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「悪魔、ね。」
優希が馬鹿にしたようにクスクス笑う。
「そんなものが存在するって?」
優希の目に俺の目が吸い込まれた。母親にいたずらがばれた子供のように、俺は焦っていた。
「煌がそんなこというなんて。閑子ちゃんのおかげかなー。」
人差し指を口に当てながら微笑む。
「・・・・・・少なくとも、今のお前はおかしい。稲木が倒れたというのにそれを気にしないのは・・・・・・俺の知ってる優希じゃねえんだよ!」
声を荒げる。
「知っている・・・・・・ね。」
優希の顔に影が指す。
「知っている。それじゃあ『真実』にたどり着けないよ。けどまあ、知らない方が良かったんだよ、真実なんてね。だからさ――――――」
ペタペタ。
優希が喋るのを止める。
後ろからの足音に視線を向ける。
歩いてくる二人の人物。男たち。冨上ではない。
片方は知っている。藤原朧。
「まあ誰がやってもいいんだけど。」
知らない方の男がだるそうに口を開く。
「朧がやるようだが、異存はあるかい?」
沈黙が流れる。二人の男が歩みを俺からの距離約2メートル手前で止まる。
「・・・・・・私の返事はいる?」
呆れた声で優希が答える。
時間稼ぎ。
俺はまんまと優希の言葉につられてしまっていた。
でも、それでも。
俺は否定してほしかったんだ。
「やれ。」
知らない方が朧と視線を合わせ、顎で俺を指す。
朧が赤いハサミをポケットから出した。
見覚えがある。
さっき見た。
さっき見たんだ。
思い出す。目に焼き付いた光景を。
そいつが、三ケ田先輩の、腹に。
この三人は『エレメント』の敵だ。『土』の三ケ田先輩、『水』の稲木美穂はやられた。
おそらく『炎』の寺島先輩、『風』の永瀬浩成、そして『雷』の小野真緒も――――――。
「お前らが!!」
ハサミを構えた藤原朧の体に『重力』を発動させ、引力でこいつの体を引き寄せながら、こいつの顔に拳をぶち込んでやる!
少し開いたハサミが心臓に刺さっている。
痛みはない。ただ自分の目で確認しただけだ。
『重力』によって引き寄せた藤原朧。
やつには不意を突いた。体制を崩したはずだ。あの驚き、見開いた目を覚えている。
地面に前のめりに倒れる。
ハサミがさらに食い込んだ。
どうにか力を振り絞り、仰向けに寝返る。
暑かった室温が消えていた。
何も考えられない。
そばに立った俺を見る藤原朧が目に入る。
「君は、この世界にいらない。」
近くなのに遠くから聞こえる低い声が耳に入った気がした。
「物事が自分中心に回っていると思っていたのはみんなそうだ。みんな誰しも主人公だと思っている。だが、地球が太陽の周りを回っていたように、世の中心は君じゃない。君は回されている方なんだよ。――――――主人公ではない。」
そういえば俺、いつもの平凡な日常に不満があったっけな。なにかイベント。すげぇイベントを求めていたっけな。・・・・・・その結果がこれかよ。
情けねぇ。
なっさけねぇ。
本当に情けねぇ。
悔しい。
嫌だ。こんな結末は嫌だ。
必ず。
ああ神様。今度生まれ変わったら、もっとハッピーな結末を。
違うな。
違う。
今度。今度生まれ変わったら!
必ず幸せな結末を掴んでやる!
必ずだ!必ずだ!
絶対に。
絶対になああああああ!!!!!
「ゼロ。」




