Il odio(憎しみ故に)
三人とも食事を終えたところで昨日と同じ場所に各々陣取ると、今度はエマーヘルが語り始めた。
「まず昨日言い忘れていた重要なことだが、我々は普通の服とは違う布を使った服を着る。布自体やさわり心地が別段変わっているというわけではない。触ってみろ……な?では何が違うか。見てわかるとおりこうして俺のもライマのにも顔のような模様を施してある。これはたんなる模様ではない、力を織ってあるのだ。これを行うことで、我々は服を着たまま竜に変身することができる。思い出してみろ、昨日ライマが変身した際足元に布の破片も落ちていなかっただろう。それに戻った時も裸ではなかった。そうだろ?そしてそれだけじゃない。変身する際服も変身をする。なんになると思う……そう鎧だ。変化、硬化し強固な鎧となるのだ。それは手に持てる程度の銃では撃ち抜くことなどできぬほどに協力だ。これを生み出すのにゆうに五〇年近くかかったという。それでだ、もしリガーラの服を着て変身したなら服に締め付けられ痛みが生じる上に衣服をすべて失う」
その説明に心当たりのあったエリアはあっと声を上げた。
「……経験済みか」
なるほどあの夜全裸で墜落していたのにはそういったワケがあったのか。確かに体のそこかしこが赤く痛んだ。
「それは災難でしたね」
ハハハ、と三人が笑いに包まれたところで、ふとエマーヘルが神妙な面持ちになった。
「どうしました」
ライマが尋ねる。
「おいエリア。服を失ったのを経験したんだよな?」
うん、と彼女は頷いたところで彼が言いたいことに気づいて再び声を上げた。
続いてライマもすぐに気づいたようだ。
「つまりだ……お前は既に一度変身を経験しているということだ!え?」
ショックをうけた。そうだ。その通りだ。あの時意識が途切れたのも全裸になっていたのも、その状態で空中にいたのも全て説明がつく。しかしならばあの時なぜ変身できたのだろうか。それを知りたいのは二人も同じで、エリアの肩を乱暴につかんで揺さぶってきた。
「思い出せ、どうして変身できたのかを。何を見て、何を思った!本能か!?」
「必ず何かがあったはずです。たとえば大切な人を失ったとか……」
ライマの放ったその言葉に胸の奥が疼いた。大切な人……あの時の記憶が蘇り彼女の記憶を揺さぶった。瓦礫、炎、闇、そして飛行機。飛行機、そうだ飛行機だ。あれを見上げた後から記憶がなく、直前に胸が燃えるように熱くなったのだ。いや胸どころではなく全身だったかもしれない。ともかくあの時に変身したとみてまず間違いないだろう。
「うん、思い……出した。私の町がどこかの飛行機に破壊された………」
その言葉にエマーヘルは眉間に皺を寄せた。なるほど心当たりがあるかもしれない。ここ数十年、飛行機がよく飛ぶようになったと年寄りたちが話していた。その飛行機を間近で見た者曰く大小姿形はそれぞれなれど、どれも一様に同じ印をその体に刻んでいたという。左に偏った赤の十字に鳥の描かれた盾の印章。それはつい昨夜彼も目にしたものであった。そう、その国の名はシュバステン。北欧に首都を置く新生帝国。失われた技術を駆使しその力を急速に広めつつあるという。その侵攻の際にはいくつかのパターンがあり、そのうちの一つに何の前触れもなく一晩のうちに一つの街を焦土と化すのだと、行商人が教えてくれた。その国の軍が恐らく少女の故郷を焼き払ったのだろう。そして偶然生き延びた彼女が町の惨状を見たか、家族の無残な姿を見たかで図らずも内に秘めたる闇竜の力を呼び覚ましたのだろうか。つまりエリアは昨晩知らず知らずのうちに自ら仇敵に迫っていたということになる。この事実、伝うべきか否か。
ふと現実に帰るとエリアが胸を押さえて呻いており、それをライマが外に連れ出そうと手を引っ張っているところであった。中で変身されると不味い。
「早く外へ」
彼が促す前に、ライマが既に彼女の手を引き外へと連れ出そうとしていた。朽ちかけているとはいえ、鉄筋コンクリート造の建物の中で変身されれば、その巨体が建物を崩してしまうだろう。竜に変身しているエリアなら無事かもしれないが、現在人間の姿である二人にはひとたまりもない。そそくさと三人は外に出、建物から離れていく。




