You To Xmas
あー……完全に失敗した。
クリスマスだし、男の一人でも引っ掛けようかと思って出かけたのが間違いだった。
いや、それだけならどうということはなかったはずなのだが、好奇心猫を殺すとはよく言ったもので、街で見かけた知り合いの後を尾行したのが間違いだったのだ。
その間違いのお陰で、私は冷たい12月の道路の上に正座させられている。
「で、お前なんでこんなところにいるんだ?もしかしてこんなところでおっ始める気か?」
「違いますぅクリスマスだし男引っ掛けてどこかにしけこもうと思っていたんですぅ」
「もう少しオブラートに包めよ……つーか、なんでちょっとふてくされてるんだよ」
彼女はそう言って眉間を抑えながらため息をつく。
「というかそもそも、人類滅ぼそうってやつが、クリスマスに男と遊ぼうとしてんじゃねえよ」
「悪役にも休みは必要なのよ。あんたにわかる?潜入させたら潜入させたでほとんど連絡なくなっちゃう子とか、糸の切れた凧みたいにふらふらしてる子とか、文字通り何にもしない子とか、誰彼構わず喧嘩売ろうとする子とか、普段私はそんなんばっかり相手にしてるのよ!?クリスマスくらい遊んだっていいじゃない!」
「ていうか、クリスマスに焦って男の人探すとか、ちょっと後手後手すぎません?」
「ぐっ……」
痛いところを突かれてしまった。だが仕方ないではないか。私だって当日までぼーっとしていたわけじゃない。仕事が山積みだったからこうして今日まで何もできずにいたのだ。
「まあ、面倒な奴らを相手にして疲れてるってのはなんとなく理解した。俺も似たようなもんだしな」
「朱莉さん、それってもしかして愛純や朝陽や狂華さんやチアキさんが面倒くさいって言ってるんですか?」
「そうやって自分の名前をさり気なく抜くところ、大好きだぜ柚那」
そう言って苦笑しながら邑田朱莉は伊東柚那の頭を撫でた。
「ま、いいや。遊び相手がいないならお前も一緒に来いよ。っつってもクリスマス・イブ当日にフライドチキンを探すっていう超難関ミッションの最中なんだけどな」
「はあ……クリスマスに他の女誘うなんて正気?しかも彼女の目の前で」
「お前が悪いことをしたら止めなきゃいけないからな。ある意味仕事だ仕事……あと、お前とはもう少し話をしておきたいなと思ってたし。お互い情報交換と行こう」
「ふうん……あなたはいいの?伊東柚那さん」
「別にいいですよ。クリスマスが特別とか、二人きりですごすことが特別っていうことじゃなくて、私にとっては朱莉さんの隣にいることが特別なんですから」
「はいはい、お熱いことで」
こうして私、色欲のユウこと永田優子は、今年のクリスマスをバカップルと過ごすことになった。
「結構普通の名前なんだな」
どう呼んだらいいのかと聞かれて、フルネームを名乗った私に対する邑田朱莉の感想は短いものだった。
「……それで、お前はもう晩飯は食ったのか、永田」
「……食ってないわよ、邑田」
「あの……何か変な感じしますし、二人共名前で呼び合ったほうが良くないですか?」
「うん。柚那のいうことも一理あるな。どうだ永田」
「異論はないわ邑田」
とは言え、こちらから先に朱莉と呼ぶのはなんだか負けたような気がする。
「じゃあお前から先に名前で呼べよ」
「その権利はあんたにゆずるわ」
「いやいや、お前のほうから言えよ」
「二人共付き合いたてのカップルとかじゃないんですから、バカなやりとりしてないで、早く名前で呼び合ってくださいよ」
邑田朱莉の奇行に慣れているのだろう。伊東柚那はあきれたようにそう言って盛大に溜息をつく。
「じゃあ、せーので言ってください。言わなかったら罰として頭を叩きますからね。せーの」
「……」
「……」
「はあ……」
伊東柚那のため息と共にゴンっと良い音がして伊東柚那の拳が私と邑田朱莉にヒットする。
正直とても痛い。
「次はもっと痛くしますからね。せーの…」
「あ、朱莉!」
「ゆ、優子!」
