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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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恋の魔法 2


「これはどういうことでしょう。呼び出しを受けてわざわざこんな山奥まで来てみれば、朱莉も桃花も変身をしているとは…」

 待ち合わせの場所にやってきた恋はそう言って変身もせずにこちらを見て首を傾げている。

「恋さん、私はあなたのことを見損ないました」

「見損なった?いったい何の話ですか、桃花」

「とぼけないでください!証拠は上がっているんです!」

 そう言って桃花ちゃんは先端に桃のついた可愛らしいステッキを恋に向ける。

「証拠……?」

 皮肉にも『恋さんの無実は私が証明します!』と言っていた桃花ちゃん自身が恋が犯人だという証拠を掴んでしまった。つまり、恋が有罪であることを立証してしまったのだ。

「私は恋さんのことを尊敬できる先輩だと思っていました。なのに……なのに!」

「桃花、本当に何のことを言っているの?全く心当たりがないのだけど」

 そう言ってこちらに近づこうとする恋には本当に心当たりがなさそうに見える。

 しかし、真実を知っている俺からすれば、その完璧な演技はある種滑稽にも見える。

「それ以上こちらにこないでください!」

「桃花?」

「全部話して自首してください……そうしてくれなければ攻撃します」

「桃花……落ち着いて話しあいましょう」

「もうその手には乗りません!」

「あなたなにをそんなに怒っているの?私が最初朱莉とのことを反対したこと?」

「またそうやって…あなたが草津で私と彩夏さんを催眠にかけたのはわかっているんです!さらに真白ちゃんすらも!」

 桃花ちゃんはそう言って恋を睨みつけた。

「ちょ…ちょっと待って。本当に何を言っているの?」

 さらに一歩近づこうとする恋の足元に桃花ちゃんのブリザードフラワーが炸裂する。

「桃…花…?」

「近づくなと警告しました」

「誤解よ桃花!私はなにもしていない!そうよ、むしろ私は桃花を助けに行ったじゃない!ねえ、朱莉!」

「そうだな。でも、なんでお前はあんな一瞬で桃花ちゃんの催眠を解けたんだ?」

「え……?」

「愛純が彩夏ちゃんにしたように気絶させるならわかる。でもなんでお前は一瞬で桃花ちゃんを元に戻せたんだ?お前いつも言っていたよな?回復系の魔法はともかく、毒や所謂状態異常は魔法式の解読をする必要があるから時間がかかることが多いって」

