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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第二章 朔夜編

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ex.朔夜編 1

朔夜編 始まり始まりー。

タイトルは後で変えます。

眠い。


 戦技研本部で蜂子達と別行動になった僕は、関東平野のうだるような暑さとは無縁・・・とは言わないが、そこそこ高地にある関東平野よりは少し涼しい戦技研の秘密の隠れ家で過ごしていた


「今日も進展なし、か」


 あの日以来変身できなくなってしまった僕は毎日魔力を練って変身をする練習をしているのだが、未だに変身ができるようになる予兆すらない。

 近くには渓谷と滝だけがあり、周りに人が殆ど住んでいないこの隠れ家は修行するにはうってつけの場所だと言えたが、どうしても集中しきれていない自分がいる。


 それは蜂子と安藤さんは今も仲良くいちゃついてるのかなーとかそういうことが気になっているからでは・・・いや、気になってはいるけれども。それはなんかこう、三人で色々話し合って一応解決したのだ。

 解決したというか、テレパシーでの会議で僕がうじうじ、安藤さんがうじうじしていたところ蜂子がキレて『じゃあもうこころとも付き合えばいいじゃん!!』と逆ギレし、なんかなあなあのうちに三人の変な関係が決まってしまったと言うか・・・まあ、それはいい。そこは思うところはないではないけれど、蜂子とだけずっと付き合っていくというだけではなく、視野を広げる意味でも安藤さんと付き合うというのは――いや、下世話な話をしてしまえばまだ良く知らないけど、別に僕だって安藤さんのことが嫌いなわけではないし、安藤さんも蜂子も納得してそう提案してくれているのだから、年頃の男子の僕としては、なんだ、その・・・吝かではない。っと、また話がそれてしまった。

 とにかく、今僕の集中力がない原因、それは多分蜂子と安藤さんじゃなくて――

 


「朔夜~そろそろごはんつくってなのー」


 

 ――この山小屋に翠と晴ちゃんと三人きりという状況のせいだ。



 ここに来た初日は一応ニアさんがいてくれたのだけど、彼女にも仕事があるわけで、ずっと居られるわけではない。

 とはいえこの場所を知っている関係者が増えれば今回の事件の被害者である翠と晴ちゃん。標的だった僕の居場所が漏れやすくなるということで翌日結構な量の買い出しをしてくれたあとでニアさんは「数日後にまた来るわね」と言い残して僕らを残して帰っていった。


 


「朔夜のつくるごはんはおいしーの。とても柚那と血がつながってるとはおもえねーの」


 僕の用意した夕食を平らげた翠はそう言って上機嫌でお腹をポンポンと叩いた。


「むしろ血がつながってるからこそ料理が上手くなったんだぞ」


 作戦中はともかく潜伏している間は自分でまともな料理ができなきゃまともなご飯が食べられなかったんだから。


「あー、朝陽はともかく愛純と柚那の料理とかどんな地雷が隠されてるかわかんないか」

「お前もな」


 潜伏中の母さんと僕、それに翠先生とその護衛についてくれていた朝陽ちゃんと師匠の中でまともに料理できたのは朝陽ちゃんと僕だけだった。

 母さんはどうしても愛情を込めたくなってしまうらしくレシピ通りに作れないし、そもそも師匠はレシピを読まない。

 そして、ここで深く言及するようなことはしないが翠先生の料理の腕も酷いものだった。


「それで、僕が変身できない件について、なにかわかったか?」

「コウちゃんからはまだ返信なしなの。色々考えてみたけど、私の方もまだ仮説の域を出ない感じなの」

「仮説って?」

「うーん・・・朔夜はさ、自分はなんの魔法が得意だと思う?」

「まあ、どっちかといえば防御魔法かな」


 僕の使っているのは正式名称をステークシールド改三式。元々父さんが使うはずだったものを翠先生が改良してくれて僕が引き継ぎ、QBと一緒に特訓して使いこなせるようになったデバイスだ。


「それはステークシールドを使ったときの魔法でしょ。そうじゃなくて楓なら肉体強化、ひなたなら炎みたいな感じで得意魔法ってあるはずなの」

「でも父さんもステークシールドでの防御魔法だよな?」

「違うの。朱莉は元々魔力をデタラメに放出して叩きつけるのが得意なの。でも朱莉が防御を主体に戦いたいっていうことを言い出したのと、そもそもそれまでの戦い方で出力が安定してなかったからってことでステークシールドを作ったの」