「はい、よくできました。じゃあ、予約の時間ですし、一旦バーレル探しは中断してレストランの方に移動しましょうかね」
伊東柚那はそう言って、なんとなく気恥ずかしくなって顔をそむけ合っている私と邑田朱莉の手を引いて歩き出した。
「それで、優子さん」
「うーん…そう呼ばれるのが久しぶり過ぎてなんか変な感じだからユウでお願い」
「じゃあユウさん。なんで私達の後をつけていたんですか?」
「簡単に言っちゃえば暇だったからね。いい男が見つからないでいる時にあなた達が目に入ったから何か面白いことないかと思って後をつけたってわけ」
「それで逆に捕まってたら意味ないだろうに」
「私は別に捕まっている気はないわよ。二対一でも負ける気がしないし、逃げようと思えば逃げられるもの」
「ま、そうだろうな。今の俺達の中でお前とまともに戦えるのなんて狂華さんとひなたさん。それに楓さんくらいだろ」
「あら、いい読みね」
「イズモちゃんの話からするとお前は近接タイプ。で、1/10の力でもイズモちゃんでは歯が立たない。そうなると、うちの最強組をぶつけるくらいしないと勝てないだろ」
「あなただって、私達の中で一番強いあの子に勝ったんだから、頭数に入れてもいいんじゃないの?」
「いや、アユよりユウのほうが強いだろ。俺達で言えば狂華さんのポジションがユウで俺のポジションがアユかな」
おっと、これは意外な読みの鋭さだ。確かにあの子よりも私のほうが強いし、実質的な仕切り役はあの子ではなく私だ。
「だとしても、あなたは七罪に勝てる程度の実力はあるんだからもう少し自信持ってもいいんじゃない?」
「それがお前の戦略なんだとしたら無駄だからやめておけ。新宿上空で俺と戦ったのはアユ本体じゃねえだろ。あれは多分前にイズモちゃんがやりあったっていう怠惰の魔法少女の創りだした分身だ。違うか?」
「……私はちょっとあんたのこと見くびっていたみたいね。確かにあんたの言うとおり、あの時新宿上空に連れて行ったのはあの子がコントロールしていた分身よ」
「だよな。さすがに朝陽より弱いなんてことはないだろうと思ったからそんなこったろうと思ったよ」
今彼女は軽く『朝陽より弱いなんてこと』などと言ったが、秋山朝陽こと蛇ケ端姉子が、私達の中で格段に弱いということはない。確かに彼女は一番格下ではあったが、次点の子とくらべても、せいぜい実力は2割目減りするといった程度で、彼女と比べて格段に強いというメンバーは3人ほどだ。それにくわえて彼女の場合は、メンタル的に弱い部分があるので実力を出しきらないことが多いというのも一番下にランキングされる原因になっている。
まあ、あまり正確に戦力を把握されても面倒なので適当に合わせておくか。
「あんたの言うとおり、一番強いのは確かに私。あの子……アユは実力で言えば3位ね」
「まあ、それでも全力のアユと正面切って対決したら勝てる気がしないけどな」
そう言って笑う彼女の笑顔にはどことなく余裕があるような気がする。
「んじゃあ、ある程度話が聞けたところで飯にすっか」
そう言って朱莉はなんでもない路地を入っていき、やがて立派な金属製の門のある屋敷のような建物の前で立ち止まる。
「ここ、会員制だから俺たちと一緒じゃなきゃ入れないんだぜ」
「正しくは、私と一緒じゃなきゃ。ですよ」
伊東柚那は朱莉の言葉をそう訂正するとインターホンを押した。
しばらくインターホン腰に短いやりとりがあった後、店から案内係らしいロングのメイド服を来た女性が出てきて中に招き入れてくれた。
「……ここ、そういうお店なの?」
「いや、俺も今日初めてきたからな。某プロデューサーが柚那と俺の婚約祝いだってわざわざ会員権を手配してくれたくらいだからそういうお店じゃない……と、信じたい」
いわゆるメイド喫茶のような雰囲気はなさそうだが、やはり普通に生活していると目にすることの少ないメイド服はどうしてもそういうイメージで見てしまいがちだ。
