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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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Arrogant Valentine 5 

「……えーっと、なんでずっと黙っているのかな?」

「いえ、特に理由はございませんわ。私のことはお気になさらずに。ささ、お若いお二人はご歓談を」

 なんという鈍感でボンクラな男性なのでしょう。この私が気を使って景色の悪い後部座席でおとなしく黙っていてあげているというのに、わざわざこちらに話をふるなんて。

「あー…多分無駄なんでとりあえずスルーで。次のパーキングに寄ってもらっていいですか?」

「うん。了解」

 阿吽の呼吸!阿吽の呼吸ですわ!これは成功間違いなし!

 つまり朱莉さんが言っていた成功報酬、私の食べたことのないようなチョコもゲット間違いなし!

 ふふ…チョコに関してはかなりうるさい私が食べたことのないほどのチョコ…楽しみで思わず涎が止まらなくなってしまいます。

 …………ふひっ。

 …おっと失礼、取り乱しました。実は何を隠そう私、秋山朝陽は朱莉さんから命じられた『こっそり愛純と柿崎君の恋の後押しをしよう!大作戦』の真っ最中なのですわ!

 

 

 

 

 

 柿崎の運転する自動車が八ヶ岳PAに停車するや否や、愛純は柿崎に「ちょっとお花摘みに行ってきますね」と告げると、後部座席の朝陽を引っ張りだしてパーキングエリアの女子トイレへと駆け込んだ。

「あの、私は別にまだお手洗いに行く用事はないのですけれど」

 わけもわからず手を引っ張られてトイレに連れ込まれた朝陽はそう抗議をしかけたが、振り返った愛純の表情を見て言葉を飲み込んだ。

「あんたになくても私にあるのよ」

 平日ということもあり、幸い人気の少ないパーキングの女子トイレには朝陽と愛純の二人だけ。

「えーっと、なんでしょう」

「……私と柿崎さんのことでなんか余計なことしようとしてるでしょ」

(なん…ですって…?愛純は読心魔法は使えないはずなのにこれは一体…!?とにかくここは知らぬ存ぜぬを通すが勝ちですわ)

「さ、さあ、何のことかしら、朝陽わかんなーい」

 一応とぼけようとするが根が素直で普段からあまり隠しごとをしない朝陽の目はキョロキョロと泳ぎ、言葉も多少どもってしまう。

「目が泳ぎまくってるうえにキャラ崩壊しておいてとぼけられるつもりでいるなら、私のことなめすぎだから」

「で、ですから私は」

「余計なことすんな……わかった?」

 そう言って、愛純は朝陽の顔のすぐ横の壁を強く手で押してキっと睨みつける。

 その表情に朝陽は不覚にもちょっとドキドキしてしまう。

「なんであんたちょっと照れてるのよ」

「いえ、その……愛純が積極的なので。このあとはもしかして、勢いでキスですか?」

「………朝陽、あんた彩夏とのつきあいかた考えたほうがいいよ。それで?朱莉さんはなんだって?」

「あ、ああああああ朱莉さん!?朱莉さんがどうしてここで登場するんですの?」

「いや、どう考えても朱莉さんあたりが『よし、俺達の手で愛純と柿崎くんをくっつけてあげよう!』とか言い出したんでしょ。柚那さんがそんなこと言うわけないし」

「ば。バレてしまっては仕方ありませんわ。そう、何を隠そう私はあなたと柿崎さんをくっつけるために送り込まれた刺客その1!ですが、私を倒したからといっていい気にならないでくださいましね、私は刺客の中でも最弱!第二、第三の刺客が―痛っ」

 口上が終わるのを待たずに、愛純のチョップが朝陽の脳天を直撃する。

「なんで朱莉さんに負けた時と同じようなこと言ってるのよ…ていうか、そんなことじゃごまかされないからね」

「うう……朱莉さんは、この旅の最中に二人をいい感じにして、最後は二人一緒にホテルの一室に閉じ込めろって言ってました」

「チッ、余計なことを」

(柚那さんもですけど、元アイドルってみなさんこういう顔ができるんでしょうか。)

 朝陽がそんなことを考えていると、愛純がひとつため息をついてから口を開いた。

「朝陽、私が彼の事をどう思っているかはともかく、今回の仕事は私達三人の仕事なんだから朝陽が一人で後部座席に座ってムスッとしてたら、柿崎さんだって気を使うでしょ。朝陽がそんな表情で空気を重くしてたら柿崎さんだって気を使って私とも話さなくなっちゃうじゃない。それじゃ私達の距離は縮まらないし、朝陽も目的を果たせないんじゃないの?」

