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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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恋の魔法 4

 無事に咬我も助かり、事件が解決してから数日後。俺は今回の事件でかなり世話になった恋が仕事で東京にでてきているということで、彼女を誘って食事に出かけることにした。

「別段、こんなことしてくれなくてもよかったのに」

 すっかり行きつけになった会員制のレストランで俺の向かいに座った恋がそういいながらおちょこで日本酒をあおる。

 彼女は俺の知る限り魔法少女で一番の日本酒党だ。

「そういうわけにもいかないさ。今回恋にはものすごく助けられたからな。そのお礼だよ」

「私はそんなたいしたことはしていないでしょう。せいぜいあの場所での桃花とのやり取りくらいですし」

 三人の異常に気づいて愛純呼んできてくれたりしたのに、そういうところを素で忘れていそうなのが恋のいいところだと思う。

「はいはい」

「なんですその顔。ちょっとイラッとするんですけど」

「いんや、別に…そういえば桃花ちゃんはどう?その後調子が悪いとかそういうのはなさそう?」

「そうね、特には……ああ、でも朱莉に対しての恨み言は言っていたわ」

「恨み言?」

 感謝されるならともかく桃花ちゃんに恨まれる覚えはないんだけど。

「ファーストキスだったらしいわよ。あれ」

「マジか……まあ、でもあれ人工呼吸みたいなもんじゃん。って、あれ?あの時もう既にスレンダーマン壊れてたよね?なんで俺が桃花ちゃんに何したか知ってるの?」

「人工呼吸されたかどうかはは実際された人自身が判断することでしょう。それと…」

 恋そこで言葉を切るとバッグの中からメモリーカードを取り出した。

「なにそれ」

「スレンダーマンが動かなくても、カメラは健在だったんですよ」

「……」

「REC」

 そう言って片手でハンディカムを持つような仕草をしながら恋が俺を見る。

「すんなよ!っていうか消してくれ。頼むから」

 あんな映像残されたら、俺はともかく桃花ちゃんがかわいそうだ。

「別に私は公開するつもりはないですけど、壁に耳あり障子に目あり。気をつけて」

 そう言うと、メモリーを指で弾いて俺の方にすべらせてくれた。

「え、そんなあっさりと…いいのか?」

 どこかの公安崩れだったら確実に脅しのネタに使ってくるぞこれ。

「勘違いしていそうだから言っておくけど、別に私の趣味で撮ったものではないからね」

「じゃあひなたさんの仕業ってこと?」

「さあ?器材室に置いてあった怪しい機械から拝借したのでよくわからねないけど、ただ私が退室するのと同時に抜き出したから、マスターはそれだけだと思うわ。事件の後、夏樹からもそれとなく探りの電話がきたし」

 そう言いつつ恋が手酌で酒を注ごうとするが、手元の徳利はもう空らしく酒は出てこなかった。

 なので俺が自分の所にあった徳利を取ってお酌をすると、恋は「おっとっと」と言いながら美味しそうに溢れそうになった酒を啜る。

「…まえから思ってたけど、恋の手癖も大概だよなあ。こういうことやるのはひなたさんだろうし、それに背くってことは恋も元自衛官だったりするわけ?」

 これは恥ずかしい話だが、研修生時代、俺と深谷さんが鍵をなくした時には恋に何度となく助けてもらった。

 数ヶ月の研修期間の間に何度も鍵をなくす俺も深谷さんも相当間抜けということを抜きにして、自衛官ならそういう鍵開けのスキルがあってもおかしくないし、恋の良く言えば隙がないところもうなずけるし、なんと言ってもこの組織の半分は元公安と自衛官とアイドルでできているのでその可能性が高いような気がした。

「私はそういう権力とは関係ない…というより、どちらかと言えば真逆の立場という感じかしら」

「手癖が悪いし、もしかして泥棒とか?」

「義賊です」

 あてずっぽうで言った俺の言葉を恋は否定するでも怒るでもなく、少しだけ修正すると料理に箸を伸ばす。

「ああなるほど。それで恋の魔法って隠れたりするのが多いのか」

 恋は回復魔法が一番得意だが、それと同じくらい後をつけたり隠れたり。そういう補助系の魔法が得意だ。

 恋の魔法の性質が義賊というものを軸にしているのだとしたらそういう魔法が多いのもうなずける。

「でもいいの?その話をここで俺にしちゃって」

「別に。都さんは知っているし、寿さんもこまちさんも知っている話だから」

「なんとなく都さんが知ってるのは予想がついてたけどさ」

 ほんと、あの人は面白そうな人は手元に集めておかないと気がすまないんだから。

「でも寿ちゃんとこまちちゃんも知ってるってるのは意外だったな。二人はなにか言ってた?」

「心強いって言われた。まあ、関東が自衛隊、関西が公安が元になっているというなら、さしずめ私達は市民代表かしらね」

「いや、東北司令のシノさんは都さんと狂華さんの仲間だろ」

「なんだかんだ言ってもあの人は都さん以上に放任主義だからね。それに義理はあるけど義務はないんだって。無理っぽかったら降りるからいい感じにやってって寿さんに言ってたわ」

