Dragonic Shaman(竜の祈祷師)
彼女がうんともすんとも言わなくなったのを確認すると、残された二人は別室に移動して今後の予定について話し合った。
「あれも失敗したとなると、多少面倒だぞ」
「ええ、こうなるとどうしたものでしょうか」
実を言うと、竜への変身についてはこれといって必要な儀式や道具などは無い。幼少の頃より訓練をある程度積むことによってドラクラットであればだれでもなれるものなのである。ようは気持ちと時期なのである。しかし当の彼女は幼少の頃はもとより、今までの人生の殆どを人間の世界の中で生きてきたのだ。そこに竜の知識もなければ、ノウハウもない。こればかりはどうしようもないのだ。教えてやりたくても、大概のドラクラットは成長したドラクラットを教えたことが無い、故に教える方のノウハウもないのである。どうしたものか、八方ふさがり、打つ手なしの状況に早くも追い込まれた二人の竜の祈祷師は、頭を抱えて考え込んでしまった。
「もう一度……」
ライマが声を絞り出す。それをエマーヘルが、無駄だろうと首を振る。
「まじない、はそんな小節は知らんしなあ」
二人とも祈祷師であるため、いくつもの祈祷や占いといったまじないの類を知っているのだが、今までの知識の中に、このようなケースを解決するための物は心当たりが無かった。彼らのまじないの効力は、効果というよりは思い込みによるもの、心情的なものであるため、本当に不思議な力が発揮されるものは非常に数が少ないのだ。使っても何らかの力を消費するというわけではないが、物によっては踊りも必要となってくるため、何度も使えるようなものでもない。第一、ここには必要な道具が揃っていなかった。こうなれば兎に角竜人の感覚を取り戻してもらうほかない。
「もっと我々一族のことを教え、あの娘の中に眠る血を蘇らせる他なかろうよ」
「確かに……」
そう答えた彼女の表情は暗かった。何が言いたいかはわかっている。教えたくとも、知っている歴史や文化についても限られている。すべての部族が繋がっているわけではないため、別の族のことなど知らず。まして闇竜についてなど……
もし自分が平和な時代に人間としてこの世に生を受けていたならばこの人生をもっと愛おしく思えたのだろうか。親や兄弟を失わずに済んだのだろうか。神にもそれは保証できない。そう思わずにいられない世界で自分は生まれ育った。皆大昔の栄えた世界に思いを馳せ、残された映像や文字の中だけの空想の世界に恋い焦がれた。そんな世界だった、この二十五世紀は。
「起きてください」
ライマに揺り起こされたエリアはゆっくりと重たい瞼を開いた。世界に変わりはなく、映るのはやはり朽ちかけたコンクリート造りの天井だった。彼女が寝床から這い出るとライマが淹れたてのお茶を湛えたカップをこちらに差し出した。寝ぼけ眼でそれを受け取ると、湯気立ち上る薄茶色の液体を冷ますべく息を吹きかける。それでもまだ十分に熱いそれを、彼女は口に含んだ。昨日のものとはまた異なった香りが鼻腔をスッと通って抜けていった。
「起きたか」
エマーヘルだ。
「ふわあぁ……今日は?」
「もう少し我々のこと、そして自身のことを知ってもらおう。日が真上よりも傾き始めたころ移動する」
移動?何故。彼女が問うと彼はそんなこともわからないのか、言いたげに片眉を吊り上げると答えた。
「あの軍隊が追っ手を放っているはずだ。同じ場所にいるよりはこまめに隠れる場所を変えたほうがいい」
「ああ、成程」
エリアはライマから手渡されたパンの一切れを受け取り口に放り込んだ。続けて干し鱈を詰め込んで、よく咀嚼した。茶のおかわりを貰い、流し込んだ。ああ、力を感じる。




