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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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Xmas JC

 Xmasが今年もやってくる。

 あの、忌まわしいイベントが。


「あかりはクリスマス誰かにプレゼントあげるの?」


 冬休みを目前に控えた12月下旬の帰り道。白い息と共に、みつきはそんな言葉を吐き出した。


「この時期とバレンタイン時期になると鬱陶しいお父さんとパパに、手編みのマフラーと腹巻きをあげようと思ってる」


 多分みつきから見た私の目は、まるで死んだ魚の眼のような色をしているだろう。

そして吐き出した白い息はきっと魂のように見えているに違いない。

 たいして編み物が得意というわけではない私はここ三年ほど、家族からのリクエストでだいたい11月くらいから準備を始める。

それでも今の時期でまだ完成していないし、編み目もところどころおかしいところがあって、腹巻きとしては致命的な伸びない部分があったりするし、マフラーも毛糸がぴょんとはみ出している部分がある。

 私としてはあんな酷い作品を他人に見られるストレスと、上手く作れないストレスで胃がキリキリするのでやめてほしいのだけど、二人は娘が、孫が作ったものだからと会社で自慢して回る。


「もうなんか……死にたい…」

「え!?なに?いきなりどうしたの?」

「ごめん、なんでもない。そういうみつきは誰かにあげるの?」

「お兄ちゃんとチアキさんに何かあげようかなと思ってるんだけど、お兄ちゃんのほうは見当もつかなくて。何がいいかな」


 ……マズい、お兄ちゃんのことすっかり忘れてた。

去年は死んだことになっていたお兄ちゃんも、お父さんとパパ同様、私の手編みをやたらと欲しがる人の一人だ。そして、そのお兄ちゃんの分は全く考えていなかったので何も用意していない。


「そ、そうだなあ…いくつか心当たりがあるけど……ね、ねえ、私とみつきの二人からっていうことで半分ずつお金ださない?そうすればしっかりお金も掛けられるし」


 というか、今からじゃ編み物は間に合わないし、ぶっちゃけお金もあんまり残ってない。


「あ、それいいね!じゃあいつ買いに行く?」

「24日はどう?イブになっちゃうけど、まあどうせイブにはお兄ちゃんやチアキさんに会わないだろうから別にいいでしょ」

「OKだよ。じゃあお兄ちゃんに喜んでもらえそうなプレゼントを一緒に選ぼうね!」


 みつきはそう言って私と違って後ろ暗いところなどなさそうな純真な顔でニッコリと笑った。

 うう……みつきの笑顔がまぶしすぎて直視できない。




 イブ当日。

 なんとか仕上がったお父さんとパパの分のマフラーと腹巻きをラッピングして押入れに隠した後、私はみつきとの待ち合わせ場所にやってきたがまだ待ち合わせには少し早い時間なので、みつきは来ていない。


「あれ?もしかしてあかりちゃん?」


 みつきが来るまでどうやって時間を潰そうかと考えていた私は名前を呼ばれて振り返った。

するとそこにはみつきと同レベルの美少女が立っていた。

 みつきや帰ってきたお兄ちゃんをはじめ、最近周りの顔面偏差値が上がってきて美少女に対して大分免疫ができているはずの私でさえ思わず息を呑む美少女…なのだが正直言ってまったく見覚えがない。


「……えーっと、どちら様でしたっけ?」


 よく顔をあわせる1軍メンバーでもなく、研修生としても顔を合わせたことはないと思う。というかこんな美少女、一度でも顔を合わせたら忘れるわけがない。


「やだなあ。わたしだよ。和希。平泉和希。幼稚園のころよく一緒に遊んだでしょ」

「いや、和希って男の子だった気がするんだけど」


 何?狂華さんみたいなことなの?女装にハマった的な、そういうことなの?


