Arrogant Valentine 9
2月14日、現在の時刻は23:45。
結局、アユこと愛純を幸せにして七罪から抜けさせようプロジェクトは完遂した。
本日2月14日、お互いに作ったチョコを作りあった結果、愛純より柿崎くんのほうが上手く出来ていたというような些細ないざこざはあったものの、めでたく二人は結ばれた。もちろん純粋な意味でだ。
とは言っても、ユウまでつかって呼び出しをした手前、待ち合わせの場所に行かないということをするわけにも行かず、俺は新宿上空で一人で箒にまたがって浮いていた。
魔法で身体を覆っているので寒いということはないものの、深夜の新宿上空にぽつんと一人でいるというのは非常に心細い。というか、はるか下に見える沢山の灯りの下では数多のカップルがイチャイチャしているんだろうなとか思うと、心が寒くなる。
「今は、柚那の心遣いがありがたいや」
どうせ来ないんだから行かなくていいじゃないですかと言った柚那に、約束だから行くと言った俺に対して「そういうと思いました」と言いながら柚那がため息混じりに差し出したサーモマグには温かいチャイが入っていた。
いつから愛純を疑っていたかと言われれば、俺は徹頭徹尾最初から最後まで疑い続けていた。
そもそも、手術を受けたばかりの人間がいきなり学園に投入されるなんていうことはない。それに関しては芸能人枠か何かなのかなと納得しかけたものの、戦闘員をあっさり倒したあたりで疑惑が復活。さらには、朝陽との戦闘中にタイミング良く登場とくれば、もう疑わざるをえない。
愛純のほうも疑われているということにはうすうす感づいていて、武闘会の最中に自分のアリバイを作りながら怠惰の魔法少女の魔法で俺に戦いを挑むも、その分身が弱すぎて逆にアリバイ作りなのがバレバレになった。
その後は決定打がないままだったが、最後の後押しをしたのはユウの一言だ。ユウは柿崎くんのことは知らないと言ったが、愛純のことを知らないとは言わなかった。これは彼女が無意識に言ったのか、それとも嘘をつかないという俺との約束を守ったためかはわからないが、なんにしてもユウがあえて愛純について言及することを避けたのが俺の推理に自信をもたせた。
まあ、全部行きあたりばったりのご都合主義で俺が何かしたということはまったくないのだが。
「ま、なんにしても愛純と戦わなくて済んだのは本当に良かったけどな」
「と、思いますよね」
後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには愛純がアユの格好をして立っていた。
「……なんで来たんだ?」
「ああ、そうですね。この格好はちょっと違いますね」
そう言って愛純がくるりとその場で回ると、いつもの魔法少女の格好をした愛純が立っていた。
「いや、そういうことじゃなくて、なんで来たんだよ。俺はユウに『七罪を抜けたいと思うほど幸せになったら来るな』と言ったはずなんだけど」
「そうですね、あなたの言うところの傲慢のアユとしては文句なし、七罪を抜けたいって思わされるくらいに幸せになりました。…ただ、ですね」
「ただ、どうしたんだよ」
もうなんか愛純の表情を見る限り嫌な予感しかしないんだけど。
「宮野愛純としては甚だ不満です。朱莉さんの施しで柿崎さんと付き合えた。みたいなそんな感じがしていて、ハッキリ言えば朱莉さんに対して腸が煮えくり返る思いですよ」
「施しだなんて…だって愛純は柿崎くんとのお付き合いに腰が引けてたんだろ?」
これは柿崎君の話だけではなく、朝陽の証言でもそんなことを言っていたので間違いないだろう。
「だから俺はその後押しをしてあげようと思っただけなんだけど」
「してあげようっていうのがもう傲慢なんですよ!」
そう言って地面がないのに地団駄を踏む愛純の顔は非常にお怒りのご様子だ。
「じゃあどうすればよろしいのでしょうか」
「せっかくですし、決闘しましょうか」
「……えー……」
それが嫌だから色々やったのになあ。
「不満そうな声をだしてもこれは決定事項です。柿崎さんからも朱莉さんのこと一発殴ってくるように言われてますし」
「柿崎くんに!?なんで!?」
「『なんだかんだでうまくいったけど、やっぱり邑田さんの都合で付き合うタイミングを決められたのはムカつく。俺は女の子殴りたくないから愛純ちゃん代わりにやっておいてくれないかな』だそうです。柿崎さんって本当に優しいですよね」
いやいや、むしろ柿崎くんに殴られたほうが痛くないんだけど!?
