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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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Arrogant Valentine 2

 1月頭から始めた新隊長三人での会議の後、俺は今日を逃すと寿ちゃんから受け取れなさそうな事を思い出して声をかけた。

「あ、そうだ。寿ちゃんチョコちょうだい」

 柚那からはチョコ厳禁を言い渡されているし、もちろんそれは忘れていないが、二週間近くもチョコ食べないなんて気が狂ってしまう。実は柚那に内緒でちょっと出かけた時に飼い食いしたり、空き時間に朝陽と二人でこっそりお店をまわったりもしていたりする。

「はぁ?なんでいきなり。なに?疲れてんの?」

「いや、バレンタインのチョコ。次って日曜が撮影だから、次に会うのバレンタイン過ぎちゃうだろ」

「……楓さん、これ殴ってもいいやつかしら」

「いいんじゃねえの?」

「じゃあ遠慮無く」

 寿ちゃんはそう言って変身すると思い切り俺の頭を殴った。

「チョコがほしいなら最低限の礼儀として当日東北寮に来なさい。そしたら麦チョコくらいはあげるわよ」

「マジ!?一袋?」

 麦チョコはうまい。生チョコと生チョコの間に口直しとして食べると最高だ。

「あんたはこまちか橙子か!一粒に決まってんでしょうが」

「さすがにそれだと行く手間のほうがかかるじゃん。そんなに安い女じゃないよ、俺は」

「いや、一袋でも手間のほうが多いからな?ていうか朱莉、お前チョコ好きなのか」

「そりゃあもう、柚那の次くらいに」

「……せめて自分とこの隊員の次くらいにしておきなさいよ」

「あ、もちろん愛純と朝陽とあかりとみつきちゃんの次くらいだけど」

「あたしらより上かよ……ま、いいや。じゃあほら、これやるよ」

 そう言って楓さんはバッグの中から綺麗な包装紙にくるまれてリボンのかかった箱を取り出してこっちによこす。

「マジですか!さすが楓さん。じゃあ遠慮無く」

 元男の近接無双の脳筋だと思ってたけど気が利くところもあるじゃないか楓さん。

「どうしたんです?あれ」

「ああ、なんかさっきここに着いた時に受付の子からもらった」

「…朱莉も大概だけど、楓さんもどうかと思うわ…じゃあはい、私もこれ。食べかけだけど」

 寿ちゃんはそう言ってバッグからベビーチョコを取り出してこちらに投げてよこした。

「ちゃんとホワイトデーにお返しよこしなさいよ」

 食べかけのチョコでなんてがめつい子だろう。

「人の想いがこもったチョコを横取りする奴に言われたくないわ」

「……風情がなくなるからもう読心魔法使うの禁止にしようよ」

「私はその魔法使えないわよ。あんたの顔に書いてあったの」

 我ながら損な体質だな。

「それで?他にも話したいことがあるって顔に書いてあるけど?」

 こんな時ばっかり勘のいい子だ。

「……まあ、ね。あのさ二人共、関東でリーダーできそうな人に心当たりない?ご当地でも、二人のチームでも」

「何?リーダーやめるの?だったら柚那にでもやらせればいいじゃない」

 寿ちゃんは鼻で笑いながらそう言って肩をすくめる

「いや、俺がいなくなって柚那がまともに仕事できると思う?」

「できないだろうな。とりあえず関西は無理だぞ。うちも人数カツカツだしご当地もとてもじゃないけど関東のメンバーをまとめられるようなやつはいないし」

「ちょっとちょっと。楓さん何でこんな与太話にまともに答えてるんですか?」

「こんなこと言い出すってことは朱莉にも何か考えがあってのことだろ?だったらちゃんと応えるさ。東北はどうだ?」

「…こまちなら実力も資質も問題ないと思いますけど」

「確かにこまちちゃんならうちの子達も制御できるかな。うん、じゃあ都さんにはこまちちゃんを推しとく。逆に東北には埼玉の深谷さんを推しとくね」

 東北にもネギの名産地はいっぱいあるし、きっと大丈夫だろう。

「いや、別にこまちをあげるって言ってるわけじゃないんだけど。というか、何?なんかあるの?教導隊に合流するとか?」

「いや、ちょっと七罪とタイマンはろうと思ってね」

「……はあああっ!?」

 ま、普通はそういう反応になるわな。

「また関東の戦力が増えるのか。ずるいな」

 そういう反応されるとは思ってなかった。

 さすが楓さん。俺の予想の斜め上を行く!そこにシビれる!あこがれるゥ!

