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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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一日目 夜 2

 ひなたさんから内偵の任を申し使った俺は、桃花ちゃんを送りがてら東北のみんなが泊まっている宿へとやってきていた。

 明日も一緒に行動する予定の柚那にはさっきの話を伝えないわけにはいかないし、宿で話をしていてうっかり真白ちゃんに聞かれでもしたら目も当てられないのでこの宿で合流するということで連絡をしたのだ。

 ……いや、別についでに精華さんとかセナとお風呂入りたいとかそういうんじゃないってば。


 あくまで外を歩いて冷えた身体を暖めるためにひとっ風呂浴びた俺がこまちちゃんと寿ちゃんの部屋で花札 (精華さんの一人負け。つい今しがた泣きながら逃亡した)に興じていると、外湯めぐりに行っていた橙子ちゃんと彩夏ちゃんが戻ってきた。

「お、朱莉さん来てたんですね。関東の宿に行った時にいなかったからどこ行ったのかと思ってたんですけど、恋人を宿に残して旅行先で浮気とはさすがというか、なんというか」

「いや、別に浮気じゃないからね。これから柚那が来るけど余計なこと言わないでね彩夏ちゃん」

「いやいや、だって桃花と随分親しそうじゃないですか。それどう見ても恋人の距離ですよ」

 まあ、たしかにそう言われちゃうくらい今の桃花ちゃんと俺の距離は近いけども。

「だって、私達バディですから!」

 さっきひなたさんから内偵 (桃花ちゃんの言うところの潜入捜査)を仰せつかってからというもの、桃花ちゃんはずっとこの調子だ。

 どうも桃花ちゃんはその手のドラマとか映画が大好きらしく。『相棒は助け合わなきゃダメです!』とか『相棒同士に必要なのは愛とは別の絆なんです』とかなんとか言ってやたらと一緒に行動しようとしてくる。お陰で温泉も一人でゆっくり入れやしない。

 ……だから二人っきりで入ったのも不可抗力だし身体を洗いっこしたのも不可抗力だ。

「……」

 あ、セナがすごい目でこっち見てる。

「ま、別にいいんじゃないの。明日いっぱいは一緒に行動するんだし仲良くしておいたほうが都合がいいこともあるでしょ。だからセナもそんな顔するのやめなさい……って、何よ変な顔して」

「いや、まさか寿ちゃんが助け舟を出してくれると思わなかったからさ」

 出してくれるとしたらこまちちゃんかなと思ってた。

「私そんなに甘くないよ」

 心読むのやめてくれって。

「ひなたさんの無茶ぶりには私も苦労してるから朱莉の苦労もわからないわけじゃないから」

「ちなみに寿ちゃんはいったいどんな無茶ぶりされたの?」

「………楓さん関係でちょっとね」

 嫌なことを思い出したといったような顔をしているのでこれはあんまり深く聞かないほうがいいっぽい。

「ちなみにバディって何のことです?ひなたんさんの無茶ぶりっていう話と関係あるんですか?」

「ああ。長野の真白ちゃんいるじゃん?あの子にスパイ疑惑があるから桃花ちゃんと一緒に調べろってさ」

「それ、私がいるところで話して大丈夫な話?一応私って元敵方の幹部なんだけど」

 橙子ちゃんがそう言いながらやや呆れたような表情で俺をみる。

「橙子ちゃんはいまさら寿ちゃんとこまちちゃんを裏切れないでしょ。大体橙子ちゃんの元上司が乗り気じゃないんだからこれは七罪は関係ない話なんだよね」

 というより俺はそもそも朝陽も愛純も和希も橙子ちゃんも鈴奈ちゃんもユウも元々そんなに悪いやつだとは思ってないし。

 まあ、怠惰に関してはもうちょっと働いたほうがいいんじゃないかとか、いくらなんでも人任せにし過ぎだろうとか色々思うところはあるけど。

「それって信頼というより甘さな気がするんだけどね」

「ま、こいつの場合その甘さが招いた結果については一応責任とるからいいんじゃないの?どうやって取るかは実際戦った橙子が一番よくわかってるでしょ」

 おお、寿ちゃんが積極的に弁護してくれてる。なんだ?デレ期か?

