秋の女王は憂鬱
昔々の季節の国。
一つの事件が終わり、助け出された冬の女王。
しかし一人の女王はめでたしめでたしで終わることに疑問を持っているよう。
さぁ、謎解きの時間です。
出られなくしたのは誰でしょう?
このまま“めでたし”で終わるのでしょうか?
***
「犯人の追及はやめておきましょう?」
口を開いたのは春の女王だった。
優しい彼女、犯人への慈悲だろうか。
「…っでも!」
珍しく秋の女王が声を上げる。
「冬ちゃんが!閉じ込められてたんだよ!?」
胸の前の手を握りしめ、立ち上がる。
紅色のベレー帽がずれる。
山吹色の腰まである長い髪がさらりとゆれる。
「ええ、それで?」
春の女王の瞳はこれまでにないほど冷たかった。
秋の女王の髪と同じ色の瞳。
秋の女王を見上げている筈なのに恐ろしく威圧的だ。
一瞬の静寂。
それを破ったのは冬の女王だった。
「…私も」
小さく、呟いた。
「犯人は、知りたい。」
そこで一度言葉を切り、四人―春の女王、夏の女王、秋の女王、そして王―を見渡す。
「けど。」
もう一度言葉を切る。
それは深みを持たせているようにも、戸惑っているようにも見えた。
「そんなことで、私達の仲が悪くなるのは、嫌」
気高い冬の女王。
冷たい冬の女王。
一匹狼だった冬の女王。
彼女は同一人物とは思えないほど不安そうだった。
塔の中で、一体どんな気分だっただろうか。
そう考えると、秋の女王の胸は痛んだ。
「冬ちゃん…」
「私、も」
春の女王の言葉を夏の女王が切る。
「犯人、知りたい。」
春の女王が困惑する。
そんなとき、廊下から声が聞こえてきた。
「めいたんてーい、名探偵はいかがですかーあ」
五人は眉をひそめた。
「ちょっと、騎士!」
入ってきた騎士に春の女王が声をかける。
「早く追い出しなさい!不審者よ!ふ、し、ん、しゃ!」
騎士は困っていた。
「あの、それが…」
と口ごもる。
「春の女王様に、御用だそうで…」
「私に?」
とりあえず入れなさい、とぶっきらぼうに言う。
「どうも!」
入ってきたのは金髪の少年だった。
12、3と言ったところか、猫毛の髪はうなじの辺りでくくり、服装は貧困層のそれだった。
ややつり目だが人懐っこい眼をしている。紅い眼はきらきらと輝いていた。
「名探偵のリアムです!綴りはLiam!謎の解決に来ましたぁ!」
眼を細めて笑う。
爽やかで人当たりも良い好青年、というところだった。
「まずは、状況を聞かせてもらえますか?」
人懐っこい眼に鋭さが宿る。
「解決、致しますので…」
***
状況を説明すると、自称名探偵のリアムはほうほう、とコロコロ表情を変えながらきいていた。
「分かりましたよ」
とさらっと解決宣言をした。
「犯人は誰なんだ!?」
王が声を上げる。
しかしリアムはち、ち、ち、と指を振り意味深に笑う。
「まずは謎解きからです」
謎解き開始、と人差し指を立てた。
***
冬の女王様は閉じ込められていたんですよね?
ならば話は早い。冬の女王様は被疑者からは除外されます。
自作自演?その線は僕も考えました。
しかしあれだけの大きな扉を固めるほどの接着剤は塔の中には無いはずだし、塔の外にも落ちていなかった。
次に夏の女王様と秋の女王様。
お二方は簡単でした、ずーっとお二人でいらっしゃいます。
一応騎士にも聞きましたが、あやしい行動は無かったそうです。
3つ目、王様。
聞きましたよ、最近激務なんですってねぇ?
大臣とともに仕事部屋にほぼ閉じ込められた状態だったとか。
冬の女王様が閉じ込められていたときも、軟禁状態だったそうです、結論、除外。
そして、春の女王様。
1人だけアリバイが無いんですよ。
塔へ行くための護衛も拒否したとか。
***
「そんなことで、犯人扱いするつもり?」
リアムは可愛く笑った。
「はは、そんなわけないじゃないですか!」
癖らしく、人差し指をぴん、と立てた。
「冬の女王様が閉じこめられた前日の夜、何処で何をなさっていたんですか?」
春の女王は言葉につまる。
「とある情報網で調べたんですが、深夜にお出掛けなさっているようで。」
「塔の方へ、1人で馬を走らせたらしいじゃないですか?」
冬の女王は眼を見開く。
「電話線っ…!」
春の女王は言い訳を考える。
「えっと、そのっ…!」
***
幕間
さて、お楽しみのところ失礼します。
毎度お馴染み名探偵、リアムです。
今回は依頼を受けたはずなんですよ。
それが部屋を間違えたようです。
後で聞くと部屋じゃなく、“時代を”間違えてたみたいですがね。
まぁ、ここから先は僕だけの話ですし、止めましょう。
さぁ、犯人…もとい春の女王様に制裁を加えましょう。
これから…“春”は訪れますかね…?
***
「さて」
リアムは春の女王に歩み寄る。
人差し指をぴんと立て、天に掲げる。
「犯人は」
ゆっくりと春の女王に向ける。
「貴女です」
冬の女王は悲しげな顔をした。
「春…」
「だって」
春の女王は溢す。
「最近三人で仲良いし…ちょっと困っちゃえって思っただけなのよ…」
「春…!」
冬の女王は厳しい、それでいて茶化したような声を出した。
「そんなの全部春のおかげだよ!」
「春ちゃんがみんなの仲介してくれたおかげだもん!」
みな口々に春の女王のフォローをする。
「冬ちゃん…」
春の女王の瞳からぽろぽろと涙が溢れる。
「許して、くれる…?」
冬の女王は微笑んだ。
「勿論」
冬ちゃぁぁぁん、と泣き出す春の女王。
冬は終わり、春が来る。
いずれ。
いずれ、夏がきて、
その次は秋が来て。
また、冬の女王の出番になって。
くるくる、回っていく。
***
さぁ、如何だったでしょうか。
再びこんにちは、名探偵リアムです。
え?最後にお前か、って?
はは、主人公が最後に来るのは可笑しいですか?
え、主人公じゃない?
ふふ、そうでしたね、リアム、この名を覚えておいてください。
またきっと、皆様の前へお伺いできるでしょうから。