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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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Arrogant Valentine 8

 翌日、最初からこうすればよかったんじゃんという位単純な方法…ぶっちゃけてしまえば黒服さんたちの更衣室の中で待ち構えるという方法で柿崎君を連れ出すことに成功した俺は、そのまま彼を俺の部屋へと連行した。

「なんです、いきなり部屋に連れ込んだりして」

「…一応聞くけど愛純じゃないよな?」

「え?愛純ちゃんがどうかしたんですか?」

 昨日の今日なので、いまいち信用していいものか不安だが、さすがの愛純と言えども、柿崎くんの身代わりになって男子更衣室に入ってくることはないと思うので大丈夫だろう。

「悪いんだけど、柿崎くんかどうかの本人確認をしてもいい?」

「本人確認って言われても…どうしたらいいんです?」

「俺達直属の元上司の名前は?」

「松川マネージャーですか?」

 正解!この柿崎くんは間違いなく柿崎くんだ!

「柿崎くん!会いたかったぜ!」

「えっ!?会うのそんなに久しぶりでもないですよね?ていうか、抱きつかないでくださいよ!邑田さんは今女の子なんですから、俺だって変な気分になっちゃいますよ!」

「あ、ごめん。マジでごめん。そういうつもりはないから変な気分にならないでくれ」

 昨日の今日でそういう話は聞きたくないので俺は慌てて柿崎くんから離れる。

「……なんなんです?」

 柿崎くんはそう言ってこっちを訝しげな表情で見る。

 …まあ、そりゃあ俺がこんな情緒不安定な感じでいれば訝しげな顔もするわな。

「昨日、君に化けた愛純に騙されてさ。それで、ちょっと人間不信になってるんだよ」

「なんで愛純ちゃんがそんなことを?」

「それはなんていうか……」

 愛純の気持ちはわりとバレバレなんだけど、柿崎君の気持ちってよくわからないんだよな。

「……柿崎君、今好きな子いる?」

「いますよ」

 これまたあっさりと言うなあ。

「ちなみに誰?俺の知ってる人?」

「愛純ちゃん」

 何の問題もなかった。

「よし、告れ。今告れ、すぐ告れ、はやく告れ!」

「い、いやいやいや。無理ですって、ついこの間フラれたばっかりなのに」

「……え?フラれたの?愛純に?」

「そうですよ。中部に行った時に朝陽ちゃんが気を使って二人にしてくれて、その時に告白ってやつをしてみたんですけど、ダメだったんです」



「ごめんなさいっ!」

 夜の飛騨高山。市内を流れる宮川にかかる橋の上で柿崎の告白を受けた愛純の返事はノーだった。

「こ、こっちこそごめん。急にこんなこと言って迷惑だったよね」

「迷惑なんかじゃないんです。私も柿崎さんのことは好きです。だから気持ちは嬉しいんですけど……でも、ダメなんです」

 魔法少女と黒服の間に特に恋愛に関する規定があるわけではないし、実際先ほどまで一緒にいた岐阜のご当地魔法少女の恋人は彼女に同行していた黒服だった。

 食事の後、朝陽が決死の覚悟で作ってくれたチャンスに柿崎が告白をしようと思ったのもその二人の関係を聞いた愛純が少し羨ましそうな顔をしていたように見えたからだ。

「柿崎さんの気持ちは本当に嬉しいんです。嬉しいんです……」

 愛純はそう言って俯いたまま黙ってしまう。

「……風邪引いちゃうし、旅館まで歩こうか」

 柿崎の言葉に愛純は俯いたまま頷く。

 愛純が頷いたのを確認すると、柿崎は彼女の手を取ってゆっくりと歩き出す。

 しっかり除雪してあると言っても、冬の山間部は冷える。

 月明かりの下、二人が吐いた息は白く色づくがすぐにその色も闇に消える。

「愛純ちゃん」

「……はい」

「俺に悪いところがあるなら直すから言ってくれ」

「ありませんよ、そんなところ」

 そう言って、愛純は柿崎の腕にしがみつくように体勢を変えた。

「俺って鈍感だから、そんなこと言われちゃうと真に受けちゃうし……考えが行き詰まっちゃうよ」

「柿崎さんの鈍感なところも、ちょっと情けないところも頼りないところも、別に悪いところじゃないんですから、悪いところなんてないんです」

「じゃあ、なんで?」

 柿崎の問いに愛純はしばらく黙ったままでいたが、やがて柿崎の腕を離し、数歩離れてから口を開く。

「……私、もうすぐ死ぬかもしれませんから」

 柿崎の腕にはまだ愛純のぬくもりと感触が残っていたが、柿崎はその残ったぬくもりや感触と同時に、喪失感も感じていた。

「私は柿崎さんの負担になりたくないんです」

「そんなの、俺だって明日死ぬかもしれない。それも愛純ちゃんたちみたいにこの国を守ってとか、人類のためにとかそんな大層な理由じゃなくて、滑って転んでとか、そんなくだらない理由で」