「…っ…違う。あれは…」

 俺の指摘を受けて、一瞬だけ驚いたような表情をしたあとで、恋はまた冤罪を着せられて狼狽している哀れな被害者を装う。

 普段は演技なんてできません。みたいな顔をしているくせに大した大女優っぷりだ。

「あれは私がなにかする前に桃花が元に戻っていただけ!わたしも愛純ちゃんみたいに桃花を一旦気絶させるつもりだったけど……」

「もうたくさんです!……もう、やめてください」

 桃花ちゃんは叫ぶようにそう言って恋の言葉を遮ると服の袖で目元を拭ってから恋に向かってステッキを構え直す。

「素直に認めないというのなら私が力ずくで連行します」

「……朱莉も桃花と同じ意見なの?」

「すまない。本当は恋を信じたいんだけどな」

「そう……わかった。ならあなた達を突破して自分で都さんに直談判するわ。私は犯人じゃない。犯人にハメられただけだってね」

「突破なんて物騒なこと言わずに自首すればいいだけだろう。それで調べてみてお前が無罪ならそれでいいだけなんだから」

「最初から私を犯人だと決めつけるあなた達は信用出来ない」

「恋、やめろ。無駄な抵抗をすると心象が悪くなるだけだぞ」

「うるさい、うるさい…うるさい!!」

 恋は絶叫しながら変身すると思い切りステッキを振りかぶって俺のほうへ突っ込んでくる。

「おとなしくしろって言ってるんですよ」

 俺と恋の間に割って入った桃花ちゃんはステッキ同士のつばぜり合いで恋を押しのけると、そのままステッキを振り上げる。

「アイス・デザーク!」

 桃花ちゃんがそう唱えてステッキを振り下ろすと、恋の身体は一瞬で氷の棺で覆われた。

 トップクラスとは言わないが、それでもご当地の中では中の上いや、上の下の恋を瞬殺。我ながら恐ろしい子を育て上げてしまったものだ。

「……って、ちょっと桃花ちゃん!それじゃ恋が死んじゃうだろ!」

 いくらなんでも一切躊躇なく必殺技を使うかね普通。最初の打ち合わせではせいぜい気絶させるくらいの話しだったはずなのに

「大丈夫ですよ。身動きできないようにしてあるだけですから。あとで解凍すればちゃんと元通りです。さあ、これであとはこの裏切り者を本部へ運ぶだけです。東北寮から迎えを呼んで本部に行きましょう」

「いや、とりあえず恋をもうすこしこう、なんとかしてくれって、マジで死んじゃうからさ」

「死にませんよ」

「死ぬって」

 あの状況で中にいる恋が今現在生きてるかどうかもよくわからんけど。

「もし死んだとしても自業自得じゃないですか。罪も認めない、こっちの指示にも従わないでああなったんですから」

 ケロっとした表情で言い放つ桃花ちゃん。

「いやまあ、桃花ちゃんの言うこともわからなくはないけどさぁ」

 ずっとダメージ受け続けるみたいな魔法だしあんまりこのままにしておくのはなぁ…

「それより朱莉さん」

「ん?」

「迎えが来るまでエロいことしましょう。朱莉さんったら恋人になってもう二週間もたつのに何にもしてこないじゃないですか」

「え?ああ……そう、だね」

 だってそんなことしたら柚那が超怖いもん。まあ、いまここで『君とは仮想恋人だったんだ』なんて桃花ちゃんに言うのも超怖いけどね!

「女の子だって普通に性欲あるんですからね」

「いや、それはわかるけど、ここでと言うのはどうだろう。3月っていってもまだ寒いし、外でエロいことなんてしてたら風邪引くよ」

 まあ感覚遮断できる俺達が普通に風邪を引くのかはよくわかんないけど。

「えーろーいーこーとー。私が裏切り者を捕まえたんですからご褒美でー、いいでしょ。ねぇねぇ」」

 桃花ちゃんはそう言いながらそれの腕を掴んでぶんぶんと横に振りながらおねだりをしてくる。

 柚那とはまた違った魅力がある桃花ちゃんからエロいことを要求されるというのはやぶさかではないとはいえ、こんな状況の恋の前でなにかするというのはさすがの俺もでも引く。

