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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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魔法少女のお正月

「おはよう、お兄ちゃん」

「ああ、おはよう」


 大晦日、柚那と一緒に実家に帰省した俺は二年ぶりに新年を自分の家で迎えた。

 俺が柚那よりも先に目が覚めてリビングにおりると、既にあかりが起きてきていて、泊まりにきていたみつきちゃんもリビングでテレビを見ていた。


「おはようみつきちゃん」

「おふぁょぅ…」


 訂正。テレビの前に座って入るものの、みつきちゃんは半分寝ていた。

 昨晩、あかりの部屋はかなり遅くまでバタバタしていようなので、多分今のみつきちゃんの状態が普通なんだと思う。


「あかり達は今日はどんな予定だ?」

「私達はクラスメイトと、あと和希を連れて初詣の予定だよ。ママ達は三が日はパパの実家に居るって」


 ちなみに親父とおふくろは二人で毎年恒例の旅行に行ってしまっている。


「お前は行かなくてよかったのか?」

「私はここを離れるわけにはいかないもん。狂華さん達が全国を見まわってくれてたり、お兄ちゃんと柚那さんがいてくれてもこの地域の担当は私とみつきだからね。もし初詣中になにかあったら私達でやっつけるんだ」


 あかりがすごくやる気になっているところ水を差すような話で悪いが、本当はこの地域には深谷さんっていう俺と柚那の同期の魔法少女がいたりする。

 ちなみに彼女は配属が決まる前の時点では俺や柚那よりも実力があり、俺が埼玉のご当地で、彼女が一軍という話もあった。しかし、この深谷さん、持ち前の地元愛から条件のいい一軍を蹴って、自分から埼玉のご当地魔法少女を買って出たという稀有な人だ。

この間の忘年会で見かけたのだが話しかけるタイミングがつかめずじまいだったので、この帰省中に柚那と二人で会うのもいいかもしれない。

 話がそれたが、そもそもJCの二人はご当地魔法少女でもないし、一軍でもない。それどころか、本来は非戦闘員扱いの広報担当者だ。

 だからよっぽどのこと、それこそXmasの時のように目の前で戦闘が始まる寸前というような事情がなければ戦わなくても問題なかったりする。

「そんなに気を張っていると疲れていざというときに力が出せなかったりするぞ。今日は俺と柚那もいるんだし、魔法少女とかそういうことは考えずに友達と一緒にパーッと気晴らししてこいよ」

「そうだね。ありがとうお兄ちゃん」


 そう言ってあかりはニコニコ笑いながら手を差し出す。


「はいはい。あけましておめでとう」

「えへへ、ありがとう」


 お年玉の用意はしてあったので、パジャマのポケットからぽち袋を取り出してあかりの手のひらに乗せる。


「ほら、みつきちゃんも」


 俺はみつきちゃんの前に回りこむと、うとうとしているみつきちゃんの手にぽち袋を握らせた。

金額は、初詣の縁日で一日遊びまわったらなくなってしまう程度の金額である。

もちろんもっとお年玉に回せるくらいにはお金は潤沢にあるのだが、あまりあげすぎるのも二人にとって良くないような気がしてこの辺りの加減が結構むずかしい。


「じゃあ、私達はもう少ししたら着替えて出かけるけど、あんまり柚那さんとイチャイチャしてばっかりいちゃダメだよ」

「そんなにいちゃいちゃなんてしねえよ」


 せいぜい下着姿で同じ布団に入るくらいのものだぞ。




 あかりとみつきちゃんを見送って布団に戻り、しばらくいちゃいちゃしたあとで、俺と柚那は深谷さんに連絡をとって家を出た。


「なんか久しぶりですよね、夏樹ちゃんに会うの」

「そうだな。この間の忘年会の時は話しかけそびれちゃったし」

「あれ、あのとき夏樹ちゃんいました?」

「いたよ。柚那は忘年会の時ずっと愛純とあかりに挟まれてごきげんだったから気が付かなかったんだろ」


 というか、仲良くなるのはいいことなんだけど仲良くなりすぎじゃないかね君たちは。

いや、ヤキモチとかじゃなくて、あんまり仲良くなりすぎると色々面倒なことになりそうだなって思って。


「深谷さんに会うのってどれくらいぶりだ?一年ぶりくらいか?」

「一昨年の年末に振り分けがあって、それ以来ですから一年ちょっとぶりですね……って、そう言えば朱莉さんってなんで夏樹ちゃんのこと深谷さんって呼ぶんですか?夏樹ちゃん朱莉さんより年下ですよ」

