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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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Arrogant Valentine 6

 二泊三日の行程を終えて帰ってきた俺と柚那は、同じ日程で中部地方を回って帰ってきた愛純と朝陽の間に明らかな主従関係が生まれているのを見てため息をついた。

「……あいつ失敗したな」

「しましたね、絶対。というか、私は朝陽には最初から無理だと思ってましたけど」

「ですよねー……ま、しかたない。ここはラブハンター朱莉こと俺が出張るか」

「………」

 おいおい、そんな顔するなよマイスイート。




 バリバリ警戒されている愛純に対するダイレクトアタックはどう考えても無謀だと思えたので、俺はまず柿崎くんから攻めることに決め、彼を俺の部屋に呼び出した。

「で、最近どうよ柿崎くん」

 俺は缶ビールでの乾杯の後、早速探りを入れてみる。

「どうよって言われても、普通っすよ」

 ビールを開けたものの、柿崎くんは口もつけずにテーブルの上に置き、俺の方を胡散臭いものを見るような目で見ながらそういった。

「最近恋してる?」

「……なんなんですか一体」

 あ、やばい。警戒されている気がする。

「いや、ほら。柿崎くんも男やもめが長いじゃん?だから、だれか気になっている子とかいないのかなーって。もしいるなら俺が力になってあげたいなーって」

「邑田さんに協力してもらうと、なんか逆にうまくいかない気がするんですけど」

「そんなことないって、俺はこれでもラブキューピッド朱莉と呼ばれているんだぞ」

 あれ?ラブハンターだったっけ?

「………」

 おいおい、柚那みたいな顔するのやめてくれよベストフレンド。

「とにかく、俺に任せてくれれば大船に乗ったつもりでいられるってことだよ。さあ、気になっている子はいないか?俺にこっそり教えてくれよ」

「邑田さんに任せないで、大船に乗ったつもり貯金していいっすか?」

 はっはっは。うまいこと言うようになったじゃないか柿崎くん。

「そう言わないで、これでも俺、魔法少女には顔が広いんだからさ」

「なんで俺の好きな人が魔法少女だって思うんです?」

「だって君の周りって、魔法少女しかないだろ。それともまさか黒服の誰かなのか?柿崎くんは男がいいのか?」

「いや……まあ、女の子ですけどね」

 そう言って柿崎くんは少し照れくさそうに顔をそむける。

 ここで照れくさそうにするということはやはり、共通の顔見知り。イコール新旧含めて関東メンバーの誰かということになるだろう。俺と狂華さんは元男。チアキさんは胸が大きすぎて柿崎くんの射程圏外、柚那は以前柿崎くんのことを明確に拒絶していたので多分ない。いや、ドMならあり得るが、彼はソフトMであってドMではない。

 え?朝陽?なにそれ美味しいもんでも食ってろ!

 俺はここで確信した。やはり柿崎くんは愛純が本命!

「彼女も柿崎くんのこと、絶対まんざらでもないと思ってるって」

「そうっすかね……」

「そうだって。俺が保証するからさ。ささ、決意表明ってことで俺に相手の名前教えてみ?」

「いやあ…やっぱり邑田さんには言いづらいっすよ……怒りそうだし」

「なんで俺が怒るのさ。別に怒りはしないよ。まあ、柚那だって言われたらさすがに焦るけど怒ったりしないって。それに大体、柚那じゃないんだろ?でも多分俺と君の共通の知り合いだ」

「ええ……まあ」

「チアキさんでも狂華さんでもないよな?」

 柿崎くんは照れくさそうに顔を赤くして黙って頷く。俺に言われても嬉しくないだろうが、これはちょっとかわいい。

 愛純はもしかしたら柿崎くんのこういうところを好きになったのかもしれないな。

「あ、忘れてた。この二人だったら俺怒るけど、あかりでもみつきちゃんでもないよな?」

「ち、違いますって!」

 柿崎くんは慌てて胸の前で手を振って否定する。

「一応聞くけど朝陽でもないよな?」

 まあ、朝陽はかわいいけど、柿崎くんの好みとはちょっと違うからこの線はないだろうけど。

「違います」

 キタキタキタぁーーーっ!盛り上がってきたぞぉ!

「よし、じゃあ柿崎君の口から言ってみようか!」

「えー……やっぱりなんか照れくさいですね」

「恋する乙女じゃあるまいし、言っちゃえ言っちゃえ」

 ここで愛純が好きだと宣言してくれれば俺も遠慮なくバックアップをすることができる。

 愛純には『柿崎さんの気持ちを朱莉さんが勝手に決めて余計なことしないでください!』と釘を刺されている。つまり、柿崎くんが愛純のことを好きだとはっきりすれば俺が動いても愛純の怒りを買うことはない。……ハズだ。

「………っす」

「聞こえないぞ。男らしくばーんと言っちゃえって」

「俺が好きなのは邑田さんですっ!」

 ………え?ムラタサン?ムラタサンって誰だ?

