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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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模擬戦2

 模擬戦前日。

 今朝方教えてもらった相手チームのフラッグ位置の確認がてらフィールドを歩いていた俺は、同じようにフィールドの中でフラフラしている彩夏ちゃんをみつけた。

 まあ見つけたというか、実は元々用事があったので待ち合わせをしていたのだが。


「おーい、彩夏ちゃん」

「ああ、朱莉さん。待っててくれればこっちから行ったのに。こんなところにいるの見つかったら寿さんに小言言われますよ」


 俺が今いるのはうちのチームと東北チームの陣地の中心線から東北側に入ってしばらく歩いたところ。

 前日だから、とか戦闘前だからとかそういうことは関係なしに、寿ちゃんの性格なら確かに絡んできかねない。


「たとえ小言を言われても会いたい子がいるからね」

「え?今更セナ狙いに変更ですか?」

「はっはっは、何を言っているんだい、俺は彩夏ちゃんに早く会いたかったんだよ」

「はいはい」


軽くスルーされてしまった。やっぱりキャラに合わないことはするものじゃない。


「大体、会いたいって言ってもどうせフラッグへの裏道を教えろとか、作戦を教えろとか、そういうことなんでしょ?」

「正解。教えてもらっていい?」

「いやあ、これでも私も東北チームの一員ですから……ただってわけには…ねえ?」


そう言って彩夏ちゃんはチラチラと、俺の持っている紙袋を見る。

 彩夏ちゃんのこういうところ、嫌いじゃない。


「はい。これ忘年会の時に頼まれてたものね」


 俺はそう言って紙袋に入ったコミケの戦利品を差し出した。

 一応有名人である俺が行くわけにもいかないので買ってきてくれたのは柿崎くんだが、お金を出したのは俺なので一応俺の戦利品と言ってもいいだろう。


「わー朱莉さん素敵ー、かっこいいー」


 棒読み気味にそう言いながら彩夏ちゃんは紙袋をひったくるようにして奪うと、中身を確認し始めた。


「これで教えてもらえる?」

「……これは独り言なんですけど、本陣の東側…つまり朱莉さんチームの本陣がある側は色々対策してあるんですけど、今んところ、反対側は手薄なんですよねー……」

「なるほどね」

 たしか、東北チームの背後は崖だったはずなのでそちらにはリソースを割かずに正面に絞った対応をしようというわけだ。

「空を飛んでいった場合のことは考えていないの?」

「手薄と言ってもフラッグのところに誰もいないということはありませんからね。ルートとしては崖側がいいとは思いますけど、それで必ずフラッグが取れるかというとそれは保証できません」

「ふーん…でもさ、例えば愛純なんかは接近戦が超得意な上に、短距離とは言ってもテレポーターなわけだ。愛純がドーンと攻めていったらどうすんの?対抗できるの?」

「そこはそれ。最近近接を特訓しているセナとこまちさんがいますし、寿さんも何か考えてるらしいですよ」

「その何かを教えてよ」

「いやあ、聞かされてないんですよね。私は寿さんの妹ですけど、朱莉さんとも仲いいですから今回凄く警戒されちゃってて、あんまり詳しい話は教えてもらえていないんですよ」


 さすが寿ちゃん。賢明だ。


「セナは?」

「セナは色々手伝わされていますけど、今のセナが朱莉さんに協力するとは思えませんね。セナは最近こまちさんにぞっこんですから」

「相性いい感じなの?」

「かなり」


 最初からものすごく合うか、ものすごく合わないかのどちらかだろうというのがみんなの見方だったけど、俺個人としては、セナがこまちちゃんの性格に耐えられなくなって破綻するんじゃないかと思っていたので、ちょっとびっくりだ。


「あれはこまちさんの調教が上手いですね。いじめていじめて、ご褒美をあげてご褒美をあげて、それでまたいじめて、時にはセナに自分がいじめられてって感じで、上手いことセナのプライドという名の服をジワジワ剥ぎ取りながら、時々こまちさんがその服を着せてあげることによってセナが自分で脱ぐように仕向けるみたいな。そんなことを今年になってから急激にやり始めてて……多分セナはもうこまちさんから抜け出せないと思います」

