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ババアと呼びな!  作者: 小清水ユウ
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プロローグ:狭間弦は苦労人

初投稿です。おばあさんが主人公の物語ってなかなか無いな(いじわるばあさんくらい?)と思って、何の気なしに書きました。気が向けば続けようと思います。

この作品の中には、「ババア」という罵るような汚い言葉が出てきますが、あえてそこは、表現のひとつとして見ていただければと思います。

 このご時世だ。遠くに住む家族が不安だからと高齢者を施設にあずけるのも珍しいことではない。あまり褒められた言い方ではないが、ひとり暮らしを引き取るのが億劫で、厄介払いも同然で入所させられるケースも珍しくない。

 例え足腰が丈夫だろうが頭がしっかりしてようが気が強くまだまだ若いと言ってようが、結局は、老人。社会的に見れば「弱者」だとカテゴライズされてもおかしくないのだ。

 ……まぁ。このババアどもに関しちゃ、そんな枠組み、似合わないだろうが。



 特別養護老人ホーム「あじさい」。すっかり温かくなりはじめた3月の朝から、やかましい声がガンガン響いている。先に行っておくと、別に認知症を患った入所者が暴れているとか奇声をあげているとか、そういうやつじゃない。

「源次郎、あたしの分のプリン食ったね、あ!?」

「うるせぇ花、席外すのが悪いんだ。こないだ誕生日来てからまぁたトイレ近くなったんか!?」

「源ちゃん、そういうのはオムツ取ってから言いな」

 このジジイとババアである。片方は|松上花≪まつうえはな≫。元柔道の国体選手だったかなんかで、今もむちゃくちゃ元気がいい。何でこの施設入ってんの。

 で、ジジイのほうが|狭間源次郎≪はざまげんじろう≫。ぶっちゃけ俺の血縁上のジジイでもある。長いこと実家離れてたらまさかのここで再会だよ。何でいるの。

 あ、あとさっきじいさんに茶々いれたのは、この施設一番の良心こと、|竹中≪たけなか≫イズミさん。ふたりの幼馴染らしい。


 そんな俺は、この老人ホームで働いてる、いわゆる介護福祉士ってやつ。昔資格だけテキトーにとったまま、東京でフラフラしてたときに、いい加減就職しろってことで、これまたテキトーにここに入った。そしたらこのザマだ。

「そういうお前もこの前俺のから揚げ食っただろーが!?」

「油もの制限されてるクセによく言うね。あたしゃ新しい自殺行為かと思ったよ」

「あんだってェ!?」

 元気過ぎるんだよ。この爺さん婆さん。今どき山へ芝刈りに川に洗濯に行ってるレベルで元気だよ。つーかいい年こいてプリン食ったくらいでケンカすんなよ。みっともない。

「あーあーもう、花さん。プリンなら余ってるの持ってきますから。じいさんもその辺にしといてくれよ」

 これ以上放ってもおけないので、俺が仲裁に入る。他の入所者に迷惑だろ、と言いかけたが、もれなく全員野次馬してる。なんなのもう。

「ふん、若造。面白いところで止めるんじゃないよ。せっかくこのジジイが高血圧でおっ死んじまう寸前だってのに」

「それ処理すんの俺なんですから。勘弁してくださいよ……で、じいさんも。食い終わったなら部屋かどっか行きなよ。片づけとくからさ」

「カッ、言われんでも行ってやるわ」

「孫に救われたな源次郎、嬉しそうじゃないか!」

「あーそうだな!孫どころか子どもも来ないババアにゃあ分からんだろう」


「「「!!!!」」」


 ジジイがそう言った瞬間、少しだけ空気が凍った。この施設の入居者たち、みんなが、花さんの何かを知っているといったように。

「ち、ちょっとじいさんも花さんもいい加減に……」

「何が花さんだい、気持ち悪い!ババアと呼びな!」「やーいババア!」「クソジジイ!!」

 幸い、ピリついた空気は一瞬の出来事だったが俺はひとつのことを思い出していた。

就職してす「あんだって?聞こえんよババア入れ歯はめてんのかぁ?」ぐのとき、先輩に言「あんたも耳が遠くなったんじゃないのかい、補聴器買い替えたらどうだね?」われたのは『むやみに入居者の家族関係を探らない』ということ。どうや「補聴器なんてはめとらんわ、眼科行かなくて大丈夫かババア?」ら花さんも、俺が触れちゃいけな「あんたのオムツ買うついでなら行ってやってもいいけどね!」い何かがあったらしい。……っつーかいつまでケンカしてんだよ!!?


 そのあとは結局、じいさんをなだめて部屋まで戻した。あーめんどくさ。何で死なないのこの人たち。とか思ったら。

「いつも大変ねぇ、若造。どっちか早く死んじまえば楽なのにねぇ」

「えっ!?いや、あははは……」

 見透かしてんのかよこの人。怖いなぁ。

イズミさんは元教師だ。けっこう敏腕だったって聞いたし、教え子からそうとう慕われているんだろう。毎年毎年この老人ホームにヤバいくらいの年賀状が届く。んで、もう十何年前のことだってのに、その洞察力は健在ってかんじだ。

 ちなみに、大方の察しはつくだろうけど、何で俺が若造って呼ばれているか。施設に先にいた俺のジジイと、名字はおろか名前までほぼ同じだからだ。今更だけど、俺の名前は|弦≪げん≫。

 紛らわしいってんで、花さんが「若造」って呼びだしたんだけど、それが今やこの施設のほとんどにそう言われる始末だ。もう慣れたけど。

「本当にうっとうしい時は、私がガツンと言ってあげるから。ね?」

「そう言ってくれると助かるんですけど……有料なんですか?」

 右手の指をすり合わせてる。イズミさんは英語の先生だったのだ。やっぱロクな連中じゃねぇ。


 そのあとはと言うと、俺は花さんからプリン催促の蹴りが太ももに入ったので、イズミさんとの話を切り上げて調理場に向かうのだった。いつものことだけど。


いつものこと、だったけど―――。



「あ、あの……」

 朝のゴタゴタがようやく落ち着いた、のどかな昼下がりに、そいつは現れた。

「ここに、松上って人は、いますか?松上花っていう……」

「……はぁ、確かにいらっしゃいますけれど、ご家族の方ですか?」

 新年度に移り変わろうかというときに。

「孫です。松上花の、孫です」


 先にネタバレしておくと、こいつは特別養護老人ホーム「あじさい」が始まって以来、最大の事件のキーパーソンになる。

まぁ、事件といっても、巷じゃおっさんが3人集まってご近所のヒーローになってるなんてことも聞くから、珍しいことじゃないのかもしれないのだが。ババア3人組が施設を脱走するくらい。

第一話?でした。

正確にはプロローグですが。

物語は、狭間さん視点で進むことになりそうですが、これまた気分で変わることもあるかもしれません。計画なんて立てずにやってるので、そこらへんはご容赦を。。。

では、次回があれば。また。

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