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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第二章 朔夜編

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ex.真夏の夜の夢 6

去年のクリスマスに書いた話が消えて凹んでいます。。。


「思ったより早く終ったな」

「そうっスね」


 シーンが飛んで数日後ということになるらしい放課後。私と正宗センパイは屋上から蒲田教諭が最後の勤務を終えて校門に向かって行く姿を眺めていた。

 多分彼はこの後家に帰って妻や娘から責め立てられて離婚に至るのだろう。

 彼自身に対しては特に思うところはないが、彼の妻子に対しては申し訳なさしかない。


「終った割に浮かない顔だな」

「そんなことはないっスよ。これは敗北者を哀れんでいる勝者の顔っス」


 再び視線を落とすと数人の生徒が歩いている。彼らは退学になった生徒達だ。

 友人や兄弟、親類などは彼らのことをどう思うだろうか。

 そして、彼らや彼らの友人、兄弟、親類などは私のことをどう思うだろうか。


「さて、じゃあさっさとキスしちゃいましょ。それで私のシナリオは終るっスよね?」

「あのな、雅弓」

「まさかここに来て怖じ気づいたっスか?やっぱり正宗センパイは童貞インポ野郎っスね」

「お前、何か隠してるだろ」

「・・・そんなことないっスよ。これが私が中学の時にやらかした、私の物語っス」

「勝者は『やらかした』なんて言わねえんだよ。それで?一体何を隠してるんだ?」

「隠していることなんてないっスよ!」

「なあ、今更一体何を隠す必要があるんだよ」

「だから、今更隠し事する必要なんてないじゃないっスか!」

「そうやって怒るところが隠し事している証拠だろ!」

「センパイには関係ないじゃないっスか!なんなんスか!出会ってそんなに経ってないのに、あなたに私のなにがわかるんですか!!」

「確かにお前の言う通り、俺はお前のことなんてほとんど知らないんだろうさ。でもな、そんなお前のことが分からない俺ですら、お前が今何か苦しい思いをしているのはわかる」

「だからセンパイには関係ないじゃないですか!」

「関係なら大ありだろ。俺はお前のセンパイだぞ」


 そう言って正宗センパイは私の後ろのフェンスに手をついて、私が逃げられない様にしてから、ジッと私の顔を見つめる。


「・・・・・・なんなんスか、もう」

「センパイだって言ってるだろ」

「センパイというより、彼氏気取りって感じでウザいっス」

「お祖父さま公認だからな、彼氏ヅラの一つや二つするさ」

「那奈センパイに言いつけるっスよ」

「那奈のことを気にして辛そうにしている雅弓を放っておいたって知られた時の方が怒られんだろ」

「うう・・・」

「あのな雅弓、隠し事をする時って相手に嫌われたくないとかそういうことが多いと思うんだけどさ、俺は雅弓のこと嫌いにならないぞ。那奈も、コスモも華音もそうだと思う。だから隠していて辛いことがあるなら話してみろって」

「・・・・・・・・・」


 最初は顔が良いだけのチャラいタイプで、全然好みじゃないと思っていたのになぁ。

 意外とちゃんと見てるんだよな、この人。

 

 って、おい。枕崎さんか敵か知らんが妙なナレーションを頭の中に流すのやめろ。


「なあ、雅弓ってば」

「・・・この先は、結構な地獄っスよ」

「どういうことだ?」

「私と一緒に地獄を見てくれるんスね?って確認ス」

「おう、地獄だろうがなんだろうが、一緒に見てやるよ」


 そう即答すると、正宗センパイは白い歯を見せて笑った。





「で、なんでまた車なんだ?というか、ここはどこだ?」


 運転席にはこの間の執事が座っていて、今日も私と正宗センパイ

 私にとっては予想通りのシーンだったが、正宗センパイにとっては意外だったらしい。

 まあ、そうだろう。今の刑部雅弓はそんなことをするようなキャラクターじゃないから。

 今の私ならこんなことしない、こんなことをしたから私の地獄が始まった。


「ここは蒲田先生の家の前です。性格の悪い私は蒲田先生の吠え面を見てやろうと思って車で彼の後を追ったんですよ」

「・・・そうか」

「別にね、そのときはなんとも思わなかったんですよ。車を停めてしばらく待っていたら家の中が騒がしくなって、ああ、揉めてる。ざまあみろって、お前なんか奥さんからも娘からも嫌われちゃえば良いんだって。・・・バカですよね、本当にバカです」


