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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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After Valentine1

「朱莉さん、これどうぞ!」

 愛純とあれこれあった翌日の朝。

 バレンタイン当日に姿を見かけなかった朝陽が部屋にやってきて可愛らしい包みを渡してくれた。

「お、チョコか。ありがとうな朝陽」

 チョコ好きの同志として一緒に限定チョコ食べ歩きなどをしていたので朝陽からはなしかなと思っていたのでこれは嬉しい誤算だ。

 ちなみに俺の方は全然用意してなかったりするが、食べ歩きは俺が奢ったしいいだろう。

「ホワイトデー、楽しみにしていますわね」

 そうだった。この国にはそういう悪しき習慣があったのだった。

「そういえば昨日は姿を見かけなかったけど、どうしていたんだ?」

「ああ、ちょっと出かけていまして」

 この寮は足がないと出かけるのが難しい立地ではあるものの、朝陽はちょっと前に二輪の免許を取ってバイクも買っていたりするので俺や柚那が乗せていかなくても外出することはできるし、最近は一人でちょくちょくツーリングにも行っていたりする。

 ちなみに愛純も免許を取ろうとしたが、車もバイクも全くダメだった。というかオートマ運転できない人っているんだということを初めて知った。

「どこに行ってたんだ?」

「え!?えーっと……」

 なんだなんだ?なんで嘘をつこうとしてるんだこいつは。

「ちょっと東北寮へ」

「嘘つけ」

「な……そんな、嘘なんてついてませんわよ」

「いや、完全に今考えましたって顔してたろうが。で?どこにいってたんだ?」

「まあ、それはいいではありませんか。乙女の秘密ということで」

 朝陽はそう言うが早いかくるりと回れ右すると、廊下を走り去っていった。




 ドラマパートの撮影日ということで、朝食の後、学園にやってくると制服姿のセナと彩夏ちゃんを発見した。

「よーっす、彩夏ちゃん、セナ」

「うっす、朱莉さん。はい、一日遅れですけど」

 そう言って彩夏ちゃんはすかさずチョコの包みを差し出した。

 さすがわかっていらっしゃる。

「お主も悪よのう。ホワイトデーのお返しは楽しみにしているとよいぞ」

「ははーっ、有難き幸せ」

「……何やってるんです?」

 セナが俺と彩夏ちゃんの小芝居に冷たい視線を向けながらツッコミを入れる。

「悪代官ごっこ」

「じゃあこのあとは朱莉さんが喜乃の帯をもってグルグル回す感じで」

「喜乃を巻き込むのはやめてあげなさい」

 セナはそう言って彩夏ちゃんの頭にはチョップを、俺にはチョコを繰り出した。

「はいこれ。私からです」

「いいのか?」

「いや、先週くれくれって言ってたの朱莉さんでしょう」

 そうでした。

「二人共ありがとうな。大切に食べるよ」

 彩夏ちゃんの包もセナの包も市販のものではない感じのラッピングなのでおそらく手作りなのだろう。

 今年は女の子 (しかもみんなかわいい)からのチョコが豊作で非常に嬉しい限りだ。

「あ、そうそう。昨日って、朝陽そっちに行ってないよね?」

 別に朝陽を疑っているとか行動を探るつもりとかそんなのはないのだが、朝の朝陽の態度がちょっと気になったので一応確認してみる。

「来てないっすよ」

「だよなあ」

 なんであいつ嘘ついたんだろう。

「朝陽が何か?」

「あ、いや。別になにってわけじゃないんだけどね。俺はバイクで雪道は無理だろって言ったんだけど、朝陽はできるとか言っててさ」

「ああ、あの子はできますよ。昨日は来てないですけど先週は来ましたし」

「え!?できんの!?ていうかスタットレスとかも履いてないだろあのバイク」

