κονιορτοποίηση του εχθρότητα(憎しみが為に破壊する)
「正気か、ディエンラーなど……」
エマーヘルは怒りというよりも呆れを含んだ眼でグロージエナを見たのに対し、彼女の方はまったく冗談のようなそぶりも見せずにただエリアをまっすぐに睨みつけていた。エリアにはディエンラーが何なのかはわからなかったが、少なくともまともではないことくらいは察することくらいはできていた。エリアはライマの方を見て小声でそれについて尋ねる。
「ディエンラーって?」
ライマは目を細めてグロージエナを睨んだまま口早に説明した。
「簡単に言えば決闘ですね。互いが死ぬか勝者が十分と思うまで続けられます。正直言ってこれは正気ではありません」
「決闘……え?」
彼女は目を丸くしてライマの顔を二度見した。実は決闘自体には彼女はさほど驚いてはいない、何故ならムゥロにも決闘の儀式はあり、納得のいかない者同士が衆人環視の中で剣を取り戦うのだ。エリアは両親に野蛮だから見るなと禁止されていたが、それでも怖いもの見たさでこっそり群衆の隙間から覗いたことがあった。一部始終を見ていたわけではないため、殺すまでは見たことがないが彼女の記憶では片方が命を落としたという話を聞いた覚えがあった。決闘の原因は確か愛する女の取り合いだったと思われる。
彼女が驚いたのはこのドラクラットにもその習慣があることと、女同士で行うということだった。ムゥロで決闘を行うのは男だけで女同士の争いは当人間や仲介者を隔てての解決がせいぜいであったため、女同士の決闘という例は本でも読んだことは無かった。
「私たち、女でしょ?」
「だからなんだ」
彼女が本気だということになおのこと面くらい言葉を失った。何故決闘などしなければならないのか、そこまでしなければいけない根拠は?そんな疑問を問いただす前にエマーヘルは一段と低い声で彼女に言い聞かせる。
「もう忘れたのか、貴様も聞いているだろう。予知の要であるエリアに手を出せばこんな村など容易く滅びるということくらい」
その言葉に、他の村人たちは顔色を変えるがグロージエナは一向にディエンラーを執り行うという決意は変わらないらしい。
「理由を、せめて理由を教えてください」
ライマの懇願に、グロージエナは目を細めて少し考えるとやがて語りだした。
「ドラクラットの再興は我ら数千年に及ぶ悲願、その間誰も成しえなかった偉業であることはお前たちもわかっているだろう。それを突然現れたそんなガキ、しかもあろうことか闇竜族が再興を果たすなど聞いて黙ってはいそうですかと従えるような情けないドラクラットなど居るものか!ディエンラーでその女が死ねばその程度で死ぬような奴が一族を救えるわけがないということの証明をしたいのだ、私は」
その力強い言葉に、周囲の者たちも首を振って同意した。
「予知の愚弄だ……ここまで堕ちたか、同胞よ」
エマーヘルは目に涙をにじませながら力無く首を横に振った。彼女の言い分が相当にショックだったようで、彼はただただ悲し気に嘆くばかりであったのを見て、エリアはここまで彼が気を落としている姿を始めてみて、どれだけ彼がショックを受けたのかを認識していた。
「来い」
グロージエナはそう言い捨てると背を向けて村の外れへと向っていった。エリアは二人の顔を見ると、エマーヘルが諦めきったように彼女に言い聞かせた。その内容にまるで人ごとのようなものを感じたエリアは、歯を食いしばりエマーヘルへの憎しみを露わにした。
「もはやいうことに従ってあの女を倒すしかあるまい……そうすれば村の者たちも従おう」
「はあ?なんで殺し合わなきゃいけないわけ!じゃあこんな村出ていけばいいじゃん!次の村でも行けばいいでしょ!」
その怒りにエマーヘルは否定する。