「ああ、でもあのおっさんならやりかねないか……いや、かつての愛弟子とも言える柚那のお祝いにそんなものを贈ってきていないと信じよう」
そんな真顔になるほど信用ならない人物の贈り物を使わなくたってクリスマスディナーくらい何とかなっただろうに、なにをしているんだか。
結局朱莉の心配は杞憂に終わり、洋館を改造したという、一日二グループ限定のレストランは思っていた以上に高級感があり、出された料理もその高級感に負けない素晴らしい物ばかりだった。
そんな素晴らしい食事を終え、デザートをつついている時に、不躾に食事中私のことを何回もチラチラと見ていた朱莉が口を開く。
「普通だな」
「何がよ」
「いや、前に『この世界をぶっ壊してやるぜ!ヒャッハー!』みたいなこと言っていたから『マナーなんて関係ねえ!あたしはあたしのルールで食べてやるぜ!』とか言って手づかみで食べるくらいのアクロバティックな食べ方を見せてもらえるかと思ってたからさ」
「そんな人間嫌すぎるわ!……ったく、確かに私はこの世界のしくみの再構築を望んではいるわよ。でもね、だからって料理やそれを作った人に対して失礼にあたるようなことしないわよ」
「回答も普通だ」
「あんまり普通普通言わないでよ」
私はあまり凡庸と言われるのを良しとしない。というか、普通だ凡庸だって言われて喜ぶ人間なんてあんまりいないだろうが。
「そもそもユウさんはどうして私達の敵なんでしょう。というか、ユウさんが魔法少女になったきっかけってなんだったんですか?」
嫌な子をズバッと聞く子だ。
「あー…まあ、そう……そうね。理由がないとは言わないけど、たいして面白い話じゃないからそこはどうでもいいじゃない」
「俺は狂華さんの戦闘に巻き込まれて死にかけたのがきっかけだ」
「私は、信頼していたプロデューサーに枕営業をやれって言われて死のうと思って樹海を歩いていたら偶然狂華さんに拾われました」
この二人、私が話さないわけに行かない流れにしようとしているのがまるわかりだ。
まあ、別に話すのは構わないんだけど。正直反応の予測が五分五分なんだよなあ、笑い話で済めばいいけど、下手に同情されるのは面倒だし、場の空気が壊れるのもちょっといただけない。
「さあ」
「さあ。じゃないわよまったく……私の場合は、たまたま巻き込まれたの。ちょうど海外旅行であの国にいて、たまたま宇宙人が起こしたクーデターみたいなのに運悪く巻き込まれて改造されて。あんたたちみたいに適性検査があったわけじゃないから、周りでかなりの数の人間が死んだ。そんななか運良く生き残ったのが私や他の国や地域を攻めている魔法少女達ってわけ」
「………」
「………」
ほーら、二人ともやっぱり同情した。こういう空気、嫌いなんだよなあ。
「…じゃあ、なんでユウさんは宇宙人に味方してるんです?」
「え?」
「優さんは多分、宇宙人のこと恨んでいますよね?だったら私達と一緒に戦って宇宙人を倒せばいいじゃないですか」
「姉子に聞かなかった?あの子を宇宙人に引きあわせた人間がいるって」
「ああ、そんなこと言ってたな。顔はよく見えなかったとかって言ってたけど」
「それが私。つまり私には他の6人を巻き込んだ責任がある。責任がある以上、私だけ投げだすわけにもいかないのよ」
「じゃあ、6人そろってこっち来ればいいんじゃないか。寮の部屋は余ってるし。研修生寮だってまだまだキャパシティあるしな」
この二人は私と出くわしてから作戦を練るというようなことはしていないはずだ。だというのに、こうも息ピッタリに私の説得に舵を切れるものなのだろうか。
「そもそも、魔法少女になったこと自体は特に恨みにも思ってないし、今の場所を離れる理由がないっていうのもあるのよね」
「ユウさんが地球人だから、日本人だからっていうのは理由にはなりませんか?」
「ならないわね。人は時期や条件で立ち位置が変わる動物よ。母星への愛だの愛国心だのだけですべてがどうこうできるもんじゃないわね」
「そっか……交渉決裂だな」
朱莉はそう言って大きなため息をつく。