「まあ、私もそんな本気でやるつもりはないんで大丈夫ですよ。軽いスパーリングですから……運動がてら突き合ってくださいよ!」
そう言って愛純は一気に俺との距離を詰めると正拳を繰り出した。
「今、『付き合って』が絶対『突き合って』だった!」
紙一重で回避したものの、愛純の拳には魔法が乗っていたのだろう。拳が当たっていないはずの俺の頬から一筋の血が流れる。
「逃げないでちゃんと受けてくださいよ!」
「おまえや楓さんと違って俺は空中で踏ん張りが効かねえんだよ」
たとえ踏ん張りが効いたところで直撃受けたらただじゃすまないから絶対避けるけどね!
「行きます……よっ!」
数十歩の距離が開いていたはずの愛純の拳が、次の瞬間には俺の目の前に迫る。
「テレポートって、本当にっ…厄介な!」
避けて距離をとってもそのすぐ後にはもう追撃が目の前に迫ってくる。これでは避ける方としてはたまったものじゃない。
「愛純は、今幸せか?」
「はいっ!朱莉さんを殴れたらっ!…もっと幸せだと思います!」
「恐ろしい、ことを、笑顔で言うんじゃないよ!」
箒にまたがるなんていう慣れない姿勢での戦いというのはやはり無理があるようで、少しずつだが愛純の攻撃が俺に当たり始める。
愛純のほうも、魔力の節約のためか、それとも単純にテレポートと同時に使えないのか、拳には魔法が乗っていないので殴られてもたいして痛くはない。だが、痛くないだけで、やはりボコボコ殴られるのは気持ちのいいものではないのは確かだ。
「反撃してもいいんですよ」
「あほ。かわいい愛純にそんなことできるか」
俺は一応ご機嫌取りを試みるが、愛純の攻撃は全く弱まる気配がない。
「逃げないでくださいってば!しっかりしたのを一発入れたら許してあげますから!」
「…………一発?本当に一発?」
「本当に一発ですってば」
「絶対に『これは私の分、これは普段から苦労かけられている柚那さんの分、そしてこれが柿崎さんの分だあああっ!』とかやらない?」
「……やりませんよ、そんなこと」
そう言って目をそらした愛純の顔は、明らかにやる顔だった。
「それにほら、日常系のマンガとかだとそういうことやっても、せいぜい身体に穴が空くくらいで死んだりしないじゃないですか。柿崎さんに聞いたんですけど、朱莉さんってそういうのがいいんでしょ?」
「そんなのがいいんじゃねえよ!ていうか身体に大穴開いたらさすがに死ぬわボケ!」
腕がなくなっても何とかなったけど、さすがにお腹に大穴開くのとかは勘弁してほしい。
「大体、私は途中から普通に七罪辞めるつもりになってたのに、わざわざ蒸し返したりするからこんなことになるんです」
蒸し返すって…そういえばまだ騙しててごめんなさいみたいな謝罪がないな。まあ、別にいいけどさ。
「いつから七罪を抜けるつもりだったんだ?」
「トゥリス結成のあたり…いえ、柚那さんがゆあちーだってわかった時にはもうなんか七罪とかどうでも良くなりかけてましたね」
「それ途中っていうか一番最初じゃん……」
それで大々的に登場した割にはその後あんまり出てこなかったわけだ。
いつ来るんだろうとか、どうやって味方にしたらいいんだろうとか色々考えていた俺の気持ちと時間を返してほしい。
「私にかまってくれない朱莉さんや柚那さんに腹を立てて世界が終わればいいなんて思ったこともありましたけど、なんだかんだ、この世界はそんなに悪くありませんでした」
「柿崎くんにも会えたしな」
「そうですね」
「なんだよ、もう照れもしないのか?」
「朱莉さんだって別に柚那さんのこと言われたって照れないでしょう?」
「そりゃそうだ。……さて、愛純」
「なんですか、朱莉さん」
「ぶっちゃけ俺もうあんまり魔力ないんだけど、まだ続ける?」
三十分くらい連続して飛び続けてる上に、愛純の攻撃をよけるためにちょいちょい急発進や急停止をしているせいでものすごく燃費が悪い。