 柿崎はそう言って肩をすくめておどけてみせるが愛純はにこりとも笑わない。

「柿崎さんは、死ぬってなんだと思います?」

「悲しくて辛いことだと思う。だから人は死後の世界に救いを求めるんじゃないかな、悲しい別れをした人がここではないどこかで幸せになっていてほしい。そういう気持ちを込めてさ」

「私が死んだら柿崎さんは悲しいですか?」

「そりゃあ悲しいさ。せっかく仲良くなれた相手が死んだら誰だって悲しいだろ」

「どうなんでしょう。例えば明日の朝、柿崎さんが冷たくなっていたとして、私は本当に悲しめるんでしょうか。私なんかが誰かの死を悼むなんて、そんなのは―」

 何かを言いかけて、愛純は首を振る。

「いえ、きっと悲しむんでしょうね。でもそんなの私の感情じゃない気がするんです」

「人の死を悲しむのが愛純ちゃんらしくない?」

「ええ」

「そんなことないと思う。君は人のために泣ける子だ」

「それも演技なのかもしれない。というか、そもそも柿崎さんにそう思わせている私は本当の私なんでしょうか、柿崎さんが好きなのは本当に私?それとも私の演じている宮野愛純?」

「全部含めてじゃないかな。俺が好きなのは、俺の知っている愛純ちゃんだよ」

「それも含めて、きっと私の全部がウソなんですよ」

 愛純はそう言って自虐的な色の微笑みを浮かべた。


 ――

 

 

 

「それで?フラれた後はどうしたんだ?」

 フラれたと言った後の柿崎君の様子から察するに、なにかありそうな感じなのだが、何度聞いても彼はフラれただけとしか言わない。

「それだけですよ。あとは宿に帰ってそれぞれの部屋にもどっておしまいです。次の日の朝にはいつもの愛純ちゃんでしたし、それ以降は愛純ちゃんがずっと朝陽ちゃんにべったりで二人きりになる機会もありませんでしたから」

「理由とかなんか言ってなかったの?」

「自分はもうすぐ死んじゃうかもしれないからって言ってました」

 うーん…詳しいことはわからないけど、柿崎くんがもうちょっと押せば行けそうな気がするんだけどなあ。

「ちなみに好きな子って聞かれて即答するってことは柿崎くんはまだまだ愛純に未練があるっていうことでいいの?」

「そりゃあ、はっきりしない感じでフラれちゃいましたから未練はありますよ。でもあまりしつこくしてお互いやりづらくなるっていうのもちょっとどうかなと思いますし、もう少し時期を待とうかなって」

「ダメだ、それじゃ俺の企画が企画倒れになっちまう」

「邑田さんのメンツのためだけに俺と愛純ちゃんにくっつけっていうんですか?」

「おう」

「……邑田さんが朱莉ちゃんの姿じゃなければぶん殴ってますよ」

 そう言って俺の襟首を掴んで笑う柿崎くんの目は微塵も笑っていなかった。

「と、とにかく。頑張ってくれ、柿崎君。これは人の生き死にに関わる問題だ」

「俺と愛純ちゃんがくっつくことで何がそんなに変わるんです?」

「それは……色々だよ。愛純が言ってたもうすぐ死んじゃうを回避できるかもしれないし。…そ、そうだよ。死亡フラグって聞いたことないか?こういう事をすると、死んじゃうみたいなの。付き合いたいのに付き合わないとか、そういう心残りがあると、死亡フラグが立っちゃうんだよ。ましてや俺や愛純は4月の決戦を控える身だ。そんな愛純に死亡フラグ立てさせるつもりか?」

「なんとなく、聞いたことありますけど…うーん…でも、俺が聞いてた感じだと、くっついたらくっついたで死亡フラグが立つような…」

「そんなことない!」

 本当はそんなことあるけど。だけど、フラグが立ったとしてもそんなフラグは俺がへし折る。

「フラグを立てないためには柿崎君が頑張る必要があるんだ。それで道が開けるんだ」

「……邑田さんは死ぬってどういうことだと思います?」

 柿崎くんはしばらく考え込んだ後で突拍子もない事を聞いてきた。

「嫌なことだな。だから俺は誰も死なせたくないし、俺の手の届くところで誰かを死なせるつもりもない」

 あかりによれば、表向き俺が死んだ時の家族の状況はそれは酷いものだったらしい。

 前々から仲の良い家族だとは思っていたが、正直、俺が死んだ程度ならどうってことないだろうと思っていたところもあった。

 だから、結構な期間家族のことはすっかり忘れていたし、邑田朱莉という人生を楽しんでもいた。

 幸いにしてというか不幸にもというか、物心がついてから身近な人の死というものを経験していない俺には想像もつかないインパクトがあったようで、だからこそ俺が邑田芳樹だと知った時の両親や姉貴はメチャメチャ泣いたしメチャメチャ怒ったんだと思う。

