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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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余暇

 本部中枢にある会議室の中、正規とご当地、それに様々な理由で現在はスタッフをしていたりする予備役の元魔法少女や、有望な研修生。それにくわえて護衛艦クルーまでを集めての会議のラスト、都さんから衝撃の発表がなされた。


「今更感は否めないけどせっかくの機会なんでちゃんとみんなに説明しておこうと思うことがあるの。みんなも知っての通り昨年ライバルとして戦っていた七罪はめでたく全員仲間になりました…」


 『仲間にも何も最初からあんたの手の上だろうが!っていうかあんたも七罪の一人じゃねえか!』

 俺を初め、予め事情を聞いていた人間は多分微妙な顔をしていただろう。


「…まあ、実は彼女らは私が用意した皆の訓練相手でね。勘のいい子なら多分気がついていると思うけど、他国で言ういわゆる七罪は別にいるの」


 そう、ユウ達が都さんの出来レースならばアメリカを始め、各国に出現している七罪に相当する存在がこの国の一体どこにいるのか。なんとなく真相に気付き始めた俺が持っていた疑問についても、温泉二日目の夜、都さんは話してくれていた。


「七罪…紛らわしいからもうこれからは敵の方だけを指すけれど、七罪はこの本部の地下を含め、4箇所に封印してあるわ。場所はこことここと、こことここ」


 そう言って都さんが指し示した地点は本部、大阪、仙台、そして富士山。


「本当であれば、このまま七罪を封じ込めておければ一番良かったんだけどね。どうも、仙台の封印が緩んでいるらしい事故が起こったんで調査してみたら、どうにも封印の状態がよろしくない。それでもっとよく調べてみたら他の3箇所についても緩んできていると。さらによろしくないことに、タイミングとしてはだいたい奪還作戦のあたりで封印が解けそうということもわかったの」


 これは咬我の件でわかった事実だった。真七罪、色欲の使い魔だった咬我の話によれば、細かい魔法を外に出すくらいならもうなんとでもできるような状態だそうで、現在、七罪は使い魔を使った交流もしているようだ。


「ということで、今回は予備役の子たちにも手伝ってもらう必要がでてきたってわけ。現状の教導隊の四人は予定通り奪還作戦へ参加してもらうんだけど、これから呼ぶメンバーは国内で七罪への対応にあたってもらうことになるわ…東北チーム、寿、こまち、橙子、セナ、彩夏は仙台の封印を」


 手元に資料はあるのだろうが、都さんはそれを見ずにメンバーの目を見ながら名前を呼んでいく。


「関東チーム、朱莉、柚那、朝陽、愛純は東京、JCチーム、夏樹、みつき、和希、あかり、霧香は富士山。関西、楓、イズモ、喜乃、鈴奈は大阪をそれぞれお願いするわ。チームの指揮はそれぞれ、寿、朱莉、夏樹、楓が独自の判断で取るように。それぞれ閉じ込めてある人数は、2、2、1、2。当時はすべて不意打ちで閉じ込めたから能力魔法は一切不明。一応東北の一人が色欲っていうのはわかっているけど詳細な魔法は不明よ。今名前を呼んだ以外のメンバーはご当地、予備役含めて護衛艦に乗艦してもらうわ。任務は補助ユニットを使っての教導隊のフォロー。ただし、以下のメンバーは、チアキと一緒に護衛艦の直掩に回ってもらいます。チアキ、はるな、光―」


 都さんはそう言って各員の役割をスラスラと説明していく。

 もちろん手元の紙などみてなどいない。それは彼女がいかに、犠牲を最低限に抑え、最大の戦果を得るかを考え抜いたからこそできる芸当だといえるだろう。教導隊を抜いた正規・ご当地、63。予備役40。教導隊と都さん、それに名前の挙がっていないユウを含めると総勢108人。

その配置を全く間違うことなく説明していくなんてこと、俺にはとてもできる気がしない。


「ここからの説明は私がとひなたが引き継ぐ」


 都さんが全員の役割を発表し終わったところで、都さんの横に立っていた鬼軍曹モードの狂華さんが口を開く。


「配置を踏まえて改めて作戦を説明すると私達はこのポイントで護衛艦の前に出て大陸から流れてくる怪人級を再優先で処理。併せて随行しているフォロー組で戦闘員級を排除。万が一何かしらの怪人級以上の何かが出てきた場合は、私達はそれに集中することになるから、国内組を前に出すことになるだろうが、その少しのタイムラグを埋めるためにフォロー組に怪人級を足止めしてもらうこともあり得る」

「まあ、はっきり言えば死ぬ奴もいるかもしれないということだ……とは言っても、やらなきゃみんな死ぬ。母艦がやられて帰れなくなるか、国自体がなくなるか。もちろんそうなれば俺達以外の日本人だってただじゃすまない。お前たちの家族、友人、恋人、その他大切な相手もな」