 あのときの記憶と同じようにリビングが騒がしくなる。

女性の怒号と、それに言い返す蒲田の声。


「もう少ししたら娘さんに蹴飛ばされて蒲田先生が出てきます」


 私がそう言ってからしばらくして、ドアに何かが激突するような音が聞こえた。そしてすぐに蒲田がよろよろと外に出てくる。そしてその背中を蹴る、蒲田の娘。


「雅弓、お前・・・」

「どの面下げてって思ってるでしょう?私が壊したんですよ、華音センパイの家を」


 あの時、まだ名前も知らなかった彼女の顔を見て、初めて自分のやったことの意味を知った。

 私のやり方は間違っていた。私はやり方を間違えて、一人救うために数多くの人間を巻き込んだ。そう思い知った。

 それから数ヶ月後、私は姫先生に助けられ、今度はやり方を間違わない。ちゃんと正義の味方になるんだ。そう思って魔法少女になることを選択した。

 そしてその選択の結果は想像とは全く別の物だった。

 研修に入って最初に出会ったのが蒲田の娘である華音センパイ。

 華音センパイと一緒に配属された先には退学になった同級生の従兄弟であるコスモセンパイ。

 華音センパイは地元が近いからということもあって、研修の時から同じ配属になる覚悟をしていたけど、本家の調査報告で知ったコスモセンパイとの因縁を知ったときにはこれが因果応報かと、そう思った。

 だったらバレないように、二人に嫌われないように。二人のフォローをして、自分は償いをするんだ。そう思っていたのに、まさか二人じゃなくて正宗センパイに知られてしまうとは。


「・・・これが、センパイに現実に持って帰ってほしくない事実です」

「二人には言ってないんだな?」

「言えるわけないじゃないですか。知らなかったこととはいえ、華音センパイの父親をクビにさせたこととか、私のせいでコスモセンパイの従兄弟が退学することになったとか、そんな話できないですよ」

「まぁ・・・なぁ・・・でも雅弓は別に悪気があったわけじゃないだろう?間が悪かった・・・とも違うか。とにかく華音やコスモが憎くてやったわけじゃないんだし雅弓のせいじゃないだろ」

「いいえ、私のせいです」

「華音に聞いてもコスモに聞いても多分違うって言うと思うぞ」

「あの二人はなんだかんだ言って優しい人達ですから」

「じゃあ話してみるべきなんじゃないか?」

「やめてください!いくらあの二人だって、こんな話を知ったら私のこと・・・私は、あの人達に嫌われたくないです」

「あのな、雅弓」

「私だってわかってますよ、二人のことを本当に好きならちゃんと話して、事実を知ってもらって罰を受けるべきだって。でも、わがままかもしれないけど、先輩達との日常を失いたくないんです」

「まあその気持ちはわかるけどさ。少なくとも華音の奴は別に気にしてないんじゃないかな」

「何を根拠にそんなことを言うんですか」

「いや、俺も結構親父とかパパに反抗してた時期はあったけど、あそこまで酷いことはしなかったしさ」

「酷いって何を言って――」


 正宗センパイの視線の先をたどると、華音センパイが蒲田を家の前で蹴り倒して、さらに起き上がってきたところにヤクザキックをお見舞いしているところだった。


「アレはどう考えても父親嫌いだろ」

「いや、なんですかあれ。あんなの私見てないですよ」

「え!?」


 私が実際に見たのは蒲田が蹴り出された後に締め出され、しばらくしてとぼとぼとどこかへ歩き去って行く姿だけで、あんなに激怒した華音センパイの姿は見ていない。


「・・・あれは多分、私の都合の良い妄想ですよ」


 ああやって、華音センパイが蒲田のことを嫌っていて、私のことを許してくれたら良いな。そんな無意識の妄想の産物に違いない。


「そ、そうかなあ・・・じゃ、じゃあコスモはどうだ?華音は父親っていう身近な存在だったから確かに恨んでいるかもしれないけど、コスモは従兄弟なんだろ?」

「よりダメじゃないですかぁっ!」

「ダメなのかっ!?」

「従兄弟って、だって、私にしてみたら従兄弟の匠お兄ちゃんは実のお兄ちゃんみたいな人ですよ!?私のしたことが間違ってなかったとしても、私がコスモセンパイの立場だったら絶対相手を許しませんよ!」

