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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第二章 朔夜編

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ex.LOST EMERALD 5

 ももねちゃんを残して先に進んだ私達は無人の受付を抜け、私が先頭、真ん中に大江さん、一番後ろをジュリが固めるという陣形で坑道へ続く階段を降りる。

 いろいろな意味での地上の熱気とは打って変わって坑道内から上がってくる風はそのへんのエアコンなどより冷たく、少し肌寒いほどだ。

 


「なるほど、洞窟というのは実際に体験してみると話に聞いていた以上に涼しいものだな」


 大江さんはそう言って感心したように何回か頷きながら階段を降りる。


「こういうところってどこも寒いものなんですか?」

「そうだな、基本的には地下というのは温度が一定だからな。ここ以外にも有名所だと富士の風穴や氷穴なども涼しいらしいぞ。まあ、私も実際に体験するのはここが初めてだが」

「大江さんってあんまり旅行とか行きそうなイメージないですもんね」

「そんなことはないぞ!私だって学生時代は碧や浩一郎や亜蓮と一緒に旅行という名のフィールドワークに赴いていたからな」

「全くイメージ湧きませんけど。ね、ジュリ」

「え!?う・・・うん、そうだね」


 なんだろう。やっぱりなんか今日のジュリって変な違和感あるんだよなあ。


「ねえジュリ、朔夜の誕生日知ってるよね?」

「え?ああ、5月の15日でしょ?」


 この時代での公式の情報は伊田朔夜の誕生日に設定されているため違うが、今ジュリが言ったのは朔夜本来の誕生日のため、私や朱莉さん、柚那さんなどはそっちの誕生日で認識している。なので、多分このジュリは間違いなく朱莉さんなんだろうと思うけど・・・


「うーん・・・ジュリ、やっぱりなんか調子悪い?」

「えっと、そんなことはないよ。絶好調絶好調!」


 そう言ってジュリは胸の前でぐっと拳をにぎって見せるが・・・なんかいつものジュリより可愛い気がする。


「ど、どうしたのかなっ?」

「ま、いいですけどね。それで大江さん、フィールドワークって洞窟みたいなところには行かなかったんですか?」

「う・・・ま、まあ行かなかったわけではないんだが」

「まさか、暗いのが怖くて中に入れなかったとかですか?」


 ここも一応あかりはついているとはいえ、やっぱり坑道内は薄暗い。多分さっき大江さんが言っていた風穴や氷穴なんかも同じだろう。


「そんな格好悪い理由じゃない!風穴に入る前の階段で足をくじいただけだ!!」

「いやそっちのほうがかっこ悪いですからね」

「・・・・・・」


 無反応なんだよなあ。こういうとき追いツッコミをしてくれるのが朱莉さんなわけで、それがないというのはやっぱりちょっと違和感を感じてしまう。


「まあ私の話はもういいじゃないか。そんなことより今はハレちゃんと川上翠のことだ。私との交換が終わった後は君たちだけが頼りだからな。二人を無事に連れ帰ってくれよ」


 大江さんは、そんな、まるで真人間のようなことを言った。


「昔の仲間に脱走の手伝いをさせようとしている人が何を言っているんです?」

「君は勘違いしているようだが、私は別に碧についていくつもりなどないぞ。君たちが脱出した後で碧と一騎打ちして捕まえるつもりだ」

「は?いや、ついていけば出られるんですよ?」

「だがそんなことをしたらハレちゃんの成長を見守ることはできなくなるだろう?」

「そりゃそうですけど・・・」

「ハレちゃんは私の娘も同然だからな」

「いや、それ聞いたら翠めっちゃキレそうなんですけど大丈夫ですか?というか、あれですよね、確か翠の旦那さんって大江さんの――」

「まあな、かつてはそういう関係だったこともある。だが私は子供ができない身体でね。そんな女に付き合わせるのも悪いと思って大学を出る時に別れたのだが、まあ腐れ縁というのは恐ろしいな。大学を出てしばらくしたら、浩一郎とも碧とも職場でばったり再会だ。似たような研究分野だったから仕方ないのだが、浩一郎の奴は私に未練があったのか40近くまで結婚もせず子供も作らずにいてな」


