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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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Sturzkampfflugzeug(急降下!)

「うわっ、このっ!!」

 腹に腕を回されたエリアは、つい数日前に経験した覚えのある行為にあの時と同じような脱出方法を取ろうとする。今度腕が自由であったため脱出は簡単であったため、彼女は後ろに頭突きをかますとそれでも離さない女に根性を感じつつもう一度思い切り後頭部を相手の鼻っ柱にしこたま叩きつけた。流石に二度目は効いたようで、女は鼻をへし折られ両方の穴から鼻血を垂れ流しながら後ろへと倒れた。そこにエリアが容赦なく蹴りを入れ、動かなくなるまで何度も蹴り続けた。何度か鈍い音がしたが、気にしない。

 そこにようやく男の方も現れた。蹴りに夢中で男の接近に気づかないエリアの背後から、彼は荒々しい鉈のような一枚の鉄板を研いで作り出した得物をエリアの側頭部目がけて薙いだが、エリアはそこでようやく後方からの忍び寄る気配に気づいて振り返ったのだった。高速で迫る鉈、彼女は振り返るのとほぼ同時に体を思い切り逸らして紙一重の所で頭に鉈が突き刺さるのを回避した。

「っぶなあ!!」

 髪がちょっとだけ千切られてしまったが、頭をやられるよりは何万倍もマシである。エリアは体を反らし膝をついた状態で身を屈めると、そのまま男の顎目がけて跳びあがった。ドラクラットの跳躍力は伊達ではない、もろに顎に直撃を食らった男は、顎を粉砕させながら後ろへと吹っ飛んでいった。彼女のジェット機のような頭突きは、彼の顎を破壊するだけにとどまらず、勢い余って砕かれた骨が頭蓋骨を突き破って脳を破壊していたのだ。顔の半分を潰された状態で絶命した男は、どす黒い血を砂に染み込ませて地に臥している。痛む頭をさすりながらエリアはうっかり仕留めた男の惨状を目にしてしまったため、急いで家の裏に駆けこむと胃の中のものを全部ひっくり返してしまった。

「おぶうえぇぇええっ!!!……オボエウェエエッ!!」

 二、三回吐いて胃液で口の中が嫌な酸味に覆われたところで、彼女は袖で口元を拭うと最後のリーダー格の男を探しに出た。彼女は迂闊ではあったが、建物の影に相手が隠れていることを考えずに村中を走り回った。時折悲鳴が聞こえるのでそちらの方に駆け付けてみるが、既に姿を消しており、まるでどこに隠れているのかわからなかった。

(エリア、そこから北の高い建物の方に向かってください)

 そこにライマの声が上空から届いた。見上げてみると彼女は高度を二百メートルほど取って上空を旋回しており、どうやら空から相手を探してくれているようだ。

 エリアはこれならいけると考え、指示された方向へと走る。途中様子を見るために顔を出した村人と鉢合わせし、エリアを見た村人たちは悲鳴を上げてすっこんでいったが、今は気にしている場合ではない。砂嵐を巻き上げながらちょっとした陸上選手顔負けの走りで村を駆け抜けていくエリア。こう書くとまるで指をまっすぐ伸ばして足を大きく上げているように想像できるかもしれないが、彼女はおおよそ女走りである。人間の陸上選手が見たらすべてがバカバカしくなりそうな光景ではあったが、それでも確実に相手を追い詰めつつあり、ライマのそれなりに的確と言える、かもしれない指示に導かれつつ、彼女は村の西端、馬小屋らしきあばら家の前に立っていた。中では女性の悲鳴が聞こえ、野太い男の怒鳴り声も聞こえてくる、どうやら奴は村の女性を人質に取ったようだ。

(そこです、その中です多分!)