「ちょっと、どういうこと?全員説得するのは諦めたの?」

「ん?んー…いや、なんというか説得はするけど、今回のやりかたは相手の逆鱗に触れるか、もしくはうまいこと牙を抜けるかっていう一種の賭けなんだよね。逆鱗に触れたら多分俺じゃ勝てないし下手すりゃ死ぬ。逆に牙が抜ければ何の苦労もなく仲間になってくれる」

「ちょっとまて朱莉。まさかその相手って憤怒じゃないだろうな?あいつはあたしが決着つけるまでは手を出さないって約束なんだから、そこのところ忘れるなよ」

「わかってますよ。というか、憤怒の子が俺の手に負えるとは思ってません」

 前に新宿上空でちょっと会った時にあの子は楓さんタイプと殴りあって分かり合う感じだと思った。

 しかも純粋な力と力のぶつかり合いを好むタイプだと思うから、正直俺には荷が勝ちすぎる相手だし。

 まあ、あの子については楓さんが競り勝てば喜乃ちゃんと同じでつきまとって勝手に仲間になるだろう。

「えーっと、だとするとあと残っているのって、確か怠惰と色欲、それと…」

「傲慢」

「……ああ、あの朱莉が隠蔽しようとした保健室の子ね」

「人聞きの悪い言い方しないでほしいな。ちょっと保留にするために黙ってただけで後で報告するつもりだったんだよ」

「どうだかね。でも傲慢って、確か魔法少女の中にいるって話だったんじゃないの?」

「そうなんだ。だから、俺はある作戦を考えた」

「ある作戦?」

「幸せ魔法少女計画」

「あはははは!何かちょっとエロいな!コンドームみたいな名前だし」

 この人の笑いのツボが本気でわからない。というか、ちょっと引いた。

「えーっと…楓さん?」

「あ、すまん。続けてくれ」

 寿ちゃんも俺も笑ってないのを見て自分が滑ったことを自覚したのか、楓さんは顔を赤くして先を促す。

「…つまりだ。頑張ってみんなを幸せにすることで、こんなに素敵な職場離れたくない!とか、七罪なんてやめちゃえ!と思ってもらえる職場づくりをするってだけなんだけどさ」

「手間がかかりすぎじゃない?目星ついてるなら目標を絞ってやればいいだけでしょ」

「目標を絞ってやっているってわかったらダメだと思うんだよね。プライドが高いからそんな見え見えの手で籠絡されるか!ってなっちゃうと思うからさ。だから二人にも協力して欲しいんだ」

「協力って?」

「うん、つまり俺たち三人で幸せ魔法少女計画を行うってこと。対象は正規魔法少女とご当地魔法少女。みんなは幸せになって、傲慢の魔法少女も仲間になって俺もハッピー!と、まあこういうこと。最後に俺が彼女にハッピーだったか聞いて、彼女がハッピーならめでたしめでたし。そうじゃなければバッドエンド……最悪デッドエンドかなあ」

 彼女の逆鱗に触れてしまえば、おそらく俺は文字通り手も足も出せない。そうなると、打ちどころが悪ければデッドエンドだ。

「なるほど、それで後釜を誰にするかって相談だったのか」

「もちろんタダで死ぬ気はないけど、リスクは最小限に抑えないとね」

 もちろん俺が死ぬっていうのは本当に最悪のシナリオだ。

 うぬぼれではなく、そうなれば関東の戦力はガタガタになる。

「それはいいけど……教導隊はどうするんだ?」

「対象。今って確か元それぞれの受け持ち地域のご当地たちに講習してるはずだよね。精華さんが北海道東北地方、チアキさんが関東甲信越、狂華さんが中部、ひなたさんと桜ちゃんが関西四国九州って感じだったと思うんだけど、どうせ集まってるんだしまとめてハッピーにしちゃってよ。まあ、教導隊に対してはこう、親孝行みたいな感じでさ」

「随分と軽く言うわね…ちなみに、東北にはその傲慢の魔法少女はいないんだけどやらなきゃダメ?」

 寿ちゃんもなんとなく目星が付いているのか、ため息混じりにそう言った。

「やってほしい。これは傲慢の魔法少女を籠絡するという目的の他に、みんなを慰安して指揮を高めるっていう目的もあるんだ。……4月に向けてさ。んで、それは今の隊長である俺達の仕事だと思う」

「…わかった。俺一人じゃ全員は無理だから傲慢とかそういうところは省いてイズモと喜乃に手伝わせていいか?イズモと喜乃の部分はあたしがやるからさ」

「もちろん俺もそのつもりなんだ。それでチームの一体感も出ると思うしモチベーションもあがるんじゃないかな」

「こっちはこまちと二人でやるわ。人数も大したことないし、セナと彩夏には世話になってるから二人にも楽しんで貰いたいしね」

「細かいところは任せるよ……我儘言ってごめん」

「なにを今更」

「ほんと、今更だよな。まあ、こっちはこっちで適当にやるからそっちも頑張りな」

「ありがとう…」

 俺は本当にいい仲間に恵まれた。そう思う。

 

