表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/808

模擬戦

 七罪の一人から呼び出しを受けた俺は彼女の顔に浮かんだ、憤怒の魔法少女もかくやというくらいの迫力を持った怒りに圧倒されていた。


「あんたは・・・あんただけは許さない!」


 かろうじて避けているが、彼女の実力は朝陽や和希の比ではない。今までのように余裕綽々で手抜きをしている余裕はない。


「いや、さっきからそればっかりだけど何なの?俺、君とは初対面だよね?」


 今回こうして俺を呼び出したのは彼女の独断なのだろう、ユウは一緒に来ていないので、冷静に状況を説明してくれる人もいない。

というより、この風景の歪んだ世界にはユウどころか、ほかの誰もいない。正真正銘俺と彼女の二人きりだ。


「何なのって言った?そう・・・そうか。どこまでもとぼける気ってことか・・・」

 

 彼女はそう言って俺を睨みつける。


「だったら私はあんたが泣いて謝るまで許さないからな!」


 殺すとか死ぬほど傷めつけるとか言われると思っていた俺はちょっと拍子抜けしてしまったが、手段はともかく彼女の表情を見る限り、彼女が俺に対して相応の恨みをもっているのはまちがいないようだ。


「まずはその生爪を剥がして―」


 そんなもん最初の一手で泣くわ!


「ていうか、マジで俺君に何したの!?」

「・・・1月20日」

「1月20日?」

「ああ、1月20日だ。その日あんたは絶対に許されないことをした」

「いや、でも1月20日って確か―」




 和希が寮にやってきて2週間ほど経ったある日。

 非常に不機嫌そうな狂華さんと精華さん。そしてその二人に無理やり引っ張られるようにしてうんざりしたような表情のチアキさんがやってきた。


「模擬戦するよ!」

「模擬戦よ!模擬戦!」


 ラウンジに呼び出され、三人の前に座らされた俺はソファに座った次の瞬間、狂華さんと精華さんからそんなことを言われた。

 ちなみに柚那、朝陽、愛純は急に三人が揃ってやってくるなど何事かと固唾を飲んでラウンジの入口からこちらを覗いていて、和希はラウンジのキッチンでお茶を淹れてくれている。

 この二週間でよくわかったが、和希はとても良くできた子だ。というか、正直こういうときのお茶とか、仕事中に軽食作ってくれたりとかそういうところは三人も見習ってほしいと思う。


「で、なんですか?模擬戦って」


 タップリと間を置いて、和希が持ってきてくれたお茶を一口飲んでから俺はそう切り返した。

 そう切り返したというより、しばらく考えたものの、そう切り返すしかなかった。

なんだよいきなり『模擬戦だ』って。


「あんたは黙って模擬戦すればいいの!」

「ちなみに負けたらボクが直々にシゴクから覚悟しておいてね」


 元々説明下手なので全く説明する気がない精華さんと、説明を放棄して暗に負けるなとプレッシャーだけをかけてくる狂華さん。


「いやだから・・・チアキさん?」


 俺は二人を見限って、チアキさんに水を向けると、チアキさんはひとつため息をついてから説明を始めた。


「・・・・・・まあ、なんとなく想像ついてると思うけど。昨日、狂華と精華が東京と東北はどっちが強いかっていうことでちょっと揉めたのよ。その時は小競り合いにもならないくらいの言い合いで終わったんだけど、二人がちょっとくすぶっていたところに、ひなたがおがくず盛って団扇で風を送っちゃったってわけ」


 ああ、なるほど。模擬戦ってうちと東北でやるってことか。

 ていうかあの人って無責任に煽るの好きだよなあ。


「あいつはそういうことに関しては天才的だからね」


 ひなたさんは火のないところ煙を立てる。むしろ煙っぽく見えたら。たとえそれが湯気でも、無理やり下に火をおこす。そんな人だ。

 この間の深谷さんの一件だってひなたさんが余計なことせずに俺たちの誤解を解いてくれていれば和希はもっとあっさり仲間になって、もう学校に通っていたかもしれないというのに。