「やだなあ、確かに昔は髪が短かったから男の子に見えたかもしれないけど、私は昔から女の子だよ」


 そう言って和希はケラケラと笑う。その笑い方は確かにうっすらと記憶にある和希の声と顔だった。


「で、今日はどうしたの?彼氏と待ち合わせ?」

「あはは、彼氏なんかいないって。そういう和希こそ彼氏と待ち合わせ?」


 そう。私に彼氏などいない。

なぜなら私の好きだった人はあろうことかお兄ちゃんに夢中なのだから。


「あはは、うち女子校だからね。そんなのいないって。でも、彼氏がいないなんてもったいないなあ。あかりっって結構かわいいのに」

「それ、和希が言うの?」


自分で自分がブサイクだとは思っていないが、やっぱりみつきや柚那さん、それに目の前の和希みたいなトップクラスの美少女と並ぶと見劣りすると思う。

いや、はっきり言ってお兄ちゃんにも負けているわけで、もしかしたら私はブサイクなのかもしれない。


「やだなあ、私なんて全然たいしたことないよ。でも、彼氏と待ち合わせじゃないならこんなところでどうしたの?」

「友達と買い物に行こうって約束してその待ち合わせ」


 駅前広場の時計に目を移すと、ちょうど待ち合わせ時刻になったところだ。


「いつもは時間キッチリにはくる子なんだけどね」


 そう言って和希に視線を戻した私の視界に一瞬何か違和感があった。

 もう一度時計の方へ目をやると、時計のポールにみつきが身を隠していた。

 というか、隠そうとしているのだろうが、残念ながらポールはみつきの華奢な身体よりもさらに細いので、顔を中心としてすこしだけしか隠せていない。というかいつものツインテールがはみ出ている。。


「まったく、あの子は……」

「え?」

「いや、こっちの話」


 私はそう言って、そーっと時計台のポールに近づくとみつきの手を捕まえた。


「う、うわわ。やだ、知らない人怖い」

「もうっ、そうやって人見知りしてると、精華さんみたいになっちゃうって言ってるでしょ」

「だ、だって……」

「精華さんになりたいの?」

「…なりたくないです」


精華さんに酷いこと言ってるなあと思うけど、みつきがあんな風にコミュ障のひきこもりになってしまったら大変だ。

 チアキさんにもその辺はなんとかしてあげてほしいと頼まれているし、ここは心を鬼にしよう。


「和希、この子知ってるよね」

「うん。あかりと一緒にユニット組んでる根津みつきちゃんだよね」

「あ、私のことも知ってたんだ」


 なんだかちょっと恥ずかしいな。


「まあ、あれだけ有名な番組に出てると、さすがに噂も色々聞こえてくるからね」

「みつき、この子は平泉和希。同じ幼稚園だったの」

「平泉和希だよ。仲良くしてもらえたら嬉しいな」

「ね、根津みつき…よろしく…」


 みつきは私の後ろに隠れるようにして、顔だけ出してそう挨拶をする。


「みつきはちょっと人見知りで。ごめんね和希」

「ううん。初対面の人と会うと緊張しちゃうのすごいわかるよ。私も芸能人を二人も目の前にして心臓がバクバクいってるし」

「芸能人だなんてそんな大層なものじゃないよ」


 特に私はみつきとバーターで予告編やラジオをやっているだけだ。


「いやいや、完全に芸能人でしょ。だってテレビ出てるんだもん。すごいよ二人共」


 みんなが意外に普通…の人ではないけど気さくな人ばかりだったから意識したことなかったけど、言われてみれば視聴者からはそう見えるんだなあ。


「すごい?私すごい?和希ちゃん、私すごい?」

「すごいすごい」


 ああ、そうだった。みつきはおだてられると気を良くして人見知りがちょっと治るんだった。


「あかり!私、和希ちゃんと仲良くできそう!」

「はいはいよかったねー…そうだ、もし暇だったら和希も一緒にくる?知り合いのプレゼントを選ぶだけなんだけど、よかったら」

「知り合いって、もしかして同じ番組に出てる人に贈るの?」


 和希はそう言って目をキラキラと輝かせる。


「そうだよ!私はおに…朱莉お姉ちゃんとチアキさんに贈るの」

「じゃあ、もしかして他の人に渡してほしいっていうのもお願いできたり…」

「まっかせて!今いる魔法少女のほとんどは私の後輩なんだから!」


 そう言ってみつきがドンと薄い胸を叩く。

 うーん…任せてとか言っちゃって、本当に大丈夫なのかな。




 夕方前に買い物を終え、メインの買い物ついでに買ったちょっとしたプレゼントを渡しあった私達は駅前のカフェでケーキをつついていた。周りの席はカップルが多く、女子中学生3人というのは、ちょっと居心地が悪い。


「そういえば、あかりとみつきってどうやって知り合ったの?」

「みつきが引っ越してきて、たまたま同じクラスになったんだ。で、みつき経由で朱莉さんとか柚那さんに出会って。それからまあ色々あって、みつきとユニットを組むまでになっちゃったの」