「俺の気持ち知ってて、それでもまんざらでもないと思ってくれてるんですよね!?」

 そう言って、柿崎くんがこちらににじり寄ってくる。

「気持ち知ってて、応えてくれる気で、だからそんな格好して俺のこと待っててくれたんですよね?」

「そんな格好って……」

 ああっ!最近部屋にいるとき柚那や愛純とばっかり一緒だったから普通になってて全然意識しないで着てたけど、このネグリジェ結構エロい。

「いや、ちょっとまて柿崎くん。早まるな」

「邑田さん……」

「だ、だからちょっと待て!うっとりした顔でこっちに来るなぁ!」

 俺はそのまま後ろへ下がるが、すぐに背中がベッドにぶつかってそれ以上下がれなくなってしまう。

「邑田さん…いや、朱莉さんが女の子になってから、ずっと好きだったんです」

「だからぁ!俺は今はこんな格好しているけど、邑田芳樹なんだぞ!?君の先輩だ。わかってるか?とりあえず落ち着いて目を閉じろそうして、邑田朱莉ではなくて、芳樹の顔を想像するんだ。もちろん身体もな。しっかりイメージできたか?できたら目を開けろ。そうするとあら不思議―」

「かわいい朱莉さんがそこに!」

「なんでや!」

 ここは元の俺がネグリジェ着ているのを想像して萎えるシーンだろ!?

「さっき、相手の気持は保証してくれるって言ってましたよね?」

「い……言った、けど」

 魔法少女の俺と、普通の人間である柿崎君の間には超えられないフィジカルの壁があるが、今ここでそれを使って彼を突き飛ばすのは人として違う気がする。というか、さすがに柿崎くんがけがをする。

 かと言って、このままでは彼の気持ちを受け止めなければいけなくなってしまうわけで……

「と、とりあえずストップ。な?今君は頭が混乱しているだけなんだ。だからとりあえず落ち着け。な?」

「そんなこと言って、目がうるんでるじゃないですか。……実は朱莉さんも期待しているんじゃないですか?」

 怖くて涙でてきただけだよ!ていうか、なんだその今まで見たことないキメ顔!あと人の顎を勝手にクイってやるな!クイって!

 何だお前!?乙女ゲーのヒーローかよ!

 色々言ってやりたいことがあるのに、上手く言葉が出てこない。

 そうこうしているうちに、彼の唇が触れていなくてもすぐそこにあるのがわかる距離まで近づいて、そして―

 

 

「なーんちゃって」

 そう言うと『ドロン』と、マンガのような効果音と煙を上げて、柿崎君は愛純に姿を変えた。

「ちょっとドキドキしちゃいました?朱莉さんったらまるっきり乙女みたいな反応するから、私、面白くてつい調子に乗っちゃいましたよ」

 そう言って愛純がニヤニヤとバカにしたような笑顔で俺を見る。

「お……お前なあ……」

「裏で色々やっておいて、まさか私に文句言うつもりですか?」

「……」

「言えないですよねえ、人の気持ちを決めつけるなって言ったのに、朝陽を使ったり、こそこそ柿崎さんを呼び出したり」

 う……正直、ぐうのねも出ない。

「朱莉さんが面白がってるだけっていうのはわかってますから、これ以上なにもしないならもう追求はしませんけど、まだ首を突っ込むなら本気で怒りますよ」

「ちょっと待てって。面白がってるっていう面が全くないとは言わないけど、愛純が柿崎くんのことを好きならちゃんと力になろうと思ってるんだぞ」

「……面白がってるんじゃなきゃたちが悪すぎます。余計なことしないで下さい」

「なあ、愛純。真面目な話、俺達には時間がないっていうのはわかってるよな?本当にこのままでいいと思っているのか?」

「それが余計なお世話だって言ってるんです!私のことなんてなんにもわかってないくせに!」

 愛純はそう言って離れると、そのまま黙って部屋を出て行った。

 まいったな。朝陽が勘づかれたのはわかってたけど、ここまで頑なだとは思わなかった。ここは誰かに教えを請うか……

 と、そこまで考えて、思い至った。愛純ってあんまり仲の良い魔法少女がいないや。強いて言えばセナと彩夏ちゃんだけど、二人もそんなに長いこと近くにいたわけじゃないしなあ……まあ、俺が考えこんでても話が進まんな。よし、とりあえず行動だ。

 

 

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