 俺はもう一度家族にあんな思いをさせるつもりはない。それはもちろん柚那や他の仲間達に対しても同じだ。

 わがままを言わせてもらえれば俺はそんなつらい思いをしたくないし、つらい思いをしないためならなんだってやってやるつもりだ。

「死なせないって……言い切りますか」

「言い切るさ。俺は人が死ぬことで感動を誘うようなお涙頂戴のストーリーは大っ嫌いなんだよ。お気楽に平々凡々とずーっと続く日常系のマンガやアニメが大好きなんでね。悪いけど、柿崎くんにも愛純にも、柚那にも朝陽にも狂華さんにもチアキさんにもみつきちゃんにもあかりにも、みんなにその日常の一部になってもらうつもりでいる」

 世界には最終回なんてものは多分ない。あるとしたら人類滅亡エンドなのかもしれないが、おそらくそれすらもストーリーの中心であった人類の役割が別の存在にシフトするだけのことだろう。

 だったら、俺はまだまだこの先も人類のストーリーを見ていたいと思う。

 世界を見回せばしょーもないことも、むかっ腹が立つことも多々あるが、それでも俺は人間が好きだ。

「邑田さん、ちょっと変わりましたよね」

「まあね。なんて言ったって性別から変わってるからな」

「ドヤ顔で言う自分では気の利いているつもりのことが寒いってところは変わってないですけどね」

「そういうこと言うなよ。で、どう?俺の回答は」

「参考になりました。悪あがきかもしれないし、みっともないかもしれませんけど、俺も俺にできることがあるなら頑張ってみることにします」

「じゃあ…」

「愛純ちゃんにアタックしてみますよ。嫌われてるってわけじゃないんですから諦める必要もないですしね」

 そう言って笑う柿崎くんの笑顔はつきものが落ちたように明るくなっていた。

「よし、じゃあ俺から秘策を授けよう」

「いや、そういうのはいいです。邑田さんの秘策とかうまくいくイメージが全然沸かないんで」

「酷くない?」

「酷くないですよ。ていうか、むしろ言うこと聞いたら酷いことになりそうっすから。んじゃ、俺はこれから柚那ちゃんところ行くんで」

「ゆ、柚那?なんで?」

 馬鹿なの?死ぬの?

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よですよ。なんだかんだ愛純ちゃんと一番付き合いが長いのって柚那ちゃんでしょう」

「そりゃあそうだけど…」

「嫌われていたって別に殺させるわけじゃないですし。まああれですよ。娘さんを僕にください、みたいな」

 そんな軽い感じじゃないんだけどなあ…まあ、殺されはしないだろうけどさ。

「わかった。柚那は俺が説得するよ。けしかけた手前、そのくらいはケジメってことで」

 柿崎くんと一緒に靴を履いて廊下に出ると、そこには柚那が立っていた。

「あ、あのな柚那。違うぞ。俺は別に柿崎くんとなんかしてたわけじゃないからな。落ち着いて、穏便に話をしよう」

「……ごめんなさい、朱莉さんはちょっと黙っててください」

 そう言って柿崎くんを見る柚那の表情は硬く険しい。

「柚那…あのな―」

「黙っててください!…柿崎さん」

「なんだい?」

「愛純が元アイドルだからとか、そういうミーハーなつもりだったりしませんか?」

 柚那はどうやら俺と柿崎くんの話を立ち聞きしていたらしい。

「しないよ。むしろあの子がアイドルのみゃすみんだったらこんなに本気になってない」

「私の知っている愛純は裏表の激しい子ですよ。それだけじゃありません、その裏表すら演じこなすくらい嘘の上手い子です。そんな子の事、本当に好きなんですか?」

「素のあの子を見たことがあればそんなことは些細なことじゃないかな」

 柚那の問いかけにしっかりと応える柿崎くんには少し余裕があるようにすら見える。

「最後の質問です。愛純が何者でも、受け止められますか?」

 それは、俺が愛純と柿崎くんをくっつけたがっていた核心に触れる質問だ。

「ああ、彼女がたとえ七罪の一人でも受け止める覚悟だ」

 柿崎くんの言葉を聞いて、俺と柚那は一瞬言葉を失った。

「え……ええええええっ!?か、かかか柿崎さん!?」

「柿崎君、知ってたの!?」

「えっ?何がです?」

「えっ?」

 やべっ、ばらしちゃったかも。

「と、とりあえず俺の部屋に入ろうか。色々細かい話を説明するから」

「そ、そうですね!ささ、柿崎さん。ずずいと中に」

 幸いこの階には今は俺と柚那しか住んでいないが、廊下でワイワイやっていると、いつ上の階から朝陽や和希、それに愛純がやってくるとも限らない。

「ま、待ってくださいよ。今の話の流れだと……」

 まあ、そりゃあ普通は気づくよなあ。

「……なんとなく察したと思うからわかると思うけど、詳しい話はここじゃまずいんだ。ただ、一つだけはっきりさせておくと今キミの考えている通り、傲慢のアユは宮野愛純だよ」




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