「なっちゃったって、それだとあかりが嫌々やっているみたいに聞こえるよ。いつも結構楽しんでやっているくせに」

「嫌々とは言わないけど、不本意な部分がないわけじゃないからね」


 特に、右腕亡くしたこととかね。


「じゃあ、もしかして私も上手く行けば一緒に活動できたりとかする?」

「それいい!」

「いいわけないでしょ…ごめん和希。実はもう定員いっぱいいっぱいなんだ。これ以上増やすかどうかはこの先の番組の人気とかそういうものを総合的に見て判断するって偉い人が言ってたから」


 まあ実際のところ、戦力の増強はしたいけど、もう予算がないと都さんが言っていただけなんだけど。


「ちぇっ残念。」


 そう言って和希は少しむくれた顔でストローを口にくわえてピコピコと上下させて遊ぶ。


「じゃあ、例えば空きができたときに頑張れば、私が入れたりするのかな」

「まあ、可能性はゼロじゃないと思うよ」


 適性検査という努力じゃどうしようもない難関が待ち受けているので、それを乗り越えなければいけないんだけど。


「じゃあ、もし万が一空きができたら教えてね」

「もちろんだよ」


 そう言ってみつきと和希はガシっと手を握り合う。

 ああもう、みつきは完全に和希に飼いならされているなあ。

そういえば和希は昔から幼稚園に迷い込んできた野良犬とか、捨て猫とかそういうのに異常に好かれる子だった気がする。


「あ、もうこんな時間。ごめん、二人共。私ちょっとチアキさんのところに呼ばれてて。先帰るね」

「チアキさん?なんで?」

「あー…その…和希はチアキさんのファンだったりする?」

「え?ううん。私はTKOのころからのみゃすみんファンだよ」


 そういえば、和希がさっき駅ビルで買ってみつきに渡した雑貨は愛純さん宛だと言っていたっけ。


「じゃあ話してもいいか。実はチアキさん、今夜一人ぼっちで寂しいんだって。同じ寮に住んでいるみんながペアであっちこっち出かけちゃったから、遊びに来てーって、さっきメールがあったんだ」

「ふうん、テレビでしか知らないけどチアキさんってモテそうなのにね」

「優しいし美人なんだけどね、まあ色々あるんだよ。じゃあ、私はそろそろ行くね」


 みつきはそう言って荷物と一緒に伝票を手に取ると「ここは私が奢るねー」と言いながら

レジのほうへと向かった。


「いいのかな奢ってもらっちゃって」

「いいと思うよ。みつきって結構稼いでいるし、お小遣いもいっぱいあるみたいだから」


 お小遣いというか、あの子の場合、お金を親が管理している私と違って、自分のお金は自分で管理しているからいくらでも使える。

 とは言っても意外と経済観念は結構しっかりしていて、無駄遣いをしたり、むやみに奢ったりしてお金の力で人の関心を引こうとする子ではないのでこうして奢ると言い出すのは珍しかったりする。