「じゃあ、マジシャンズカードのほうかな」


 今の時代だとひなたさんが使っているカードオブジョーカー。一回ずつ使い切りで魔法自体をチャージしなければ再使用できなかったものの改良版で、魔力をチャージすれば登録されている魔法が再び使えるようになる。というもので、去年TRI-あんぐるに働いてもらっていたときに貸与していたテレポートカードがそれだ。

 何度でも使えるとはいうものの使い切ってからのフルチャージには結構な時間と魔力が必要という弱点もある。


「それもデバイスのを使ったときの魔法なの」

「まあ、確かにそうだな」

「だから多分、朔夜の本当に得意な魔法は別にあると思うし、それがわかれば変身ができるようになる糸口にもなると思うの」

「僕の本当の得意魔法、か・・・」


 QBにもそんなことを言われた気がする。でもあの時は質問じゃなくて、確か・・・なんて言われたんだったかな・・・葉月が来た時に、確かそんな話があって・・・なんだったっけ。









「・・・周りが女ばっかりですごくやりづらいです」

「朔夜の言いたいことはわからないでもないけど、私達と一緒に戦ってくれている子達は元々戦技研の技術で魔法少女になった子達ばかりだから元男性でも身体は女っていう子が多いし、しかたないね」


 黒衣の死衣子の街へ行く任務の前日、任務前のカウンセリングで最近の悩み事はないかと聞かれた僕が言った悩み事にそう答えると、翠先生は呵呵と笑いながらマグカップの中のお茶を口に運んだ。


「そういうことじゃなくて。それに、補充人員も女だし・・・」

「いいじゃん、年頃のお姉さんが増えるわけだし優しく筆おろししてもらえるかもよ」

「そういうこと言うのやめてください!!」

「でもさ、男女が信頼関係を結ぼうと思ったら最短の手段だと思うよ」

「それが前提の信頼関係なんて嫌ですよ!」

「私達大人としては、朔夜には環とも葉月とも仲良くしてほしいんだけどな」

「仲良くって、別に僕は最初から喧嘩腰でいくつもりはないですよ」

「いや、昔セックスのことをなかよしって呼ぶ文化があってね」

「何の話してるんですか!?」

「あ、ほらそういう意味じゃ周りに女が多いならむしろヤリやすいんじゃない?」

「酷いセクハラ教師だよ!!」





 ああ、変な夢を見た。

 多分。昨日翠と話した後、寝る前に未来であったことについて色々考えていたせいだろう。


 山小屋と言っても大きめのロッジであるこの建物の中で当然翠と僕の部屋は別々だ。

 一階には昨日の夜翠と一緒に食事をとったリビングやバス、トイレ、キッチンが。2階には4部屋ほどの個室がある。

 ちなみに、お互いパートナーに変な誤解をされないためにということで、一番離れた部屋を使っている・・・というか、やっぱり若い男女を二人きりで、(一応晴ちゃんもいるとはいえ)ひとつ屋根の下で寝泊まりさせるのっておかしくないか?

 目をさますたびに意味がないと思いつつもしてしまう自問をしながら僕がリビングに降りると、リビングのソファにはすやすやと眠る晴ちゃんと、パソコンに向かっている翠が居た。


「おはよう翠」

「おはようなの。昨日より早いけど、もう修行始める感じなの?」

「いや、今日は修行は休んで僕の本当の魔法ってやつのことを考えてみようと思う」

「それがいいと思うの。トレーニングはやりすぎると逆効果になることもあるの」


 そう言った後で、翠はふたたびパソコンに視線を落とす。


「なあ、翠」

「うん?」

「翠は旦那さんとなかよしして晴ちゃんができたわけじゃん?」

「・・・・・・山奥で2人きりというこの状況を考えるとセクハラとして訴えたら勝てそうな話なの」


 キーボードを打つ手を止めて顔を上げた翠の視線の温度は氷点下だった。

 『いや、僕のほうが先に未来の翠からセクハラ受けてたんだけど』そう主張したいところだが、そんなこと言っても『そんな先の話知らねーの』って言われるのが目に見えているので我慢しよう。