「……まあ、色々あってさ」


 深谷さんはいい人だと思うけど、俺は彼女がちょっと怖いとも思っているところがある。


「色々ってなんです?」

「色々は色々だよ……心を読もうとしても無駄だぞ。考えないから」

「ちぇっ」


 30分ほど歩いて待ちあわせをしていた、正月だというのにあまり人気のない神社に到着すると、そこにはスタジャンにホットパンツ。それに黒タイツというこれまたあまり正月っぽくない格好の深谷夏樹が待っていた。


「あっ、来た。二人ともこっちだよ!」

「わー、夏樹ちゃん久しぶり!」


 柚那は深谷さんの姿を見つけると彼女に駆け寄り手をつないでぴょんぴょんはねたりしている。傍からみていると女の子同士のこういう行為ってかわいいなと思うけど、どうしても自分でやる気にはならないんだよなあ。


「朱莉ちゃんも久しぶり!」


 しばらく柚那と談笑した後で、深谷さんは俺の方に駆け寄ってきて両手を握るとぶんぶんと上下に乱暴に振った。


「ん。久しぶり」

「忘年会の時に話しかけようと思ったんだけど、なんかすごい人たちと一緒だったから話しかけられなくてさ」

「すごい人?」


 すごい人なんていたか?長い時間精華さんとか楓さんと一緒にいた気がするんだけど


「東北のリーダーとか、関西のエースとか私にとっては雲の上の人じゃん?」


 まあ、俺達の代はほぼチアキさんが一人で研修を回してたから、精華さんや楓さんと面識がないのはわかるけど、雲の上っていうほどの人かなあ。


「まあ、そういう意味じゃ朱莉ちゃんも雲の上の人だけどね。最新のランキング見たよ。全体六位とかすごいじゃん。それに関東のリーダーでしょ?あっという間に置いて行かれちゃったよね」

「それ、俺より成績がよかったのに自分から望んでご当地なんてやってる人がいうことか?」

「あ、ご当地バカにしちゃだめだよ。これでも結構忙しいんだからね。…まあそれも最近はみつきちゃんやあかりちゃんのお陰で大分楽させてもらっているけど」


 そう言って深谷さんは今までのグイグイくる感じのテンションから一転して、少しさみしそうな顔で苦笑した。

 そっか。あの二人が出張るっていうことは、この人の仕事が減るっていうことなんだ。


「まあ、楽させてもらっている分、他で色々やっては居るんだけどね」

「他?」

「うん、こっちに情報は下りてきていないんだけど、多分朱莉ちゃんたちのほうでも敵の幹部に関する情報は掴んでいるよね?」


 ああ、そういえば都さんが、余計な混乱を生むのが嫌だからこの件はご当地には下ろさないって話をしていたっけ。

 まあ、でも深谷さんなら大丈夫だろう。頭いいし、落ち着いているから俺より強い相手の話を聞いても取り乱したりしないだろうし。


「幹部…七罪の話だね」

「ふうん。七罪ってことは7人いるんだ」

「ああ。その内の一人はもう俺達の味方になっている」

「そっか。じゃああと6人…って、え!?味方!?」

「秋ごろ入った秋山朝陽っているだろ。あいつは元七罪なんだよ。簡単に経緯を話すと、俺が襲われて柚那がボコボコにしてその後説得したら仲間になったって感じでさ案外あっさりと…」

「いやいやいや。いくらなんでも簡単に言いすぎじゃないかな!?もう少しこう紆余曲折あったんじゃないの?ねえ、柚那ちゃん」

「うーん…でも本当にそんな感じだったんだよ。朱莉さんが朝陽に襲われているところに私が華麗に助けに入って、『えいっ』ってやったら朝陽が降参したっていう感じで」


 深谷さんから話を振られた柚那はずいぶんソフトに言ったけど、実際はそんな可愛らしい『えいっ』なんて感じじゃなくて、どこかの汎用人型決戦兵器みたいな動きで朝陽の肩肉をむしり取っていた気がする。…指摘するとあとが怖いから言わないけど。


「ちなみに、その七罪の首領と一緒にXmasを過ごしたりもした」

「そっかなるほどー、敵の首領と一緒にXmasを……って、だから色々とおかしいよ!」


 だよなあ、おかしいよなあ。柚那も普通に受け入れるわ、あかりもなんとなく一緒に過ごすわ、都さんに至っては大笑いしながら上出来とか言って褒めてくるわだったので、もしかして普通のことなのかと錯覚しかかってしまっていたが、普通はおかしいと思うよな。