 飼いならされているといったが、それを差し引いても、きっとみつきは和希のことが気に入ったんだと思う。


「さて、じゃあ私達もそろそろ帰ろうか」


 一応遅くなると連絡してあるとは言っても、もう7時。そろそろお父さんやパパも帰ってきてパーティを始める頃だろう。


「あ…うん、そうだね。帰ろうか」


 気のせいか、和希は少し寂しそうな表情でそう言った。


「もしかして親と喧嘩したとか?」

「喧嘩というか……実は今日、親いないんだよね。うち最近色々揉めててさ。あはは…」


 なんだろう。家庭不和とか、別居とか離婚とかそういうことだろか。


「んー…じゃあ、うち来る?たいしたものはないけど、ケーキと食事くらいはあるし。なんだったら泊まっていってもいいし」

「ほんとに!?」

「和希の親がいいって言ったらね。うちは別に構わないと思うよ。賑やかなの好きだし」

「じゃあ、ちょっと連絡してくる」


 和希はそう言って携帯を取り出すと、親に連絡を取り始めた。




 少し帰りが遅くなっていたお父さんとパパも帰ってきて、宴もたけなわとなったところで、お兄ちゃんから電話がかかってきた。


『おう、あかりか』

「はいはい、あかりですよ。朱莉さん」


 和希のいる前でお兄ちゃんと呼ぶわけにもいかないので、私は少しよそ行きの態度で応じる。


『…俺、なんか悪い事したか?』

「いえ、今日は友だちが来ているので」


 そう言って私はリビングから廊下に出る。


『ああ、そういうことね。突然で悪いんだけどさ、今日チキンが買えるところ知らないか?』

「チキンって、フライドチキン?」

『そう』

「いや、ないと思うなあ。スーパーとかコンビニのなら買えるかもしれないけど」

『だよなあ。都内はほぼ全滅だし……』

「あ…もしかしたらなんとかなるかも」

『マジで!?』

「うん、家の近くのお店あるじゃない。同級生のお父さんがあそこの店長さんなんだ。ただ…」

『ただ?』

「前に話した。というか、月曜のラジオにしょっちゅうメッセージを送ってくる子なんだよね」

『うげっ、あいつか……』

「だから、もしかしたら握手とかサインとか…場合によってはハグとか求められるかもしれないけど」

『サインまでならなんとか……連絡して聞いてもらってもいいか?』

「ん。わかった。どれくらいで来られる?」

『40分くらいで実家に行けると思う』

「…え、こっちくるの?」

『いきなりお店ってわけにもいかないし……なにより奴を相手にするには柚那だけじゃ心細いし。さすがに同級生の目があれば妙なことは言い出しづらいだろ』

「…ヘタレ」

『そういうことハッキリ言うなよな!』

「じゃあ、聞いてみるから一旦電話切るよ。ダメだったら連絡する」

『悪いな、よろしく頼むわ。愛純が寮でお腹をすかせて待ってるんだ』


 …あれ?寮にはチアキさんしかいないんじゃなかったっけ?


「誰から?」

「朱莉さん。柚那さんと一緒にこっち来るって」

「ええっ!?なんで?あかりってあの二人ともそんなに仲いいの?」

「いろいろあって仲はいいかな。まあ、今日は私に会いに来るとかじゃなくて、フライドチキンが目的だって言ってたけど」

「フライドチキン?」

「そう。予約もしてないのに、今日欲しいんだってさ」

「えー…さすがに無理じゃないの?」

「まあ、多分なんとかなるとは思うよ」


 クラスの男子連中、無防備にパンチラ連発するお兄ちゃんのこと大好きだし。




 友達伝いになんとかフライドチキン店の息子であるクラスメイトの連絡先をゲットし、お兄ちゃんとの生握手サイン付き生写真撮影をカードに交渉したところ、あっさりと交渉が成立した。

