正しい知識
生徒会室。
北校舎四階にあるその場所には普段立ち寄ることはない。おそらく俺には無縁だったであろう場所に、幼なじみの小野真緒、今日知り合った永瀬浩成、稲木美穂とたどり着いた。
小野がノックしようとするところで、生徒会室のドアがカラカラと開く。
ガタイがいい男がぬっと出てくる。
「やあ、生徒会諸君。」
見覚えがある。朝の集会で何度か前に出て喋っていた。たしか風紀委員だ。さっき、窓ガラスが割れたことについて別の風紀委員に話を聞かれ、小野が受け答えをしていた。
「こんにちは、進藤風紀委員長。」
小野が即座に挨拶を返す。
「今そちらに向かうつもりだったんだけどね。いやはや、怪我人がいなくてよかったよかった。」
「・・・・・・。」
じろっと、その風紀委員長から見られる。
「窓ガラスが割れて、・・・・・・下に誰もいなくてよかった。本当によかった。」
そういう言葉を残し、彼は去っていった。
「失礼します会長。」
小野を筆頭に生徒会室に入る。
「お前ら・・・・・・、やってくれたな。」
寺島生徒会長がやれやれといった素振りをする。
「はじめまして、神山煌君。」
俺に向かって挨拶をかける。いつも集会で見ている人が俺の前にいる。堂々とした姿勢、顔つきだった。
「まずは私たちのことから話そうか。」
生徒会長の寺島進、書記の永瀬浩成、今ここにはいない会計の三ケ田一正、稲木美穂、そして副会長の小野真緒。彼らは小学校の頃から能力が使えていた。そして、高校で寺島が皆に声をかけたということを聞いた。
「能力を持ったことが不幸だとか幸福だとか、そういうのは考えないでほしい。これから何かが起こったとしてもね。」
その言葉を話の終わりにつけ、寺島先輩がくるっと椅子を回転させ、背を向ける。
「さて、煌君。情報では、君は今、能力が使えることが分かって間もない。混乱しているところすまないが……。」
再度くるっと椅子を回転させ、向き合う。
「君には、能力を制御するようになってもらわなければならない。」
「・・・・・・、能力を今後使うなってことですか?」
「そうそう、よくわかってんじゃねーか。」
永瀬が馬鹿にした笑みを浮かべる。
「違う。」
生徒会長が否定する。
「あなた、黙っていた方がぼろを出さないわよ?」
小野が冷ややかな目線で永瀬を憐れむ。
「能力が意志で確実にコントロールできるなら、その選択肢もあるかもしれない。だが、今の君に能力をコントロールすることができるだろうか。何か力を得たとき、大きな力を得たとき、それを危ないって理由で避けるだけではだめなんだよ。別に避けること自体を批判しているわけではない。」
生徒会長がにこっと笑う。
「制御するには知識が必要なんだ。ただ避けるだけでは、何も変わらないよ。」
生徒会長が立ち上がり、近寄ってくる。
「君にはチームに入って、その能力をもっと知るべきだ。それがもっとも安全だと私は考えている。」
そう言って俺の前に手を差し出す。
ちらっと小野を見る。小野はじっと見つめてくるだけで何も言わない。
「一週間の期間限定だ。その間、小野、永瀬。・・・・・・稲木も。あと三ケ田にも。おっと、俺以外だな。担当してもらう。その一週間で能力を制御できていると判断したら、あとは好きにしてもらって構わないよ。」
「好きに・・・・・・?」
「せっかくの能力だ。君が使いたいなら、ばれない程度でうまくやってくれて構わない。ま、その時にどこぞの研究所に連れていかれても助けにはいかないけど。」
ニッと笑う。さっきと言ってることが違う気がする。
「一週間で死亡事故は避けるように制御するだけさ。死なない程度の怪我には覚悟してもらうがな。」
もう能力を一生使うなと言われるかと思ったが、そんなことはなかった。一週間限定で制御の手伝いをしてくれるっていうのなら損な話ではないだろう。
こちらも手を差し出し、生徒会長寺島進先輩と握手を交わした。
「よし。じゃあ今日は一旦帰宅してくれ。明日からよろしく頼む。」
煌が生徒会室を出ていこうと扉に体を向ける。
生徒会長に煌についていろいろ話そうと思ったが、会長から顎で扉を指される。
一緒に帰れ。
その意味を受け取り、即座に煌と生徒会室を出る。
ふぅと緊張が解かれたように近くの椅子に座る。
「勘弁してくれよ、永瀬。」
「すんません、会長。」
「会長、今日は真面目。」
稲木からちょっと悲しいことを言われる。
ぐてっと、机に突っ伏す。
「風紀委員長、目をつけられた?」
稲木がぼそっと呟く。
「ああ。煌君には申し訳ないね。」
唐突に永瀬がパンと手をたたく。
「あ、そうそう会長。さっきのことなんすけど―――」
先ほどの出来事を永瀬が話し始める。
「あの子、本当に何者なんだ。」
昨日能力が使えるようになったというのは嘘なのか?
「っつーか、永瀬ぇ―――っ!」