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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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Blutrot Apfel(熟した実)

「そうか、そんなことが」

 惜しまれつつも村を後にしたエリア達は野営地に戻ると、エマーヘルが待ちくたびれたように捌かれた動物の肉塊の隣で寝っ転がっていた。エリア達が戻ったのは既に夜も更けた頃であったため、エマーヘルは二頭もの鹿のような大きな生物を仕留め更に皮と肉を分け解体から血抜きまで済ませてしまっていたようで、肉のブロックがいくつも彼の隣で布に包まれてシミを作っていた。

「うん、何か嬉しいなーって。今のとこあんな歓迎されたの初めてだったし」

 屈託のない笑顔でそう告げる彼女の言葉に、エマーヘルはどう反応すべきか迷ってしまった。本当は無茶なことをするなとしかりつけたいところだったのだが、折角彼女がこうして笑顔でいてくれているのだし、負い目もあったことから彼は叱責の言葉を飲みこんで笑って返した。

「はっはっは、そうかそうか……ライマ」

「何でしょう」

 ライマは鍋で大きな鹿肉のステーキを焼きながら振り返る。

「リガーラたちは我々を見て恐れはしなかったのか?」

 エリア達の話から気になっていたことを尋ねてみた。リガーラという種族は今まで見たことのない神話上の生物だと考えられてきた生物を見て恐れを抱かなかったのだろうか、という思いがとても彼の中で強くあった。いくら自分たちの危機を救ったとはいえ、竜である。そんな諸手を挙げて歓迎するなどという話は俄かには信じがたかった。しかし、ライマの返した言葉からも、そうでなかったということが聞いてとれたので、彼はとりあえずの所は信じておくこととした。

「いいえ、そんなことありませんでした。私たちも目の前で変身したままではなかったというのもあるかもしれませんが」

「そうか、そういうものなのか……リガーラも一度滅びたことで感覚が変わってきたということなのか?うーむ……」

 それならそれで、悪いことは無く寧ろ良いことづくめであることに違いはない。これはもしかすると好機かもしれない、と彼は思いつく。リガーラがこの地から多くの数を減らしたとはいえ、ドラクラットの数と比べるとまだまだ多く、それに飛行機という空において最大の脅威である兵力を多数持った集団があることは確認している。ドラクラットが再びこの世界の空を翼中に収めるにはリガーラたちの協力が少なからず必要となってくることは旅をしてきてリガーラを見てきたことで学んだ。もし、彼らに少しでもドラクラットに理解を示してくれたのなら、その好機を逃すわけにはいかぬのだ。思い立ったが吉日、彼は肉を叩いてこういった。

「よし、俺も明日行ってみよう」



 翌朝、彼らは荷物をまとめるとエリア以外は竜になり、エリアはダンゴムシに跨って村のある方向へと向かった。

「結構ボロボロよね」

 久々に乗るこの一輪のマシンも、初めて出会った時と比べると傷やへこみがよく目立つようになった。転倒や衝突、それに跳ね上げた石がぶつかって塗装も剥げて一部が錆び始めている。誰も機械類を整備できる人間がいないためであった。それに、上の方に気になる傷が複数ある。上下に伸びる細いそれらは、こすれ合ったように塗料を剥いで金属の下地をすかせており、上の方にこんな傷をつけるような覚えは彼女にはなかったのだが、それは当然であった。この傷は、エリアがグロージエナに滅多打ちにされ、ライマの背中に括りつけられている間ドレスが運んでいたのだが、後ろ足で掴んで吊り下げていた際に竜の大きく硬い爪に何度も擦れて出来たものであった。おまけに起動してみると左上のモニターがちゃんと映らなくなっており、そもそもフレームからして潰れてしまっているようだ。これも、ドレスがやらかしたものであったが、彼に悪気はないし壊れたことすら知らなかった。エリアは直し方もわからないので割れた液晶はそのままにしてアクセルを踏み込んだ。