「ごめん。ちょっと私が頭固いのかもしれないけど、どういうこと?朱莉ちゃん敵と繋がってるの?」

「純粋な意味でなら、繋がりがあると言えなくもない」


 実は俺は非常用の連絡方法をユウから教えてもらっていたりもする。一応情報の共有ということで都さんにも伝えようとしたのだが『それは彼女があなたを信頼して渡してきたものだから報告不要』とか言われた。


「朱莉ちゃんは敵じゃないんだよね?」

「自分でも段々立ち位置がわからなくなってきているんだけど、深谷さんはもちろん、日本の魔法少女の敵ではないよ。ただ……」

「ただ?」

「…七罪とも敵対したくないと思っている」


 深谷さんの表情がピシっと固まり、場の空気が凍るのを感じる。


「わかってる?この後の回答によっちゃ、私が朱莉ちゃんに引導を渡すことにもなりかねない発言だよ、それ」

「だろうね。一応長官…都さんには話して了承を得ている件なんだけど」

「それはそれ。これはこれ。同じ件でも私の目の届くところに持ち込んでOKかは私が決めるよ」


 地方分権とは少し違うが、ご当地魔法少女にはある程度の裁量権と自治権が認められていて、自分の担当地域でのみだが、他のご当地魔法少女を立入禁止にしたり、長官である都さんの命令を待たずに必要に応じて独断で敵の撃滅を行うこともできる。

 とはいえ、実際にはそこまでの実力行使ができるご当地魔法少女は少なく、その権利が行使されることは殆ど無いし、万が一ここで深谷さんがその権利を行使するということになっても、柚那と二人がかりでなら間違いなく勝てる。

とはいえ、楽勝とまでは行かない。この人はそのくらいには強い。できればそんな面倒なことにはなりたくないが。


「敵対したくないという理由を聞こうかな」

「相手も同じ人間だからだ。経緯は違うが、宇宙人の技術で魔法少女になったという成り立ちは俺たちと同じ。だったら、分かり合って助けあうことができると思う」

「同じ人間であっても、わざと間違いを犯すようなクズは山ほどいるよ、それを無条件に受け入れていったら世界は腐り果てると思うけど」

「少なくとも朝陽もユウも…アユもそういうクズとは違うと思っている。これは俺が自分の目で確かめたことだから自信を持って言える」

「その他の魔法少女については、わからないんだよね。だったらその三人以外は見極めるなり、始末をつけるなりする必要があるんじゃないの?」

「俺が認めた人間が気にかけている奴が悪いやつだとは思いたくない」

「それは君の希望でしかないよ。実際敵の幹部のせいで大怪我をした魔法少女だっている。君の妹のあかりちゃんもそうだ。そういう人たちの気持ちは考えないの?」

「それは本人同士の問題で、俺がどうこう言える問題じゃない」


 深谷さんの言うとおりあかりの事もあったので、これについてはものすごく考えたが当事者以外が、俺はもちろん、深谷さんもとやかく言える問題じゃない。

第三者が何を言っても、お説教か同情にしかならない。クリスマスの時にあかりにも言ったが、つまるところ当事者同士がどう折り合いをつけられるかでしかないのだ。


「……朱莉ちゃんは結局誰が大事なの?私達?七罪?」

「柚那」

「は?」

「俺にとって今一番大事なのは柚那だ。ぶっちゃけ、柚那が楽しく暮らせるためにどうしたら良いかってことが俺の一番の関心ごとだよ。次があかりやみつきちゃん、それに朝陽や愛純みたいな近くにいる仲間や魔法少女仲間。それに家族かな」

「七罪は?」

「魔法少女仲間だと思っている」


 俺の答えを聞いた深谷さんは深い溜息をついて肩を落とした。

 そしてそれと同時に張り詰めていた空気が緩む。


「100%納得したわけじゃないけど、そこまでハッキリ惚気られるんだったら裏切るっていうことはないのかなとは思った。その七罪については朱莉ちゃんに任せることにするよ」


