消えた資料
翌朝、みつきちゃんからの「昨日の夜すごい楽しかったー!敵?来なかったよ!」という元気いっぱいのモーニングコールで起こされた俺は、寮を出て学園地下の本部へ向かった。
まだ一月二日ということでやや人の少ない本部には都さんはおらず、プライベートの時間もほとんど都さんから離れない狂華さんもいなかった。
一応顔を出した都さんの執務室には二人の代わりというわけではないが、連絡役として都さんの秘書のニアさんが一人残っていた。
「正月早々、お疲れ様です」
「いえいえ、敵さんもお正月休みなのかまったくあらわれる気配がありませんし、むしろ楽なくらいですよ」
そう言って笑いながらニアさんはコーヒーメーカーの前に立ち、俺の分のコーヒーを淹れて戻ってきた。
「朱莉さんこそ正月早々どうしたんです?昨日はご実家で、今日は柚那さんとお出かけされる予定じゃありませんでしたっけ?」
さすがあの都さんに仕事をさせる敏腕秘書。俺の予定くらい把握しておくのは朝飯前のようだ。
「実はちょっと調べたいことがありまして。本部のコンピュータを使いたいんですけど、大丈夫ですかね」
「そうですね。邑田隊長の権限であれば私よりもずっと上ですし使用しても問題ないと思いますよ」
ニアさんはそう言ってにっこりとやさしい笑顔で微笑む。
なってみてから知らされたが、ニアさんの言う通りチームの隊長の権限は結構大きい。
ある程度の決裁権もあるので、経費なんかも結構な額を使えるし、本部に内密で進める独自捜査権なども確保されている。
「何か気になることでもあったんですか?」
「ええ、まあ」
「どんなお話ですか?」
おとなしそうな外見に似合わず結構グイグイくるな、この人。
「別におもしろい話じゃないですよ。ちょっと気になるご当地魔法少女がいたんで、調べようと思っただけです」
「どなたを?」
「いや、それはちょっと」
深谷夏樹を怪しんでいるんで調べたいんです。とはさすがに言えない。
「ここに端末があります」
「はあ」
「長官専用端末です」
「そうですね」
ニアさんが指さした端末は俺も都さんが使っているのを見たことがある。いわゆる普通のホワイトとはまた違ったまるで白い大理石のような質感の高そうで強そうなボディを持つノートパソコンだ。
「留守中を預かっている私はアクセスキーを持っています」
いいのかよそれ。
「だとしてもニアさんの権限って俺より低いんじゃないでしたっけ?」
「実は三が日だけですけど、宇都野長官と同等の権限を持っています」
つまり、誰を調べたいか教えてくれれば都さんと同等の権限で情報をフルに閲覧させてやるということなのだろう。
「いや、そんなに細かい情報がほしいわけじゃないんで大丈夫です」
経歴と戦歴の閲覧くらいなら俺の権限で十分事足りる。
「そうですか。面白そうな暇つぶ……コホン。重要な案件でしたら力になりたいと思ったのですが」
あ、さてはこの人も大概だな。
「手は足りてますんで大丈夫です。じゃあ俺はこれで」
俺はそう言って残っていたコーヒーを飲み干してから席を立った。
「お、朱莉」
ニアさんのいた都さんの執務室から資料室に向かう途中で。元関西チームリーダーのひなたさんとばったり出くわした。
「ひなたさん、あけましておめでとうございます」
「おめでとう。どうしたんだ正月早々こんなところで。今日はたしか柚那と一緒に出掛けるんじゃなかったのか?」
なんでみんな俺の予定を把握してんだよ…。
「ちょっと調べ物です。ひなたさんこそ正月早々どうしたんです?」
イメージ的には残業をしたくない。休み期間なんかは遊び倒すっていうイメージなのに、今ひなたさんは資料室から出てきた。新年早々これはおかしい。
「正月に本部に詰める当番を決めるのに4人でじゃんけんして俺が負けた」
なるほど、つまり年末年始のはずれシフトか
