天井
見慣れた天井がそこにあった。天井がいつもより近く感じる。
朝がきたのか。
左手を棚のフィギュアに伸ばす。フィギュアがぽとっと落ちた。
どうやら夢じゃないらしい。
「煌。」
放課後、帰りの支度をしているときに佐野鷹之に声をかけられた。
鷹に目を向ける。
「一年の女子がお前に用があるんだと。」
鷹が教室の出口を指す。
見ると、冨上閑子が居心地悪そうに立っている。
「先輩、その・・・・・・。」
バツが悪そうにして言葉が続かない冨上。
冨上に呼ばれ、南校舎の屋上に来ていた。
「昨日は取り乱してしまい、申し訳ありません。」
冨上が静かに頭を下げる。
「いや、俺もびっくりさせて、悪い。」
正直、冨上のことはあまり考えていなかった。自分の超能力に頭がいっぱいだった。
まさか、こういう風に謝ってくるとは思っていなかった。
「なぁ冨上、この能力について何か知っているのか?」
冨上が額に手をあて考える。
「いえ、・・・・・・知りません。昨日はおそらく私の勘違いでした。」
少し大きく息を吸い、続ける。
「先輩、もう一度その能力、見せてもらっていいですか?」
目を見つめる。目がキラキラとしている。だがそれは好奇心によるキラキラではない。覚悟を決めたようにその目は煌めいていた。
「分かった。」
俺はバックから筆箱を取り出し、鳥の糞等で汚れていない下に落とす。
冨上がそばに近寄る。
右手を伸ばす。
動かない。
筆箱はうんともすんともしなかった。
「あれ?」
俺の動揺を見てか、何も起きないのを見てか、冨上が不思議そうにしている。
筆箱はちょっと重かったか。
俺はバックからノートを取り出し、下に置く。
右手を伸ばし、力を籠める。
浮かべ。浮かべ。浮かべ。
しかし、ノートは動かない。
「先輩?」
冨上がきょとんとして問いかける。
「ふん! ふん! うおおおおおおおおお!」
声をあげて力を籠める。しかし、ノートは動かない。
風が吹いた・・・・・・気がした。
冨上のスカートが揺れたのでそう感じたのだろう。
スカートがばっとめくれた。
しかし、それほどの風が吹いたとは思えない。なぜなら、ノートがめくれていなかったからだ。
ということは、これは・・・・・・。
「せ、ん・・・・・・ぱぃ・・・・・・」
冨上の肩がわなわなと震えている。顔が真っ赤だ。
そこでようやく自分のしたことに気がつく。いやしかし、スカートめくっただけでパンツは見えてないんだけど。
「そういう問題じゃありません!」
どうやら口に出してしまっていたようだ。
「能力・・・・・・。」
屋上から聞こえてきた煌の言葉に、頭がついていかない。
冗談だろ。そんなアニメみたいな、漫画みたいなことが。
そんなの、そんなの、そんなの――――――――――
「うらやましいじゃないか」
口から言葉がこぼれた。
こいつはそう、言い訳だ。この世界への。