 あの人もいい加減だよなあ…うーん、改めて考えてみるとみんながみんな違う方向見てるなこの組織。来月決戦なのに大丈夫なのだろうか。

「そういえば朱莉」

「ん?」

「桃花の件、拘束やら最悪死亡も仕方なしっていう結論に落ち着きかけた時に、あなたが一番強硬に反対したらしいけど、もしかして桃花に気があったの?」

 恋はそういった後に『あ、でも桃花の方は朱莉のこと毛嫌いしてるけど』という地雷を付け加える。

「毛嫌いされてても、仲間を死なせるってのは寝覚めが悪いだろ。それに拘束だってかわいそうじゃないか」

「………」

 恋は何も言わずに俺の前の徳利を持って行って手酌で酒を注ぐとぐいっと飲み干してこっちをじっと見つめる。

「………」

「…桃花ちゃんがTKO時代の柚那の後輩で『あの子、超いい子なんですよ-』って柚那が言ってたから」

「へえ、じゃあ柚那のお気に入りの子だったからってこと?でも柚那もまさかその超いい子の後輩の唇を朱莉が奪うとは夢にも思わなかったでしょうけど」

「そういう言い方するなよ」

 そういう言い方すると、どこからともなく柚那が出てきちゃうだろ。

「舌まで絡めておいて何を言っているんだか」

「……ごめん、ちょっとまってて」

 一応、俺はお店に開けておいてもらえるよう頼んだ両隣の席を確認するが柚那の姿は見当たらない。

「どうしたんです?」

「いや、こういう話をしていると柚那が湧くからさ」

「湧くって……あなたあの子の恋人でしょ」

「そうだけどさ…いや、本当に湧くんだぞ。いままでいなかったはずなのに突然現れるんだから。

 柚那の陰口や隠し事の話をした次の瞬間にはピンチが訪れるなんてことはザラだ。

「……ふうん、なるほど」

「なんだよ」

「恐妻家ね」

「うるせえ。余計なお世話だ」

「恐妻家の部分は否定しないんだ」

「あえて言うなら愛妻家だよ。俺は別に柚那のことを怖いだなんて思ってない。むしろいきなりやって来るのも楽しいし、怒られるにしろ抱きつかれるにしろ大歓迎だ」

「なるほど。冷たくされていた時の反動でかまってもらえるのが嬉しいってこと」

「お前って酒が入ると俺に対して全く遠慮ないよな」

 まあ、このツン状態も恋の魅力の一つなのだが。

「遠慮してたら私達の世代はもっとバラバラになってたと思うわよ」

 深谷さんがみんなの潤滑油だったのは間違いないが、恋が俺の尻を叩いて裏で色々やってくれたおかげでうまいこといったのは間違いない。

 もちろん俺はムチだけで動くマゾヒストではないのでアメも頂いていた。

「何よ、いやらしい顔して」

「いや。恋は相変わらず優しいよなと思って」

 彼女のアメを思い出してニヤニヤしているとは言えないので俺は話をそらす。

 いや、というより実は俺は今、恋のアメを狙っている。この話の振りもアメを引き出すための一手だ。

「なによ。今回私は別に優しいとこなんてなかったでしょうが」

「そうか?」

「な…なにがよ」

「俺と柚那が敵に軟禁されてた時に愛純を連れてきてくれてありがとな。お陰で助かったよ」

「あ、あれはっ…別にそのっ…別に」

 おお、照れてる照れてる。

「それに、桃花ちゃんを助けるための小芝居にも付き合ってくれたろ」

「あれは完全に仕事だしっ!当たり前のことしただけじゃない!」

 そうそう。この照れ顔ですよ。これこそが癒やし、これこそが最高のアメ。直前の態度がツンであればあるほど、この照れ顔は魅力的になる。

「そのうえ、死にかけた咬我を助けてくれたろ?」

「っっ!?し、知らないわよそんなの!」

 やっぱり否定した。でもあの時朝陽の回復魔法は発動しなかったし、相性の問題か柚那も未だに咬我を回復させることはできていないので、あの場には柚那以上の回復魔法の使い手で誰にも見つかることなくそこにいられる人間が必要になる。そして、そんなことができるのは恋だけだ。