「まあ、それはかなり希望的観測が入っているけどね」


 便利だなあ、チアキさんの読心魔法。


「それで、こういう話大好きな都も大賛成しちゃって。シノは一応反対したんだけど、小金沢がふざけ半分に賛成票入れて二対一。模擬戦をやることに決定しちゃったの」

「それはいいですけど、関西とならともかく、東北とはやるまでもないような気も・・・」


 言いかけた俺の顔面を精華さんのヤクザキックが襲った。


「・・・痛いんですけど」


 ソファーごと後ろにひっくり返りながら一応抗議するが、多分精華さんの耳には届いていないだろう。


「あんたもそうやってバカにするのね!色々気が利くいいやつだと思っていたのに見損なったわ!」


 いや、いきなりヤクザキックしてくるやつに見損なわれても個人的には別に痛くも痒くもないんだけどね。

正直なところ、雑魚を一掃するという場面では俺たちは東北には遠く及ばないだろう。だが、例えばこの間の武闘会のような場ではまず負けることはないだろうし、一対一でなくても最悪ちょっと痛いの覚悟で彼女たちの攻撃レンジの内側に入ってしまえばほぼ勝てる。

 こまちちゃんの自爆技とか、セナの拳銃は近距離でも脅威だけどそれでも本気でやって制圧できないというほどの脅威ではない。

例えば対セナを想定したとして、近距離なら愛純は楽勝。柚那もキレ柚那モードで勝てるだろう。朝陽に至ってはヘタすれば一歩も動かずに電撃で倒せる可能性もある。

こまちちゃんがセナと同じような戦い方ができるようになっていればちょっと難敵だが、彩夏ちゃんも寿ちゃんも近づいちゃえば全く相手にならない。それこそ深谷さん・・・いや、もうちょっと弱いご当地でも勝てると思う。神奈川の佐須ちゃんとか。


「そうやってバカにして!みんなあの子達のことなんにもわかってないくせに!」


そう言って精華さんは倒れている俺をゲシゲシと踏みつけてくる。


「・・・まあ、落ち着きましょう。精華さん」


ロングスカートを履いているせいか、この糞寒い時期に油断してパンストもタイツも穿いていない精華さんにこうして踏まれているのも別にやぶさかではないのだがそれでは話が進まないので、俺はこの絶景を捨て話を進めることにした。

ちなみに精華さんの今日のショーツは白の生地に赤の糸でバラの縁取りの刺繍がしてあるちょっとおしゃれなものだった。

ショーツのデザインもさることながら、ややぽっちゃりの精華さんの場合、ショーツにちょっとお尻の肉が食い込むのがなんとも言えずエロいんだよなあ。


「別に俺は東北が最弱だなんて思ってませんよ。東北の火力は驚異的だとおもいますし、戦い方次第だと思いますよ」


例えば何らからの方法で突進してくる敵を足止めできるようになったら、彼女たちの火力は十二分に効果を発揮するだろうし、足止めされて集中砲火を喰らえば、ユウだって、それこそ狂華さんだってただじゃすまないはずだ。


「そうよね!?あなた達より寿たちのほうが強いわよね!?」

「あははは、そんなわけないよ。ボクの仲間たちが精華のところに負けるなんてそんなわけないじゃないか。ねえ、朱莉」


思わず子供か!?と突っ込みたくなるくらい低レベルなやり取りをしながら二人が俺に詰め寄る。

俺が言いたいのは負けるとは言わないがそれでも正面からやりあえばお互い苦戦するだろうなくらいの実力差だと言いたいのだが、どうもそれがうまく伝わらない。というか、ダイレクトに伝えると二人から怒られる気がする。


「結局、この二人は何が原因で揉めてるんですか?」

「なんというかね・・・・・・話すのもバカらしくなるようなガキっぽい理由なんだけど、精華が『新隊長の中では寿が一番リーダー向き』なんてことを言い出してね。それに狂華が静かに反論してたんだけど、途中私が目を離した隙にひなたが狂華と精華に火をつけちゃって」