「じゃあ、あれだ。恋をあの状態から何とかしてくれたら考える」

「はいはい。お安いご用です」

 そう言って桃花ちゃんがステッキを一振りすると恋の身体を覆っていた氷がはじけ、恋はそのまま地面に倒れ伏した。

 一応、倒れた後に唸り声があがったので一応生きてはいるっぽい。ナノマシンって強いなあ。

「さあさあ、それじゃあエロいことしましょうよぉ」

「考えるって言っただけだろ。考えた結果しないことにした。仕事中だし、さっきも言った通りこんな状態の恋の前でってのは嫌だ」

「じゃあ、キスだけでいいですから」

 桃花ちゃんは何がなんでもここで俺と粘膜接触したいらしい。

 まあ、あえておあずけしたのも桃花ちゃんからこう言わせるためだったりするんだけど。

「…キスだけな」

 俺がOKすると、待ってましたとばかりに桃花ちゃんが俺の首に腕を回してくる。

 だんだんと近づいてくる桃花ちゃんの顔、そして唇。

 彼女は自分の唇を俺の唇に押し付けると、舌を俺の口の中へと侵入させる。

 そして俺の中をゆっくりを味わうように舌を動かしながら抱きかかえるように俺の頭をホールドすると、更に強く唇を押し付けてくる。そして―

「まっふぇまふぃた」

 舌に続いて口の中へと押し入ろうとしたそれを俺は思い切り前歯で噛み、桃花ちゃんのホールドを振り払うように首を振る。

 すると、ズルリという生々しい音を立てながら細長い蛇のようなものが桃花ちゃんの中から出てきた。

 俺はそれのしっぽをしっかりと掴むと、力任せに地面に叩きつける。

「なぜわかったぁっ!」

 変身後の俺が殺す気とまではいかないものの比較的強く叩きつけたにもかかわらず蛇は意外と元気だった。

「なぜ、なぜだぁ!」

 なぜ何どうしてとうるさいので地面に何度か叩きつけてみるが、蛇は相変わらず元気にピチピチと跳ねながらなぜだなぜだと繰り返す。

「今更わかったところで何ができるわけでもないだろうから一応教えておくと、お前が桃花ちゃんの身体の中にいたのは検査の時のX線でわかってたんだ。ただ、どうしたら取り出せるかがよくわかんなかったんだけでな。外科手術で取り出すこともできたんだろうけど、それで暴れられて桃花ちゃんを死なせるわけにはいかなかったし。で、いろいろ調べたら、真白ちゃんの身体にもよくわからないナノマシンの痕跡があるわ、つながりの薄い真白ちゃんと桃花ちゃんのキスシーンの情報が出てくるわで、なんとなくお前が粘膜感染かそれに準ずる物でもので宿主を変えていくんだろうっていう仮説が立った。じゃあそれはそれとしてお前が何のために真白ちゃん、桃花ちゃんと宿主を変えていったか。それは多分徐々に俺達の上層部に入り込むためだろう。だとすれば次は桃花ちゃんよりも上の人間。できれば上層部の人間と会えるチャンスの多い人間に寄生したがるんじゃないか。それで白羽の矢が立ったのが自由に動けるように都さんと喧嘩をしたことになっていた俺だったわけだ。幸い俺は真白ちゃんの件で桃花ちゃんともそれなりにつながりがあったしな。それで俺は桃花ちゃんに近づいて、お前を誘い出すために一芝居打ったってわけだ」

「つまり俺はお前らに騙されて踊らされていたというのか!?」

「ま、そういうこった」

 とはいうものの、こっちからすると騙したというよりは単に賭けに勝っただけだ。

 最悪俺が乗っ取られるという可能性もなかったわけではない。

「だ、だが結局お前らは一人犠牲を出しているじゃないか!こんな作戦、本末転倒もいいところだ。ザマアないな!」

「ん?……ああ、恋のことか。あれはダミーだよ、ダミー。俺達の仲間に分身を創りだすのが得意な奴がいてね。その分身を借りてきて、お前と戦わせたってわけ。さすがに声は出せないから胸のところにスピーカとカメラをつけて恋に芝居をしてもらってね。まあ、あんまりダメージを食らうと外見が真っ白なマネキンみたいになっちゃうから、いきなりアイスデザークでやられた時は肝を冷やしたよ」

 一応証明して見せるために俺が攻撃すると、倒れていた恋は一発でスレンダーマンに戻った。

「な?」

「くそっ!くそぉぉっ!」

 蛇は悔しそうな声をあげながらジタバタと身をよじるが、当然俺はそんなことくらいで離すつもりはない。

「さて、んじゃあ柚那に連絡して迎えに来てもらうか。スレンダーマンはともかく、桃花ちゃんは治療しないといけないしな」

 俺が左手に蛇、右手にスマホというなんともシュールな姿で連絡をしている間も蛇は暴れ続けていたが、柚那と久しぶりに話したために少し長くなった電話を終えてスマホをしまう頃にはすっかりおとなしくなっていた。

「やっと観念したか?」

「こうして捕まった以上、どうせ俺は用済みだからな」

「そうかい。まあ、いろいろ調べた後は処分するかどうするか。その辺はうちのボスの判断次第だ。まあ、あの人甘いから大丈夫だろ。多分夕方には全部決まるよ」

 柚那は連絡を待ちきれなかったらしく輸送機でもうかなり近い所まで来ているらしい。10分もかかりませんよとか言っていたので多分もう福島県は超えたんじゃないだろうか。

「は……いろいろ調べられるほど、長くこの形を保てやしねえよ。俺は寄生してなんぼのただの使い魔だ。宿主なりマスターなりから魔力の供給を受けなきゃ半日ももたねえよ」

「いや、それを聞いたからってさすがにどうぞどうぞとは言わないぞ俺は」

 別に俺は正義の味方じゃないし、こいつにいい人だと思われたいとも思わない

「かっかっか、そりゃそうだ。そりゃあ普通はそう言うだろうさ。どうせ俺みたいな見難い奴は誰からも愛されず、助けてなんてもらえない。んなことずーっと前からわかってたんだよ」