「えっ!?なにそれ怖い」


 というか、エロい。いじめられ打ちひしがれながらも、こまちちゃんから焦らされて物足りなさそうにしているセナの顔が容易に想像できる。これはエロい。


「……いや、朱莉さん今、めちゃめちゃ羨ましいって顔してますけど」

「いやいや、そんなことなきにしもあらずだぞ」

「…私は別に柚那さんに言ったりしないからいいですけど、あんまりお盛んだと柚那さんも最後はキレますよ」


 最後にどころかしょっちゅうキレてる気がするけど。


「いや、俺は柚那一筋で、お盛んなことなんて何にもないぞ」

「またまた。今度はショタっ娘を仲間に引き入れて、身の回りの世話をさせてるって聞きましたよ」


 和希のことだとすれば間違ってはいないが、俺が和希にお願いしているのは料理だけで、非常に悪意ある噂の流し方だと思う。


「誰に聞いたのそんな話……ひょっとして精華さん?」

「んや、愛純」


 最近…特に昨年の年末くらいから、愛純がなんか冷たいというか、俺のことを積極的に攻撃してきている。

 別に俺はあいつに対して何も悪いことはしていないと思うんだけど。


「そっか。ちなみに最近愛純が俺に冷たいんだけど何か聞いてる?」

「んー…まあ、朱莉さんはちょっと人に好かれる努力をしなさすぎかなと」

「努力しないから嫌われたかな?」

「嫌いにならなくても、他にもっと好きな人ができたら相対的に他の人に冷たくなりますよね。それは愛純に限らずセナも私もそうなわけで、さっきの話じゃないですけど、柚那さん放っといて年下の男の娘にかまってばかりいたら、柚那さんだってそのうち朱莉さんに対する態度が変わるかもしれない」

「怖い冗談言うなよ」

「冗談だと思ってると、そのうち取り返しのつかないことになるかもしれませんよ」


 そう言ってニヒヒと笑う彩夏ちゃんの笑顔は、一見いつもどおりのニヤニヤ笑いにも見えるが、目はあまり笑っていない。


「……肝に銘じておくよ」

「そうしてくださいよ、普段私達のチームと離れていると言っても、学校その他でこうして顔を合わせることも多いわけで、二人にギスギスされると、こっちも気を使いますから」

「話は戻るけど、今回のこの模擬戦、寿ちゃんのやる気はどんなもん?」

「精華さんが半泣きでお願いしたせいで、寿さんもこまちさんもセナもやる気まんまんです」

「セナまでかよ」


 都さんに頼んで見せてもらったデータどおりにセナが成長しているとなると、かなり厄介なんだよなあ。

 なんでもコツをつかんで、最初からそこそこできる彼女は、頭打ちになると一時的に成長が止まるが、次のコツがわかるとその段階まで一足飛びにレベルが上がる。それも一つの能力だけじゃなくて全能力が平均的に。

 さらに性悪こまちちゃんの調教を受けているとなれば、今までのように相手のペースに合わせて戦うということはないだろうし、むしろ積極的に自分のペースに持って行こうとするだろう。

 そうなると、それぞれ突出した能力があるが、平均するとそうでもないメンバーの多いウチのチームにとってはかなりやりづらい。


「まあ、私はそんなにやる気ないですけど」


 そんなことを言っても、彩夏ちゃんが負けず嫌いというのは俺もよくわかっているので、ばったり出くわした時にどうぞどうぞと言ってくれるとは思えないし、そう考えると今さっきの情報もちょっと怪しく思えてくる。

 こまちちゃんは何を考えているかその時になってみないとわからないが、寿ちゃんは俺や楓さんに対して戦闘力で負けているということにコンプレックスを抱えているようなので、こういうときに手を抜くつもりはないだろう。

