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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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忍び寄る影

「うーん…まあ、それはいいんだけどさ…あ、10。上がりっと」


 ボードゲームをしながら今日俺達が深谷さんと話したことを聞いてたあかりが、少し眉をしかめる。


「私、その人見たことないんだよね」

「私もみたことない…3。げっ、一回休みぃ…」

「え!?みつきちゃんも?」


 あかりはまだ期間が短いのでそういうこともあるかなと思っていたが、みつきちゃんは意外だった。


「うん。そもそもさ、あかりが怪我した時もその人いなかったじゃん。それっておかしくない?」

「あ!」


 言われてみればそうだ。あの時すでに深谷さんはご当地魔法少女だったはずで、現場に来ていなかったのはちょっと不自然だ。


「でもあの時って、本部から私達に出撃要請が来たんですよね。だったら、本部側でも夏樹ちゃんが現場に出ていないことは把握しているはずですし、夏樹ちゃんが解任されていないってことは何か他のことをしていただけなんじゃないでしょうか」


 深谷さんの友人として柚那は彼女を弁護する構えのようだ。


「でもさあ、実は私とあかりって結構な頻度で出撃しているんだよね。それってつまりその人が仕事してないってことで、タイマンはってるってやつじゃないの?」

「えーっと、もしかして職務怠慢と喧嘩のタイマンがごっちゃになったのかな?」

「そう、そのタイマン」


 うむ。みつきちゃんは今年もバカかわいいな。


「みつきが言うように職務怠慢かどうかはともかくとしても、私としては一度も会ったこともない人を信用するのはちょっと…」


 割とはっきり物を言うことの多いあかりか珍しく言いづらそうに言葉を濁す。


「俺と柚那の知り合いっていうのは担保にならないか?」

「ごめん、二人共気を悪くしないで欲しいんだけど……はっきり言えば、私はその深谷さんって人が七罪なんじゃないかと思ってる」


 あかりが深谷さんを七罪ではないのかと疑う根拠としては、あかりが魔法少女になって以来一度も臨場しているところを見たことがない。

埼玉、特に南部から東部の案件は現在ほぼあかりとみつきちゃんが対応している(最近俺達のところに埼玉南東部の出動がなかったのはこのため。ちなみに北部、西部はちょくちょく出動していた)ということでそもそも仕事をしているのが怪しい。という二点だけではあるものの、臨場しているところを誰も見ていないというのは確かに怪しい。


「夏樹ちゃんを疑うのは嫌ですけど、これは一応確認したほうがいいですよね」


 あかりを一人で家に置いておくのも心配なので、セキュリティバッチリのみつきちゃんのマンションへ二人を送った帰りの車の中で柚那がそう言って憂鬱そうにため息をついた。


「深谷さんの疑いを晴らすためっていう意味で確認したほうがいいだろうな」


 疑って、よりは疑いを晴らすためのほうが言葉の上だけのことだとしてもいくらかでもマシだ。


「…そうですね!うん、私達で夏樹ちゃんの疑いを晴らしましょう」


 柚那も同じように思ってくれたらしく、先程までの憂鬱そうな表情ではなく、笑顔でそう言ってくれた。


「ただ、もしも…もしもですよ。夏樹ちゃんがユウさんの言っていた潜入している魔法少女だとしたら」

「ああ、それはないと思う。ユウが魔法少女って言った以上、俺たち18人の中にいるだろうし」


 というか、実はもう目星がついているし。


「18人ってことは、朱莉さんもあかりちゃんも、当然私も含むんですよね?」

「あ、ごめん、朝陽と、愛純が介抱していた柚那は違うから16人だな」


 愛純が保健室で最後に見たのは、俺と暴走した朝陽が対峙する姿、そして俺は朝陽以外にもう一人アユという存在を確認している。なので朝陽は除外。

愛純は柚那がアユに変身したという証言はしていないので、柚那は除外。逆に俺がマッチポンプでアユという存在を作り上げた可能性があるので俺は容疑者だし、気絶していた柚那を介抱してくれていた愛純には悪いが、アリバイのない彼女も容疑者だ。