「まあね。あれが責任のとり方だっていうのには思うところはあるけど、なんとかしてやろうっていう気合は伝わってきたかも」

「あの時はちょっと余裕がなくてさ。なんだっけ?俺が橙子ちゃんをボコボコにしたうえに、回復してもう一回ボコボコにしたんだっけ?酷いことしちゃってごめんね」

「う……」

 おお、狼狽えてる狼狽えてる。

「ま、まあ。あれだよね。喧嘩両成敗っていうか、あの時は私も悪いところがないわけじゃなかったし」

 いや、あれは徹頭徹尾お前の八つ当たりだろうが。

「原因は私の事バラした朱莉ちゃんだよ」

「だからこまちちゃんは心読んで煽るのやめて」

 プライバシーもなにもあったもんじゃないよ!

「あ!そうでした!なんであのときお姉さまのことを私じゃなくて彩夏に話したんですか!?ああいう話は私にするのが道理じゃないですか!」

 『だってセナって豆腐メンタルだからそんな話をしたら絶対グラつくじゃん』とは言えないよなあ。

「こまちからそれなりに距離があって冷静に物事を見られそうだっていうことで彩夏だったんでしょ。大体それを言うんだったら私のほうが付き合い長いんだから、彩夏よりセナより私に話すべきだって主張もできるでしょ。キリがないわよそんなの」

「う…まあ確かに」

 寿ちゃんって敵に回すと厄介だけど味方だと本当に心強いなあ。

「まあ、何を言ったところで裏で暗躍して勝手に解決しようとした朱莉が一番悪いんだけどね。まあ、この埋め合わせはそのうちさせるわよ。五人分なんか奢らせるか、おそろいでなんか買わせるかしましょ」

 味方かと思ったらそうでもなかったでござる。

「どうせだったら桃花ちゃんとか他のご当地の子たちの分も買わせようよ。あとついでに精華さんの分も」

 こまちちゃんがまたとんでもないことを言い出した!

「いいですね!」

 おいこらバディ。そこは助けてくれよ。

「どうせだったら全国の魔法少女分買わせたらいいんじゃない?」

「さすがにそれは朱莉がかわいそうだよ」

「というか、朱莉さんの資産が減ると将来的に私が苦労しそうなんであんまり煽らないでください」

 煽る都さんに自分の心配をする柚那。唯一心配してくれる狂華さんは関東の良心やで。

「……っていうかさらっと会話に入ってきたけど、いつ来たの三人共」

「朱莉が橙子を責めているあたりで、ちゃんとノックして彩夏に入れてもらったわよ」

 そういえばこういう話に乗ってきそうな彩夏ちゃんが全然乗ってこなかったな。

「あ、私は液タブの新しいのがほしいです」

 いや、好きなもの買ってやるって話じゃないからね。

 

 

 

 説明を終え、自分たちの宿に戻ろうかという話になったところで東北チームと遊んでいくと言い出した都さんと狂華さんを置いて夜の街に出た俺と柚那は、湯畑のところでいい雰囲気になっているカップルを発見した。