「お前の魔法って人の目はごまかせるけど監視カメラの画像はごまかせないって知ってたか?」

「ええっ!?そんな嘘でしょ!?たしかにいたけど、カメラなんかに映ってるわけない!」

「まあ、嘘だけどね」

「な……」

「あの場所にいたって認めたな?」

「うぅ……」

「ありがとう」

「…やめなさいよ…そんなお礼言われるほどのことしてないわよ…」

「ありがとうな、恋」

「ち、違うし。私の魔法じゃないし!撫でるな!頭を撫でるなあっ!」

 そして恥ずかしさが度を越すと、キャラが崩壊する。ここまでが第一段階。お楽しみはこれからだ。

「じゃあ咬我は誰の魔法で治ったんだ?恋の魔法じゃないのか?」

「え……えーっと……」

 恋はそう言ってしばらく考えこむと、なにか思いついたらしくぽんと手を叩く。

「恋 (れん)の魔法じゃなくて、二人の間に芽生えた恋 (こい)の魔法……なんて」

「かーわーいーいー!」

 キャラ崩壊した恋はとたんに子供っぽくなってこういうしょうもないことを言い出したりする。しかもちょっと照れながらのドヤ顔で。それがもう俺的にはたまらなく可愛い。

 ああ、もうだめだ!対面じゃなくて隣で撫でくりまわしたい!

 俺はその欲望に忠実に従うことにして席を立ち、恋の横へと移動を試みた。

 しかし……

「あれ……?」

 なんかおかしいぞ。ソファーのへこみ方が、まるでもう一人座っているような……

「朱莉さん」

「ひっ…」

 丁度魔法の効力が切れたのか、それともキャラ崩壊した恋が魔法を維持できなくなったのか。

 俺の目の前に満面の笑みをたたえた柚那の姿が現れる。

「何でこっちに来るんですか?」

「むしろなんで柚那がここにいるんですか!?」

「さあ、なんでだと思いますか?」

「な、なんででしょう」

「一番、浮気を疑っていたから、二番、不貞を疑っていたから」

「さ、三番の朱莉さんが好きすぎてどうしようもなかったからで」

「…ファイナルアンサー?」

「ファ…」

「不正解!」

 言い切る前に即断された。

 そして殺意の波動に目覚めた柚那によるネック・ハンギング・ツリー。

「ちょっと待て!俺は別に恋に何もしてないだろ。ちょっと頭なでただけだ」

「しようと思ってこっちに来ましたよね」

「ま、まあそんなことを考えてないでもなかったかもしれない」

「往生際の悪い……とりあえず寮に帰りましょうか。今日はたっぷりお仕置きしてあげますからね」

「えっと…今日は柿崎くんのところに泊まろうかなって思っ―」

「ああ、愛純にもぶちのめされたいと」

 そうだった。愛純からむやみに柿崎くんに近づかないように言われているんだった。

「……じ、実家に帰―」

「じゃあ私も一緒に行って、今日あったことを紫さんにお話しましょうか?」

 最近大変懇意にしている柚那が泣きついたりすれば姉貴は間違いなく柚那につくだろう。

 そうなればあかりにも話が行くしそこから連鎖的にみつきちゃんにも話が行き、二人から和希にも話が行くだろう。そこまで言ってしまえば、『野生のおしゃべり (ネイティブスピーカー)』の異名を持つ都さんに漏れるのも時間の問題だ。

「……浮気のつもりは全くありませんでしたが柚那さんの気の済むようにして頂いて結構です」

「朱莉さんが迷惑かけてごめんね、恋」

「いえ…柚那に来てもらって正解でしたね」

 俺と柚那のやりとりの間に立て直した恋がいつもの笑顔でニッコリと笑う。

「そうだね。それとね、恋」

「はい」

「私にも普段からさっきのかわいい表情見せてもらえると嬉しいかも」

「っ!……いいんですか?面倒くさいですよ、素の私は」

「そんなことないよ。そういう恋もすごく可愛いと思うよ。それに朱莉さんだけじゃなくて松葉にも見せているんでしょ?だったら、私にも見せてほしいな」

 そう言って笑う柚那の笑顔はどことなくイケメンオーラが漂っていた。

 まあ、俺をネック・ハンギング・ツリーしながら言っているので傍から見たらかなりシュールな絵だろうけど。

「……うん」

 そう言って頷いた恋の顔は少し晴れやかだった。

「じゃあ、せっかくだし帰って寮で飲み直そうか」

 柚那の提案に恋はコクリと頷く。酔いが回ってきたのか恋の顔はこころ持ち赤い。

「じゃあ外で待ってるね……朱莉さん、わかってますね?何かあれば次はないですからね」

「はい……」

 柚那が出て行った後、荷物をまとめて上着を羽織りながら恋が『これが恋の魔法…』とか言ってたけど俺は全力で聞かなかったことにした。

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