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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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Kurwa!(クソッたれ)

 旅を再開した三人は、先日と同じように空と陸とに分かれるとサリエナ村までの旅路を進む。エリアは時折モニタに映っている、常に変わりゆく数字を気にしていたがその多くを彼女は理解できていなかった。

 このダンゴムシのような乗り物を運転するのはこれが初めてであり、自転車は見たことがあったが触ったことすらなかった。それでもこうやって簡単に乗りこなせているのだから自分はこういう才能があるのだろうと彼女は自分の知られざる適正に満足していた。

 空を見上げ、上を飛んでいるはずの二人を気にする。今日は一面が曇っているために、二人の姿はまったく見えることはなく、それと麻だというのに天気による薄暗さが彼女を不安に駆り立てた。どうにも嫌な予感がしてならない。そういう時、そんなことを考えていると本当にそういうことが起きてしまうもので、考えるんじゃなかったと彼女は後悔することとなる。

 数百年前ならばこうして道を進んでいてもまずならず者集団に襲われるというようなことはなかったのかもしれない。だが秩序のちの字も無いこの時代に、イカレた奴らは襲ってくるというものだ。それが外の世界の危険性であった。

「ん?」

 彼女の、優れたドラクラットの視力が向こうの方に何か動くものを見た。それは始め二つほどであったが、近づく連れ数を増していき最終的には十体ほどにまで増えていた。この時点で既に敵だと感づいていた彼女は速度を上げ逃走を図る。出来るならば一度も接触することなく済ませたかったのだが、この不整地と敵に地の利があるという二つの条件によって、その試みは上手くいかなかった。

 馬に乗った彼らは見る見るうちに右側面から近づいて来ると、後方十メートル付近に食らいついた。

「よくわかんねえがぶっ殺せー!!」

 男が気の狂ったような声で何かを叫んだようだが、風のせいで聞こえない。彼女は一瞬だけ後ろを振り返ると毛皮や骨で武装した半裸の男たちがこちらを追いかけてきたのが見え、正面を向いて茫然とすると、もう一度振り返る。

 彼らは何か棒状のものを手に持っておりそれらはどう考えてもこちらをぶん殴るための武器に違いなかった。

「Oh mio Dio!(神様)」

 ここでどうするか、エリアはこいつを奪った時のことを思い出しうろ覚えであったが装置を操作して反転機能を使用した。

 ダンゴムシは前方に向けて走ったまま勢いよく上下が逆転した。モニターには逆さまになった蛮族どもが映る。

「ゴメン!」

 エリアは謝るとトリガーを押した。撃ちだされた徹甲弾はまっすぐ先頭の馬を撃ち抜くと勢いを殺されつつもなお殺傷可能な速度を保ったまま後続の馬を木っ端微塵に蹴散らした。さらに若干後方にいた馬も勢いに煽られ転倒し視界から消えて行った。見たこともない武器に恐れをなした蛮族どもは彼女を追うことをやめると散り散りになっていずこかへと去っていった。

「た、助かったあ……」

 安心し、緊張が解けるとドッと疲れが押し寄せた。エリアは反転機能を戻そうとスイッチをもう一度押したところで、ダンゴムシごと彼女の体は宙に放り出された。

「あっ」

 と思うのも束の間、直後には彼女は地面に叩きつけられ十メートルほど地面を転がった。岩だらけの大地が彼女の柔肌を傷つける。

「あっ……っが………いだっ……」

 痛みとショックで体を起こすことが出来ずにいた。何がどうしてこうなったのかわからなかったが、実は彼女は反転機能を使っていたために進行方向の様子を掴めていなかった。そのためダンゴムシの車体は大きな段差にぶつかると跳ね上がりバランスを崩してしまったのだ。

 幸いにも荒れた路面のせいで速度が落ちていたため彼女は時速三十キロで地面を転がるに済んだ。ドラクラットの体というのも相まって骨折もなかったが、多少の擦り傷切り傷と痣は免れなかった。