「だとしても、朝陽と同じ理由で朱莉さん。私を介抱していた愛純は抜くべきなんじゃないですか?」

「そうか?アユには俺しか会っていないんだぞ。だったら俺がユウとグルになって嘘をついているっていう可能性もあるだろ」

「それは朱莉さん自身が一番良くわかっているんじゃないですか?」

「まあ、そりゃそうなんだけど、それを主張すると足をすくわれると思うんだよな。今俺が言った理由を可能性から省いたっていうことでな」

「……一応聞きますけど、違いますよね?」

「違うけど、そういう真実になる可能性も考えておけよ。じゃないともしもの時にお前まで濡れ衣を着せられかねないからな」


 うちのトップはそこまでボンクラではないだろうけど、立場上俺に疑いを掛けなければいけない状況だって起こりかねない。

 そうなった時に言い方は悪いが、俺の疑惑を晴らすための手足になってくれそうな柚那まで一緒に拘束されるは非常にまずい。


「朱莉さんが濡れ衣を着せられるんなら私も一緒に―」

「そう思ってくれるのは嬉しいけど、もし柚那まで濡れ衣を着せられちまったら誰が俺の濡れ衣を晴らすんだ?誰がみんなを守るんだ?そうなっている状況ってのは、他のみんなが大なり小なりスパイに感化されているって状況なんだぞ」

「……朱莉さんのそういう考え方、時々ちょっと怖く感じます」

「可能性の話だよ。都さんはもちろん、狂華さんやチアキさん、それにひなたさんがそんなボンクラだとは思わないけど、何があるかわからないからな」


 精華さんはボンクラだけど。


「まあ確かに……あれ?朱莉さん、あれって和希ちゃんじゃないですか?」

「あ、本当だ。どうしたんだろ正月のこんな時間に」


 柚那の言うとおり、俺達の車のちょっと前を和希ちゃんがとぼとぼと歩いていた。


「和希ちゃん」


 車を横付けして和希ちゃんに声をかけると、和希ちゃんは一瞬びっくりしたような表情を浮かべたあと、すこしホッとした表情で笑った。


「あ…朱莉さん、柚那さん」

「どうしたの、こんな時間にこんなところで」


 今俺たちが話をしているのは、国道から少し入った左右一車線ずつの歩道もろくに整備されていない道だ。

 街灯だって電信柱ごとにしかない。


「え…と…その」

「家に送っていくからとりあえず乗りなよ」

「家は…その……」


 帰りたくないのか、何かあって帰りづらいのか。和希ちゃんは言いづらそうに言葉を濁した。


「わかった、だったら家には送らないからとりあえず乗りなよ」

「え、でも」

「いいから。柚那、みつきちゃんに連絡取ってもらっていいか?」

「はい」


 俺が何をしようとしているのか察してくれたのだろう。柚那はすぐにスマートフォンを取り出すとみつきちゃんに連絡をしてくれる。


「ご両親には後で俺から連絡するから、とりあえずみつきちゃんのマンションに行こう」

「みつきちゃんの?」

「ああ。あかりちゃんも今そこにいるから、とりあえず。ね?」

「でも…」

「でもじゃなくて。ほら、そんな薄着じゃ風邪を引いちゃうからさ」


 彼女はコートも着ておらず、この真冬の寒空にパーカーにミニスカートという、見ている方が寒くなるような出で立ちだった。

 俺はとりあえず自分のコートを和希ちゃんに被せると、彼女の手を引いて、やや強引に車の後部座席に押し込んで自分も運転席に戻った。


「柚那」

「OKです」

「じゃあみつきちゃんのマンションに戻るぞ」


 車をUターンさせて今来た道を引き返す。


「もう少し暖房強める?」

「いえ……クシュンっ」

「強めるね。それとこれ、さっき買ったばっかりでまだ開けてないから良かったら飲んで」


 俺は左手でドリンクホルダーのホットレモンティを摘むと後部座席の和希ちゃんに差し出した。


「ありがとうございます…」


 和希ちゃんが受け取ってくれたことを確認して俺は左手をシフトノブに戻す。


「お腹は空いてない?二人はさっき夕食取っちゃったから、おなかすいているならどこか寄って食べてから行くけど」

「あ、大丈……」


 気を使ったのだろう。大丈夫と言おうとした和希ちゃんの言葉を遮るようにして測ったようなタイミングでお腹がグーっと鳴った。


「中華とハンバーグだったらどっちがいい?お正月だからファミレスしかやってないけど」

「……でも私お金が」

「そのくらい奢るよ。あかりちゃんとみつきちゃんの友達なんだから、和希ちゃんは俺や柚那にとっても妹みたいなものだしね」


 そう言った後でバックミラー越しに後部座席を見ると、和希ちゃんは唇を噛んで声を殺して泣いていた。

 