「っ!?こんなところでやり合おうってつもりなの?」
「それはないって。今日はクリスマスイブなんだから、お互い今日くらいは楽しく行こうぜ。な?」
朱莉のため息に過敏に反応して変身までしてしまた私は、椅子から立ち上がろうともせずに両手でなだめるような動きをして見せる朱莉の様子を見て、顔が熱くなるのを感じた。
これでは私のほうが小物みたいじゃないか。
「つか、すごい衣装だよな。魔法少女っていうか、もはや痴女だろそれ」
「そういうこと言わないでよ。自分でもちょっと気にしているんだから」
確かに露出が自分でも露出が多いとは思っている。しかし最初にそう設計されてしまったんだから仕方ないと諦めるしかない。
「あの、心を読んでごめんなさい。一応言っておくと、ある程度自分で衣装の形状は変えられますよ」
「マジで!?」
「こう…魔法で何かしようとするのを自分自身にやる感じで。ユウさんは変身魔法が得意だって話ですし、結構簡単にできると思いますよ」
(魔法を自分に……変身魔法の要領で……)
伊東柚那に言われたとおりに魔法を使ってみると自分でも驚くほどあっさりと衣装のデザインが変化した。
「ありがとう!これでもう仲間たちから痴女だの恥女だの言われなくて済むわ!」
「良かったな。まあ、これは俺達からのクリスマスプレゼントってことで」
いや、あんたは何にもしてないでしょうが。
食事を終えた私たちは都内の店舗をほぼすべて回ったがバーレルはどこも売り切れ。
最終的に朱莉の元の地元に戻ってあれやこれやと手を尽くした結果、何とか手に入れることができた。
「さて、じゃあ私はこの辺で退散することにするわ」
バーレルを入手して朱莉の妹達と別れてから私はそう告げた。
「そんなこと言わずに寮に寄ってけよ。何だったら泊まっていったって良いし」
「そうですよ。朝までガールズトークしましょうよ!」
この二人は一体どこまで本気でどこまでが冗談なのだろう。かれこれ4時間ほどみっちりと一緒にいるが、さっぱりつかめない。
「あんたたちの場合本気で言っていそうなのが怖いんだけど……一応言っておくわよ。今日はちょっと馴れ合ったけど、私たちは敵同士。明日会ったら手加減なしで攻撃するから、そのつもりでいなさい」
「そうやって予告してくれるあたり、かなり良いやつだよな、ユウって」
「そうですよね、なんでしたっけこういうの……あ!ツンデレ!」
「誰がツンデレよ!……とにかく、私は侵略者側であんた達は正義の味方。それを忘れちゃダメよ」
「俺達が正義の味方かどうかなんて知らん。けど、全員正義の味方ならそもそも戦う必要すらないだろう?」
「戦う必要がないのはもちろん、正義の味方の存在自体が必要ないでしょうね」
そして、正義の味方のいない世界は、澱んで、濁って、腐っていく。だからいつの時代もパブリック・エネミーと言う名前の悪役が作られる。
「私はそんなつまらない世界は御免こうむるわ。私はね、わかりやすくてシンプルで王道な世界が好きなのよ」
「お前が好きなのは壊れた世界だろ?」
バックミラー越しに朱莉と目が合う。
「そういうシンプルな図式が成り立っている今の世界は壊れているっていう話。そもそも、それ以前に今のあなた達じゃたとえ私達が味方についたとしても絶対に異星人には勝てない」
「やってみなきゃわからないだろ」
「やってみるまでもなくわかるわよ」
七罪などと名乗っているが、所詮は組織の一端で末端。私達よりも強い存在はいくらでも存在する。
「コッチの掴んでいる情報だと、地球人側が奪還作戦を仕掛けてくるのは4月上旬。多分あなた達の中で上位の魔法少女はその奪還作戦に駆り出されるでしょうね。こちらとしてもそれを黙って見ている手はないから、その攻撃に合わせて各国の七罪が動くことになる。多分私達の直接対決はそのちょっと前になるわ」
「じゃあ1月あたり二人づつ籠絡していけばいいわけだ」
「確かにそうすれば4月の時には楽ができるでしょうけど……」
……ん?籠絡?