「それは災難ですね」
「別に本部にいるのは構わないんだけど暇でなあ。日本全国津々浦々、雑魚も沸かないんだぜ。暇だから資料見てたんだよ」
実は三が日についてはこっそりユウと冬休みの休戦協定を結んでいるので、ひなたさんの言うように国内で敵が沸くようなことはなく海の向こうか月の裏側から飛んでこないことには敵なんて出てこないし、その兆候もない。
「資料なんて見て面白いですか?」
「仕事時間中くらいは俺だって仕事するっつーの。で、お前の調べ物っていうのはなんなんだ?」
「同期の魔法少女が今どんな感じなのか調べようと思ってまして」
「同期って柚那か?そんなのわざわざ資料で調べるまでもないだろ。毎晩のように全身を調べつくしているわけだし」
そう言ってひなたさんはウヒヒと嫌らしい笑いを浮かべる。
…この人もなんだかんだ中身はおっさんだよな。
「俺達は桜ちゃんとひなたさんほど濃ゆい関係じゃないっすよ。実を言うと、俺達の同期ってあと3人いまして。その子たちはみんなご当地なんですけど、最近どんな感じで活躍しているのかなと思って」
「ご当地ねえ……同窓会でもやるのか?それとも関東で戦力がほしいとか?」
「いや、これ以上関東の戦力を強化してもしょうがないでしょ」
現状でナンバー6の俺、7位の朝陽がいて、さらに関東チームではないものの、近くに8位のみつきちゃんがいるということで寿ちゃんから不公平だと相当つつかれているのにそんなことしたら何を言われるかわかったものじゃない。
ちなみに東北チームで一番ランクが高いのはこまちちゃんの9位。次いで寿ちゃんの11位だ。
まあ、ランクはあくまでテストの成績順位であって実戦力ではないので、実戦でやりあったらまた違う結果になるだろうとは思うけど。
「たまたまこの間柚那と話していて他の同期はどうしているんだろうねっていう話になったんで、休みの間に調べてみようと思っただけですよ」
「ちなみにその同期ってのはどこに配置されてるんだ?」
「埼玉と群馬、それに島根です」
「ああ、島根ってことはあれか。イズモの後釜か」
「そうですね。最近はイズモちゃん同様巫女服着ているらしいです。あいつ、本職は違うんですけどね」
らしいというか、実際この間の忘年会で巫女服着てんだけどね。あんな格好してたらあいつの本来の持ち味は活かせないと思うんだけどどうすんだろ。
「巫女服かあ……三が日だと女子高生のバイト巫女とか結構いるよな」
「もしかして、抜けだして初詣行こうとか思ってます?」
「お、さすが朱莉。わかってるじゃん。っていうことは俺が言いたいこともわかるよな?」
「はいはい。俺が留守番してますんでどうぞ行って来てください」
どうせ敵なんか出やしないし、調べ物をしなければならない身だ。ひなたさんの代わりに残るくらいどうということはない。
「マジで!?」
「マジですよ」
というかむしろ、ひなたさんがいないほうが調べ物をしている最中に目的やらなんやら細かく突っ込まれなくて都合がいい。
「んじゃあ、お言葉に甘えるわ。ありがとうな」
そう言ってひなたさんは日直と書かれた腕章をポケットから取り出すと俺に押し付けるようにして渡すと「じゃあよろしく」と短く言ってそそくさと去って行った。
資料室のPCを立ち上げると、指紋認証、網膜認証、声紋認証が立て続けに求められ、その上でIDカードの挿入を求められた。
面倒ではあるが権限によっては国家どころか惑星規模での極秘資料が見れてしまう端末なので、これでもセキュリティが十分かどうかは微妙なところだろう。
「さてと、じゃあ深谷…夏樹と」
端末が起動したところで、俺は寄り道をせずにすぐに深谷さんのデータを呼び出す。
すると該当するデータは一件である旨が画面上に表示された。
「ま、そりゃあ深谷さんは一人しかないしそうなるわな」