 こちらとしてはカーテン越しのお兄ちゃんの生着替え+もうワンパターンの写真撮影(もちろんどちらもお兄ちゃん未承認)くらいは考えていたのでやや拍子抜けだった。

 家に到着したお兄ちゃんに連れられて私と和希がフライドチキン店に行くと、問題の彼から話を聞いたらしい何人かのクラスメイトがいた。

 お兄ちゃんは何か吹っ切れたらしく、柚那さんも巻き込んでその全員や和希と握手したり写真撮影をしたりしてファンサービスをたっぷりしている。

 …まあ、それはいいんだけれど。


「…なに?」

「いえ」


 私は盛り上がる男子生徒たちから少し離れたところでその様子を見つつ、隣に立っている、お兄ちゃんいわく裏方のスタッフだという女の人を観察していた。


「…間違ってたらごめんなさい。もしかして朝陽さんのパターンですか?」


 変身前と変身後でイメージが変わる人は結構いるが、この人の場合ほとんど変身前後で容姿が変わっていないので、多分間違いないだろう。この人は敵の幹部だ。

 こうして、お兄ちゃんや柚那さんと一緒に行動しているということは、またお兄ちゃんが味方に引き込んだのだろうかと思い尋ねたのだが、彼女はクビを横に振った。


「違うわよ。私は私。立場は変わってないわ」

「って、ことは敵なんですよね。どうして二人と一緒にいるんです?」

「まあクリスマスだし、今日は休戦ってことで、朱莉達と一緒に遊んでたってわけ」

「…なるほど。休戦中なら別にいいんですけど」

「別にいいって……やっぱり朱莉の家族なだけあって、変な子ね、あなたも」

「自覚はありますよ。自覚のないお兄ちゃんと違って」

「あはは、自覚がないはよかったわね。まあ、今日くらいは平和に過ごしたいものだけど…」


 そう言って彼女はお兄ちゃんたちの方に少し怪訝そうな視線を向ける。


「……一体何を考えているんだかね」

「お兄ちゃんも柚那さんも何も考えてないと思いますよ」

「…そうね、朱莉の魂胆は懐柔して籠絡することだろうからだまし討ちとかそういうことはないでしょうね」


 そう言って彼女はフッと笑った。



 結局バーレルを持って店の外にでられたのは、お店に到着してから40分も過ぎた後だった。

 店長さんがいい人で、帰りに合わせてチキンを作りなおしてくれたのでチキンはまだホカホカだ。


「あー……やっと終わった」


 和希が送り先に指定した、私とお兄ちゃんが再会した公園の駐車場でハンドルに頭を預けながら、お兄ちゃんはため息混じりにそう言った。


「変な安請け合いするからでしょ。自業自得よ」


 ユウさんはそう言ってカラカラと笑う。


「うるせーよ。それより和希ちゃん。本当にここでいいの?家の前まで送るよ?」

「いえ、うちの前って道が狭い上に行き止まりなので、ここで大丈夫です。すぐそこですし」

「そう?でも……」


 言いかけたお兄ちゃんが何かに気がついたような表情であたりを見回し、同時に私の背筋もゾクッとした。


「……ユウ?」

「違うわよ。私はずっとあんたたちと一緒にいたでしょうが」

「…だよな。ユウ、悪いけど一応和希ちゃんを家の前まで送って行ってもらっていいか?」

「あら、私でいいの?嘘をついているかもしれないわよ」

「いや、お前は嘘をついてない。頼んだ」

「本当にお人好しね、あんたは」

「それが俺の持ち味だ。それじゃ和希ちゃん、また会おうね」

「はい。またです」


 ユウさんに連れられて去っていく和希を見送った後、お兄ちゃんの車に積んであったMフィールド発生装置で公園を隔離してから私達は変身した。

 現れた敵は怪人が4、戦闘員が20。怪人はややパワーアップされているのか少し強かったが、こちらも3人がかり。私達はあっという間に敵を殲滅することができた。


「お疲れ様」


 そう言って、和希を送り終わって戻ってきていたユウさんが、4本の温かい缶コーヒーを抱えて近寄ってくる。


「ずいぶん早かったのね」

「まあ、怪人だけだったからな。七罪がいたら戦う、戦わないにかかわらず、もうちょっとかかってただろうけど。ちなみにユウ、今回仕掛けてきたのは七罪の誰だかわかるか?」

「『強欲』ね。この辺は大体強欲の子が仕切ってるし、さっき本人に確認したから間違いないわ」

「またあっさりと情報をくれるな、お前は」

「別に誰の手先かなんてわかったところで、どうってことないでしょ。そっちの司令官さんと同様、私も別に情報を隠す気なんてないわよ」


 とは、言ってもあまりにあっさり話をしすぎたのが気にならないでもない。というか、気に食わない。


「まあ、あんたたちが戦っている間に、クリスマスくらい休みなさいってお説教をしておいたから今日はもう攻撃してくるようなことはないと思うわ」

「そっか、サンキューな」

「サンキューって……それでいいの?ユウさんがいい人っぽいっていうのは認めるけど、だからって放っておいていい人じゃないでしょ!?さっきから気になってたけど、なんで二人ともこの人と普通に仲良くしてるの?今だってこの人の仲間に襲われたんだよ?下手をすれば和希だって巻き込まれていたかもしれないのに」

「そう言っても、俺達三人でどうにかできる相手でもないし、よしんば捕まえられたとしても捕まえておくのにもコストがかかるんだよ。もし捕まえたとして、確実に捕まえておくためには狂華さんなりひなたさんなり楓さんなりをマンツーマンで見張りにつけなきゃいけないからこっちの戦力も低下するしさ」

「でもそんなの…」

「気持ちはわかるけどな、手に負えないものは手に負えないんだから無理なものは無理」


 お兄ちゃんの言っていることは理解できる。できるけど、やっぱり納得はできなかった。


「あの…一つだけ教えてください」

「なにかしら」

「私の腕が亡くなった時の戦闘。あの時の指揮官は誰ですか」


 これはユウさんが敵の幹部だとわかった時から聞こうと思っていたことだ。


「今日と同じ『強欲』よ」

「そうですか…わかりました。ありがとうございます」


何度か緊急で対応した私とみつきが出くわした金髪でオッドアイの魔法少女。このあたりの担当だというのであれば、多分あの子が『強欲』の魔法少女だろう。

 そして、あの子が私の腕を奪った子だ。

 だったら―


「お前が何考えてるのかなんとなく解るけど、やめとけ」


 ポンっと私の頭に手をおいて乱暴に撫でながらお兄ちゃんが小さな声でそう言った。


「私じゃ勝てないってこと!?」

「そうじゃねえよ。例えばその強欲の子をやっつけるなりなんなりしたところで、お前その子の腕を切り取れるのか?」

「……」

「そういうことだよ。お前の身体のことだから、忘れちまえとは言えないけど、そんなことしたって何にもならないと思うぞ。それにみつきちゃんだって柚那だって柿崎くんだってそんなことのためにお前を助けたわけじゃない」