 どうだろう。

 翠の話を聞いている限り翠の旦那さんは割と研究の虫だ。もちろん今の彼は翠やハレちゃんに対して愛情がないとかそういう感じは受けないが、若い頃は大江さんがどうこうというよりは単純に研究が楽しかっただけな気もする。


「かと思えば娘のような年の少女を拐かして唐突に結婚するわ、その嫁のために人工子宮などを開発するわでびっくりだよ!!」


 あ、やっぱり大江さんに未練があったとかじゃないんだな。


「碧さんって人はどんな人だったんですか?」

「孤立しがちな私に幼馴染の浩一郎をあてがってくれたり、何かとかまってくれてな」

「いい人じゃないですか」

「邪魔な幼馴染の男をどうでもいい同級生にあてがって自分はクラスで一番人気のあった男子とくっついててもか?」

「言い方次第って感じがしますけども」

「あいつは委員長にしてクイーンビーという感じでな。あの当事は憧れもしたが今考えると本当に鼻につく嫌な女だよ」

「その一番人気があったっていうのが、大江さんや浩一郎さんと一緒に旅行に行ったりしたっていう亜蓮さんって人ですか?」

「ああ。まあその亜蓮も子供ができてすぐに子供共々捨てているがな・・・生きていれば多分君たちと同じ年だと思うぞ」


 考えてみればあたりまえのことだけど、大江さん達は年齢的には私達の親世代なのだ。

 翠から聞く旦那さんの話とか、大江さんに近い朱莉さん達が割と親しみやすいキャラクターだから忘れがちだけど、大人の人達は私達よりも長い人生を歩んできていてその長い人生の中には色々なイベントだってあったはずなのだ。

 だからまあ、浩一郎さんが同級生の子供と同じ年の翠と結婚しているのはどうなんだろとか、そういうことも思わないでもないんだけども――


「生きていればって・・・事故かなにかあったんですか?」

「いや、亜蓮の消息とか知らんしな。一応友人だった浩一郎はなにか知っているかもしれないが特に興味もないから聞いていなかっただけだ。亜蓮の家もまあそこそこの金持ちだったはずだし、奴は国家公務員になったと聞いたような気がするから無事に育っているとは思うがな」

「もしかしたらそのうちJKの大会とかで会うかもしれませんね」

「はっはっは、そんな出来すぎた話があるものか。というより東條蜂子」

「はい?」

「以前よりかなり柔らかく接してもらえていると思うのだが、もしかして私は許してもらえたのか?」

「そういうことを面と向かって聞いてくるところはどうかなと思いますけど・・・あの頃よりは悪い印象はないです。その、結局私とももねちゃんのデバイス作ってくれたの大江さんらしいですし、そこは感謝してます」

「気に入ってもらえたようでよかったよ。ああ、もちろん爆弾になんてならないから安心してくれ」


 大江さんは冗談めかしてそんな風に言うが、実はその件については私のほうに非がある。


「あれも全く関係ないとは言えないですけど、大江さんが直接やったわけじゃないですもんね。あの時の大江さんは誰彼構わず試作品のドリンクを配って那奈を魔法少女にして敵側戦力を充実させてただけですし」

「そういう言い方をすると私がすごく無能みたいに聞こえるからやめてくれないか!?」

「だからその、まだ完全に信頼はできないですけど、もう怒ってないです。それと、あの時は私も言い過ぎました」

「おおっ!!」


 いやほんと、言い過ぎたなって思っているんですよ。

 ただ、だからといってまだ仲良しこよしになろうと言っているわけじゃないんで、そんなパーッと明るい表情を私に向けるのをやめてもらえないでしょうか。







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