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神の賽子  作者: 小工枝 攻臣
異能力
8/24

無くす方法

「煌!」

冨上に仕切りなおして能力のことを話そうと思っていたら、足音と共に小野が屋上に姿を現した。息を切らしている。とても急いできたのだろう。

というか、こんなに焦っている小野は珍しい。

驚きで言葉が出ない。

「えっと、小野先輩・・・・・・?」

冨上も驚いた声音で言う。

「すまない冨上さん、煌を借りていくぞ。」

「ど、どうしたんだよ小野。」

小野に手を取られ、連れていかれようとする。

「説明は後だ。」

と、その時、屋上の扉から人が現れる。

シャツの第一ボタンを閉めず、ネクタイもきちんとつけていない、ガムをくちゃくちゃしながら現れたまさに不良という感じの男が入ってきた。

「やっぱり来たのね、馬鹿が」

小野が普段より荒く、冷たさの欠いた暴言を吐く。

「いやさ、真緒ちゃん、さすがに俺も仕事しようと思ってさぁ」

おちゃらけた雰囲気で話し出す。

「寺島先輩は私に任せたはずだけど?」

小野が相手を睨み付けながら言う。それを聞き、男が立ち止まる。

「んーーー。そうなんだけどさ。たださ、俺、そいつのこと前から気にいらなかったっつーか。」

噛んでいたガム風船を膨らます。

対峙する二人。風がビュオッと吹いた。

俺はこの二人の喧嘩(?)に言葉を発せなかった。冨上もどうしていいかと困惑しているようだった。

「そ、ならいいわ。」

小野がふっと呆れた表情を浮かべたかと思うと、すぐにさっきよりもキッとした表情になる。

「あなた、私に勝ったことあったかしら?」

「ああ? そんなの覚えてねーや。」

おちゃらけた男が手を組んでゆっくりと伸びをする。

二人がいかにも喧嘩しそうな姿勢をとる。

「今のは別に質問じゃないの。『あったかしら? いやない』っていう反語なのよ。馬鹿が。」

「お、おい、小野。」

喧嘩を止めようと小野に触れようとする。

ビュオーっと今度はさっきよりも強い風が吹いたかと思うと、俺は小野からぐんと離れる。しかし、小野が離れたわけではない。俺が風に吹き飛ばされたのだ。

屋上の外で浮いていた。

地球には重力というものが存在するわけで。

体が吹き飛ばされた衝撃で後転していた。屋上から見える景色の天地が反転したものが目に映る。

浮いている。そう、飛んでいる。

しかし、そう感じたのもつかの間、目に映る景色がゆっくりと変化する。その変化が、だんだんと、変化する。

急速に変化が変化する。

やっと理解した。このままじゃ落ちて死ぬ。死ぬ。

視界に移りこんできた校舎に手を伸ばす。どうにか戻ろうともがいた。

このまま、死んでたまるか。




「煌―――――っ!」

後ろに感じた違和感にばっと振りむいた。煌が校舎外に飛ばされ、落下していくのがぎりぎり見えた。

煌の飛ばされた方向へ走り出す。

屋上の壁から身を乗り出し下を見る。見たくはない。だが、見なければ。


いない?