「そういうつもりじゃないんだけど。単純に手順の話な」

「子作りの手順を同級生の女子高生に聞く男子高生って字面やべーの」

「いや、子作りまで行かない話なんだけど」

「え?何?蜂子との初体験が怖いから手順教えろとかそういう話なの?」

「いや・・・・・・あれ?」


 ああ、そうか。

 蜂子が翠と話をしたのは旅館に泊まる前で、僕もあの夜の話はしてなかったんだっけ。


「あれ?ってなんなの?」

「いや、なんというか・・・まあ、蜂子とはその・・・ここに来る前の晩にしたんだけども」

「詳しく」


 僕からあの夜あったよしなしごとを根掘り葉掘り聞いた翠はさっきまでの氷点下の視線はどこへやら、ホクホク顔でご満悦の様子だったが、すぐに『ハッ!』と言って真剣な目で僕を見る。


「朔夜が変身できなくなったのって、まさか蜂子とこころの行為で脳が破壊されたから・・・?」

「破壊されてないから」

「されてねーの?」

「ねえよ」


 されそうにはなったけれども。

 なんというか、その・・・・・・テレパシー会議をした時にあの2人がお互いのことも僕のことも好きすぎるという感情や別に僕を貶めてやろうとしてそういう行為に至ったわけじゃない。そういうのがちゃんと伝わってきたから焦りみたいな部分はあっても不安はないし、脳も破壊されてない。


「あと、僕が変身できなくなったのは、翠救出作戦の時だからな」

「そういえばそうだったの。それで?」

「環と葉月の話は伊豆の後にしたと思うんだけどさ」

「うん、聞いたの」

「昨日の夜に夢を見て思い出したんだけど、僕は未来のお前から2人となかよししろって言われてたんだよな」

「ひでえセクハラ女なの。というか、その夢本当にあったことなの?朔夜の願望とかじゃなくて?」

「それが僕の願望だと僕が初恋の女性から他の女とのなかよしを強制されたい変態みたいになるだろ」

「その夢が本当にあったことなら未来の私は自分に恋した少年に他人とのなかよしを強制する糞女なの」


 実際そうなのではあるが。


「とりあえず、今の翠とは別の翠として話を進めようか」

「話が進まないしそうするの。それで?」

「なかよしは男女間の理解を深める最短の方法だろうか?」

「私達、夏休みの早朝になんの話してるんだろう・・・」

「僕もちょっと思ってるけど真面目な話なんだよ」

「・・・まあ、朔夜と蜂子とこころのケースは置いておくとして、手っ取り早く理解を深めるって意味だとまあ的外れでもないかなと思うの、お互い裸一貫でぶつかり合うわけだし、その時、無意識に感じる相手の仕草とか、動きとか、息遣いとか、声とか、多分色々な情報は手に入ると思う。長く一緒にいて理解するのとは少し違うかもしれないけど確かに理解は深まるんじゃない?」

「じゃあ先生はなんで僕と環、それに葉月の理解を深めさせようとしたんだと思う?」

「その時は死衣子と協力して最終決戦に望むはずだったってことでいいの?」

「すぐにってわけじゃないけどその予定だったな。それが破綻して、母さんたちは僕の記憶を封印して・・・多分それから一年後くらいに僕がこっちに来た」

「2人との理解が深まると、なにか朔夜にいい変化があるはずだったか、もしくは童貞捨てたらもう少し使い物になるのでは?みたいな思惑があったか」

「いや、僕は別に童貞捨てなくても使い物になっていたからな」

「私は、旅館での詩子の指摘は的外れじゃないと思ってる派なの」

「くっ・・・」


 実際ちょっと・・・いや、だいぶやる気がアップしているから言い返せないのが悔しい。


「とはいえ、それだけのために朔夜にいたいけな少女を2人もあてがうというのはちょっと考えづらいの。朔夜にちょっと気合が入るかもくらいの理由で、下手をすれば朔夜に『司令の息子だから女をあてがってもらえて楽な任務ばかりついている』みたいな噂が流れかねないことを未来の私がするとは思えないの」

「じゃあ、なにか他の理由があるのかな」

「多分、なにかあるはずなの。ちょっとそっちの方向でも色々考えてみるの」


 翠は真剣な顔でそう言った後でパソコンに視線を落とすと、『今日の朝ごはんはわかめの味噌汁が食べたいの』と言った。






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