俺は一人ごとを言いながら深谷さんの項目をクリックする。
「深谷夏樹。本名…NOデータ?っていうかなんだこれ。深谷さんのデータ穴だらけじゃないか」
いや、穴だらけというのは少し違う。ほとんどの項目に閲覧規制が掛けられていて深谷さんのデータについてはほとんど見ることができないようになっている。
「おいおい、おかしいだろこれ」
最初は俺の権限が足りないのかと思ったが、俺や柚那はもちろん、狂華さん達のデータも見ることができる。だというのに、深谷さんのデータだけは何をどうしても見ることができない。
「こういうのに強いのは彩夏ちゃんだけど寿ちゃんに俺が何を調べようとしているのかバレるのは嫌だなあ。だとすると……」
だとするとも何も、もう打つ手がなかった。
第一にこの階層に入ってこられる人間ということで本部勤務のスタッフか魔法少女に限られてくるし、俺の知り合いの魔法少女でコンピューター関係が得意なのは彩夏ちゃんだけだ。
つーか、これ三人になんて報告するんだ?あっちこっち閲覧規制かかっていてわかりませんでした?そんなことしたらあかりはますます深谷さんのことを信頼しなくなるだろうし、みつきちゃんだって同じだろう。それに何より柚那が悲しむ。
「これは黙っていた方がいいかな…」
「はい、ちょっとどいてくださいねー」
俺が椅子に深く座って机に足を載せたところでいつの間にか部屋に入ってきていたニアさんが俺を椅子ごと動かして机の前からどけた。
「ニアさん!?」
「すみません、退屈だったものであとをつけて来ちゃいました」
「いや、それはいいんですけど、コンピューター得意なんですか?」
「まあ、それなりにですけど……ここを、こうして、こうですね」
ニアさんは自分の指紋と網膜、声紋で認証をやり直すと、本当にチョチョイのチョイといった感じでキーボードを叩き、次々にプロテクトを破っていく。
「頑張ってくださいニアさん」
「はい、頑張りますね」
ニアさんはそう言いながら更にプロテクトを破り続け、このまま行けばあと数分しないうちに深谷さんのデータが丸裸になるというところまで進んだが突然「あっ!」と不吉な声をあげた。
「ど、どうしたんです?」
「データ壊しちゃいました……」
「ええっ!?だってさっきコンピューター得意だって言ったじゃないですか」
「得意なのは本当なんですけれど、途中にトラップがあったみたいで、魔法少女の個人データが全部消えちゃいました」
「やばいじゃないですか!都さんめっちゃ怒りますよ!?」
「まあ…一応昨日の時点でのバックアップがあるのでそこからこっそり戻しておけば多分大丈夫だと思います…朱莉さんが誰かに言わなければ」
そう言って笑いかけるニアさんの目は言外に『お前も共犯だからな』と語っている。
「……まあ、ばれないならそれでOKということで。あはは…」
「うふふ、そうですね。ところで、なんでプロテクトを破ろうとしていたんです?」
うわぁ、嫌なところ突っ込んでくるなあこの人。
「ちょっと気になる魔法少女がいたんですよ。味方ならいいですけど、敵なら相当厄介な人なんでちょっと調べていたんです」
なんとなくこの人には嘘をついても見破られてしまいそうな気がしたので俺は正直にそう言った。
「ご当地魔法少女って実力的には朱莉さん達よりもかなり下だと聞いていますけど、深谷夏樹さんってそんなに厄介な人なんですか?」
「…厄介ですよ、あの人は」
実際、研修中に同室だったあの人にされたことは俺の中でトラウマになっているし。
俺にとって苦手な、厄介な相手だからこそ、早めにあの人の立ち位置をはっきりさせておきたいというのがある。
「ニアさん。悪いんですけどデータの修復お願いしていいですか?俺はちょっと紙の資料の方を見てきたいんで」
「任せておいてください。誰が見てもわからないようにバッチリ直しておきますから」