「それじゃ、悪いけど和希ちゃんのこと頼んだね」

「了解」


 そう言ってみつきちゃんは玄関口でふざけ半分にしゃちほこばった敬礼をしてみせる。

 和希ちゃんによれば、彼女の両親はそれぞれ新しい恋人と海外旅行に行ってしまっているらしい。どちらも相手が面倒をみるだろうと思っていたのかもしれないが、かなりひどい話だ。

 和希ちゃんの状況が状況だったのでファミレスは断念しコンビニで弁当を買ってきてしばらく落ち着くまで待ち、今は柚那が和希ちゃんをお風呂に入れている。なので見送りはあかりとみつきちゃんだけだ。


「あ、そうそう。お兄ちゃんも気づいているかもしれないけど、さっきからちょっと変な視線を感じててね」

「そうなんだよ。二人が来るちょっと前からかな。なーんか嫌な感じ」


 あかりの言葉にみつきちゃんが頷く。


「うーん…やっぱり俺も残ろうか?」

「大丈夫だよ。現役の魔法少女が三人もいるんだからさ」


 みつきちゃんはそう言ってドンと胸を叩いた。


「そうそう、今日は私とみつきだけじゃなくて柚那さんもいるんだし」

「そっか、じゃあ帰る前にそれとなくマンションの周りを見てみるよ」

「よろしく。普通の変態なら黒服さんたちが何とかしてくれるけど、もし敵の魔法少女だったら一応準備しておかなきゃいけないから」


 このマンションのセキュリティの万全さというのは、みつきちゃんが住んでいるということ以外に、ここが埼玉南東部の黒服達の寮だということが大いに関係している。

 普通の暴漢や泥棒、変質者対策として24時間エントランスに立っている警備員はもちろん黒服だし、最上階であるここに来るためにはエレベーター一本では来られないようになっている。

 また、非常階段から侵入しようとすれば警報が鳴り響きこれまた黒服が駆けつけてくる。

 さらには万が一敵の魔法少女が攻撃してきたとしても寮全体がM-フィールドになるので、全力のみつきちゃんが迎え撃てるという、ここはいわばみつきちゃんという姫のための要塞とも城とも言える建物なのだ。

 ちなみに、黒服はいないものの、現在実家にもMフィールドの加工がされているので、あかりが自宅で敵に襲われても変身して反撃することができるようになっている。


「じゃあ、柚那と和希ちゃんにもよろしく」

「うん、調べ物頑張って。私が変なこと言っちゃってごめんね」

「いや、あかりは別に間違ったこと言ってないから気にするな。じゃあな」


 二人に別れを告げると、俺はエレベーターで降りるフリをして非常階段を駆け登る。

 普通に考えて、最上階のみつきちゃんの部屋を覗くのであれば屋上が怪しい。見まわるなら地上ではなく、屋上が正解だ。

 屋上には、まさにそれらしい怪しい人影があった。まるで、どこかの探偵漫画のように真っ黒な人影だ。


「おい、お前何をしている」


 見つけた人影に声をかけると、人影は一目散に走り出し、そして屋上から跳んだ。

 ここは地上12階。普通の人間が跳んで無事でいられる高さではない。つまり


「魔法少女か!」


 影が跳んだ場所に俺が慌てて駆け寄って下を見た時にはもう既にそれらしい人影は地上にはなかった。


「せめて変身してから声をかけろよ。俺のバカ野郎」


 自分の無能さにため息をつきながら室内に戻り1階に降りると、俺はエントランスにいた黒服さんに屋上の見張りの手配を頼み、みつきちゃんに状況をつたえてから寮に向かって車を走らせた。


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