こう考えると今更だが、東北チームってクセのある人間だらけでかなり面倒だ。

 彩夏ちゃんと話しながら俺がそんなことを考えていると、すぐ横の木立の中から顔や服を泥だらけにしてスコップを持ったセナが現れた。


「あ!朱莉さん!」

「よう、セナ。忘年会以来だな」

「そうですね。あ、そうだ。あけましておめでとうございます」

「ああ。おめでとう」


 深々と頭を下げるセナにつられて、俺も頭を下げる。

 相変わらずこういうところはきちっとしているな。


「どうしたんです?敵情視察ですか?」

「ま、そんなとこだ」

「まさか彩夏を買収して?」

「そんなとこだ」

「ちょ!朱莉さん!?やめてくださいよそういう冗談言うの」

「……そうですか。ですが、どんな情報があっても、私とお姉さまの鉄壁の防御が破れるとは思えませんけれど」


 あれ、何かセナの雰囲気がちょっと違う。今までのセナならここで彩夏ちゃんの事を責めそうなものなのに。


「セナ大丈夫か?何かあったか?」

「いいえ、特になにも」

「なら、いいんだけどさ」


 これもこまちちゃんの調教の成果か、それとも俺が彩夏ちゃんの言う好かれる努力をしなかった影響か。


「私達がフラッグを守っている限り、絶対に負けません」

「なるほど、こまちちゃんとセナがフラッグの防衛担当なわけね」

「なっ!?なぜそれを!?まさか彩夏あなた…」


 あ、いつものセナだ。


「いや、セナが今自分で言ったんでしょうが。大体私そんな話聞いてないし。ていうか、それだと私と寿さんがアタッカーか…面倒だなあ。終わるまでフラッグのところでダラダラしてたかったのに」


 だとすると、こっちは俺と愛純がアタッカーかな。レベルアップした上にしっかり練習を積んでいるセナに柚那をぶつけるのはちょっと分の悪い賭けになりそうだし。ムラッ気があって油断することがままある朝陽には地力があって油断しないだろうセナは任せられない。

 それにこまちちゃんが意外に器用なのは俺も武闘会で見て知ってるし、楓さんもこまちちゃんはやる気がないだけで十分強いって言ってたので、彼女がセナの上位互換だと考えれば俺もそれなりに本気で相手をしなきゃいけない。そうなるとパートナーはきちんと自分のことを自分でできる子のほうが良い。


「ま、参考になったよ。ありがとうな、二人共」

「参考にしていいかどうかはわかりませんよ。…あまり私達を甘くみないようにしてくださいね」


 奇妙な凄みを持った声でそう言うセナの目は怪しく光っている。


「……参考にしちゃまずいのか?」

「さて、どうでしょう。というか、どこからが仕込みでしょう。ここで偶然彩夏に出会ったところ?私が出てきたところ?」


 セナはそう言ってニヤニヤと笑う。


「えーっと、彩夏ちゃん?」

「すみません、私は今どういう方針になっているかは本当に知らないし、余計なことを言って後でセナに叱られたくないんで、もうここまでっていうことで」


 そう言って彩夏ちゃんは自分の口の前で指を交差させてバツを作った。

 参った。もはや今の話の何が本当かわからないぞ。

 彩夏ちゃんが本当の事を言っていて、セナもうっかり本当のことを言ったか。

 彩夏ちゃんは元々俺をだますつもりで話をしていて、実は崖側は厳重に守りが固まっている。で、防衛担当がセナとこまちちゃんか。

 いやそもそも防衛担当が彩夏ちゃんとこまちちゃんで、崖側を上がってくる俺たちを撃ち落とすつもりかもしれない。

 寿ちゃんは一対一向きで、防衛向きじゃないだろうからアタッカーなのは間違いないだろうが、セナとこまちちゃんと彩夏ちゃん。その誰を相手にするかによって連れて行く人間が変わる。

例えばこまちちゃんと彩夏ちゃんなら砲撃銃撃での面制圧を狙ってくるだろうから俺が二人に近づくまでの間を朝陽に援護してもらう必要があるだろう。

 もしくは防衛を柚那に任せて一気に三人で勝負を決めるか。


「そうそう、三人で攻めるというのはあまりおすすめしません。お姉さまと彩夏は多対一のほうが得意ですから、的を増やすのは得策ではありません」

「ですよねー……」


 特殊なフィールドを展開して行うため、致死性のダメージはないはずだが、それでも隣で仲間がダメージを受けていたら俺も他の二人も足を止めてしまうだろう…………止めてくれると信じてる。

 いや、止まっちゃダメなんだけど。


「色んな考え方をする参考にはなった。感謝するよ。俺はこれ以上混乱させられないうちに退散させてもらうことする」

「そうですか、それは良かったです。ではまた明日」


 そう言ってセナは彩夏ちゃんを引っ張って本陣のほうへと戻っていった。



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