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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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汝は強欲なリや?

「お前、何か俺に謝ることねえか?」

『は?いきなり何言ってんのあんた』


 深谷さんとの待ち合わせ場所に向かう車中。柚那に運転をお願いした俺は、新年のあいさつを兼ねてユウに電話をしていた。


「協定破って一昨日の夜、みつきちゃんのマンションに七罪を寄越しただろ」

『……それは私が送り込んだわけじゃないわよ。そもそも、協定って言ったってみんなが私のいうことを聞くわけじゃないもの。一応松が明けるくらいまでは戦闘禁止とは言ったけど、それを聞くかどうかはそれぞれの判断だからね』


 ユウは一応否定をするが、俺はなんとなくユウが探り探り話しているような印象を受けた。


「本当にお前の差金じゃないんだな?」

『違うっつってんでしょうが。何?今すぐ協定を破棄する?だったらあんたの今いるところを調べて総攻撃かけるわよ』

「調子にのってすみませんでした。それは勘弁して下さい」


 ええい、ヘタレだと笑わば笑え。俺は勝てない戦はしない主義なのだ。

 ちなみに柚那はヘタレと笑わないまでもやや険しい顔をしている。


『まあ、情けない話だけどね。憤怒と強欲については本当に制御できてないのよ。その二人については悪いけど適当に対処して頂戴』

「それはこっちに引きこむのもありってことでいいのか?」

『できるんならやればいいでしょ。じゃあ私は忙しいから』


 そう言って電話を切ろうとするユウの後ろで『お餅やけたよー』という声が聞こえる。

 強欲の魔法少女がそこにいるのかはわからないが、少なくともユウと後一人はお正月を満喫しているようだ。


「最後に一つだけ。強欲の魔法少女って俺が知っている子なんじゃないか?嘘はなしで頼む。お前を信頼して聞いているんだ」

『そう言われても信頼されたからって別にメリットがないもの』

「本当にそう思うか?」


 俺からの信頼がどうメリットになるかは今後のユウの身の振り方一つだと思うが、それでも俺は信頼している相手に不利益になるようなことをするつもりはない。


『……ノーコメント。にしたら白状しているも同然だものね。そうよ。あなたと面識のある子。あなたのいうところのアユとは別に、図らずともあなた達に上手く紛れてくれていたってわけ』

「なるほど、わかった。ありがとう」


 電話を切ってポケットにしまうと、柚那がノーマルのものよりも大きめのバックミラー越しにチラチラと心配そうな視線を送ってくる。


「…深谷さんの可能性が高まってしまったでござる」


 ハッキリと名言されたわけではないが、ユウが制御できていないという部分は、いまいち掴みどころがなく、制御が難しい深谷さんと特徴が一致する。


「そうですか…」


 柚那はミラーに向けていた視線を前方に戻してアクセルを踏みこむ。


「覚えてます?最初に私達5人が集められた時のこと」

「柚那がやたらツンケンしてて先輩風を吹かせている割には瞬間最大出力で俺に負け、経戦能力で恋に負け、格闘で松葉に負け、総合力で深谷さんの足元にも及ばなかった頃の話か?」

「細かいことばっかりよくもまあ覚えてますよね…」


 怒り出すかと思った柚那は呆れたような表情でため息をついて運転を続ける。


「それが俺のとりえだ」

「欠点だと思いますよ」


 おおう、ハッキリ言われてしまった。

 ちなみにひなたさんとの話にも出たが、俺達の同期だった高前恋は群馬、石見松葉は島根にいる。二人はご当地魔法少女としては並。深谷さんみたいにご当地魔法少女の中でずば抜けて強いというほどではない。


「……あの頃は良かったですよね。殺伐とした中にも安らぎや癒やしがあって」


 殺伐として空気悪くしていたのはほぼ柚那だけだし、安らぎは癒やしも柚那以外のみんなの担当だったので、柚那がドヤ顔で言うことではない気がする。


「あのころ色々良くしてもらったから夏樹ちゃんが裏切ってないとか敵じゃないとかいうつもりはないです。でも、頭からきめてかかるのはやめてほしいんです。あれで夏樹ちゃんも結構短気なところがありますから、そんなことされたら怒っちゃって話し合いにならないと思いますから」

