちょっと、ちょっと!」

 引き留めようとするエリアを一瞥して彼は短く告げる。

「離れるなよ」

「そ、そりゃ」

 彼女が言いかけている途中で、遂に二人はヤバい見た目をした男たち五人に囲まれてしまった。男たちはそれぞれ大きかったり痩せぎすであったりとしたが、全員に共通しているのはどの目も悪意に満ち満ちているということである。ムゥロでここまで汚らしい目をしたもの等全く見たことがないので、人間たちの性質をよく知っているつもりの彼女も、初めて遭遇するその危険性に後悔ばかりが続いていたが、もう遅かった。

「オイオイオイ、どうかしたか~こんなところに迷い込んでよォ。え?もしかして道に迷ったかあ?」

 もちろん言葉はわからない、だが少なくともお茶でもいかがですかと言って歓迎しているわけではないことはドレスにだってわかっていた。

「い、急いでいるので……じゃ」 

 とさりげなくすり抜けようとしたエリアを、二人の男が腕をつかんで輪の中心に押し返した。

「だよね……」

「ゲヘヘ!!女かぁ?丁度いいや男はバラして女は連れこむぞ!」

 その合図とともに、五人の男たちはいっせいに飛び掛かってきた。

(マズッ!)

 エリアはここでの目立つ争いは望んでいなかった。ここで戦えば恐らくドレスが一瞬でカタを点けてくれるはずだが、たった一人で一瞬のうちに五人を打ちのめせばその噂は一晩のうちに町中に広まってもおかしくはない、噂というものは存外人が思っているよりも早く広まるものだ。だが、ここで抵抗しないわけにもいかないし、よしんば自分だけなら脚力を生かして逃走できるかもしれないが、問題はドレスであった。ドレスのような人物が戦いに背を向け一目散に逃走するとは思えなかった。きっと彼は戦ってしまうだろう。現実に、彼はしゃがんだ彼女の目の前で襲い来る男たちを僅か三度拳を奮うだけで薙ぎ払ってしまったのだった……

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