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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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あさきゆめみしよいもせず 3

「つまり、尾形三佐はかわいいかわいい言われるのが嫌で頑張って逞しくなったってことなんですね」

 移動したリビングでここ10年ほどのユキリンの話を聞いた狂華さんが「わかるなあ」と言いながらうんうんと頷いてユキリンから見せてもらっていた写真を返す。

 そういえば狂華さんも頑張って逞しくなったくちだったっけ。

「そうなんですよ。そうしたら身長もぐんぐん伸びて。ただ、それはそれで男に言い寄られることが多くなってしまって、逆に女性には怖がられるしでなかなか結婚もできなくてこの年まで独身ですわ」

 ユキリンはそういって朗らかに笑う。

 まあ、確かに女性目線から見ると190センチってかなり巨大で怖いと思う。

 さっきもすごい圧迫感あったし、抱きしめられたらすっぽりとユキリンの腕と胸の中だったし。

「そこで相談なんですけど、先輩。僕と付き合ってください!」

「いきなりかい!」

「高校時代からきめてました!」

「嫌すぎるわ!」

 男子のころから好きだったとか言われてもなあ……というか、そもそも俺に男性と付き合うつもりなど微塵もない

「やっぱりダメですか」

 ユキリンのほうも本気ではなかったらしくそういって「あっはっは」と笑うと今度は狂華さんのほうに向きなおった。

「狂華さん、ずっとファンでした!よろしくお願いします!」

「見境なしかよ!」

「ええっ!?いや、その……」

「人の女に手を出すのはやめてほしいんだけど」

 どう答えたらいものかと困っていた狂華さんに、いつの間にかリビングにやってきた都さんが助け舟を出す。

「お戻りでしたか、宇都野陸将補殿」

「お戻りよ、尾形三佐。まあ仲良くやってくれているみたいで安心したわ。さっき朱莉が『お前だれだー』とか言ってたから人違いか何かかと思ったけどそういうことじゃないのね」

「いや、だって都さん。こいつ高校時代はこんなんだったんですよ」

「こんなんって……もったいねえっ!ちょ、尾形三佐。あんたこれ人類の損失よ。こんな美少年がこんな……こんな…」

 写真を見た都さんは目の前の実物と何度も繰り返し見比べた後、膝から崩れ落ちる。

 いや、そこまでのことじゃないと思うけど…本当にこの人は美少年とか美少女とか大好きだよな。

「それはそうと都さん。チアキさんは大丈夫ですか?」

「メイク直してから来るって。なんとか立ち直ってくれたけど、しばらくは気を付けてあげてね……特に朱莉」

「すみませんでした」

「よろしい。それじゃチアキさんが来るまで今回の総括いこうか」

「……やるんですか。結構日にちが経っちゃってるし、もうよくないですか?」

「やるのよ。はい、じゃあ報告」

 わかっているくせにやらせるんだよなあ。この人。

「まず俺が愛純が傲慢の魔法少女なんじゃないかって疑ったのは朝陽の暴走の時です。もっとはっきり言っちゃえば保健室に行く前にはもう疑ってました。確信したのはユウがアユは俺たちの中にいるっていう話をした時ですね。」

「随分前ね。なんでそんな相手に柚那を任せたの?」

「愛純がわざわざ正体を隠して近寄ってきたとしたら、その日何かするとは思えなかったからですね。それよりも気を失っている柚那を暴走している朝陽のすぐそばに置いておくほうがよっぽど怖かった」

「なるほど、わからない話じゃないわね。今月まで放っておいたのは?」

「幸せ魔法少女計画を去年の年末に考え付いて、それでですかね。穏便に仲間になるならそのほうがいいかなって思って。寮でも学園でも俺以外に対してなにかするようなこともなかったですし、俺が我慢すればいいかなって感じで。あとは、姉妹関係になって、俺のほうに愛純に対する愛着みたいなものがわいたっていうのもあります」

「好きになっちゃったと」

「平たく言えば。なので愛純を柿崎くんにとられたのは面白くなかったりします」

 自分でやっておいてなんだが、二人が付き合うことになったって聞いたときには、娘を嫁に送り出した気分だった。

「はっ、自分でおぜん立てしたくせに」

「もうそれは朝陽にも柚那にも散々言われたんで勘弁してくださいよ」

「愛純についてはわかったわ。鈴奈のほうは何したの?」

「彼女については俺は本当にノータッチです。楓さんが勝手に追いかけて勝手に捕まえたって感じなんで、楓さんに聞いてください。管理も関西というか、楓さんに一任するって聞きましたけど?」

