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見知らぬ天井。白くてところどころにシミがある。それを二秒ほど眺めてから、今の状況を思い出してはっとする。
「ここは・・・・・・!?」
保健室。佐野鷹之との喧嘩の後にもここで目を覚ました。
「あら、やっと目を覚ましたの。」
小野真緒。彼女が隣でパイプ椅子に座っていた。
「真緒ちゃん!」
体をはね起こして小野真緒の胸に飛び込む。
「無事だったんだな!」
頬が液体を感じる。涙があふれてきたのだ。
「ちょ、ちょっと煌!?」
普段は冷静な小野が取り乱す。
「よかった・・・・・・、よかった。てっきり・・・・・・いてええええ!」
小野から離れる。顔が痛い。突然痛くなった。
「も、もう! そんな顔をすり寄せるからよ!」
小野が顔を赤く染めてそっぽを向く。
「無事も何も、あの後佐野はすぐに教室を出ていったわ。」
佐野? なぜ佐野が出てくるんだ?
「情けないわね、まったく。こんなんじゃあ心配だわ。まだしばらくは私がそばに・・・・・・」
俺が分からないといった表情をみてか、小野が別の話をし出す。
「煌は佐野鷹之と戦ったでしょう? それで殴られているところに私が・・・・・・って、本当に分からないの?」
俺がきょとんとしたままなのを見て、小野が心配そうに眉を細める。
佐野鷹之と喧嘩したのは覚えている。その後、小野が助けてくれて、保健室で目を覚ますことも。
でもそれは昨日の話だ。なぜ小野は昨日の話をする?
「小野。今日の事件はどうした? 三ケ田先輩、寺島先輩、稲木美穂は? 藤原朧、豊崎優希は? その後どうなったんだ?」
「今日の事件・・・・・・?」
今度は小野がいぶかしげに見てくる。
「佐野鷹之のことではないの?」
「おいおいおい、それは昨日の話で・・・・・・。」
一つ。頭に馬鹿なことを思い浮かべる。本当にばかばかしいことだ。
立ち上がり、保健室のカレンダーを見る。しかし日めくりではないカレンダーでは瞬時に確認できない。
「どうしたの?」
「携帯を持ってるだろ。今日の日付を確認してみろ。」
馬鹿なことだ。でも俺は心のどこかですがっていたのかもしれない。
あんな結末よりはましだ、と。
「・・・・・・六月七日。」
小野が携帯で確認してから告げる。
しかし、日付を覚えていたわけではない。カレンダーを見ながら確認する。
週末は稲木美穂、三ケ田先輩と。月曜日に永瀬浩成とトレーニングだ。
火曜日は・・・・・・。
火曜日に佐野鷹之と喧嘩。
カレンダーを見つめる。
『六月七日(火)』と書いてあった。
「携帯。見せて。」
小野から携帯を借りる。猫の待ち受けの右上には六月七日とある。
携帯の日付をいじっているのか?
もう全てが疑わしく思えてくる。
世界が俺を騙しているんじゃないだろうか。
「悪い夢を・・・・・・、悪夢を見ていた。」
携帯を小野に返す。
いや、もしかしたらこっちが夢なんじゃないのか?
あの後、病院に運ばれて今夢を見ているんじゃないのか?
・・・・・・いや、違うな。
夢を夢じゃないのかと疑うと、これが夢だと必ずわかる。
ただ、夢が夢だと分かったとしても、その夢からすぐに覚められたことはない。
たちが悪いことに、夢なのではないかと疑う夢は必ず怖い夢だ。誰かに追われてここから、この夢から覚めたいと願う。いつもそういう夢だ。
そういう夢で、どうにか覚めたいと願った俺がとる行動がある。
目をつむり、布団か何かにくるまり、目が覚めろ目が覚めろとただただ願い続けるか。
それか自殺する。
起きた後に、馬鹿なんじゃないかといつも思う。