 深谷さんのその言葉を聞いて、今まで黙って固唾を呑んで見守っていた柚那もほっと胸をなでおろした。


「怖かったぁ、もし万が一夏樹ちゃんと朱莉さんが決闘なんていうことになっていたら私…」

「柚那…」

「どっちに味方したらいいか迷っちゃうところでしたよ」


 屈託のない笑顔を浮かべながら、柚那がそんなことをのたまう。


「いや、そこは俺につこうよ。婚約者なんだしさ」

「朱莉ちゃんと柚那ちゃんが婚約?なにそれ聞いてない」


 ああ、そうか。そうだよな。全然周りに言ってないもんな。


「11月の末位だったかな。なんか色々あって婚約したんだよ」


 まあ、本当に入籍するっていうわけにもいかないので、そこから何か進展したということはないんだけど。


「そうなんだ、おめでとう。なんかいいよね、そういう話ってさ」

「4月に大一番を控えている時に婚約とか、死亡フラグにしか見えないけどな」

「何をバカな。殺しても死にそうにないくせに。柚那ちゃんじゃないけど、朱莉ちゃんが裏切ってなさそうでよかったよ。もし本当に朱莉ちゃんに引導を渡さなきゃいけない状況になっていたら、ちょっと大変だったと思うし」


 『勝てない』ではなく『ちょっと大変だったと思うし』と来た。勝ち負けについては言及しないあたり、この人もかなりの自信家だと思う。


「……まあ、深谷さんがいれば地元は安心だな」


 良くも悪くもこの人なら埼玉を守り切ってくれるだろう。


「わたしなんて大したことはないと思うけど、みつきちゃんとあかりちゃんがいるからね。頭数もいるし、東京と大阪と仙台を除いたら多分全国で一番戦力がある県なんじゃないかな」

「違いない」


 武闘会のあとのランキングではみつきちゃんは8位、あかりも17位につけた。

ご当地魔法少女はランキング対象でないので深谷さんについては詳しくはわからないが、おそらく深谷さんはあかりより強いはずなので、ちょっとした一軍のチームが埼玉に常駐しているのと変わらない。


「ああ、そうそう。みつきちゃんとあかりちゃんと言えばさ、この間ちょっとピンチになりかけたことがあってね」

「ピンチ?」

「幹部…その七罪らしい子がMフィールドの外に浮いてて、二人が怪人や戦闘員と戦っているのをニヤニヤしながら見てたの。で、戦闘が終わってMフィールドが解除されたところで二人を狙って魔法を使おうとしたから、狙撃して追っ払ったんだけど」

「え?何したんです?」

「狙撃」


 この人ネギ型のステッキで殴りあう近接戦闘タイプじゃなかったっけ。


「深谷さんって、近接タイプじゃなかったでしたっけ?」

「深谷ネギは万能なんだよ。剣にもライフルにも薬にもなっちゃう」


 ならねえよ。

 そんなフフンと得意げな表情で言ったって、ネギはネギだ。万能なのはステッキであってネギじゃない。


「で、それからもちょこちょこ出てくるから私はMフィールドの外でその子と小競り合いみたいなことをしてるんだ」


 なるほど。それで、あかりが『私達しかいない』みたいなことを言っていたのか。


「やっぱり深谷さんでも倒せないですか?できれば捕まえてくれるとなおよしなんですけど」

「うーん……みつきちゃんとあかりちゃんと三人で頑張ればあるいはって感じかな。私一人じゃ無理だと思う」

「なるほど……」


 多分、深谷さんの分析は的確だ。どこまでブラフかは分からないが、残りの七罪が朝陽以上の実力を標榜している以上、三人がかりでもどこまでやれるか微妙なところだろう。

 ただ、逆にちょこちょこ見つけることができているということは、俺と柚那、それに愛純と朝陽が常駐するなり、埼玉エリアで敵が出てきた時に急行するなりすれば捕まえることもできなくはないということだ。


「深谷さん。今度その七罪らしき魔法少女が出たら、俺に直接連絡をくれませんか?すぐに急行するようにしますんで、タイミングが合った時に協力して捕獲しましょう」

「わかった。ただ、あかりちゃんとみつきちゃんがあまりに早く片付けちゃうと朱莉ちゃん達が来る暇ないから、その辺は二人と打ち合わせて」

「了解。調整したらまた連絡しますんで」

「うん、よろしく。それと…さっきはあんな尋問みたいなことしてごめん。本当は、私も人間通しで争いたいとは思ってないから、朱莉ちゃんの気持ちと長官の方針を聞いて、ちょっとホッとしたよ」


 そう言って笑う深谷さんの表情にはどこかホッとしたような色が含まれていた。


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