「ん……まあ、そう。そうね……関西なのよね……」

「関西だと何か問題があるんですか?」

「別にないけど。それより朱莉のお陰でこの半年間だけでかなりの戦力アップになったわね、ありがとう」

「個人的には全部予定調和って気がするんですけどね」

 朝陽が仲間になったのも、どうやったのか愛純がこちらの陣営に潜り込んでいたことも、和希が仲間になったのも。

 橙子ちゃんに関してはユウも言っていたように予定外だった気がするが、鈴奈ちゃんも近接無双の楓さんが相手とは言っても、ハッキリ言ってしまえば口ほどにもなかった。

 もちろん、彼女たちとの戦いが俺たちのパワーアップにもつながっているところもあるし、彼女たち自身が加わってくれたことで戦力の増強もできているのだが、それでも話ができすぎていると思わざるを得ない。

 まるで、誰かが最初から筋書きを作っていたかのような。そんな違和感を感じる。

「後二人、頑張って仲間にしてね」

「あと一人じゃないんですか?」

「え?」

「いや、都さん先月、後三人って言ってたでしょう?」

 もともと愛純のことに気がついていたとすれば辻褄があう話なのだが、なんとなく気になっていた。

「それは、愛純を数えずに三人ってこと。私も愛純については先月の時点で気がついてたってだけの話でしょ。揚げ足取りなさんな」

 都さんはそう言って肩をすくめる。

「そうやって細かいところを気にして考えすぎるとハゲるわよ」

「ま、考えすぎならいいんですけど。もしかしたらもう既にユウと都さんの中で密約ができててユウは寝返り済みみたいなことなんじゃないかと思って」

 だとしたら、ユウ対策に振り分ける労力を自分のパワーアップや、まだ見ぬ怠惰の魔法少女対策に振りたい。

「そういう密約があったら逆に絶対言わないわよ。だってそれならユウにスパイとして動いてもらったほうが何かとお得でしょ」

 ああ、そうだ。この人はこういう人だった。今まで俺が七罪を引き込んでも何も言わなかったどころか受け入れ環境を整えてくれていたが、それはあくまで俺が七罪を裏切らせたから。

 都さんとしては、というより司令官の立場としてはスパイとして働いてもらって情報を貰ったほうがいいに決まっている。

「納得してくれたみたいね。じゃあ総括はこのへんにして、来月の温泉旅行の話をしましょうか」

 パッと表情を切り替えた都さんはそう言ってトートバッグの中からパンフレットを取り出した。

「本当は撮影なしで行きたかったんだけどね。どうせだったら撮影もしてドラマパートとして使おうって上に押し切られちゃってさ。でもその分二泊にできたから、撮影をちゃちゃっと片付けて羽を伸ばそうってことで。朱莉達関東チームは湯畑からはちょっと離れているけどちょっと高いところにあるこのいい感じの旅館ね。で、関西が湯畑のほうで、東北がここ。他のホテルを護衛艦クルーや撮影スタッフで振り分けるんだけど…ちなみにユキリン」

「なんでしょうか宇都野陸将補殿」

「ああ、そういう堅苦しいのいいから。任務中以外は都さんでいいわ。それと、あなたのほうが年上だし別にタメ口で構わないし」

「そう…ですか?」

 さすがにすぐにタメ口というのははばかられるのだろう。ユキリンのしゃべり方は少しぎこちない。

 よし、ここは俺が一発見本を見せて……

「あ、そうそう。朱莉はタメ口ダメよ。あんたすぐ調子に乗るから」

 言う前に釘を刺されたでござる。

「護衛艦クルーって何人いる?」

「323名です」

 都さんの質問にユキリンが即答する。

「えーっと……うん。じゃあ護衛艦組はこのホテルね。男女の割合だけ後で教えて。部屋割りとか浴衣やらアメニティやら色々用意しなきゃだから。それと通行人役とかエキストラで何人か借りたいから20人くらい希望者募っておいて」

「わかりました」

「私と狂華とチアキさん。それにニアは関東組と一緒。関西には小金沢、東北にはシノが一緒に泊まるから」

「……マジで空っぽにするんすね」

「前にも言ったけど連絡将校組とDが守ってくれるから大丈夫よ。人数は減るけど七罪もあと二人だけだし余裕でしょ。ああ、なんだったらユウを温泉に呼んでもいいわよ。どうせ怠惰は今までの感じだとダラダラしててやる気なんてないんだろうから」

 怠惰の子に関しては激しく同意だけど。

「でも都さん、狂華さんと二人で泊まらなくていいんですか?」

「は?泊まるわよ。そこの旅館は基本二人部屋しかないし。そういうわけで私と狂華は二人部屋ね」

「やったぁ!ありがとうみやちゃん!」

「………ちなみに、関東組って?俺たちだけじゃないっすよね?」

 少なくともあかりとみつきちゃん、それに和希はこっちだろう。

「私、狂華、チアキさん、柚那、朱莉、朝陽、愛純、あかりちゃん、みつき、和希、夏樹、はるな、光、霧香、それに深雪と和桜と霞と真白ね。それとさっきも言ったけどニアは関東組の宿に泊まるわよ」