 

 

「色々勝手に決めてんじゃねえ!……とは言わないけどさあ…」

 俺の持っていった企画書を見て、都さんがため息混じりの苦笑を浮かべる。

「……真面目な話していい?」

「はあ、なんです?」

「お金がない!」

 そんな胸を張って言われても。

「いや、一応見積もりは出てるしそんなにかからないから費用は俺と寿ちゃんと楓さんが出しますけど…ていうか、この間、4月に向けての特別補正予算出てませんでした?それにキャラソンだってそれなりに売れましたよね?」

 すべてがミリオン!とは行かないまでも

「4月用に空……護衛艦買っちゃった」

「いや、言い直さなくても空母でいいですけど…もってても俺たちじゃ動かせないでしょ」

「だからその人員も含めて来月進水予定のを海自から奪った。そしたらお金なくなっちゃったでござる」

「ござるじゃねえよ。ご利用は計画的に!つか毎月の固定費増やしてんじゃねえ!」

 整備やら人員の給料やらいったいいくらかかるんだろう。

「ちなみにその艦って今どこにあるんです?」

「それは内緒。あ、もちろんネーミングライツはうちが持ってるから名前の候補出していいわよ」

「そういうことやってるから金無くなるんだろ!番組で募集するなりスポンサーつけるなりしてくださいよ」

「いいの?スポンサーつけると下手すりゃ企業名が乗ってくるわよ。少なくとも番組内ではそう呼ぶことになるし。いいの?『OX乳業丸』みたいなので」

「ああ…確かに野球場みたいな名前の空母とか嫌だわ」

 考えてみるとあの制度ってちょっと微妙だよな。ホモスタとか。

「じゃあ名前つけてプラモ展開するとか。同型艦ならどうせ現行のプラモとほとんど金型一緒なんだからコストはそこまで上がらないし、プラモ作らない層にも売るために、例えば痛プラモ化する全員分のパターンのステッカーとか作れば多分結構いい金になりますよ」

「朱莉って商売の神!?関雲長!?」

 そんな驚愕した!って表情で言われても…

 というか、俺も昔はこの商法に見事に引っかかってた。まあお陰で柚那と仲良くなれたと言えなくもないから別にいいんだけど。

「とりあえず手配するわ。他になんかない?」

「なんかってなんです?」

「お金儲け」

「都さんなら株とかFXで儲けられそうな気がするんですけど」

 正直しくみがわかってないけど、なんかイメージ的に強運でバーンと当たりそうだ。

「ダメね。あれは運とかじゃなくて経験とか知識とか色々必要だと思う。前にちょっとやってダメだったからやめちゃったし」

 あ、もう経験済みだったんだ。

「まあ、でもプラモだけで何とかなるかな。ちょっと私が補填してもいいし、狂華に出させてもいいし」

 今凄く不穏な言葉が聞こえた。

「狂華さんの資産は狂華さんのものですからね?」

「やあねえ、冗談よ。ちょっと借りるだけだって」

「……何にそんなお金が必要なんです?番組のコストはスポンサー持ちってことで話がついたじゃないですか」

「来月、撮影抜きで魔法少女とご当地、それに護衛艦クルーで温泉旅行に行こうかと思ってね。その予算が結構厳しい」

「予算もですけど、人員的にもきついんじゃないですか?防衛用に何人か残らないといけないでしょうし」

「それはもうジャンヌ達にお願いしてるし、アーニャ達も協力してくれるからなんとかなった」

 根回し早いなあ。

「でもなんで温泉なんです?」

「武闘会の時のあんたの願い事でしょうが…それと、まあ狂華とも約束してたしね」

 それ狂華さんに出させちゃあかんやつや。

「それにしても珍しいですね、都さんが狂華さんの願い事叶えようなんて」

「今度の戦い、四人には護衛艦の更に前に出てもらわなきゃいけないからね……覚悟はしてるのよ、私も四人も」

「やめてくださいよそういうの」

「もちろん死ぬつもりはないわよ。死ぬ気ではやるけど。まあ温泉旅行のほうは、幸せ魔法少女計画の私バージョンだと思ってくれればいいわ。予算も何とかするつもりだから心配しないで護衛艦に乗ったつもりで待っててよ」

 いや、乗ったつもりもなにも、そのうち乗るんだろうけどさ。

「じゃあ、俺の方はとりあえず作戦を進めますね」

「よろしく」

「あ、そうだ、温泉てどこにいくんです?」

「草津」

「……なんだかんだ言っても都さんって狂華さんのこと隙好きですよね」

「うるせー好きだよ文句あっか?」

「ないですけど」

 …できれば、二人には幸せになってほしいなあ。

「そう思ってるなら、とりあえず後三人、頑張って口説き落としてきなさい」

「へいへい。そうしますよ」

 ……あれ?三人?


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