「すみません。お願いします」
ニアさんに後を頼んで、俺は奥の資料室の鍵を取りに走った。
薬で自由が効かなくなった俺を見下ろしながら、深谷さんは紅潮した顔でニイッといやらしい笑みを浮かべた。
「ふふ…こうして動けなくなっていると、朱莉ちゃんもただの可愛い女の子だね」
そう言いながら深谷さんは手のひらで撫で回すように俺の顔に触れる。
「なにを…する気ですか…?」
「い・い・こ・と」
深谷さんはそう言って舌なめずりをすると、右手で握った立派なソレの皮を剥いて俺の顔に近づける。
近づけられたソレから立ち上るツンとした独特の臭いが鼻を刺激し、俺は思わず顔をそむけた。
「アハ…そんなに嫌そうな顔しちゃダメよ。これからこの子にたっぷりお世話になるんだから」
興奮しているのかハァハァと荒い息を吐きながら深谷さんが何度かそれを擦りあげ、さらに息を荒くする。
「まずはお口から…ほら口を開けて」
「嫌だっ」
俺はさらに顔をそむけてきつく口を結ぶが、深谷さんはそんなささやかな抵抗など関係ないとばかりに俺の鼻をつまむと、かすかに開いた口の端から強引にソレを押し込んみ口の中にこすりつけるようにしながら出し入れを始める。
「ん…むぅ…ぐ」
匂いと味、それに屈辱感から無意識に俺の目に涙が浮かび、嗚咽を漏らす。
「んー、いい表情。ゾクゾクしちゃうなあ」
「やめ…苦ぃ…んぅ…」
出し入れをされる度に先端から溢れてくる汁の苦さに俺が顔を歪ませると、深谷さんは更に興奮して動きを早くする。
「早…もう…終わ…にしてぇ…」
「そうね、いつまでも苦しめても仕方ないし、朱莉ちゃんからちゃんとお願いしてくれたら終わりにしてあげる」
「お願い…ですから、何をしてもいいですから早く終わりにしてください」
あまりの恥ずかしさに腕で顔を隠しながら絞りだすように懇願するが、深谷さんはそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、意地悪そうな声で「だーめ」と言った。
「そんなお願いの仕方でいいと思っているの?朱莉ちゃんならわかるよね、どうお願いしたらいいか、どうお願いしたら私が喜ぶか」 わからないとは言わない。言わないが、それは俺にとってものすごく屈辱的だ。
「私が気持ちよくできるように、おしりを突き出しながらお願いしなさい!」
何かのスイッチが入ってしまったのか、深谷さんは俺の腕を払いのけると、普段のキャラとはかなり違う女王様キャラのような口調と恍惚とした表情でそう言った。
非常に不本意で、癪に障る話ではあるが、俺の身体は申すでに我慢の限界だ。この身体の火照りが収まるのなら、少し位プライドを切り売りしたっていい。
俺は熱に浮かされている頭でそんなことを考え、言われるがままに体勢を変え土下座のような格好で頭を隠しながら深谷さんに向けて尻を露出する。
「ふ…深谷さんのその太い―」
「朱莉さん!起きてください朱莉さん!」
「はっ!?……夢か」
俺が目を覚ますと、隣で柚那が心配そうな顔でこちらを見ていた。
…あれ?ていうか、初夢じゃねえのかこれ。
「大丈夫ですか?かなりうなされていたみたいですけど。それにすごい汗」
「ああ、大丈夫。ごめんな心配かけて」
「夏樹ちゃんの名前を呼んでいたみたいですけど、夏樹ちゃんの夢ですか?」
「え!?あ……ああ、昔深谷さんと同室だった時の夢を見ちゃってさ」
嘘は言ってないよ。うん。嘘は言ってない。
「夏樹ちゃん…敵じゃないですよね?」
「それをこれから確かめに行くんだろ。まあ、大丈夫だろ」
と言ったものの、結局昨日一日かけて紙の資料を漁ってみても、深谷さんの詳細な資料を発見することはできなかった。いや、前後の資料との繋がりから考えて、発見することができなかったというよりは重要な部分は誰かが抜き取ったように思えた。