「なあ雅弓、その従兄弟の名前って、もしかして杉戸祐介か?」

「そうっスよ、きっとセンパイにとって弟みたいな存在だったっスよ・・・・・・ね・・・?」

「いや、もうかれこれ10年くらい会ってないわ。そう言えばなんかやらかして、去年退学になったとかって話を聞いた気もするけど」


 そう言いながら振り向いた運転席の執事の顔と声は、コスモセンパイのものだった。


「え?コスモ!?」

「セ・・・・・・」

「おう、ちゃんとした手順でセっ・・・しないと出られない部屋を出てきたぜ」


 コスモセンパイはそう言ってシートベルトを外して、シートの上に膝立ちになって私の方に向き直る。


「なんっ・・・えっ・・・?どうして・・・?」

「いや、あの部屋から出たら新しい隊長に呼び出されて『お前ら年下の隊員を放って何してるんだ、たるんどる!!』ってしかられてな。その年下の隊員に閉じ込められてたんだってのに」

「ごめんなさい・・・」

「いや、その件はいいよ。あの部屋に閉じ込められたおかげで俺と華音も色々誤解が解けたしさ。そんで叱られた後に隊長からチームワークを深めるために二人で雅弓の深層意識を見てこいって言われてダイブしてたんだ」

「じゃあこの件は全部枕崎さんのシナリオだったってことですか?」

「正宗への攻撃はあったらしいんだけど、雅弓が入った時に夢実さんが逆探知して、現澄さんがとっ捕まえてきたらしい」

「現澄さんって誰っスか・・・?」

「夢実さんには会ったんだよな?あの人のお姉さんだよ」


 ああ、じゃあきっとおっとりした感じの人なんだろうな。


「ちなみに、JK夏の祭典のしおりと一緒に通達が来てたらしいんだけど」

「見落としたっス・・・」

「悪巧みするのはいいけど、これからはそっちにかまけて重要な情報を見落としたりしないように気をつけろよ」


 コスモセンパイはそう言っていつもよりも大人っぽい顔で笑いながら身体を乗り出して私の頭を撫でた。


「お前が悩んでるの、気づいてやれなくてごめんな」

「センパイ・・・」

「過去のことなんか気にすんな。お前の過去がどんなんだろうと、俺はお前のことを――」


 コスモセンパイが何かを言いかけたところでバンっ!と窓ガラスが叩かれ、音のした方をみると、鬼の形相の華音センパイが窓ガラスに顔をくっつけてこっちを見ていた。


「抜け駆けすんなやコスモぉっ!」

「チッ・・・」


 あの部屋を出てきたっていうことは、つまりその・・・したんだと思うんだけど、なんだかいつもと変わらないような。

 私の計画ではあの部屋で絆を結んだ二人は、万が一この件がバレて私が居づらくなってチームを抜けても、コンビとしてちゃんとやっていけるくらい仲良くっているはずだったのに。


「ゴメンなぁ雅弓。あんなどうでもいい奴のことであんたが頭を悩ませとったなんて知らんかったんや。堪忍な」


 ドアを開けて私を引きづりだした華音センパイが私をの頭を胸に抱えるようにして抱きしめ、頭に頬ずりをしながらそう言った。

普段の華音センパイからは想像がつかないほど優しい態度。なるほど、やっぱり人は恋愛が成就すると人に優しくなれるんだろうな。


「雅弓が嫌がってんだろ」

「嫌がっとらんわ!なあ、雅弓」

「嫌じゃないっスけど」

「ほらな、嫌がっとらんやんか」

「雅弓、そんなところにいないで俺の胸に飛び込んでこい!俺が慰めてやるから」

「飛び込めるほどの胸のない奴が言うか」


 確かにコスモセンパイの胸は飛び込めるほどない。というか飛び込んだら痛そうだ。むしろ――


「コスモセンパイはどっちかというと飛び込ませたいサイズっスよね、頭の高さとかもちょうど良いし」

「じゃあそれで」

「飛び込んでこようとすんな変態が!百合の間に男を挟むとか万死に値すんねん!」


 いや別に私と華音センパイは百合ではないと思うのだけど。


「なあ、敵も捕まえて、コスモと華音も雅弓の隠し事の件に納得してるんだったら一度目を覚ましたいんだけど、二人はなんか目覚める方法聞いてるか?」

「ああ、それだったら俺か華音が合図を送ればすぐに目覚めるはずだ」

「ちょ、まてやコスモ。もうちょい、もうちょいだけこのままでええやん」

「良いわけあるか!さっさと戻るぞ」


 そう言ってコスモセンパイが空に向かって手を振ると、辺りは白い光に包まれた。


新年会ネタは無印と同票だったのですが、無印は書き尽くした感があるのでJK1あかり世代に決まりました(次回真夏の~が終わってからなので新年会時期に出せるかは微妙ですが)

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