 ひなたさんはそこで一旦言葉を切ると、会議室の中を見回した。


「今、話を聞いて無理だと思った奴は名乗りでてくれ。土壇場でとんずらこかれたりしたらそこに穴があく。穴が開けばそこから綻んで被害が拡大する。そういう事態を避けるために作戦を練り直さなきゃいけないからな。もちろんこれは叱りつけるようなことでもないし、それでどうこうするつもりも言うつもりもない。俺だって死ぬのは怖いし周りの人間を死なせるのは怖い。死にたくないっていう気持ちがあるのは自然なことだ」


 そこでもう一度ひなたさんが言葉を切って黙ったまま室内を見回すが辞退者は一人も出なかった。

 もう一度室内を見回した後でひなたさんは一歩横にズレて都さんに場所を譲った


「教導隊、フォロワー組、正規組の三段構えの作戦でさっさとケリを付けて七罪が出てきた時には全員でかかれるようにしましょう……いつもなら『みんな生きて帰らせる』って言ってあげられるところだけど、今回ばかりはそうも言ってあげられないから、短い時間で申し訳ないけれど、出発までの間は休暇にします。各自自由に――もしもの時に後悔をしないように過ごして頂戴…ごめんね、みんなの命をもらうわ」


 都さんがそう言って真剣な顔で敬礼をすると、誰からともなく他の人間も敬礼をした。

 形は陸自式だったり海自式だったり、警察式だったり、自己流だったり、敬礼の形はバラバラだったけど、その瞬間俺達の心は間違いなく一つになっていた。




「朱莉さんは知ってたんですよね?」


 会議の後、食事でもしようかという話になってやってきた食堂で、皿の上のラザニアをフォークでいじりながら柚那がそう訪ねてきた。


「七罪の話か?」

「はい」

「まあ、他の国も出来レースなのかって考えた時に、ジャンヌや小花の話を聞いて、それはないだろうなって思って。それでまあ他にいるんじゃないかとは思っていたけど、都さんがはっきり言うまでは確信はなかったかな。愛純は?」

「封印云々は知りませんでしたけど、どこかにはいるんだろうなとは思ってましたね」


 愛純はそう言ってサンドイッチを口に放り込む。


「なるほどな。朝…はいいや」


 朝陽に話を振ろうかと思ったけど、なんか真剣にパスタ食べてるし。


「俺の場合は知っていたって言うよりはなんとなくそうなんじゃないかなって思ってたことがぼんやりあたってたってだけのことが多んだよな。まあ、話を聞いた後も都さんから口止めされてて話せなかったっていうのはあったけどさ」

「ふぇも…」

「まず口の中のパスタを飲み込め朝陽」


 いつもに比べてお行儀が悪いことより、朝陽がちゃんとこっちの話を聞いてたことに驚きだ。


「…でも、朱莉さん今回はあかりちゃんの事、何も言いませんでしたわね。どの程度の強さかはわかりませんけど、あかりちゃんが七罪を相手にするチームいるのに」

「…まあ、深谷さんとみつきちゃん。それに佐須ちゃんと和希がいるんだし大丈夫だろ。それにそれこそさっきひなたさんが言ってたことじゃないけど、俺達がやらなきゃ何人死ぬかわからないような状況で俺がイヤダイヤダと駄々をこねられるような話でもないしな」

「あの朱莉さんが…」

「大人の意見を!?」

「これ、もしかしてあの伝説の死亡フラグってやつじゃない?」

「そ、そうかも…」


 ゆあちぃもみゃすみんも酷いこというにゃん。


「いや、というか、あのチームにいて心配ならどこにいたって心配だろ」

「まあそりゃそうですけど」


 例えば教導隊の四人と一緒でしかも最後の最後まで戦場にでませんよっていうならそのほうが安心だろうけど、現段階で一番安心なのはあのチームだと思う。正規含めて上位のみつきちゃんと和希、それに準正規だがやり方によっては相当強い深谷さんと佐須ちゃんがいて不安だと言っていたらそれこそもう頑丈な箱にでも入れて大切にしまっておくしかなくなってしまう。

 大体あのチームって条件が揃えばうちより関西より東北よりよっぽど強いし。


「ま、それはいいとして、お前ら休暇はどうするんだ?」

「私は、柿崎さんといちゃついたり、ちょっとあいさつ回りというか、周りの人の顔を見に行こうかなと。ああ、小崎プロデューサーにも会いに行きますんでなにか伝言とかあれば承りますよ」