地上を見ても煌の想像した無残な姿は見当たらなかった。

「バリン? んー、予定とはちょいと音が違うなぁ」

風を操る能力者、永瀬浩成は耳に手を当て、そんなことを軽くいう。

「あなた、煌に、・・・・・・煌になんてことを。」

ペタンと足が崩れて座り込んでしまう。

「落ち着きなって、真緒ちゃん。あとそこの彼女。別に殺すつもりはないさ。ちゃーんと下には美穂ちゃんがいるからさ。」

頭がうまく働かなかったが、しばらくすると落ち着きを取り戻した。深呼吸をする。

「まったく・・・・・・、勝手なことしてくれるわね。馬鹿が。」

煌と一緒にいた女の子も少しは落ち着いた様子だった。

「びっくりさせてごめんなさいね、煌は大丈夫だから。」

女の子に近寄って優しく声をかける。

「え、あ、・・・・・・はい。」

「前に図書館であったね。私の名前は小野真緒。煌の幼馴染よ。」

「は、はい。一年の冨上閑子です。」

彼女がおずおずと答える。

「じゃあさ、しずちゃんって呼んでいい? あ、俺は永瀬浩成。二年だ。」

「あなたは早く煌の様子を見てきて。」

「えー? あんなに嫌がってたのに俺に任せんのかよ! 俺、しずちゃんと話したい!」

「いいから、早くいきなさい。」

しぶしぶ永瀬が屋上から出ていく。永瀬が屋上の扉を閉めたことを確認して話し出す。

「さて、冨上さん。」

仕切り直して話し出す。

「はい。」

「あなたはどこまで煌の能力について知っているか、話してもらえる?」

じっと冨上さんを見つめる。

「能力を知ったのは、昨日の放課後です。そして今日の放課後、再度能力を見せてもらいました。」

先ほどのおどおどした感じがなくなっている気がする。ちょっと度胸があるようだ。

「なるほどね。うん、ありがとう。」

「あの、能力って……。」

「うーん、あんまり関わらない方がいいと思うから、教えるのはやめておくね。できれば、他の人に話したりするのも控えてほしいわ。」

「・・・・・・。」

冨上さんが考え込む。

「これだけは言っておくわ。もしもこういった能力関係で困ったことがあれば私に連絡をちょうだい。さっきの馬鹿な人と他の能力者で結成されているチームがあるの。いつでも力になるわ。」

冨上さんがじっと見てくる。その表情に、図書館での彼女を思い出した。

「そういえば、あなたが煌に悪魔のことを・・・・・・。」

冨上さんがニッと笑う。

「先輩、それはおそらく能力は関係ない、こちら側のお話です。関わらない方がいいかと思います。」

先ほどの自分の台詞を言い返される。

「そう。・・・・・・なら、お互い頑張りましょう。進んで関わるつもりはないけど、何か分かったらそっちに報告させてもらうわ。」

「はい。」

最後はそんな別れの挨拶を交わした。




バリンとガラスを割って校舎の中に入った。

入ることが出来た。

入ることが出来たは良かったものの、着地がうまくいかず、入った教室の机やいすをごちゃごちゃにしてしまった。

ガラスを割って入ったことよりも、その後の着地であちこち傷ができてしまった。


教室には女の子が一人。寝ていた。窓側の席でなく、廊下から二番目の列でよかった。

この教室に覚えがある。貼ってあるものが違ってたりして異質な感じがするが去年の教室だ。南棟の屋上から二階の15HRの教室に来てしまった。

とりあえず、女の子が無事かどうかを確認しに行く。寝ているので大丈夫だと思うが。

痛て。スリッパは落としちまったようだ。


近くで寝顔を見る。

すーすー寝息を立てている童顔の女の子をじっと見る。

どうやら怪我はないようだ。ガラスも飛んできていない。

とりあえず、この後どうすればいいのだろうか。こっちは殺されかけた身。追いかけてくるかもしれない。

そうだ、小野。冨上。

あいつらはまだ屋上だ。狙いは俺なのかもしれないが心配だ。

「ん。」

と、そこで女の子が目を覚ました。

「あー、寝ちゃってた。」

女の子がのんきに呟く。

ちらっと俺のことを見てくる。教室で一人で寝てたら、上級生がいる。教室の窓ガラスが割れている。こんなとんでもない状況に困惑するだろうと思った。

「んにゃ? 神山煌?」

彼女は俺の名前を口にする。

「俺のこと知ってるのか? っと、そんなことより、教室のガラス割れてるから、足元、気をつけてくれよ。」

とりあえず注意を促したので、俺は屋上へと向かおうとする。

「待って。」

彼女がそれを言葉で制する。

「いや、悪い。俺急いでるから。」

構わず、彼女の横を通り過ぎ去ろうとする。

彼女がばっと手を振る。

すると、目の前の教室の出口が歪んだ。

これは。

「コウセイがやってくれた・・・・・・? それともあなたの能力?」

こちらではなく、割れた窓ガラスを見ながら彼女が呟く。

液体だ。目の前に液体の壁ができている。だから目の前が歪んで見えている。

能力? 能力と言ったのか、この子。

もしかして、俺の超能力を知っている? そして、この子も超能力を使えるのか?

液体の壁に進路を塞がれ、といっても回り込むことは出来そうであるが、ともかく俺は動けないでいた。

今度は何をしてくる?