「やればできるんだなあ、楓さん」

「なんだかんだ画になりますよね、あの二人」

 楓さんとイズモちゃんは二人寄り添って並んで立ち、楓さんが時々イズモちゃんの肩を抱き寄せたり、湯畑の中を指さしたりして話をしている。

「ほんと…それだけにもう私はイズモさんがかわいそうでかわいそうで」

「まったくだ」

「覗きはあんまり関心しないよ。喜乃ちゃん、鈴奈ちゃん」

 遠巻きに眺めていただけとはいえ、俺達も覗きといえば覗きなのだが、たまたま通りかかった俺達とおそらく宿からついてきただろう二人とでは立ち位置がちょっと違う。

「……って、あれ?なんで二人が手をつないでるの?」

「えっ!?」

「あっ……」

 俺の指摘を受けて二人は慌てて手を離すが、こっちはしっかりカップルつなぎになってたのを見てしまっているので時すでに遅しだ。ていうか、手が早いなあ喜乃ちゃん。

「別に隠さなくてもいいよ。むしろ二人の馴れ初めを聞いてみたい」

「あ……えっと…まあ、訓練で二人揃って楓さんにボコボコにされているうちに、情が移ったというか…」

「私達が仲良くしていると、イズモさんが余計な気を回さなくて済むというか…」

 非常に関西チームらしい理由で納得せざるを得なかった。

「じゃあ楓さんとイズモちゃんのために付き合ってるの?」

「あ、いやそういうわけじゃないです。私……コホン。俺はちゃんと鈴奈を見てつきあってますから」

「喜乃……」

「鈴奈……」

 感極まったような声でお互いの名前を呼び合いながら二人は見つめ合って手をつなぐ。そしてお互いの顔がゆっくりと近づいていく……って、なんかこれ長くなりそうだぞ。

「それで、イズモちゃんがかわいそうってどういうこと?」

 柚那が長くなりそうなバカップルの間に身体を入れ、流れをぶった切って質問してくれた。

 うん、柚那さん超有能。

「凄く仲良くしているように見えるんだけど」

「いや、もうあと10秒も持たないですよ」

「いやいや、まさかたった―」

「10」

 たった10秒で何が変わるんだと言いかけた俺の言葉を遮って、鈴奈ちゃんがすかさずカウントダウンを始める。

「9」

 今のところ何も起こっていない。二人はいたって順調そうに見える。

「8」

 お、楓さんがイズモちゃんの肩を抱いたぞ。

「7」

 そして楓さんはイズモちゃんの身体を自分の方へむけ、二人は向い合う。

「6」

 あれ?楓さんの様子がなんか変だぞ腹を抑えてどうしたんだ?お腹でも痛いのか?でも笑顔だしなあ…

「5」

 イズモちゃんの顔が真っ赤になって

「4」

 ……あ、イズモちゃんが楓さんをビンタした

「3」

 お、さらにイズモちゃんの攻撃ターンが継続。腰の入ったいいローキックが炸裂したぞ。

「2」

 そしてローキックのダメージで思わずしゃがみこんだ楓さんの胸ぐらを掴んで――

「1」

 ――そのまま湯畑に!

「0」

「いや、ゼロじゃなくて!」

 鈴奈ちゃんのカウントが終わるのと同時に、楓さんが湯畑に落ちた音がした。

「大丈夫ですか楓さん!」

 俺が湯畑の柵に駆け寄ると、楓さんは豊富な湯量を誇る、まだまだ熱湯といえる温度の温泉の中で腕を組み顎に手を当てながら首をひねっていた。濡れた浴衣が肌に張り付いてかなり艶っぽい姿だがとりあえず熱湯で大やけどとかそういうことはないみたいだ。

