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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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La fund de întuneric(薄暗い闇の底へ)

 風が吹いていた。イベリア半島の一角かつてはここにラテンの人々が生活を築いていた荒れ地に隠れるように、しかしはっきりと数千年も前からそこに確かに存在していたドラクラットの村が。

 その村は長い歴史の中でやがて過疎を刻み始め、祈祷師もしばらくの間生まれていなかった。ここはいずれ滅びてしまうのだろう、そう村人たちもふさぎ込み始めていた、そんな時、その娘は生まれた。

 その娘は村人から蝶よ花よと愛でられ、大切に育てられてきた。大事な大事な祈祷師の才をもつ娘であったからだ。特別扱いを受けてきた彼女はやがて祈祷師として村を占い、導き、枯れた村を徐々に蘇らせつつあった。他の祈祷師を持たぬ村から訪れるものも出るようになりこの村もこれからというところであった。

 


 若き祈祷師の娘は運命の予知を見たのだ。予知に従うことがドラクラットの定め、それだけでなくその予知は村どころかドラクラットという一族全体を救うというあまりにも巨大なものであったために、村人たちは理解はしつつもどうしてもそれを受け入れることが困難であった。それでも、ようやく皆を説き伏せた彼女はもう一人の南の方より飛来した、同じ予知を見たという祈祷師とともに一人の少女を探す旅に出た。

 嵐に吹かれ、豪雨に濡れようやく見つけ出した時、戸惑いつつも彼女に見放されぬよう努めて、いつの間にか自分でも気づかぬうちに彼女に心を開いてしまっていた。これからも旅を彼女と続けるであろう、だというのに、まだ終わりは少しも見えない、だというのに彼女は今旅の終わりを告げられんという危機に瀕していた。彼女が再び翼を広げるためには解き放たれなければならない、その繋がれた鎖を引きちぎるための力が必要なのだ。



「ほあ……」

 ライマは未だ微睡の覚めぬままに気が付いた。ぼんやりと霞む世界だが、青空は見えず薄暗い景色ばかりが視界に入る。だがそれよりも気になったのは鼻を突く臭気と手足をがんじがらめにしばっているものであった。力を入れて引っ張ってみたものの、今の彼女では全体の四十%も力を発揮できていないため、拘束を解くことは不可能であった。ただ、もし全力を出せたとしても太い鉄の鎖とワイヤーが何重にも巻かれているこの拘束を引きちぎれたとは思えないが。

「エマー……ヘル……おならしましたかあ?……ゴミをちゃんと……捨て…てな……んう……」

 どうやら彼女はここを宿の部屋だと思っているらしい、いもしないエマーヘルの名を呼びながらもぞもぞと動いて起き上がろうとしているが、当然ながら今の状態で碌に起き上がれることもなく……というわけでもなかったようだ。ゆっくりと上体を起こすと膝で目をこすり顔を上げる。どうも空腹なので何かを食べたいという欲求が高まってきた彼女は、朝食の準備をするために立ち上がろうとしたところでようやく自分が縛られていることに気づいた。

「あら……」

 何故自分はこんな簀巻きにされているのだろうか、それによく見るとここは宿ではなくこ汚い見知らぬ狭い部屋である。厳密には檻であったが、檻というものがドラクラットの文化慣習には存在しないので彼女は自分がまるで動物のように扱われていることに気づくはずもなかったのである。

「どこかしら……」

 簀巻きのまま辺りを見回すもののさっぱり見当もつかない場所であったが、わかることはここにはエマーヘルもエリアもいないということ、そしてリガーラの住処であるということの二つであった。

 鎖を引きちぎりたいところであったが、いくら力持ちのドラクラットといえど太い金属の鎖を引きちぎるほどにはいかない。ならば変身をしてしまえばいいではないかと思う人もいるかもしれないが、以前も説明をした通りこの状態で変身をすれば変化の途中で鎖に圧迫され体が破壊されるどころか、ここが鉄筋造の建物であったならば建物を破壊できずに同じく体が潰れ千切れて死んでしまう危険性すらあった。

 そんな危険を冒すわけにもいかないためライマはとりあえず誰かが来るまで黙ってこの状況を受け入れることにした。意外と彼女はこういう時冷静に対処できるようだ。

「誰かいる……みたいだけど……」

 ライマは感覚が次第にはっきりするようになってから自分の周りに人の気配があるのをぼんやりとではあったが感じ取っていた。人数はわからない、だが確実にこの部屋の中にいるのは自分だけではないはずだ。彼女の勘が当たっていたことはすぐに証明された。どこか自分の見えない場所だが、すぐ近く同じ空間のどこかで誰かが咳き込んだのだ。それは咳払いのような咳ではなく器官か喉を病気に犯されているようなそんな苦し気なものであった。咳の主は立て続けに何度か咳を続けると、擦れるような呼吸を残す。

 ライマは檻の出入り口まで這って行くと顔を格子に押し付けて外の様子を探る。部屋自体はそこまで大きくは無く反対側の壁はすぐ近く、二、三メートルといったところである。反対側には檻はないが代わりに雑多な棚が二つと木製の机が一脚と椅子が二脚彼女の斜め右に置かれていた。机の上には酒の瓶が二本立ててあるのが彼女の位置からでも見える。

 一体何故自分は今このような状況に置かれているのかライマは考え始めた。何か悪いことでもしたのだろうか、いやそんな覚えはない。だとしたら何故。

「あっ」

 ここでようやく彼女は最後の記憶を思い出す。そうだ、自分はあの時ネカをリガーラの男にもらって、それでのこのこついていったら後ろから襲われてそれで何かされたような……

 ここにきても最後の最後をはっきりと思い出せずにいたライマはどうにか思い出そうと首を捻ったり頭を格子にぐりぐりと押し付けていたが、部屋の外から近づいて来る足音を耳にして硬直する。足音は次第に近づいて来ると軋む音を立てながら扉を開き中に入ってきた。足音は二人分、再び顔を押し付けてその人物たちを確かめようと目を見張る。入ってきたのは見知らぬ男二人、あの時の小男はいないが似たような肌の色をしたのが一人、エマーヘルのように黒いのが一人。彼らは小男が話していたような響きの言語を口にしながらライマのいる檻へと近づいて来る。

「多分西のほうの人間だろう、白人だからな。だけど耳が尖ってて顔に変な模様もある。目の色も両方で違う。とにかく変な女だ」

「へえ、そいつは高く売れそうだなあ。物珍しいのが好きな奴も、おっとこいつか」

 二人はライマの檻の前までくると、彼女の方を見降ろしながら会話を続ける。

「確かになあ……こいつは今まで見た白人とは違う……でもよ、こんなに縛る必要あるか?虎用の鎖じゃねえかこれ」

「だーかーらー、こいつの力が異常にやべえんだって。言ったろ、アレンがくたばったのもこいつの肘だぜ肘」

「ハア?肘?お前何言ってんだ?こいつの肘に毒ナイフでも仕込んであんのかよ」

「いや、こいつの力が半端ねえらしい。こいつを抑え込むのに三人がかりなうえジェメナムとラッサシャ使ったそうだ」

「おいおい、マジかよ……」

 一体この二人が何を話しているのかは見当もつかないが、少なくともここから鍵を開けて解放してくれるという雰囲気ではないことはなんとなくではあったものの、彼女にも理解できていた。

(どうしましょう……ドレス、助けて……)

 エリアを狂ったグロージエナの手から救ってくれた彼なら自分も同じようにここから救い出してくれるのではないだろうかという儚い希望を抱いていた。

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