最後の煽りだけじゃなくて最初の火種作ったのもあの人かよ。

ていうか、教導隊のリーダーって一応狂華さんになってたけど、話を聞いてる感じだと実質まとめてるのチアキさんなのか。あの三人のお守りじゃチアキさんも大変だな。


「そうなのよ。そういうわけで、申し訳ないけど頑張って」

「へいへい。それでいつやるんですか?」

「20日ですって」

「えー・・・・・・」


いくらなんでも急すぎるだろ。今日言われて明々後日とかどういうことだよ。


「だって私たち忙しいから予定みっちりで時間無いもの」


そういって精華さんはふんぞり返るようにして胸を張る。

もうなんかこの人に何を言っても無駄っぽいし、言うのも面倒だ。


「はあ・・・こっちのほうが人多いですけどそれはどうします?さすがに5対4なら絶対負けませんよ」

「え?こっちが寿、こまち、彩夏、セナ。そっちが朱莉、柚那、朝陽、愛純でしょ?」

「和希もうちの立派なメンバーです」

「朱莉先輩・・・」


お茶を出した後、そのまま出ていくのも失礼だろうと思ったのか、俺の後ろで所在なさげにしていた和希が少し感動したような声を上げる。

和希は現在の寮の料理番ということでチアキさんとは連絡を取り合っているけど、狂華さんや精華さんとはあまり親しくない。というか、まだほとんどの魔法少女と面識がないので、ちょっと疎外感を感じているような顔をしていることがままある。

そう理由もあって、俺はなるべく和希が溶け込めるように事あるごとに身内宣言するように心がけているのだ。


「そんな声出すなよ。俺たちの仲間になったんだからお前は堂々としてればいいんだ」


実は和希を模擬戦に出して俺がさぼりたいとかそういうことじゃないんだよ!本当だよ!


「・・・・・・まあ、朱莉は隊長だから出るとして」


しまった!チアキさんに先手を打たれた!


「普通に柚那、朝陽、愛純でいいんじゃない?和希が仲間だっていうのは私も同じ意見だけれど、チームとして長い4人のほうが本来の実力が出せるでしょ。それともまさか朱莉、東北チームなんて俺抜きでも楽勝だぜとか思ってるの?それはさすがに失礼だと思うけど」


さすがチアキさん、ぐうの音も出ねぇや。


「わかりました、それでいいです。それで模擬戦のルールはどうします?この間の武闘会みたいに順番に一対一でやりますか?」


それだったら彩夏ちゃんと示し合わせて適当に手を抜けるし。


「それじゃ個人戦でしょ。今回はチームとしてどちらが強いかっていう話なんだからちゃんとそれ用のルールと場所を考えてあるわよ。ね?狂華」

「うん。そのためにみやちゃんの権限で富士演習場を3日間抑えたから」

「は?」

「思う存分やっても大丈夫だよ!」


狂華さんはそう言って天使の笑顔でニッコリと笑うが、そういう問題じゃない。というか物騒な場所を選んだもんだなあ。


「ルールはフラッグ戦。朱莉はサバゲーとかもやりそうだしわかるよね?」

「サバゲーはやりませんけど、相手陣地の旗を取ったほうが勝ちってやつですよね?」

「うん。旗の位置は公開制で、旗を守り切って相手を全滅させるのでも、積極的に攻めてさっくり旗を取っちゃうのでもOKだよ。ダメージは専用の機器で計測するからライフが0になるか、気絶をした時点でリタイアね。あ、そうそうこれはボクの独り言なんだけど、個人的には守るよりしっかり攻めて圧倒して勝って欲しいかな」


おおう、元上官殿は意外と攻め気が旺盛であらせられるようだ。

個人的にはがっちり守れば勝てると思っているのであまり攻めるつもりはなかったのだけど、狂華さんからのプレッシャーはそれを許してくれそうにない。


「ルールも狂華さんの方針も了解です。東北にはもうこの話はしてあるんですか?」

「まだよ。でも寿のことだから乗り気になるに違いないわ」

 

精華さんが武闘会準決勝で即時降伏した寿ちゃんのどこに乗り気になる要素があると思っているのかは謎だ。

しかし、乗り気かどうかはともかく精華さんに激甘な寿ちゃんとこまちちゃんのこと、きっとOKするだろう。

こうして、東北チームとの模擬戦の開催が決定した。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