Full aluminium(アルミの鳥)
「いやあ、お前すんげえ神業で味方を救ったんだって?お前は初めて見た時から――」
うんぬんかんぬん、食堂で遭遇したお喋りなカイルはやはり絶え間なく言葉を発しており、マスクをしているにも関わらずこの飯には彼の唾が満遍なく振りかけられているのではないだろうかと疑うのも当然であった。そんな彼を止めるものは唯一、炊事班長の振るう巨大木べらであった。キロ単位の重さのあるそれは、風切り音を伴ってカイルの尻を吹き飛ばさん勢いでしばいたのであった。
「カイル!てっめえ飯作ってるときはそのお喋りやめろって何度言ったらわかんだこのタコ!ぶち殺すぞ!」
「うおんぎゃああ!!!死ぬ!!ケツがマッシュポテトになっちまった!ばあちゃん助けて!」
姿は見えないものの、ざまみろと思う反面、こっぴどくたたかれても尚あの声量で叫ぶのだから恐ろしくてかなわんとばかりに身を震わせて、ヒューは席に着いた。そんな彼を待っていたのは隊の人間を中心とした何人もの男たちであった。彼らは顔を綻ばせて英雄の登場に沸く。
「よう、あれはなかなかの度胸だったぜヒュー!」
背中を強く叩かれむせかえる。
「い、いやあれはジャンがいてこそでしたよ」
「謙遜すんなって!」
そう言われるものの、本当にあれはジャンが咄嗟に機銃を撃っていなければあの一度の攻撃で二騎を仕留めるのはまず無理であっただろう。謙遜などではない。そんなジャンはというと、彼から少し遅れて食堂にやってきてようやく席に着くというところであった。
「ああ、ジャン。こっち座れよ」
と、隣りを少し詰めてスペースを作ってやる。ジャンは丁寧に礼を述べると、周りを取り囲む屈強な男たちに怯えながらいそいそと座った。当然、彼も同様に歓迎を受けることとなる。
「っよ!」
バシン!と彼の背骨が折れるんじゃないかと危惧する程の大きな音が真横で鳴る。
「あいたあ!」
咳き込む彼とは対照的に、周りは皆笑っていた。それを制するものが一人、長テーブルの中央に座っているアルヴィネン大尉であった。彼はグラスを片手に咳ばらいを一つすると少々かしこまって述べる。
「よし、では我々の初の実戦成功と、メラーラ准尉とマッケンジー伍長の類稀なる技術を祝って」
沈黙。
「乾杯!」
「うおおおおーー!」
アルコールの無い小さな祝いの乾杯が、食堂にガラス同士のぶつかる音を多重に響かせた。
「オーバーハリケーンはいい機体ですよ」
004番機、パイロットのゼラー少尉が気分もよさそうにそう言った。
「ああ、ここに来る前はソーサラー(※1)のパイロットをやってたが、あれもいい機体だったが、あいつはまた格別に良い」
006番機のパイロット、タッカー曹長の話に皆頷いている。そこに異を唱える意見を挙げたのが007番機のワン軍曹であった。彼もまた同様に頷いていた人物の一人ではあったが、それでも言いたい意見があるらしい。
「確かによい機体ですよ。しかし四百キロを超えたあたりで少し振動が強くなるきらいがありませんか」
「ああ?うーんそれはまあ、俺も感じてたところだなあ」
まだオーバーハリケーンは生まれたばかりの機体。実戦経験など全くなかったのだ。これから実戦を経て調整が行われ、改修された型も出てくるだろう。
「機銃の軸が滑りが悪いな」
機銃員の誰かが述べた。
「確かに、少し油のノリが悪いといいますか。あ、あともう少し気持ち左右の射角が欲しいところです」
と、述べたのはジャンである。彼はフォークを機銃に見立て左右に振るジェスチャーをした。
「そうだなあ……」
こうして休憩時間が終わった後も機体のいいところや改善の要望が彼らの中から飛び続けて止むことはしばらくなかった。それらの案は文書にまとめられるとさっそく現地整備班や本国の技師たちに向けて送付された。こういった現地の声を出来る限り取り込んでくれるのがシュバステンのいいところでもあった。ただ、技術者の数もそう多くはないので反映されるのが少し遅くなるのが玉に瑕であったが。
物語の焦点は、エリアに戻る。