 とっさに口をついたでまかせから驚きの事実が発覚だ。ちなみに朝陽はお気に入りのバイクをあのバイク呼ばわりされると怒るので、朝陽の前では名前で呼ばないといけない。

「あれ、知りませんでした?彼女最近バイクごと変身できるようになったんですよ。魔法でタイヤをコーティングすれば雪道もスイスイです」

「仮面ライダーかよ」

 魔法って本当になんでもありだな。

「でもまあ、昨日は行かなかったんだな?」

「ええ」

「はい」

「そっか。サンキューな。俺、ちょっと用事思い出したから済ませてくるわ」

「朱莉!」

 いったん二人に別れを告げてその場を離れようとした俺の名前を呼ぶ影が、屋上にひとつ。

 目を凝らしてその人影が誰かを確認してげんなりした俺は、見なかったことにして二人にもう一度向き直った。

「じゃあ、二人共チョコ本当にありがとうな」

「いえいえ。私のはホワイトデー目当てですから」

「私のは純粋にいつもお世話になっているお礼ですから。ほ、ホワイトデーなんて別に楽しみにしてませんから」

 あ、二人も見なかったことにするんだ。

「朱莉!」

「じゃあね」

「あ、ちょっと待ちなさいよ朱莉!」

「……なんすか精華さん」

 なんとかと煙は高いところが好きとは言うけど何もそんな高いところに立たなくても。

 というか、運動神経最悪でどんな降り方しても……下手すりゃ降りようとしなくても落っこちるのが関の山なんだからそんなところから登場するのやめればいいのに。

「今降りるからちょっとそこで待ってなさい!」

 精華さんはそう言って校舎の横に備え付けられている雨樋を伝って降りてくる。

 その様子は正直ちょっとかわいいが、パンツが丸見えな上に落ちそうで怖い。

「ああ…落ちそう。精華さんの運動神経じゃ危ないよな」

 そう言って二人の方を見ると、二人とも顔を伏せて精華さんのほうを見ないようにしていた。

 いや、気持ちはわかるけどさ。

 5分ほどしてなんとか飛び降りられる高さまで下りてきた精華さんは『とうっ』という掛け声とともに飛び降りたが、やはりお約束通り着地は顔面からだった。

「……で、どうしたんですか精華さん」

 こんな人でも一応先輩なので助け起こしてハンカチで顔を拭いてあげながら訪ねると、精華さんは制服のポケットから真ん中で折れた包みを差し出した。

「はいこれ。寿から聞いたんだけど朱莉ってチョコ大好きなんでしょ?あげるから感謝しなさいよ」

「どうも」

 ちなみにこのどうもは『どうもありがとう』と、『どうも裏がありそうなんだよな』の略だ。

「ホワイトデーはちゃんとしてよね」

「はいはい。っていうか、なんで俺なんです?ひなたさんじゃなくていいんですか?」

 確かちょっと前まで桜ちゃんと奪い合っていたと思ったんだけど。

「あ、ちょっと朱莉さん……」

「その話題は……」

「はは……ひなた…ひなたね……」

 精華さんの自暴自棄な表情と、アチャーという表情のセナと彩夏ちゃんの表情から俺はどうやら地雷を踏んだらしいことに気がついた。そして

「ひなたぁぁぁぁっ!あのやろぉぉぉぉっ!」

 次の瞬間、精華さんのキャラが完全に崩壊した

「お前もか!お前もか朱莉ぃぃぃっ!」

「なにこの人超怖い!」

 精華さんの手が俺を捉えようと動いた刹那、セナと彩夏ちゃんが精華さんにタックルして押し倒し、上に乗っかって阻止した。

「逃げてください朱莉さん!」

「今の精華さんはマジでやばいっすよ!」

「お、おう。すまん二人共、何がなんだかよくわからないけど、必ず借りは返すからな!」

「いいから早く行ってください!彩夏、お姉さまと寿さんを。一緒にいるならついでに橙子さんも!全員で精華さんを正気に戻すわよっ」

「あいよっ」

 ……ひなたさんは精華さんに一体何したんだろう。


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