「私のほうはそこそこ大丈夫です。朱莉さんの魔力があんまり残ってないならやめてもいいですけど、ちょっとまだすっきりしないんですよね」」
「………まあ、一発なら」
一発くらいなら全力で受けても地上に戻るくらいの魔力は残る。
「本当に一発だけな?それ以上はマジで落ちるから」
「わかりました。じゃあ一発で」
そう言って頷くと、愛純はこぶしに魔力を集め始める。
「いいか、七罪のお前はここで、この一発でおしまいだからな。地上に降りたらお互いもうこの話にはふれないっていうことで」
「はい!」
「よし、こい!」
俺も愛純と同じ要領で腹に魔力を集めて受ける準備をする。
「はああっ!」
気合の声とともに愛純のこぶしが俺に向かって放たれる。
かなり魔力を使って分厚く防御したつもりだったが、それでも愛純のこぶしは俺の腹にめり込んだ。
「ぐ……」
衝撃でチャイが出そうになるのを必死でこらえていると、愛純はそのまま腕を振りぬいて俺をふっとばす。
踏ん張りがきかず百メートル近く飛ばされたところでなんとか止まった俺が愛純のほうへと戻ると、愛純は肩で息をしていた。
「はあっ、はあっ……んで……ケロッとしてるんですか……殺す気とは言わないまでも、かなり本気だったのに」
「いや、かなり痛かったしケロッとなんかしてないんだけど」
むしろゲロっとしそうになったくらいだ。というか、今もまだ吐きそうだったりする。
「朱莉さんっていったいなんなんですか……?」
「愛純と同じ、ただの魔法少女だよ」
「ただの魔法少女にしてはおかしな耐久力だな」
俺が愛純のものではない声に振り返ると、そこには憤怒の魔法少女、鈴奈ちゃんが立っていた。
「お前の測定値で、橙子や愛純の攻撃に耐えるというのは甚だおかしい……いや、おかしいでは足りないな。ありえない」
「そんなの、たまたま偶然橙子ちゃんと愛純の調子が悪かっただけさ」
俺は鈴奈ちゃんに軽口で答えながら、愛純に小さな声で話しかける。
「彼女ってどんな子?見逃してくれるかな?」
「無理だと思います。性格は戦闘モードの狂華さんみたいに融通が聞きませんし、こと戦闘好きという点においては楓さんをもっとこじらせた感じの子です」
最悪じゃねえか。
「愛純、お前ここから逃げて助けを呼んで来られるか?」
「……無理だと思います。背中を向けて逃げればその時点で背中から突かれます。…朱莉さんはどうです?」
「無理だな。さっきの防御が本当に最後っ屁で、もう浮いているのがやっとだ」
「まあ、どちらにしても。お前は今日ここで終わりだ。不安要素は取り除かなければならないからな」
鈴奈ちゃんはそう言って一度俺にやりの切っ先を向けるが「ああ、そうだった」と思い出したようにつぶやいた後、その切っ先を愛純に向ける。
「私は、裏切り者というのが一番許せない質でな。お前は必ず殺すぞ、傲慢の愛純」
「っ……」
愛純が息を呑む音が聞こえる。
「朱莉さん、私が戦っている間に逃げてください」
「ふざけんな!俺はお前を犠牲にしてまで生き延びるつもりはない!」
「それでも生きてください。あなたは、みんなにとって必要な人です」
「それはお前も同じだ。お前を犠牲にしたなんてことになってみろ、柚那にも柿崎くんにも合わせる顔がないだろ」
考えろ、この場を切り抜ける方法を、言い訳を、命乞いでも何でもいい。なにか方法を。
「麗しき友情、いや、師弟愛かな。……だが、そんなもので私の感情は揺れ動かない。私は貴様らに対する義憤によってのみ立っているからな」
鈴奈ちゃんの持つ槍の穂先に魔力が集中していくのが見える。
「せめてもの慈悲だ。二人まとめてあの世に送ってやる」
俺にも愛純にも攻撃を弾き飛ばしたり押し返すような余力は残っていない。なおかつ彼女は今までの七罪と違って話をするつもりもない。
万事休す。打つ手なし、力技も口八丁も通じない俺には彼女の相手をするような方法はもうない。
「死ねえっ!」
そんな怒号のような鈴奈ちゃんセリフとともに魔法が俺と愛純のほうへ向かって放たれる。
(愛純を守らなくては!)
