黒い世界
ティーアと言う大陸がある。
その大陸には、夜の闇に包まれた黒い森があった。
その森には入った人間は必ず帰ってこないと言われている。
それもそのはず。森の中には自我を失った魔物がたくさんいる。その魔物たちは数百人の兵士が戦っても勝てるかわからないと言われる程の魔物だ。
この黒い森は、とある名の知れた詩人が「悪夢の集まる森」とよんだため、「悪夢の森」と呼ばれる。
悪夢の森の中心には、その森に隠れるように大きな城があった。とても大きく、黒い城だ。
その城の中には、様々な容姿をした使用人がたくさん働いていた。人間の者や、人間の姿に獣の耳や尻尾が生えた者、身体は人間だが頭は動物の姿をしている者などだ。
これらの者たちは、魔力が多すぎて恐れられて捨てられた、希少な能力を持っていて狙われる、理不尽な主人から逃げてきた、などのいろんな事情を抱えてこの城にやって来た。
そして使用人たちは自分たちを拾ってくれたこの城の主人に感謝し、尊敬している者までいる。
ただほとんどの使用人たちはこの城の主人に会ったことがない。
その主人の部屋はこの城の最上階にある。
ただその部屋はこの使用人たちの中でも優秀な者たちしか入れない。
普通の使用人がその部屋に近づくと、部屋から漏れる強い魔力に耐えられずに失神してしまうだろう。
その部屋の主、そしてその城の主とは魔王と呼ばれる者だ。
この世界で魔王はこの城の使用人以外からは恐れられ、畏怖される存在だ。
そんな人の出入りが少ない部屋の中では、15、6才の少女が窓の外を見つめていた。
微妙に桃色がかった白い肌、薔薇色の頬、桜色の小さな唇、蜂蜜を混ぜたような薄い金色の緩くウェーブした長い髪、目は縁柱石のように美しく、そして無機質だ。
フリルがふんだんに使われたドレスを着ていると、まるで精巧な人形のようだった。
ふかふかの白いカーペット、艶のある木で作られたベッド、白い大理石のドレッサー、キラキラと光るシャンデリアなど上等な調度品が部屋に置かれているが、猫足の白い小さな丸いテーブルの上には写真たてが置かれている。飾ってある写真には7、8才ぐらいの子供たちが写っていた。
その子供たちの中心にはかわいらしい少女がいる。
そう、魔王と呼ばれる少女だ。
屈託のない笑顔で笑っていた。
彼女、メリル・ミリアーヌはいつから笑わない少女に変わってしまったのだろうか。
そのきっかけは彼女が笑っていた頃、7、8才の頃にあった。