「ずっと前から?」

「ああ、俺が人間だった頃からずっとそうだ。おっと、心が綺麗なら大切にされるなんていうこと言うなよ。逆だぜ、邑田朱莉。優しくされなきゃ誰かに優しくなんてしてやろうと思わない。そういうことだ」

「まあ、そういうのはなんとなくわかるけどさ」

 愛し愛され、想い想われ、関係しあって人は変わっていくし、それはもちろんいい方向だけじゃないッて言うことは俺もわかっている。実際俺も魔法少女になる前はかなりひねくれていたわけだし。

 だからこそちょっとだけかわいそうな気もしているというのはある。

「お前、元・人間か?」

「ああそうさ。役員からあの国の駐在員は俺くらいひねてないと務まらないって、珍しく栄転の話があったと思えばこれだ。奴らの侵略に巻き込まれてこの通り蛇になっちまった」

 蛇になった経緯はともかく、その理由での転勤ははたして栄転なのだろうか。

「……結局、ずっと人から嫌われてばかりで、いつも息苦しいような、そんな人生だったな。まあ、宇宙人の幹部の使い魔になってからはそれなりに楽しい生活は送れたから良かったけどな!」

 そう言って蛇はガラガラと笑う。

「蛇……」

「蛇なんて呼ぶんじゃねえ。俺には……あれ?…名前、なんだったっけ」

 ユウも自分を取り戻すのにかなり苦労したと言っていたから、多分この蛇も同じなんだろう。しかも自立して動けるユウと比べるとこの蛇は宿主から自立して動くこともままならない。つまり魔力も身体の自由もあまり聞かない。ということはつまり魔力も低いし、おそらく意識のレベルも思考回路もそれほど高くはないんだと思う。

 ぼんやりと楽しいことをして、ぼんやりと仕事をして、ぼんやりと死んでいく。この蛇はそういうものなんだろう。

「蛇」

「何だ」

「何か言い残したいこととか、メッセージを残したい相手とかいるか?俺で良ければ聞くぞ」

 蛇に対して多少の憐憫の情も、同情もある。とはいってもまさか桃花ちゃんの身体に戻すわけにはいかないし、俺が受け入れるわけにもいかない。俺にできるのはせいぜい話を聞くことくらいだ。

「ねえよ。おふくろももういねえし、他に親しい友人なんかもいねえ」

 そう言った後で一拍置いて「まあ、忘れているだけかもしれないけどな」と言った後の蛇の顔は少し自虐的な表情をしているようにも見えた。

「おふくろさんの墓は?せめて墓にくらい入れてやるぞ」

「ああ……確か福……どこだったか」

 福井か福島か福岡か。それでかなり違ってくるし、それがはっきりしているのしていないのでは、絞込できるかどうかの確率も変わってくる。

「ダメだ。なんかもう頭がぼんやりしてきた。悪いな、気を使ってもらってさ」

「……蛇、どうすればお前に魔力を分けられるんだ?」

「ウチのご主人様は普通に、たとえば今握っているような感じでも魔力を送ってくれてたぞ」

 回復魔法の要領だろうか。だったら最近練習しているので少しくらいなら蛇に魔力を送れるかもしれない。

「ちょっとだけやってみるか」

「やめとけやめとけ、裏切り者になっちまうぞ…って、おおおおっ」

 軽く回復魔法をかけると、蛇は最初のビンビンさはないものの、二回戦目突入でちょっと辛いけど頑張ってる中年サラリーマンのジュニアくらいには元気になった。

「捕まえた被疑者に対するケアは必要だろ。むしろお前を死なせたほうが問題になっちまう」

「むしろお前の場合、向こうで倒れてる桃花のほうを回復してやったほうがいいんじゃないのか?」

 一応蛇を抜いた時にしっかりと抱きとめたし、今も魔法の箱の中に寝かせてあるので寒いとか凍え死ぬという心配はないが、蛇の言うことはもっともなはなしだ。とはいえ、回復できないのには理由がある。