 というか、そもそも俺たちって、そう簡単に火傷なんかしないんだった。

「途中までいい雰囲気だったのに、なんであそこから怒らせるんですか……」

 俺の横にやってきた喜乃ちゃんがそう言って大きなため息をつく。

「いや、あたしはよくやったと思うぞ。イズモ相手に真面目にキスしようと頑張っただろ?」

 楓さんは立ち上がると浴衣のすそを絞りつつそんなことを言いながら魔法を使って湯畑から空中を歩いて道まで登ってくる

「いや、イズモちゃん相手以外で頑張っちゃダメなことですからね、それ」

「楓様はイズモさんの顔をじっと見ていると笑い出すという悪癖があって、そのせいでうまくいかないのだ」

 鈴奈ちゃんがそう言ってやれやれと肩をすくめて首を振る。

「イズモちゃんの顔ってそんなに面白いですかね。普通に可愛いと思うんですけど」

「いや、あのな朱莉。例えば……そうだな……朝陽が食事もとらずに女の顔してキスをせがんできたら笑うだろ?」

「いや、普通にドキドキしますよそれ」

 食事の代わりに食べられるんじゃないかとビクビクするけど。

「えー……じゃあ…そうだなあ。彩夏だったらどうだ?」

「だから普通にドキドキしますよ」

 どっちもトキメキ半分、後で柚那にばれないか半分だけど。

「ていうか、ふたりともちゃんとかわいいのに朝陽と彩夏ちゃんに失礼でしょうが」

「いや、可愛くないって言っているわけじゃなくてさ。その……なんていうか、あー……喜乃、頼む」

「はいはい。楓さんの場合、イズモさんと付き合いが長すぎて、いまさら改まってなにかしようって考えると、何しようとしても照れてしまうと。そういうことらしいですよ」

「付き合いが長いっていったって、三年かそこらでしょ」

「15年」

「え?」

「あたしとイズモは知り合ってもう15年だからさ。ほんと、いまさらなんだよな。一緒にいるのが普通で特別に何かしようとかそういう気にならん」

 付き合い長いっていうか、幼なじみじゃねえかそれ。

「地味で気むずかしくて自分にだけ心をひらいてくれるお笹馴染みとか超萌えるだろうに。楓さんは一体何を言っているんだ?」

「むしろ朱莉さんがなにを言ってるんですか」

「あれ?もしかして口にでてた?」

「全部モロっと」

 喜乃ちゃんにツッコまれ、鈴奈ちゃんにダメおしされた。

 むしろそこはいい、問題はこれは柚那が拗ねるパターンだということだ。絶対『幼なじみじゃなくてすみませんでしたね』とかなんとか言ってくるぞ。

「……って、あれ?柚那は?」

「イズモさんのフォローに行くって言ってましたよ」

「あ、ああ……そう」

 怒られなくて良かったような、ちょっとさみしいような。

「とにかく。イズモちゃんだって決戦を前にして不安じゃないわけがないんですから、もうちょっとまじめに優しくして上げたほうがいいんじゃないですか?」

「努力はしてるんだけどなあ……」

「だ、そうだけど二人から見てどう?」

「努力不足」

「努力の方向性が間違っている」

 物言いに遠慮がないな、二人とも。

「でも15年って、小学校のころから一緒ですよね?逆にこう、成長していく相手を見てた分ドキっとするとかそういうのないんですか?」

 そんな幼なじみいないからわからないけど。

「学校は別だよ。あいつは薙刀の師範やってた祖母さんにくっついて薙刀教室にきてて、俺はその隣でやってた剣道教室に通ってたんだ。そんな感じだから道着着て薙刀振り回してるあいつしか印象にないからなんか意識するとかそういうのはなかったな」

「いや、ほら道着の上からでもわかるような胸の成……」

 ……長はしてないな。イズモちゃんの場合。メイクが上手いとかそういう印象もないしなあ。なまじ素材がいいからそういう努力が必要なかっただけかもしれないけど。

「いや、そもそも楓さんが貧乳大好きなのってイズモちゃんの影響じゃないんですか?」

 今の関西メンバーみんな貧乳だし。

「いや、俺はどんな胸でも愛しているぞ。おっぱいは尊いものだからな」

「そうっすか……」

 ダメだこの人、早く何とかしないと。

「胸の話はいいのだが、楓様はフォローにいかなくて良いのか?」

 この場で唯一の純粋な女性である鈴奈ちゃんが言う。

「この場合、失敗したことよりも後のケアをしないほうが深刻なことになると思うのだが」

 確かに柚那と喧嘩した後も喧嘩そのものよりも後のことで怒られることのほうが圧倒的に多い気がする。

「俺も行ったほうがいいと思いますけど……楓さんうまくできます?」

「できない!」

 なぜこの人はここで胸を張ってしまうのか。

「私も楓さんにはできないと思うんで、なんか別の手を考えたほうがいいかもしれないですね」

 俺も同意見だし、なによりこの中でイズモちゃんに次いで付き合いの長い喜乃ちゃんが言うんだから間違いないだろう。

「……柚那に頼んどくか」

 柚那に電話をかけるためにスマートフォンを取り出すと丁度その柚那から着信が入った。

「どうした?」

『あ、あのですねイズモちゃんがですね』

「イズモちゃんが?」

『楓さんと別れるって……』



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