「あー……そうだな。確かにあの人の地雷ってわけわかんないところに埋まってるからな」

「あと、朱莉さんの地雷も意味が分からない時がありますから、そこを自覚しておいてくださいね」

「そんなにわかりづらいか?」

「夏樹ちゃんと朱莉さん。それと楓さんと都さんは地雷四天王だと思います」


 俺としては柚那も結構わかりづらいと思うけど、きっと否定されるし、下手すればここで喧嘩になるので黙っていよう。


「ただの喧嘩にならないようには気を付けるよ。ところで柚那」

「なんです?」

「深谷さんと仲のいい魔法少女知らない?ご当地以外で」

「ご当地以外ですか……そうですねえ……あ!ひなたさんとは仲がいいのかもしれません。桜ちゃんのリストに入ってましたから」

「それって、俺も入ってるっていうやつ?」

「入ってるやつです」


 桜ちゃんって普段明るいしサバサバしている印象なのに、ひなたさんにかかわることについてはネチネチしているというか、かなり陰湿なこともする。

 幸いにして俺はまだボーダーにかかっていないのか、保留になっているのか直接体験したわけではないが、ノイローゼになって関西地方のご当地からスタッフに追いやられた子もいるとかいないとか。

 スタッフのほうが下だとは言わないが、当然魔法少女に比べれば報酬は減るので、降格に追いやられたと言えないわけではない。

 まあ、それはそれとして、深谷さんとひなたさんにつながりがあるのであれば、ひなたさんがアユ……いや、それはないよなあ。

 ……うーん、難しい。


「仮に、だ」

「はい」

「仮に、深谷さんが強欲、ひなたさんが傲慢だっていう可能性を考えるとするじゃん」

「はあ……でもひなたさんは傲慢というか、どちらかって言うと…色欲?」


 まあ、それは俺も思うけど、ユウはひなたさんじゃないだろうしな。というか、ひなたさんがアレだったら嫌すぎる。


「とりあえず、そういう仮定にするとどうだろう。しっくり来るか?」

「来ません。というか、ひなたさんには学園襲撃の時のアリバイがあります」

「え?あるの?」


 そんな話は聞いていない。

 ともあれ俺の仮説はたった一言で論破された。


「ありますよ。あのときひなたさんは狂華さんと精華さんと三人でいたんですから」

「じゃあ、狂華さんと精華さんも容疑者から除外だな」


 まあ、例えば精華さんが怠惰、狂華さんが強欲でチアキさんがユウだったりしたら別だが、さすがにそれはないだろう。

 …ないと信じたい。というか、もしそうだったらもう俺達に勝ち目なんて微塵もない。そのパターンだと新宿上空で襲ってきた憤怒は楓さんなんだろうし。


「あ、チアキさんも除外ですよ。あの時ちょうど授業中だったって話ですからね」


 大分容疑者が絞れてきた。

絞れてきたのだが、今度は逆にキャストが足りない。

 もしも深谷さんが強欲の魔法少女だった場合、本部に入れて、昨日資料をいじれたひなたさんが傲慢の魔法少女っていうのが一番しっくり来る。

 根拠は昨日俺の前に資料室にいたということ。あの時にコンピューターにウイルスをしかけ、紙の資料を抜き取った。それが一番シンプルな話だろう。

 その仮定を立証するためにはひなたさんが傲慢の魔法少女だという事を証明しなければいけないが、俺が傲慢の魔法少女に助けられた時、ひなたさんにはアリバイがあるので、まずその証明は不可能。というか、おそらくこの線は間違っている。

 ニアさんが傲慢の魔法少女という可能性もなくはないが……まあ、都さんがそばにおいているあの人に限ってそれはないだろう。


「となると…」

「夏樹ちゃんは裏切り者じゃない」

「まあ、そうなるか」


 でも絶対何か隠していると思うんだよな、あの人。


「次、あかりとみつきちゃんが強欲・傲慢の魔法少女だったという可能性」

「さすがにそれは。というか、あかりちゃんを疑うのは完全におかしな方向に行ってませんか?夏樹ちゃんも強欲の魔法少女とあかりちゃんを同時に目撃しているわけですし、みつきもあかりちゃんと同じ理由でないと思います。夏樹ちゃんが裏切り者じゃないなら辻褄が合わないです」

「二人が傲慢・強欲コンビで、怠惰の魔法少女が分身を出している説」

「傲慢と朱莉さんが新宿上空で戦った時、ふたりは私と一緒にいました」


 これまた論破と。まあ、この二人については論破してくれたほうが気が楽だ。


「じゃあ誰だろ。埼玉のスタッフかな」


 まあ、埼玉のスタッフで顔見知りなんていないのでありえないが。


「そもそも、なんでユウさんの言ったことが正しいっていう前提なんでしょう」

「今話をしているのは、ユウが正しいことを前提でそれを軸にした議論だから。というか、それを軸にする以外今のところ材料がないっていうのもある。これで議論しつくして納得行く答えが出なければユウが嘘を言ったってことになる」