「まあ、回復したいのはやまやまなんだけどさ……桃花ちゃんの中に入ってたなら記憶を共有してるんじゃないのか?」

「表層部はそうだが、深層心理はあまりわからないな。それがどうしたんだ?」

「彼女は蛇が大嫌いだ」

「つまり、俺がいるから回復できないっていうことか?」

 ある意味ではそうなんだが、それだけではなくそこから起こりえる事態が深刻なのだ。。

「桃花ちゃんが意識を回復するとするだろ。そうしたらこれまでの経緯について色々説明をしなきゃならない。そうなると、お前が彼女の身体の中に入っていたという話をすることになるわけだ」

「ああ。それで?」

「そんな話をしたら、彼女せっかく回復した身体を自分で開腹して内蔵取り出して洗剤で洗うくらいのことしかねん」

 彼女のプロフィールの苦手なものの欄に書いてあった文言からはそのくらい蛇が嫌いだということがひしひしと伝わってきた。

「まあ、ここは水がないからその辺に積もってる雪をこすりつけるかもな。でもどっちにしても俺はそんな桃花ちゃんは見たくない」

「はは……所詮俺なんてそんなもんだよな」

 そう言って蛇は身体を起こすのをやめてだらりと垂れ下がる。

「そうしょんぼりするなよ。蛇が好きっていう人もいるだろ。そういう人だったらもしかしたら使い魔にしてくれるかもしれないじゃないか。多少行動に制限は出ると思うけど、こっちで再就職を考えるのも手だぞ」

「お前の仲間にはそういう奴がいるのか?」

「いや、知っている範囲にはいないけど、多分いるんじゃない?」

 俺だってさすがに全員に対して『蛇好きですか?』っていうアンケートをしたわけじゃない。とは言っても50人以上いる魔法少女、スタッフをやっている元魔法少女なんかをいれれば200人以上いる人間の中には一人くらい蛇好きだって子もいるだろう。

 まあ、何にしても一度本部に戻って、ひと通り取り調べをしてからのことになるのだが、すでに俺としてはこいつを受け入れても別にいいんじゃないかという心境になりつつあった。

 正義のためじゃなくて俺は人間のために戦っているわけだし、だったら元人間のこいつを助けるのも別にその目的から大きく外れた行為というわけでもない。

「ま、いいや。餌代がかかるわけでもないし、ものを食べないならフンもしないんだろ?だったらしばらく俺の部屋にいればいいさ」

 柚那は蛇があまり得意な方ではないからメチャメチャ嫌がるだろうけど、それはそれで柚那が俺の部屋に入り浸りにならなくていい。柚那と離れている時間があれば彩夏ちゃんに頼まれていたことも進められるしな。

「つまり、お前が新しいマスターになるのか?」

「仮のだよ。うちは彼女が爬虫類苦手なんで、あんまり長くっていうわけにはいかないかもしれないけどな」

 そんな話をしているうちに遠くに輸送機の影が見え、そこからおそらく愛純と朝陽だろう影が飛び降り、こちらに向かって飛んでくる。多分柚那は現在リーダーという立場上、おいそれと輸送機を離れて迎えに来られないとかそんな感じなんだと思う。

「さて、お迎えだ。この後、桃花ちゃんと一緒に本部に行くわけなんだけど…蛇、お前名前思い出したか?」

「ああ。思い出したぜ」

「じゃあ教えてくれ。みんなに蛇って紹介するわけにもいかないからな」

「長嶺咬我だ。改めてよろしく頼む」

「なにその無駄にかっこいい名前!」

 なんか名乗った蛇改め、咬我の顔も心持ちキリっとしている気がするし。

「よろしくな、邑田朱莉」

 そう言って身体をおこして握手のように俺の右手に絡みついてきた咬我の身体は冷やっとしていて思ったよりもすべやかだった 

 

 

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