「痛い、痛いよう」

 涙をにじませながら彼女は痛む腕をおして体を起こす。ダンゴムシの側面に引っ掛けていた荷物袋が外れて脱落しているのを見つけると、這いずって近寄り拾い上げた。袋に穴もなく中身は衣類であったため損壊した物はなかった。だが問題はダンゴムの方である。勢いよく飛んでいったあのマシンは無事であろうか。もし壊れたのならば先ほどの奴らから馬を奪うかあるいはライマの体にしがみついて飛ばなければならないだろう。それだけは遠慮したい。

「いつつ……Porca miseria.(ったく)」

 悪態をついて立ち上がると、飛んでいったと思われる方向に向かって歩き出した。恐らく進行方向と同じ方向に飛んでいったはずだ。予想は的中し、二十五メートルほど先にある木にぶつかって倒れていた。不運にも衝突された木は大きくへこんで裂けめができてしまっていた。

「あーもう、いたいし……やだあ」

 などと悲しんでいたが、彼女に痛みを癒す時間を与えてくれない者たちもいた。後方から聞いたばかりの歓声が耳に入り、彼女は目を見張って背後を振り返った。

「うおおおおーー!!」

「っげえ!」

 撃退したと思っていた蛮族たちが舞い戻ってきたのだ。彼女は自分とダンゴムシの距離を見て確実に間に合わないことを悟る。よしんば間に合ったとしても、そこから起こさなければならないし、故障している可能性もある。体の痛みを我慢して出来る限り走ったが、早歩きよりも遅い走りで、馬の機動力から逃れられるはずもなかった。

「今日の晩飯だあー!!」

「いやあー!」

 何語かもわからない、しかし少なくとも大丈夫か、と言っているようには見えないのでとにかく彼女は走った。だが当然追いつかれる。腹を括った彼女は、両腕に力を込めるとめい一杯握った袋を振り回した。それは彼女に石斧を振り下ろそうとした男の腹部にヒットすると、男は落馬し後続の馬に蹂躙されてしまった。当然それで生きているはずもなく、男は体中何か所も骨折し、折れた骨が心臓や肺に刺さって死んでしまった。

「オラー!」

 今度は馬から飛び降りてきた小柄な男をカウンターで殴りつける。もろに顔面に拳がヒットしたために、顎が砕かれてその場に倒れてしまった。そこに止めを刺すべくエリアが、先ほど仕留めた男の石斧を手に取ると、男の顔面目掛けて勢いよく振り下ろした。女とはいえ成人男性以上の力を持つ彼女が本気で振り下ろした石斧は、丈夫な頭蓋骨をまるで泥団子のように簡単に潰してしまった。血が撥ね。彼女の前面を濡らす。

 仲間を既に五人もやられている蛮族たちは怒り狂って彼女に殺到した。二人の男と一人の女が武器を手に馬から降り襲い掛かってくるのを見た彼女は流石に不利と感じ、踵を返して逃げる。

「無理、さすがに三人は!流石に!」

 それでも逃げ切れるわけもなく、エリアは後頭部を木の棒で殴られるとよろめく。それでもドラクラットは伊達ではない。そのまま前のめりになって倒れそうになりながらも踏ん張ると、返す拳、裏拳で男の顔面をぶっ潰した。鼻を砕かれフガフガとうずくまって顔を押さえているが、血があふれているのはよくわかった。そこにもう一人の男が彼女を背後からがんじがらめにすると、正面に回った女が拾い上げた棒で彼女の顔や体を殴打し始めた。

「こいつ女だぜ!」

 という男の下卑た笑いに女はやはり同じような下品さをもって答えた。

「なら犯して孕ませちまいな!」

 言葉はわからなくとも、罵られているようなのはわかった。彼女は腹にパンチを喰らうと、次に女が頭頂部に棒を振り下ろしたところで自分を捕まえている男をそのままの体勢で持ち上げると、体をかがめて男の後頭部でそれを防御したのだ。

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