 私と目が合うと、柚那さんも真剣な顔で頷く。


「…そうだね。色々あっても私の右手は動いているし、別に不便な目にあっているわけでもないしね。うん、忘れる」


 忘れられるかどうかはともかく、忘れるようには努力しようと思う。


「ああ。それでこそ俺の自慢の妹だ」


 そう言ってお兄ちゃんはもう一度私の頭を撫でて笑った。




「さて、それじゃ俺たちは帰るから」

「いや、真面目な話、私どこまで連れて行かれるわけ?」


 家の前で私だけを下ろしてそのまま車を発進させようとするお兄ちゃんにユウさんがツッコミを入れる。


「寮まで」

「寮までです」

「…自分たちで言ってたように、コスト的に無理なんじゃないの?」

「捕まえるコストはなくても、もてなすくらいの余力はあるぞ」

「敵をもてなさんでよろしい」

「まあまあ、ユウさん。もうちょっと話したいこともありますし。いいじゃないですか、こんな機会めったにないんですから」

「うーん…まあ、いいか。寮に着く前にはお暇するけど、もうすこし付き合ってあげるわ」

「よし、じゃあ途中で軽くファミレスでも寄っていこうぜ」

「あ、いいですね。運動したらちょっとお腹すいちゃいましたし」

「いや、あんたたちは早くバーレル届けてあげなさいよ」

「そうだった!」


 何だろうこの人達。トリオ漫才かなにかなのかな。


「私を頭数に入れるのはやめて!」


 私の心を読んだらしいユウさんに怒られた。


「じゃあなあかり。また週末に」

「ん。じゃあまたね。メリー・クリスマス」

「おう、メリー・クリスマス」


 お兄ちゃんにつづいて、柚那さんとユウさんもそう言った後で、車が発進した。


「あいつ、あたしに一言も挨拶しないで行くのな」


 車の音を聞きつけて出てきたママが車が走り去った方を見てそう言った。


「んー…まあ、色々複雑だろうしね。仕方ないよ」

「中学生が何をわかったようなことを言っているんだか」

「色々あったころのお兄ちゃんと同年代だからわかることっていうのもあるんだよ」

「あんたに芳樹との事を話したのは失敗だったかなあ…まあいいや。お風呂、後あんただけだからさっさと入っちゃいな。それと、ケーキも一切れだけ残ってるから食べちゃってよ」

「また、千鶴と沙織に恨まれそうな役を…」

「大丈夫。あかりはあかりでも朱莉が食べたってことにしておくから」

「ああ、それなら安心かも」


 お兄ちゃんには悪いけどね。


「ん?」

「何?」

「あんた何かあった?少しスッキリしているというか、吹っ切れたというか、ちょっと大人の顔をしているけど」


 もしかしたら、お兄ちゃんに言われて心の整理をすると決めたことが影響しているのだろうか。


「えへへ、まあちょっとね。気持ちの整理がついたんだ」

「そっか。朱莉っていうか、芳樹に惚れたっていうしょうもないクラスメイトのこと、やっと吹っ切れたんだね」

「やめてよ!そっちはまだ吹っ切れてないんだから」


 別に今でも未練があるとか、彼のことを好きとかそういうことはないのだが、あのことは、私の中で軽くトラウマになっている。


「あ、じゃあみつきちゃんとのこと?別にあたしは反対しなけどさ」


 ママの言った一言で私の顔は引きつり、身体はこわばる。


「……あの、お母様。なぜあなたがそのことを」


 私はみつきと何かあったという話はママにほとんどしない。だというのにこの人は一体どこでみつきと私のことを聞きつけてきたのだろうか。


「母親っていうのは、子供のことはちゃんと見ているんだよ」


 そう言って笑うと、ママはさっさと家の中に入ってしまった。


「あ、ちょっとまってよ!みつきのこと誰から聞いたの?」


 私はママの後を追いかけて問い詰めたが、追い詰め、問い詰めたつもりでものらりくらりとかわされて結局ママは最後まで情報源を明かすことはなかった。

 こういうところ、血がつながってないのに姉弟で本当にそっくりだ。


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