 ちなみに和桜ちゃんは千葉、霞ちゃんは茨城、真白ちゃんは長野の魔法少女だ。

「あれ?山梨は?」

「笹実は静岡の翠と一緒がいいっていうから中部組」

「ああ、いつも仲良しですよねあの二人。はるなちゃんと光ちゃんにも見習って欲しいくらいですよ」

「あの二人のはあれは様式美でしょ」

 朝陽が二人を説得した後、いないところで悪口を言ったりすることはなくなったが、それでも素直になれないのか顔を合わせると喧嘩ばかりしているらしい。まあ、顔を合わせると素直になれなくて表面上喧嘩しているだけと考えれば様式美と言えなくもない。

「それはいいけど、部屋割りはどうするの?結構大所帯だし、仲がいい悪いもあるでしょ」

 そう言っていつの間にかリビングにやって来ていたチアキさんがテーブルの上のパンフレットを取る。

「……ちょっと都。この旅館10室しかないわよ」

「そうね。ちなみに本部常勤の連中。それに黒服なんかも行くから宿のキャパがギリギリで他の宿に移るという選択肢はないわ」

 つまり、残り9部屋で17人。これは部屋割りが結構大変そうだ

「どうしましょうかね。俺と柚那で一部屋使うとして……朝陽と愛純、仲の良い和桜ちゃん霞ちゃん…はるなちゃんと光ちゃんは荒療治で同じ部屋にして、意外と仲がいい佐須ちゃんと、深谷さん。あかり・みつきちゃんで…チアキさんと和希。深雪ちゃんと真白ちゃんでニアさんが一人かな」

 和希の扱いが結構微妙だけど、元男子をあかりやみつきちゃんと同じ部屋にするというのもあかりが嫌がりそうでなあ。かと言って一人というのも…

「私は和希と一緒なのはかまわないけど、和希のほうがあぶれたみたいで嫌じゃないかしら」

 確かに和希とチアキさんの組み合わせだと、クラスで二人組を作ったらあぶれて先生と一緒みたいな感じがしないでもない。

「……あかりに頼んでみます」

 本当だったら俺が和希とっていうのが一番平和なんだろうけど、元々の目的が柚那との温泉旅行だった以上、ここで俺が代わっちゃうのは違うと思うし、和希も逆に遠慮すると思う。

「せっかくの旅行だし、和希のためにもそれがいいと思うわ。よろしくね、朱莉」

 そう言って俺の方をポンと叩いたチアキさんはもうすっかり平常運転だった。

「了解です」

「それじゃ部屋割りがなんとなく決まったところで、チアキさんに護衛艦の艦長を紹介するわね。こちら尾形由紀三佐。朱莉とは高校の先輩後輩なんだってさ」

「へえ、世の中って結構狭いわね。鷹橋チアキです。よろしく、尾形三佐」

 そう言って握手を求めて笑顔で差し出すチアキさんの手をユキリンが握り返す。

「よろしくお願いします。鷹橋二尉」

 と、ユキリンが挨拶した途端にチアキさんの顔がみるみる紅くなっていく。

「あ、あああああのっ、そのっ。やだ……尾形三佐は恋人とか…その…いますか?」

 もじもじとそう尋ねるチアキさんの顔は完全に恋する乙女モードだ。

「いやあ、職業柄洋上での生活が長いせいか、残念ながら良いご縁がなくて恋人いない歴もだいぶ長くなってしまいました」

 そう言ってはっはっはと笑うユキリンはチアキさんの視線に気がついていないがチアキさんの顔は益々紅味を濃くしている。

 あれはどう見ても頭のなかでリンゴーンと鐘がなっている顔だ。

「ねえ、狂華さん。もしかしてチアキさんって……」

「うん、声フェチだよ」

 そっちか。

 確かに黒須さんいい声だし、ユキリンもいい声だもんなあ。

 それにさっき、ユキリンは恋人にするなら年上がいいとか言ってたし、ぴったりかもしれないな

 しかしこんなに早くチアキさんが立ち直るとは……まあ、いいことなんだけど……いいことなんだけど心配して損した!

 

 

 翌日、チアキさんから先輩命令と称して何度かユキリンへのコンタクトを取らされたり、しばらくして後輩からのお願いということでユキリンが俺を介してチアキさんにコンタクトを取りたがって『もういいからお前ら直接やり取りしろよ!』と俺がキレるのも、また別のお話。




 

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