「ちょっと待ちなさい。あんた、倒すとか捕獲するとかじゃないの?」
「それだと物騒な話になるだろ。多分奪還作戦には上位5人くらいが行くんだろうし、そうなると俺達としては防衛戦力もほしい。だったらお前らを仲間に引き入れるのが正解だろ」
一見効率がよさそうで、うっかり頷きそうになる話だが、よしんばうまくいったとして、いつ後ろから刺されるかわからないような状態でまともに防衛なんてできるはずがないだろうに。
「……バカなんですよね。まあ、そこが好きなんですけど」
私の心を読んだんだろう。伊東柚那はそう言って苦笑しながらため息をつく。
「この人、朝陽が仲間になった時も最初から全く疑ってなかったんですよ」
「お陰で柚那に怪我させることになっちゃったのは悪かったと思ってるって」
「あれくらいすぐ治せるからいいんですけどね」
「まあ、そういうわけでさ。俺たちはできるかぎりお前たちとは戦いたくないと思っている。それだけは覚えておいてくれ。今の立場で何かやりたいことがあるならその後でもいいし、ただ気が変わったとかでもいい。俺達はいつでも待ってるからな」
「ま、最悪何かあった時の再就職先くらいには覚えておく……どっかコンビニでおろして。私は空を飛べるし、あとは勝手に帰れるから」
「わかった」
再就職として考えると言ってみたり、今すぐここで車から降ろせと言わなかったのはもしかしたら、自分の中に無意識のうちにこの二人に対する親近感が湧いてきてしまっているのかもしれない。
だとしたら非常に困ってしまう。それはつまりそのまま、私が既に朱莉に籠絡されてしまっているという事実を指すことにもなりかねないからだ。
そうなるにはまだ早い。この段階で私がそうなってしまうのは非常にマズイ。
「……あんたすごいわ」
「え?何が?」
「別に。なんでもない」
「本当にこんな暗いところでいいのか?」
「こんな暗いところ、女の子一人じゃ危ないですよ」
そう言って朱莉と一緒に私の心配をする伊東柚那に何も裏がなさそうに見える。
潜入させているあの子に聞いてはいたけど、ここまで性格が白くなっているとは。幸せだと人って変わるものなのね。
「大丈夫よ。そんじょそこらの女の子じゃないんだからさ。あんた達だって別にそのへんの男に襲われたって怖くもなんともないでしょう?」
「もちろん」
「いや、むしろ俺は怖いな。ゾッとする。考えたくない」
まあ、そりゃあそうだ。
「私のことより、そのバーレルを待ってる子がいるんでしょ?早く届けてあげないとせっかく苦労して手に入れたチキンが冷め切っちゃうわよ」
「おっと、そうだった……なあ、ユウ」
「ん?」
「バーレル探し、付き合ってくれてありがとうな」
「別に大したことはしてないし、お礼を言われるほどのことでもないわよ。ディナーをごちそうになったお礼よ、お礼」
「俺、お前の事ちょっと誤解してたかもしれないな。俺はわりとお前のこと好きだわ」
「あ、私もユウさんのこと結構好きです。なんかチアキさんに似ていて……まさかチアキさん!?」
「違うっつーの。独り者がバカップルに好かれたって嬉しくないわよ。まあ、私もあんたたちのこと嫌いではないけど、さっきも言ったように何よりも優先される前提は敵だってこと、忘れないでよ。次にあった時は敵だからね」