「恐らくどの村に行っても同じ事があるだろう、それでそのたびに一族から外しにしていては、しまいには外しだらけになってしまう。その時外しの効果は意味がまるでなくなるのだ」
「だからあの理不尽な言いつけにしたがって死ねって?」
「そ、そうは言ってない」
「言ってる!!」
「すまない、だがこれは今回ばかりにする、本当だ。始祖竜に誓って」
らちが明かないと判断したエリアは、歯が砕けんばかりの力で奥歯を噛み締めると一言エマーヘルに誓わせた。
「戻ったら一発殴るからね」
するとエマーヘルはまじめな顔でわかった、とだけ答えた。その面白くない反応に彼女は殊更怒りを増幅させて外へと出た。周りにはまだ残っていた村人たちが、彼女の異様な怒りに囚われた姿を見て怯え、彼女が強く睨みつけると皆悲鳴を上げて逃げていった。彼女には今負の感情が籠っており、彼女の奥底で目覚めの時を迎えようとしている存在があった。皮肉にも彼女の望まないことでエマーヘルたちが望むことが起きようとしているのだから、彼女はつくづく呪われた運命にあるようだ。
彼女が向かった先にあったのは、下草も生えていない地面でこの土地の貧しさが伺える。数少ない村人は円になってグロージエナの周囲を取り囲んでいた。恐らくその場所が決闘の舞台なのだろう。怒りに支配されているエリアは何のためらいもなくその中に進んでいくと、二人は向き合った。
「武器は禁止、変身もダメ。ただ殺し合えばいいだけ」
「殺してやる……」
エマーヘルたちはまだ来ていない、だがそんなことは構わない。二人が来る前に目の前の癪に障る女を血祭りに上げればいいだけのこと。
これといった合図もなしに二人の女ドラクラット同士の決闘の火蓋は切って落とされた。エリアは今まで見せたことのない瞬発力で地面を蹴ってグロージエナの下半身目がけてタックルする。それを彼女は身を翻して躱すと同時に、肘をエリアの背中に思いっきり叩き込んだ。思い切り地面に突っ込んで体の前面をしこたま打ち付ける。
「うっぐ……」
倒れたエリアの横っ腹に、強烈な蹴りが入れられ体が浮いた。彼女はそのまま横に十メートル前後吹っ飛んで民衆に突っ込むが、彼らは素早くそれを避けるとエリアは農具小屋に激しくつっこんだ。エリアが直撃したためにボロい小屋は簡単に崩壊し、残骸が彼女の上に折り重なった。
「その程度で死ぬなよガキ」
グロージエナはゆっくりとエリアの元へと歩み寄ると、動かないエリアを片手で引っ張り上げた。襟元を掴まれたエリアは宙ぶらりんの状態で目を開けると、彼女の顔目がけて唾を吐いた。それをひょいと躱したが、それと同時にエリアはその下で足を振り上げていた。膝が彼女の腹に入り、思わず手を離したグロージエナの後頭部にエリアの頭突きが直撃した。鈍い音と共に、グロージエナは地面に激突してしまった。そこにエリアは一発、二発と場所を構わずに蹴りつけたが、三発目を入れた瞬間にグロージエナはエリアの足を掴んで思いっきり引っ張り上げエリアはすっ転んで背中を地面にぶつけてしまう。
一瞬呼吸ができなくなったエリアを、グロージエナが足を掴んだまま放り投げた。痛みに動けないはずであったが、ここで本能が働いたのか、エリアはふらつきながらも四つん這いで着地し立ち上がる。既にあちこちに擦り傷を作っており痛々しいが彼女の戦意は失われてはいなかった。それどころか更に戦意を増幅させているようにも見える。
「……まったく、早く死ねば痛い思いをせずに済むのに」
グロージエナは首を回すとエリアに向かって猛ダッシュを仕掛ける。咄嗟に身構えたエリアの顔面に目がけて本気の突きが繰り出される。その威力は、鍛えられたボクサーですら一撃で首を折られ頭蓋骨を砕かれていたであろう一撃であったが、それを運よく腕で受け止めたエリア。だが、それでもなお、ガードしたエリアの腕ごと顔面を殴りつける威力があった。
「っぐ!?」