 愛純がそう言って俺と柚那の顔を見る。


「俺は特に伝言とかはないかな。柚那は?」

「お金返せって言っておいて」


 ああ、そういえばそんな話もありましたな。


「ほい。了解です」

「私は一旦実家に帰ろうかと思っておりますの。その…優陽が出てこなくなってしまったこともありますし」


 今年に入ってから見かける頻度が激減したなと思っていたのだが、実際朝陽の中の優陽は朝陽の精神が安定してきたせいか、最近はあまり顔を出さなくってきたらしい。

 というより、実は温泉旅行の前後にはもう既に全く出てこない状況になってしまっていんだとか。

 このまま優陽が消えて、完全に朝陽になるのは客観的に見ればいいことなのかもしれないが、朝陽からしてみれば寂しいだろうし、第三者ではなく朝陽、優陽の友人として言わせてもらえば俺もさみしい。


「戻ってくるといいな」

「…はい」

「朱莉さんはどうするんです?」

「んー…そうだな。柚那はどうしたい?」


 実はついさっき都さんが言うまで俺も休暇の話は聞いてなかったので、柚那と予定の話を詰めたりはしていないのだ


「え?」

「えって?どうせ一緒にいるだろ?」

「あ……あー…まあ、その…」


 柚那は言いづらそうに言葉を濁しながら視線を泳がせる。


「…ちょっと、一人でやりたいことがありまして」

「……あ、ああ…そう?」


 まさか柚那に振られるとは思ってなかった俺はやや間の抜けた返事を返してしまった。


「ちょ…柚那さんに何したんですか朱莉さん」

「そうですわよ。早く謝ってしまったほうがいいですわよ」


 二人も柚那がああいう反応するとは思っていなかったらしく、俺を少し離れたところに引っ張っていって、コソコソと小さな声でそう言った。


「いや、マジで何がなんだか。最近は本当に関係が良好だったし、怒らせるようなことは一切ないはずなんだけど」

「そういう時に限ってなにか致命的なことやっちゃってるのが朱莉さんです」

「そうですわ。絶対何か気づかないところでやらかしてるに決まっていますの。早く謝ったほうがいいですわよ。なにが原因かわからないところも含めて最初から土下座でいったほうがいいですわ」

「そ、そうか。そうだよな、柚那がなんで怒ってるかわからないっていうのもまた十分に柚那がキレる要因になるよな」

「そのとおりですわ」


 さすが柚那への謝罪に定評のある朝陽だ。こういうときは本当に頼りになる。


「わかった、ありがとうな朝陽。俺、やってみるよ」

「微力ながらこの秋山朝陽、一緒に土下座して朱莉さんの弁護をさせていただきますわ」

「朝陽……」


 なんていいやつなんだこいつ。

 感極まって泣きそうになっている俺の肩に優しく手が置かれる。振り返るとそこにはいい笑顔でサムズアップしている愛純の姿が。


「愛純・・・まさかお前」

「朱莉師匠と柚那パイセンの仲が駄目になるかどうかなんです。やってみる価値はありますよ」

「そうですわ。愛純の言うとおり、私達は四人でチームですもの」


 ああ、俺のやってきたことは間違ってなかった。ふたりともなんていい子なんだ。そしてなんて良いチームなんだ。


「よし、朝陽、愛純。よろしく頼む」

「はい」

「まかせておいてくださいまし」


 そして俺達は柚那の目を見ながらまっすぐ歩いて行くと、目の前で膝と手を床につける。

 タイミングなど測る必要はない。何故ならばもはや俺達はチームという一つの生命体なのだから。現に振り返るまでもなく、音や気配。それに俺達の様子を見ていた他の人間の雰囲気からも俺達三人が一糸乱れぬ動きで土下座の姿勢に持っていけたことは間違いない。

 そして


「すみませんでしたぁっ!」

「朱莉さんが迷惑をかけて申し訳ありませんでしたっ!」

「何が原因かはわかりませんが、いたらない師匠がイラつかせてしまって本当にごめんなさいっ!なんとか朱莉さんと別れないであげてください!」

「うわあっ、やめてやめてみんな見てるでしょ」


 柚那はそう言ってパタパタと手を振るが、やはり怒っているのか顔が真っ赤だ。


「そう言わず」

「何卒お怒りをお沈めになってください」

「お願いします」


 そうして三人揃って二回目の土下座。


「怒ってない怒ってない!怒ってないですからやめてください!朝陽も愛純も顔上げて。っていうか、ちゃんと椅子に座って」

「ほんとに怒ってない?俺またなんか気づかないところで柚那のことおこらせたりしていない?」

「ないですよ…最近朱莉さん優しいし、ちゃんとかわいがってくれるし、今みたいに色々考えてくれているし。最近全然不満はないですって」

「じゃあ、なんで一緒にいてくれないんだ?」

「だから、ちょっとやりたいことが…というか、一人で会いたい人がいるんです」



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