「さっきも言ったとおり、俺達はいつでも門戸を開いているからな」
「バーカ。ほら、さっさと行きなさいよ。いくらあんたの隣にいるだけでいいって言ったって、柚那だってちょっとは二人っきりの時間がほしいと思っているはずなんだから」
「ユウさん……いい人ですね、うちの人たちからは絶対聞けないセリフです…」
「じゃあ、もうあんた達がこっち来なさいよ」
まったく。本当に面倒な奴ら。
「……それもありか」
「ありですね」
「なしよ!なんで私がツッコんでるわけ!?」
「冗談だよ。じゃあな、メリー・クリスマス ユウ」
「メリー・クリスマス ユウさん」
「はいはい、メリー・クリスマス」
私がそう返事を返すと、朱莉の車はゆっくりと発進し、テールランプが段々と遠ざかっていった。
「あれ?ユウ?」
名前を呼ばれて振り返ると、そこにはちょうどバイクでやってきたらしい仲間の橙子がいた。
「あら、橙子。どうしたのこんなところで」
こんなところ。などというと店主に失礼かもしれないが、私が今いるのは、街から外れた田舎道に近いような細い国道沿いのコンビニの駐車場だ。
はっきり言って、クリスマス・イブに女の子が一人でくるようなところではない。
「私はね、敵の魔法少女達の寮に行って来た帰り。すごくない?敵地潜入だよ」
橙子はそう言って少し満足気な顔で笑う。
「……は?」
「まあ、色々あってね。寿を送って行ったり、寿の妹ちゃんと仲良くなったり嫌われたり」
「……どういうことなのそれは」
いや、真面目な話。なんで最高機密のはずの寮に入れているのよこの子は。
「え、ちょっ、怖い怖い。何?なにを怒ってるの寿」
「寿じゃねえよ!女の子の名前間違えるとか、お前ホントにそういう所ダメな!」
「え!?なんでキレてるの?」
「はぁ…なんかもう、こう……あんたってほんともう……」
だったら、私も行けばよかった。変に気を使って損した。
「あ、もしかして一人で寂しかった?一緒にいたほうが良かった?」
「別にあんたが一緒にいなくたって一緒に過ごす人くらいいるわよ!そういうあんたこそこんな時間に帰らされてるんだからどうせ笑内寿にフラれたんでしょうが!」
「いや、彩夏ちゃんにも言ったけど、寿とはそういうんじゃないから」
「ああ、そうですか……じゃあ帰るわよ」
私はそう言いながら橙子のサイドカーに乗りこんだ。
「別にいいけど、飛んで帰ったほうが早いんじゃない?」
「あんた女子のくせにホントに女心がわからないわよね!朱莉のほうがなんぼかマシだわ」
「ん…?んー?」
しまった失言だった。
「ふーん…なるほど、そういうことか」
橙子はそう言ってニヤニヤとして視線を私に向ける。
「そういうってどういうことよ!」
「別に。それよりほら、スピード出すからコートの前閉めて。お腹冷えちゃうよ」
「わかったわよ…ああ、それと橙子」
「ん?」
「メリー・クリスマス」
「メリー・クリスマス。珍しいね、ユウがこういう行事に乗るの」
「うっさい。文句あるの?」
「いや、ちょっとうれしいかも。じゃあ出発するから落ちないように気をつけてね」
橙子はそう言って笑うと、ヘルメットのシールドを下ろしてバイクを発進させた。
やめてください、サブタイが文法的に間違っているとかいう指摘はやめてください。
「ユウとXmas」なんだとか言わせないでください