「そうですわね!確かに愛純の言うとおりここまで柿崎さんの口数が少なかったですし、むしろ私は押し黙るより盛り上げるべきということですわね!?」

「いや、余計なことしなくていいから普通にしてて、普通に」

「えー……私、活躍したいですのに」

「そういう本音は隠しなよ。まあ、とにかく余計なことしなくてもそれなりに仲良くなりたいとは思ってるから適当に距離は縮むって。朝陽としてもそれでいいでしょ?」

「うー……わかりました。じゃあ、普通にしてますわ。でも何か私に手伝えることがあったら遠慮なく言ってくださいましね」

「はいはい」

 トイレを出た二人が車に戻ると両手にソフトクリームを持った柿崎が出迎え、1つずつ手に持ったソフトクリームを手渡してきた。

「ちょっと……柿崎さん、今真冬ですよ」

 ソフトクリームを受け取った愛純はそう言ってブルっと震えるが、朝陽からしてみればわかっていないのは愛純の方だった。

「わかってないなあ、愛純ちゃん。真冬に暖房の効いたところで食べるアイスがいいんじゃないか」

 そう、柿崎の言うとおり。真冬に暖房の効いた部屋でアイス。こたつでかき氷。逆に真夏にクーラーの効いた部屋で鍋料理こそ至高。朝陽はそういう考えの持ち主だった。

「柿崎さんはわかっていますわね」

「お、さすが魔法少女一グルメな朝陽ちゃん。わかってるね」

「柿崎さんこそ違いのわかる方でしたのね。彩夏さん風に言えば、『お前とは旨い酒が飲めそうだ』ですわ。お酒飲んだことありませんけど」

「じゃあ、朝陽ちゃんがお酒飲めるようになったら一緒に飲もうか」

「っ…!」

 舌打ちのあと繰り出された愛純のローキックで、柿崎は無様にその場に崩れ落ちる。

「痛ってえ!なに!?俺愛純ちゃんになんかした?」

「別に。あ、この後私は後ろに乗りますね。ナビは朝陽にお願いしてください、私ちょっと寝ますから」

 そう言って愛純はさっさと車にのりこんでしまった。


 結局愛純が次に口を開いたのは、今日の予定であった富山、石川、福井のご当地魔法少女達との面会が終わってホテルに着いたあとだった。

「一体どういうつもりなの」

「どういうって、それはこっちのセリフですわ。ちゃんと仕事をしていただかないと困ります」

 朝陽からしてみれば、人見知りの自分が何故話したことのない三人の相手をしなければいけないのか。本当だったら小一時間問い詰めたい位の気持ちだった。

「まあ、そこは謝る。謝るけどね。あんたの役目って私と柿崎さんをくっつけることじゃなかったの?なんであんたが柿崎さんべったりで色々奢ってもらってるのよ!」

「はっ……!言われてみれば道中ずっと助手席に居座り、寄る先々で色々とごちそうになっていた気が…」

「はっ……!じゃなくて!なに?朝陽は私と柿崎さんの仲を邪魔したいの?」

「いえ、そういうわけでは…あれ?やっぱり愛純は柿崎さんと懇ろになりたいと思っていますのね?」

「ま、まあ。仲良くなりたいとは思ってるけど。別にいますぐなにがどうなりたいとかじゃなくて。ていうか、今は私の話じゃなくて、あんたが柿崎さんにべったりだって話でしょ」

「つ、ツンデレ!ツンデレですわ!これが生ツンデレ!」

「うるさい!」

 怒った愛純がチョップを繰り出すが、朝陽も魔法少女の端くれ。そう何度も同じチョップを食らうわけがない。

 真剣白刃取りの要領で愛純のチョップを見事に受け止めた朝陽は得意満面の笑顔を朝陽に向ける。

「ふっふっふ、朱莉さんとの特訓の成果が…へぶっ!…か、顔をぶちましたわね!お父様にもぶたれたことがないのに!」

「あ、ごめん。ドヤ顔がイラっときたもんだからつい…それより朝陽、あんた柿崎さんとどうにかなりたいの?」

「柿崎さんとどうというのはないですけれど。おごっていただけるものは何でもいただきますわ!」

 そう言い放つ朝陽の表情は何故かまたもやドヤ顔である。

「はぁ……あんたじゃ話が進まないわね。もうこれは朱莉さんに直接抗議するか……」

「ちょ、ちょ、ちょ。朱莉さんに連絡するのは待ってください!そんなことをされてはミッション失敗でチョコレートがもらえなくなってしまいます!」

「ふうん……なるほど。朝陽は私にばれたことを朱莉さんに報告されると困るわけだ」

 愛純はそう言って意地の悪そうなニヤニヤ笑いを朝陽に向ける。

「朝陽、あんたこれからバレンタインまでの一週間、私の奴隷決定だから」

「何をバカなことをおっしゃるのでしょう……」

「じゃあ朱莉さんに電話しちゃおっかな」

「ああああ…それだけは」

「じゃあ奴隷決定ね」

「……はい」

(ああ…これから一週間、私は一体どんな目に合わされるのでしょう)

 

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