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神の賽子  作者: 小工枝 攻臣
異能力
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局所的非日常

「藤原朧君・・・・・・。高校二年生。成績はあまりよろしくないわね。」

幼なじみの小野真緒は淡々と答えた。

「先輩、ちょっと」

冨上が手で口を覆って、こそっと言ってきたので、小野から離れ、すこし屈んで冨上に耳を傾ける。

「先輩、馬鹿なんですか?」

罵倒された。しかもその口調は、馬鹿にしているというより、憐れんでいる風だった。



優希からの平手打ちの後。冨上から、藤原朧がどうやら「それ」であると聞いた。というか優希がむりやり聞きだしたのだ。聞いたからといって、俺と優希が悪魔退治なんてものができるハズがない。また、冨上はこのことはもう忘れてくださいと言っていた。

その後、当初の目的であるラノベを借りに図書室に向かった。なぜか冨上もついてきていた。

そこで、勉強をしている小学校からの幼馴染である小野がいたものだから、ちょうど小野と同じクラスの藤原朧のことを聞いてみた。で、冒頭に戻る。

「ただ聞いただけだろ?別にこいつを巻き込むつもりはないぜ?」

小さい声で冨上に話す。

「このことは忘れてくださいって言いましたよね?先輩も関わらないでくださいって。」

自分から思わせぶりに言っておいて、何を言っているんだろうか。

「あぁ、あのまま痛い人キャラでいけばよかったのか・・・・・・、ビッチキャラは・・・・・・、そもそも優希先輩が・・・・・・。」

冨上が手で顔を覆い、ぶつぶつと反省している。そうやって悩まれると、本当に悪魔がいてやばい状況のようじゃないかと思い始める。

「分かった、分かった。もうこの件にはかかわらない。それでいいだろ。」

「ほんとにお願いしますね」

じっと目で見つめてくる。切実に目で訴えかけてきた。こんなときになんだが、こんな真剣な後輩がかわいい。

だが、

「んとねー、ここだけの話、藤原君は悪魔なんだよ。」

という優希の声に、冨上は固まった。

「あの、優希ちゃん? ちょっと今のじゃ分からないわ。」

小野真緒が戸惑っていた。小野と優希と俺は小学校からの付き合いで、たまに優希がおかしなことをいうことがあった。しかし、高校でもこんなことを言うとなると小野も返答に困っていた。

「優希、帰るぞ。」

俺は優希の手を引き、優希と冨上と一緒に図書室を出た。


「優希・・・・・・、内緒・・・・・・。・・・・・・で、・・・・・・た?」

図書室の扉の向こうからさっきの肌の白い女の子の声が聞こえてくる。なんだったんだろうか。そう思いながら、さっきの優希の言葉を思い出す。

くすっと思い出し笑いをして、勉強を再開し始める。




帰宅。昼の一時という昼間に家にいるという非日常に、どうも変な気分だ。こんな気分じゃ、勉強なんてできないな。飯食って、読書をしますか。制服を脱ぎ、親が昼飯用に冷やし てくれているおかずを冷蔵庫から取り出す。ご飯をよそう。

こういう一人のご飯は、どこか寂しい。普段は、姉と妹、両親、誰かが欠けることはあるものの、誰かと食ってきた。会話をするってことはめったになく、一言二言話すことが主で、しゃべらないこともある。けれど、一人は寂しい。優希が遊びたがるのは、こういう寂しさからだろうか。ただ勉強が嫌なだけかもしれないが。

寂しいときは、声を出そう。

「休みだ! ひゃっほぅ!」

部屋に響く俺の声。リビングに残響する声は、普段は注意して聞くことは無い。そしてそいつは俺一人だということを意識させ、寂しい。

テレビをつけ、それに意識を向ける。

どたどたと上から音がし、階段から降りてくる。そういや、かすみ姉はいたわ。

「煌、今なんか叫ばなかった?」

良かった、聞かれてなかった。カスミ姉は不思議そうに問う。

「いや、別に」

姉もご飯をよそい、席に着き、食事を始めた。


ガチャガチャチリンという音に、目を覚ました。まだ日がある。どうやら読書の途中で寝てしまっていたようだ。あの音は、妹の蒼空が自転車で帰ってきた音だろう。時計を見ると夕方の五時を示していた。

こういう昼寝の後は頭がうまく回らない。ボーっとしているというやつだろうか。不思議な感じがする。中学の頃、夢は別世界にいるとかいう仮説を立て、考えていたということもあった。ともかく、こういうときは思考がおかしな方向に進んでしまう気がする。

悪魔。昼間、冨上が言っていたことを思い出した。オカルトなんぞ、本気で信じていない。しかし、冨上の様子から、ただ事じゃないと思った。もしこれで幽霊なんてものが存在しないのだとすれば、冨上が怖く感じる。

妹がリビングをちらっと見てくる。俺がいることに気づいて、ちょっと驚いた風に動きが止まる。その後、すぐに二階の姉と妹の部屋へと向かった。

夕暮れ。再び静寂が訪れる。静寂は時間帯で姿を変える。昼間の静寂は心地よい孤独の静けさ。夕方の静寂は寂しい静けさ。夜の静けさはここではあまりない。この家は海から松林を挟んですぐの位置にあるので、横になると波のさざめきがかすかに聞こえるのだ。台風の時はうるさい。


非日常とはなんだろうか。何が日常なんだろうか。悪魔という現実的でない言葉を聞いたからといっても、俺の日常は変わらないだろう。そう思った。

修学旅行。それは非日常の一つだろう。中学二年のとき、修学旅行で沖縄に行った。バス移動の時、ふと窓の外を見ると、登校中であろうランドセルを背負い、歩いている小学生二人組をみた。その時、どうも不思議な気持ちになった。彼らは日常を過ごし、俺は非日常を生きているという事実に。同じ空間、時間にいながら、日常と非日常が入り混じっている。そいつがどうも不思議に感じたんだ。



夜。そろそろお風呂に入ろうかと下へと向かう。かすみ姉はもう入っていた。兄はどうだろうか。階段の近くの兄の部屋は真っ暗だった。部屋にはいない。入っているのかな。そう思いながら、階段を降り洗面台の前を通ると、中から声が聞こえる。

「あ――――――、あああああ! あああ! あああああああああああ! ・・・・・・ふんふんふん♪」

リビングに向かい、テレビを見ているかすみ姉に話しかける。

「今日って、ホラー番組してたっけ?」

「あはは、してないよー。」

かすみ姉が笑いながら答える。

「悪魔が宿ったかと思った。」

そう言って、かすみ姉と笑いあう。

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