 流石にもうそれくらいわかると突っ込みながらも、慎重な足取りで馬小屋へと足を進めていく。拳銃を抜いて両手で握りしめいつでも撃てるように胸の前に持っていく。こういう時正しくは銃口を下に持っていくだとかそういう決まりごとがあるのかもしれないが、なんの訓練も受けていない、銃もよく知らないような田舎の少女がそんなルールを知っているはずもなく、もし今大きな音でも急に立てられでもすれば、確実に彼女は驚いて引き金を引き締めてしまうだろう。その先にいるのが敵であればいいのだが。

 壁にたどり着いたエリアは壁伝いに入り口ににじり寄っていると途中で木の節によって作られた穴があることに気づいたので、しゃがんで壁の穴から中の様子を覗き込む。中は薄暗くよく見えないが、少なくとも馬が二頭いることはわかった。他にも空きがいくつもあるので大体出ているのだろう。

 馬の嘶きに耳を傾けつつも、目的遂行のために入り口の前に立つ。ここでエリアはあることを思い出していた。それは昔見たフィルムのワンシーン。どこかの国の兵士たちが、敵が立てこもる家屋のドアの前に立つと、思い切りドアを蹴飛ばして汚い言葉を飛ばしながら続々と突入していったのを。

「よーし……」

 この状況を楽しんでいる節が見られなくもない彼女は、静かに深呼吸をして覚悟を決めると力の限りドアを蹴飛ばして銃を向け叫んだ。

「バーーーカ!!!」

 その瞬間、小屋の屋根は吹き飛び砂や建て材が暴風とともに吹き荒れた。それとともに、上半身がふっとんだ男の体も空高く打ち上げられていた。彼女が何が起きたのか理解する前に、その嵐を起こした鍾愛が、彼女の頭上を向こうへと飛び去っていく。

 彼女の眼に映ったのは、紛れもなく赤い竜であった。ドレスは速度を上げて上空からまっすぐ小屋に向かって降下すると、その強靭な後ろ足で小屋の屋根を引っかけ一緒に男を爪で抉り飛ばしたのだった。

「……ど、ドレスゥ~ッ!!」

 完全にいいところをもっていかれたエリアは、上空を旋回しているドレスに向かって自分の知っている限りの罵詈雑言を浴びせるが、当然それが彼に届くはずもなく、エリアは地団太を踏んで悔しがっていた。そんなことはつゆ知らず、当のドレスは完全にエリアの窮地をギリギリ救うことが出来たと考えていたので、後で彼女に怒りと罵倒をぶつけられまくった際には、何故自分がこんな目に合っているのか理解できずに叩かれていた。

 


「いやあ、人質がかすり傷で済んだのは幸いでしたねえ」

 空から降りてきたライマは、しかめっ面のエリアの横で呑気に事件の解決を祝っている。彼らは今、村長の家で賊を退治した感謝の印としてささやかながらもごちそうになっていた。そこまで豊かではない村であるため、並んだ料理は豪勢とはいいがたいものであったが、初めてみる異国の、しかもリガーラの料理に、物珍しさも相まってか舌鼓を打っていた。エリアも不機嫌なままではあったが、好意はありがたく受け取ることにして努めて笑顔で食べているつもりであったが、他人から見ればどう見ても怒りが籠っている表情であった。

「エリア、この人たちの言葉はわかりますか?」

 エリアなら何か国語かは話せるので、ライマはそう尋ねてみたが彼女は痙攣と見間違うような動きで首を横に振った。

「そ、そうですか……」

 ライマは困ったようにそう言うと、村人たちの方を向き直って全く理解できない話に耳を傾けていた。彼女の前には、髭の伸びた老人が身振り手振りを交えしゃがれ声で何かの話をしているようだが、狩りの話をしているのか、先ほどの一端の話なのか、それとも村の歴史についてはなしているのかまるで分らない。どうしてリガーラは言葉が沢山違うのだろうか、何と不便な生物なのだろうか、と彼女は食事を口に入れながらそう思いつめる。

「ライマ、助けてくれ」

 ドレスの少し弱った声に振り返ると、彼は四名の歳のまばらな女性に縋りつかれており、とても困っているように見える。

「あー……頑張ってくださいね」

 腕や肩をべたべたと触られながら、下手に助けるのも考え物だ、という教訓を得たドレスであった。

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