Una malattia (心に巣食うモノと)
「これ、食べよう一緒に」
エリアはパンを半分に千切り、肉と一緒に差し出した。ただあげるのではなく、一緒にと付け加えるのが彼女なりの配慮であった。クイリは、髪の奥から疑いの目を向けてはいたものの、空腹の状態で目の前に食事を差し出されては食欲の方が勝るらしく、彼女は気づいていないが目がさし出されたものにくぎ付けになっていた。
「食べながら、話そう?」
これは彼女自身の切実な願いであった。針の筵の中に仲間ができるのは心強いというもので、彼女は内心クイリに同情心を抱いていたのかもしれない、或いは下に見ていたという可能性もある。だがそうだとしてもそれは彼女の無意識下によるものであって、彼女の意思でも本意でもない。
そうしてエリアが食べ物を差し出したまま十分ほどささやかな押し問答のようなものを繰り返して、ようやくクイリが折れたのだった。
「私はムゥロっていうもっと西の方にあるリガーラの街で育ったんだ」
「リ、リガーラ、み、見たたたこと、る、無い………」
二人の少女は、小さな箱を挟んで食事していた。エリアはクイリの方を向いてコミュニケーションを取ろうと試みていたが、まだクイリにそれは難しいようで、彼女は壁の方を向いて時折エリアの方をちらっと見るにとどまっていた。それでもかなりの躍進である。
「リガーラは耳も尖ってないし紋章は無いし、えーっと……目の色もそんなにカラフルじゃないんだよ」
「そ、う、そうなんだだだだ……」
少しだけではあるが、彼女の瞳に光が灯り始めていた。同族から拒絶され排除されようとしていた彼女にエリアが差し伸べた手は、思っていた以上に大きなものだったようだ。
エリアはクイリと更に打ち解けるために話をつづけた。孤独の自分を救ってほしかったというのもあるし、あまりにも可哀そうな彼女を助けたいという気持ちからもそれは来ていた。
エリアは水筒から注いだ水を勧める。
「あ、ありが、ががっがと」
か細く汚れた手が、床に置かれたコップに伸びる。まだ直接手から受け取ることはできないことは、食事を渡したときに学んでいた。震えるその手は、僅かな重さのコップさえ持ち上げられないのではと思うほどに、痛ましかった。エリアは怒る、何故同族の彼女にこのような仕打ちが出来るのか、闇竜族というわけでもないのに、どうして!
ふつふつと怒りと復讐とが、心の中で蘇り、それを糧に彼女の中の闇竜は成長する。未だ彼女が何の竜かはわからない、しかし例え黒竜だろうと死竜であろうと、なんであろうと、闇竜族の遺伝子に刻まれた復讐のメモリーが、共通の力となるのだ。
「あ、あ、あの……あの」
クイリの声で、我に返る。
(あ、いつの間にか、また変な感じに……)
胸騒ぎを覚えつつ、彼女は相槌を打つ。
「……何?」
「どうしししててて、」
唾を飲みこみ、一拍おいて再度口を開いた。
「あ、あなたたは、は、は、わ、たしと……ふつ……にしてく、くれくれ、くれる、ののの、の?」
「どうして、かあ……」
難しい話だ。ただ可哀そうだったというのは、違う。親近感がわいた、というのも偽善的であるし、立場がにているだけで、境遇はまったく異なる。ならばどう説明したものか。十秒ほど考え、とりあえずの結論を答えることにした。
「友達がほしかったから、闇竜族の私と話してくれる相手が」
事実、闇竜族のために自分の話し相手になってくれるドラクラットなどいないだろうとなんとなく理解していた。そんな中、訳ありとはいえ、クイリがこうして話し相手として現れてくれたのはとても嬉しかったのだ。しかも歳も同じくらいであるから、願ってもない相手だ。だからこそ、逃したくはないという独占欲が、ほんの数グラムだけ芽生えていた。
「と、友だだたっただち……」
友達、何となく発したつもりのその言葉が、クイリにはその言葉の持つ力以上に強く働いたらしい。彼女はコップを握る力を強め、目を泳がせている。彼女の心に、光が灯る。
「クイリが、もし話せる時が来たらクイリのこと教えてね」
「う、うん」
「よかった……」
そう言って、エリアは微笑んだ。笑ったのは、あの日以来初めてかもしれない。いつの間にか笑顔を忘れてしまっていた事実に驚かざるをえなかった。