 見た目は悪くなってしまったが、まだまだしっかり動いておりエンジン音も申し分なさそうである。もう少しの間、自分が変身を覚えるまでせめて動いてほしいと思うエリアであった。

 村までの道のりは思っていたよりも遠いのは、やはり前回は空を飛んでいたからであろう。ライマとドレスが先行し、村を訪れておく。言葉がわかれば話をつけておけただろうが。そして足の遅いエリアとそれを護衛するドレスがあとから遅れてはいるという手順となっていた。

 背丈の短い草原が続き、その上を走って荒らしてしまうのが些か悪い気もしたが、一面広がっているのだから仕方がない。それに、結構みずみずしい草の上を走るというのはすべるもので、一輪というバランスの悪いこのマシンでは、教習も受けていないエリアが乗りこなすには問題があった。それでも彼女は速度を落とすことでこけずに進み続けていた。しばらく行くとようやく草地も減り今度は一転して荒れた荒野を行く。

 一度大きな段差で揺れた直後、何かが折れたような音がしたため、彼女は不安そうにあたりを見渡しながらも走行を続けていると、次にがたがたと金属がぶつかり合うような音が続く。ますます不安が煽られる中、それは結果をもってして原因が判明することとなった。ひときわ大きな避けるような音がしたかと思うと次の瞬間、右側面に備え付けられていた限定旋回三十四ミリ無反動砲がダンゴムシとの接続基部からねじ曲がって傾くと、声を上げている間に地面のちょっとした起伏に引っかかり完全にちぎれ飛んでしまったのだ。時速五十キロで切り離された砲は地面を抉りつつ激しく回転しながら後方へと取り残されていき、地面に高く突き刺さって止まった。

 茫然とするエリアは、止まることもできずに走り続けながらも折れた部分に目をやると、ねじ切れた部分の周りには錆が発生しており恐らくそれが原因となったのだろう。砲が折れたのはそれにも原因があったが、最大の原因はこのマシンが不採用となり本国に送り返されることもなく倉庫に眠っていたことにあった。

 このマシンはただでさえ特殊形状で使いにくだけでなく、片側にバランスを著しく崩す砲を備えているということがネックとなっていた。そしてこの砲はほぼ一点で支えられていたため回転軸に大きく負担がかかるという欠点ももっていた。それにより負荷がかかりすぎた結果、悪路走行による振動、錆、整備がされなかったことなどいくつもの要因が積み重なったことで、砲の基部のシャフトがあるときへし折れ、壊れて飛んで行ってしまったのだ。

「あーあ」

 これでこのマシンは攻撃が出来なくなった。大砲を使えるのは大きなメリットであったのだが、壊れてしまったのは仕方がない。直せもしないのでこのまま砲については諦めることとした。

 壊れたことで思わぬ副産物も得ることが出来た。まず、邪魔な砲がなくなったことで両サイドが広々としたこと、バランスがうまくとりやすくなったこと、そして百キロは軽くなったことだ。ここからさらに弾薬庫と砲弾を外せばさらに軽くなることだろう。

 エリアは口笛を吹きながら進んでいった。 

 やがて村が見えてくると、五、六人の村人にライマが混じってこちらを出迎えてくれた。初めてみる機械に彼らは目を丸くしていたが、乗っているのが昨日の救世主だとわかると笑顔で出迎えてくれた。

 エリアたちは二度目の訪問で、昨日まで外に出ていた英語話者の村人とであったため村人たちと間接的に会話をすることが出来るようになった。これで話を聞いたりできるし、エリアと村の通訳という二度も挟む必要があるがライマたちも話ができるようにあったのは大きかった。これにより、話を聞いているとどうやらこの近くには大きな街があるらしく、そこでは色々なところから人々が集まり交易をしているとの話で、この村も作物などを交換に出しているそうだ。

 これは大きな収穫だと判断した彼らは、二日後に用意をしてそちらを訪れることにした。それまでは、この村でお世話になるだろう。

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