そう思って俺は愛純を抱きしめるが、待てど暮らせど鈴奈ちゃんの魔法は襲って来ない。
俺が恐る恐る目を開けると、俺達と鈴奈ちゃんとの間に一人の魔法少女が立っていた。
黒い袴を身につけ、抜き放たれた刃を両手に持った彼女は顔だけこちらに向けると白い歯を見せてニッと笑った。
「おいおい、冗談じゃねえぞ朱莉。みゃすみんといい、鈴奈といい、お前はいったいどれだけあたしの大好きなものを持っていきゃあ気が済むんだ?」
楓さんはそう言ってカラカラと笑うと、こちらに袋を投げてよこす。
「これは?」
「柚那から二人にバレンタインだとよ。まだ練習中の魔法らしくて、思った通りの効果が出るかはわからないけど、多少魔力を回復してくれる薬だそうだ。二人共それ飲んだらちょっと離れとけよ」
そう言って楓さんは鈴奈ちゃんに向きなおると、両手に持った刀を構えて続ける。
「あたしは仲間に怪我なんてさせたくはないからさ」
やだなにこの人、超イケメン。
「じゃ、邪魔をするな、宮本楓!」
「うるせえ!こっちはみゃすみんに彼氏ができるわ、お前と絡んでたせいでイズモに叱られてバレンタインだってのに喧嘩になるわでイライラしてんだ。ストレス解消に付き合うくらいしろい」
そういった後、楓さんの姿はいつもの袴姿からプロテクター付きの姿へと変わり、その後また軽装に戻ると、今度は完全装備の甲冑姿へと変化した。
「楓さんの四段階変身!」
「知っているんですか!?朱莉さん!」
「いや、そんな男塾みたいな言い方されても…ていうかお前、実はかなり余裕あるだろ」
柚那特製の回復薬は効果てきめんで、かく言う俺も全開の半分くらいまでは魔力が戻ってきたりしているのでさっきほど死ぬかもしれないというような緊張感はない。
「武闘会の時も話したろ、狂華さんとひなたさんだけが引っ張りだしたっていう楓さんの究極フォームの話」
「あれがそうなんですか?」
「喜乃ちゃんとやった時の最後のが三段階目だから、もう一回変身した以上、あれが楓さんの本気ってことだろ」
「いや、100%中の100%がまだ残ってるぜ」
「どこのB級妖怪だよ」
ボケはしたものの否定しなかったところを見ると、あれが楓さんの4段階目の変身なんだろう。
正直な感想を言えば魔力がビリビリ伝わってきて、かなり怖い。
あの場所でだけ3倍の力が出るという橙子ちゃんの三倍モードと比較しても引けをとらないほどのプレッシャーだ。
「いつもいつも負けそうになるとちょろちょろ逃げやがって。いい加減ここらで決着つけようぜ」
「に、逃げてなど……」
憤怒なんて感情は今の鈴奈ちゃんからは微塵も感じることができない。
カタカタと構えた槍の穂先を震えさせている今の彼女から感じられる感情は、恐怖、恐慌、畏れ。そう言った感情だけだ。
「おいおい、そう怖がるなよ……お前は強いよ、あたしの足元にも及ばないなんてことはないさ。だからもうちょっと骨のあるところを見せてくれ。なあ、鈴奈ぁ!」
「う……うわああああっ!」
素人目にもやけくそと思われるような突きを繰り出しながら鈴奈ちゃんが突っ込む。
「……なんでえ、こんなんが鈴奈の本気なら変身しないで喜乃とやりあってるほうが楽しいな」
突き出された槍の先端に自分の刀の先端を押し当てて突進を止めた楓さんはため息混じりにそう言うと、おもむろに槍を払いのけて鈴奈ちゃんに詰め寄り、彼女の首筋に刀をあてる。
「これが今のお前とあたしの差だ。わかるか?」
首が動かせない鈴奈ちゃんは楓さんの問に目で頷いて答える。
「想像してみろ、あたしが今これをちょっと引くとお前の皮膚は切り裂かれ、血が吹き出し首は落ちる。それはもう容易くだ」
そう言いながら楓さんが押し当てている刀をグッと押すと、彼女の頬と足元からしずくが流れ落ちる。