問題はその資料を誰が抜き取ったかだ。
深谷さん本人は本部のパスを持っていないので実行ができない。となると、深谷さんがアユに協力を頼んで資料を抜き取ってもらったというのがありそうな可能性だが、一昨日の昨日で深谷さんがアユに協力を頼んだとして、俺が目星をつけている魔法少女がアユだった場合、一昨日、昨日とこの辺りにいなかった彼女には資料の抜き取りを行うことはできない。
「深谷さんの件はあかりの気のせいってわけじゃなさそうだし、そうすると俺の目星が間違っていたか…」
「え?」
「いや、なんでもない。深谷さんにはもう呼び出しのメールを送ってくれたんだよな?」
「はい、昨日朱莉さんが寝てから言われた通りの文面で送りましたけど…本当にあれでいいんですか?あれじゃ喧嘩売っているみたいになっちゃいますよ」
「いいんだよ。俺達は深谷さんと仲良く遊ぶために会うんじゃないからな」
「それだと、まるで夏樹ちゃんを疑っているみたいです」
「疑ってないとは言えないからな」
俺は一度柚那の頭を撫でてから風呂場に行き、シャワーの蛇口をひねる。
「今の朱莉さんの気持ちとしてはどうなんですか?夏樹ちゃんが怪しいと思っています?」
後から脱衣所に入ってきた柚那がそう言って横で下着を脱ぎ始める。
「フィフティ・フィフティだな。信用するための根拠になるような資料がないし、かといって敵だと断ずるほどの証拠もない。サボり魔が一体何をしていたのか弁明を聞いてみて…必要なら捕まえるだけだ。というか柚那。この時期二人でシャワーって辛くないか?寒いぞ」
「あ、さっき朱莉さんが寝ている間にお湯張っておいたんで大丈夫ですよ」
言われて風呂の蓋をあけると、確かに浴槽には湯が張ってあって入浴剤までバッチリ入っている。
「夏樹ちゃんを呼び出した時間まではまだありますし、ゆっくりお風呂に入ってから向かいましょう」
そう言って笑う柚那はスポンジとボディソープを手に持ち、俺の身体を洗う気マンマンだ。
「……そうだな、別に早く行って深谷さんを捕まえるためのトラップを仕掛けなきゃいけないとかでもないし、焦って行く必要はないか」
「そうですよ。ちょっと落ち着きましょう」
そう言って柚那はボディソープをスポンジに含ませると泡立てて俺の背中を洗い始めた。
どうあっても深谷さんを疑いたくないのだろう、柚那は昨日の夜から深谷さんへの疑いを強めた俺をなだめようとしている。
訓練生だった頃、一期上のはずが落第してしまって俺たちと同期になってしまった柚那が、やたらと先輩風を吹かせてみたり、ツンケンした態度を取って俺達の中で浮いていた時にも柚那に対してかなり寛容でフレンドリーだったのが深谷さんだった。なんだかんだ柚那が完全にひとりぼっちになることなく無事に魔法少女になれたのは深谷さんの力が大きいといって差し支えない。
そんな事情があるので柚那が彼女を疑いたくないという気持ちは、わかると言えばわかるんだけど。
「…ねえ、朱莉さん」
「ん?」
「夏樹ちゃんが、私と朱莉さんの知っている夏樹ちゃんだっていうことは彼女を信用する根拠にはなりませんか?」
それは、この間あかりに俺が言った言葉とほぼ同じ言葉だった。
あの時は、俺が深谷さんの身の潔白を保証してもいいと思っていた。だが今は……
「…ごめんな、それは保証にはならない」
誰の知り合いだろうが、俺の友人だろうが疑わしきは調べるべきだ。
そういう意味では俺よりもあかりのほうが魔法少女としてストイックで徹底していたといえるだろう。
疑うところを疑わないで、仲間やこの国を危険に晒すわけにはいかない。
今の俺には責任がある。
「柚那。もしも俺が間違っていたらその時は謝る。だから今は黙ってついてきてくれ」
「……はい」
背中を洗う手を止めて口にした柚那の返事は少しだけ震えていた。