 あくまでこれはディスカッション。俺は別に本気であかりとみつきちゃんを疑っているわけではない。このディスカッションはユウの言ったことの検証、それが目的だ。


「なるほど。じゃあ、柿崎さんが強欲の魔法少女だという可能性」

「ほえっ!?なにそれ」


 柚那が言い出したことが突拍子もなさすぎてびっくりした俺は思わず声が裏返ってしまった


「そもそもおかしくないですか、あの人」


 まあ柿崎くんはいつだっておかしくてある意味イカしてると思っているけど、正直今は柚那の言ったことのほうがおかしいと思っている。


「なんであの人が黒服になってるんです?ただの清掃員だったんですよね?」

「いや、それは俺も同じだし。黒服になっているのは、普通に試験をパスしたからだろ」


 魔法少女になるのに必要なのは、ナノマシンに対する適性だけで、ハッキリ言えば運否天賦だが、黒服はそうではない。知力体力精神力、その他諸々が必要になってくる。

 なので、流れで魔法少女になってしまっただけの俺は黒服さん達を尊敬しているし敬意を払っているつもりだ。

 ちなみに柿崎くん、ああ見えて結構頭のいい国立大卒だし、学生時代はバスケで日本代表にもなったとか。顔も普通に見れる顔だと思うし、トーク力もあるので営業とかであればどこの会社でも滑り込めそうなものだったのに、なぜあんな職場にいるのだろうと前々から不思議に思っていた。

 黒服になってからも時々間の抜けた失敗はするものの、他の屈強な黒服さん達に負けず劣らずしっかりと仕事をしている。


「…論点を変えます」

「あいよ」

「あいつ最近愛純にちょっかい出しているらしくて超ムカつきます」

「個人的な感情を表に出したらディスカッションにならねえよ!ていうか論点変えるもなにも、柚那がムカつくっていうだけで話終わってるじゃねえか!」


 そもそも柚那はもともと愛純のこと嫌ってたじゃん。いいじゃん別に、嫌いな人同士がくっついたって。


「私のものは私と朱莉さんのもので、柿崎のものじゃないです」

「さんをつけろ、さんを」


 愛純のことに関しては、最近よく一緒にいるな、というか柿崎くんがすごく頑張ってるなというのには、俺もなんとなくは気づいていたし、愛純が嫌がっている雰囲気もないので本人たちがいいならいいかと思って俺は口出ししないようにしていたのだけど、柚那はおもしろくなかったらしい。


「とりあえず柿崎君が魔法少女ってことはねえよ。黒服さん達って結構激務だから健康診断も頻繁だしその時に血液検査もするんだ。もし柿崎くんが魔法少女なら検査でなんらかの反応があると思うぞ」

「ちっ…合法的に柿崎を抹殺するチャンスだったのに」


 柚那が舌打ちをしながら、魔法少女としても元アイドルとしてもあるまじき顔で呟く。ていうか、誰が裏切り者だったとしても抹殺は合法じゃないからな。


「じゃああとは……容疑者らしい容疑者がいないですね」

「まあ、俺たちはお互い違うっていうことがわかっているからな」


 個人の実力が関東関西に劣る東北のことこまコンビは非常時に対応できるように彩夏ちゃんとセナを連れて常に四人行動が原則になっていて、誰か一人が長時間抜けるということはほぼないらしいのでまず除外していいだろう。

 関西の楓さんはそもそも性格的に潜入とかには全く向いていない。というか、現在の関西チームは楓さんが好き勝手行動して、喜乃ちゃんがぴったりそれにくっついて行って、イズモちゃんが二人を睨みながら付いていくという、東北とはまた違った形の全員行動が徹底されている。

 なので、アーニャの時のようにチーム単位でまるっと裏切っているとかで無ければ彼女たちがスパイ、裏切り者である可能性はかなり低い。


「あ!大穴で桜ちゃん!ひなたさんと一緒に異動になりましたし、アリバイもほぼ無いですよ」


 桜ちゃんは今、関西から異動して、教導隊の四人の補佐として頑張っている。仕事は分析から戦闘時のオペレーターまで多岐にわたるらしい。本部の奥で詰めていることが多いので、確かに柚那の言うとおりアリバイはほぼないが、逆に長時間自由に動くとすぐにバレてしまうのでもし桜ちゃんが傲慢なり強欲だった場合、瞬間移動でもしない限りは、あかりやみつきちゃんの言うような頻度で現場に出張るのは無理だろう。

 さてさて、一体誰が強欲なのやら。

 そんなことを考えながらスマホのストラップに指をかけてくるくる回して遊んでいると、和希ちゃんから着信が入った。


「誰からですか?」

「和希ちゃん」


 俺は短く答えて電話に出る。


『朱莉さん!助けてくださいっ!みつきちゃんが!みつきちゃんが!』


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