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Schwarz Drache ~黒き竜の少女と果て無き旅の果てに~  作者: 戦艦ちくわぶ
Ⅰ La ragazza nera(黒き竜の乙女)
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Burning(燃えさかる空)

 西暦二四五七年七月三十日、午前一時八分。北緯四十八度東経十一度、旧ドイツ、ミュンヘン上空、高度二万六千フィート、地上からは雲間から時折半月の現れる、いい夜だった。シュバステン空軍第十一偵察隊所属のマアリファトゥン偵察機が雲海に沿って悠々と大空を飛行していた。アラビア語で知識の名を冠するこの偵察機は、双発式のレシプロ偵察機で、乗員五名、最大速度は時速にして六五〇キロを誇るシュバステン空軍の陸上偵察機であった。

 普段は夜間にこの時代偵察機など飛ばさないのだが、先日のムゥロの一件以来、上層部は敵の攻撃に警戒するようになり、こうして偵察隊がいつもはベッドにいたはずの夜に駆り出されているというわけだ。

「ふぐああ……ん」

 操縦席に座るパイロットのネイズン飛曹長が欠伸を半ば噛み殺す。

「曹長、しっかり見張っててくださいね」

 上部機銃手ダッチ軍曹がやれやれと首を振る。皆からしてみれば、眠りたいのはやまやまなのである。どうせ敵などいやしない、どうせ爆撃隊が落ちたのだって嵐にでもそっくり部隊ごと巻き込まれたかしたのだろう。そういう認識であったため、全く現れない敵のために、形ばかりの偵察をしていたのである。今夜も何もないさ。そう腹を括って、コパイのヒュー・メラーラ伍長は定時報告を基地に向けて飛ばした。

「あーこちら、ブリトゥン4定時報告異常なし。これより基地に向けて帰投する」

 そろそろ燃料も半分を切り始めた頃だ、彼が頷くと、ネイズン曹長も無言で頷き返し、機体をゆっくりと反転させ始めた。微細な振動が、機体を絶えず揺らし続け、外から二つのエンジン音が、密閉された機内に低く伝道している。いつものフライトだ、これから帰ってビールを煽って寝るとするさ、そう考えていた時であった。後部機銃手が遠くの雲間に何かを見た。月の光が雲に反射したのだろうか、よく目を凝らしその空域を注視する。すると確かに何か大きなものが時折雲の切れ目から端を覗かせている。あれは何だろうか、飛行機のようだがこの時間帯、この空域を飛行するのはこの機だけである。それに飛行機にしてはどうも変だ。左右に伸びた翼が上下にしなっているのである。目の錯覚などではない、確かに動いていた。それも翼だけではなく、体全体が金属の合板には無い動きを。

 彼は叫んでいた。

「後方、距離八〇〇、二千フィート下方に敵機らしき飛行物体を確認!」

 その瞬間、機内は騒然とした。まさか自分たちの時に限って現れるとは、いや、まさか本当に存在するとは。

 にわかには信じがたかったが、ダッチ軍曹が確認しに行き、報告が正しいことを示した。すぐさま基地に至急電を打つ。


 ワレ 北緯四八度 東経十一度 二四〇〇〇フィートニテ 未確認飛行物体ヲ 確認ス


 報告が入るや否や、基地ではアラートが上がり、夜間戦闘機隊がスクランブル発進を始めた。基地は爆撃機隊の弔い合戦に燃えていた。滑走路から次々と長距離戦闘機グランドキャットが飛び上がる。総勢一二機、実に一個中隊が慣れぬ夜の大空へと舞い上がった。空では敵なしのゲイルカント軍の数少ない戦闘機隊の、これまた極少数の夜間戦闘機隊初の戦闘だ。パイロットたちは昂っていた。

〈各自小隊を組んで続け。高度に注意しろよ〉

隊長機の指示に従い、三機一個小隊計四個小隊となり、突き進む。

「……よし、基地から二〇一隊が発進したそうです!」

「とにかく我々は高度を下げ、さっさととんずらだ」

 メラーラ伍長の報告に満足そうに頷くと、ネイズン曹長はグイと舵を目いっぱい切った。機体をバンクさせ急旋回をかける。双発機のため単発機のように身軽な機動は取れないが、それでも十分なほどの旋回性能をこの機体は持っていた。

機銃手は徐々に迫ってくる何かによく目を凝らし、引き金に手を掛ける。どうもあちらもこっちに気付いたらしく、あちらにとっては見られるとまずかったりしたらしい。

(……四〇〇、三五〇……竜だ!)

 ありえない、確かに目にそれは映っていた。しかし脳が信じようとはしなかったのだ。いくら荒廃した世界とはいえ、おとぎ話の生物がこうして悠々と飛んでいるなんて。

とうに機銃の射程内には入っていたが、確実なものとするため、また迫りくるものの正体を確かめるためでもあった。彼の目にあり得ないものが映り、気が動転しかけたが、落ち着いて引き金を引いた。一三ミリ機銃が火を噴く。

 毎分九八〇発の銃弾を撃ち出すこの機銃は、いかなる航空機でも、命中させればバラバラに打ち砕くほどの威力を備えていた。それらは吸い込まれるように竜に伸びていった、無数の銃弾を浴びた竜は、バラバラになりながら地上に落ちていく。そのはずであった。    

しかし驚くべきことに竜は銃弾を避け高度を偵察機とほぼ同じにして迫って来たのだ。

何て機動力だ!彼は悲鳴を上げ、死に物狂いで機銃を撃ち続けた。水平射が可能な上部機銃も応戦に入る。が、それらさえも悠々と躱してしまうと、竜は一気に距離を詰め、その大きく開いた口の歯の本数を数えられる距離にまで近づいた。

「ああああ……」

 彼の顔が絶望に満ちる。メラーラ伍長は無我夢中で搭載カメラのシャッタートリガーを引いていた。機首の下部に取り付けられたカメラは、三六〇度方位の写真を撮ることが可能となっている。撮られた写真はそのまま基地へと送信されるのだ。

「クソッたれ、何だってんだ!」


 随分前に書いたところで、それを切り捨てた部分だったのですが、軽く修正しただけなのでちょっと変なところがあるかもしれません。

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