「お前は負けた。わかるな?」
鈴奈ちゃんはポロポロと涙を零しながら再び質問に目で頷く。
「ならお前はもうあたしのものだ。あたしの部下になれ」
えー……なにその強引なの。強引っていうか、もうそれ脅迫じゃん。
「な、なります、部下でも何でもなりますからっ、だから殺さないでください」
鈴奈ちゃんも鈴奈ちゃんでさっきまでの威勢の良さはどうしたんだよ。
「なんていうかさ…」
「もうめちゃくちゃですね」
「だよなあ。完全に敵を脅迫しちゃっってるし、とても正義の魔法少女がやることとは思えない」
「ですよね。本当にカメラがはいってなくて良かったです。それに正義云々をおいておいてもこんなの私と朱莉さんが主役の話を楓さんが横から奪っていったみたいな感じで納得行かないですし」
俺と愛純が顔を見合わせてため息を付いていると、おもらしをした鈴奈ちゃんの首根っこを掴んだ楓さんがニコニコ顔でやってきた。
「サンキューな、朱莉。お前のやり方を真似させてもらったら関西の戦力が増強できたわ」
「俺のやり方はそんなやり方じゃねえよ!」
俺のやり方はこう、相手の立場にたって、懇切丁寧に心のケアをするというやり方だ。断じて力づくで脅して無理やり仲間にするなんていうことはしていない。
「え?だって朝陽の時は柚那使って追い込んで、和希の時はあかりを使って追い込んだんだろ?それに東北の橙子だっけ?あいつの時もボコボコにして泣かせたって聞いたぜ」
「誰に聞いたんですかそんな嘘」
間違ってはいないけど悪意のある噂の広め方だ。どうせ広めたのは寿ちゃんだろうけど。
「相馬の旦那」
「ひなたああああああっ!」
あの人は俺になんか恨みでもあるのだろうか。あの人とは今度じっくり話す必要がある気がする。
「……まあ、あの人には後で抗議するとして、楓さんはどうしてここに?」
「ああ、イズモと一緒に東京に買い物に来てたんだけど、街中でこいつがいるのを見かけたから追いかけてきたんだよ。そうしたらなんと朱莉とみゃすみんがバトってて、そこに鈴奈が横槍入れたからあたしも横槍入れさせてもらったってわけさ」
ああ、つまり楓さんがイズモちゃん放ったらかしで鈴奈ちゃんの尾行を初めて、それでイズモちゃんがキレたのね。納得。
「ちなみに、どこから聞いてました?」
「ああ……あたしは何も聞いてないから心配すんな。都さんにもそう言っとくから」
「すみません」
「何も聞いてないって言ってるだろ。なあ、鈴奈も何も知らないよな?」
「え?え?何がだ?何の話だ?」
「何の話でしょうか、だろ?」
「何の話でしょうかご主人様!」
「愛純は元アイドルのみゃすみんで、俺達の仲間の宮野愛純だって話」
「え、だって愛純さんは七……」
「あ?」
「現在過去未来どこを探しても七罪に宮野愛純さんはいませんっ!」
結構良いキャラだったのに、この子もキャラ崩壊か……寒い時代だな。
「だ、そうだ。元七罪がこう言ってるんだからそうなんだろ」
「すみません気を使わせてしまって」
「別に気なんか使ってないっての。んじゃ、あたしは小金沢さんに鈴奈捕獲したって報告に帰るから。じゃあな、ハッピーバレンタイン」
楓さんはそう言って鈴奈ちゃんを引きずりながら背中越しに手を振って去って行った。
「……柚那も柿崎くんも待ってると思うし、俺達も帰るか?」
なんか忘れているような気がするけど。
「そうですね、帰りますか」
「そうそう、柿崎くんとの付き合いは健全な範囲に収めとけよ。少なくとも寮の中では」
「朱莉さんだけには言われたくないですね、それ」
その後、地上に降りた俺達を見つけたイズモちゃんが楓さんに置いて行かれたことに気がついてブチ切れていたけど、それはまた別の話。