気持ちを張りつめた。

「あなたにはここにいてもらう。そういう流れ。」

欠伸をしながらのんきにそんなことを言う。

どうする。危害を加えるつもりはないらしい。

屋上の二人が気になる。

そうこう考えて固まっているところに、教室から人が現れる。

歪んで見えたが、その人物が誰かは分かった。さっきのおちゃらけた男だ。

「バリンて。・・・・・・美穂ちゃん。何があったん?」

「私も知らない。寝てたから。」

おちゃらけた男が驚いたリアクションを派手にとる。

「えぇー? え、ちょっとマジで? ・・・・・・マジすか?」

「うん」

うなずいて目をこする女の子。

「まいったなぁ。このことを真緒ちゃんにばれたらやばいなぁ。」

頭を掻きながら、困ったと言わんばかりの表情だ。

「コウセイがやったのかと思った。」

シュンという音が聞こえたかと思うと、目の前の液体の壁が消える。

「あ、じゃあそういうことで。・・・・・・と、はじめまして。ま、一応、同じ中学だったけど。話すのは初めてだな。23HRの永瀬浩成だ。」

この状況で会話をしてきた。しかし、俺は相変わらず声が出なかった。

「んで、こっちは一年の稲木美穂。」

ぴしゃっと教室のドアを閉め、女の子を指しながら告げる。

「俺らはまぁ、君と同じ、能力者。」

ニッと笑う。

「いやいや悪かったよ。いやね、ちょっとしたアトラクションだよ。挨拶だよ。別に危害を加えるつもりはないさ。」

とても軽い感じで殺人未遂を謝ってくる。この状況で、危害を加えないという言葉を信用しろというのは無理な話だ。

「お前らは、いったい。」

いったい何者なんだという言葉を言うつもりが、うまく言葉がでない。

「俺らはさ、まぁ、能力を悪用する奴を懲らしめるチームってやつ? ちなみに君の幼馴染の真緒ちゃんも―――。」

「煌ッ!」

教室に慌てた様子の小野が見えた。

「お、ちょうど。」

「大丈夫? けがはない?」

小野が俺に近寄り、全身をくまなく見てくる。こんなに心配されたのは小学生の時以来かもしれない。近いってお前。

「足を切っているわ。ガラスを・・・・・・。美穂ちゃん、すぐ洗ってあげて。」

「分かった。」

稲木美穂がすっと立ち上がり近づく。

「足の裏を上にして。」

机に座り、切った方の右足を手でつかんで傷口を上に向ける。

「無傷でないのはどういうことかしら?」

空中に液体が現れる。しかし・・・・・・。

「この液体って何?」

小野が現れて安心したのか、言葉がすっと出るようになっていた。

「水」

「いやー、ちょっとした手違いで。・・・・・・窓を開けてなかったって言うかー。」

空中で静止していた水の一部が流れ始める。教室の床におちてびしゃびしゃと音をたてる。

「ごめんなさい。寝ちゃってた。」

稲木がのんびりとした口調で謝罪する。

「えー・・・・・・、言っちゃうの、美穂ちゃん。」

「ど……ど・う・い・う・こと、かしら?」

信じられないという顔をしたかと思うや否や、すぐに小野がすごい笑顔で永瀬に尋ねる。

「なぁ小野。」

「なにかしら?」

いつものクールさを取り戻した小野がこちらを見る。

「お前も能力を使えるのか……?」

小学生の頃からずっと一緒にいるが、能力が使えることなど今の今まで知らなかった。

「ええ、そうよ。」

あっさりとした返事をする小野。すると小野がニヤッと笑う。

「ねぇ永瀬、かみ・・・・・・煌が私の能力を知りたがりそうよ?」

ぐいっと小野が永瀬に近づく。

「へ、へー。」

永瀬がたじろいでしまう。

「これは教えてあげないとね。」

「あ、あぁ、真緒ちゃんの能力は本人が受けてみないと・・・・・・。」

すっと、小野の目が細くなる。相手を蔑む目だ。その視線の先には永瀬。

「え、マジ? え、ちょ、痛ってーーーーっ!」

バチッ。

小野が永瀬の腕に触れた瞬間に音が聞こえる。永瀬がうあああ、とうめき声をあげながら床を転がる。

くるっと小野が振り返る。

「風の能力者、永瀬浩成。水の能力者、稲木美穂。そして私が雷の能力者、小野真緒。『エレメント』というチームで活動しているの。煌の味方よ。」

小野が笑顔でそう言う。それは心からの笑顔だった気がした。

「とりあえず、説明や聞きたいことは後で。今はここを片付けましょう。美穂ちゃん、掃除用具取ってきて。」

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