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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第二章 朔夜編

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553/809

ex.真夏の夜の夢 5

新年一発目の更新何にしませうアンケート実施中です。

→終了しました。


*何故か華音の名前を間違って蜂子と記載していたところを修正(1/5)



 乙女と李依、それに教師主導で行われているいじめに対して不満を募らせていたクラスメイト達のおかげで、私達は勝利をした。

 いや、勝利をしたと思い込んでいた。

 だが、こんな話に勝利者なんて者はいなかったのだ。

 結果的に担任は懲戒免職にはなって、いじめに加担していた加害者側の人間、私達に協力をしなかった傍観者達も教職員や他のクラスから猛烈なバッシングに晒され、退学する者、内部進学を諦める者が続出し、その退学者の中に仲が良い人間がいた乙女と李依とも気まずくなって少し距離ができた。

 そしてその余波は担任の家族にも及び、担任夫婦は離婚し娘は母方に引き取られて名字を変えたと聞いた。

 これが勝利か。

 いや、こんなもの始まった段階で誰も勝てない負け戦だ。

 いじめなんてものを発生させた時点で、私達は誰も勝ち様がない負け戦に放り込まれていたのだ。





(敵の魔法か枕崎さんの魔法か知らないけど、趣味の悪いモノローグっスね)


 私がフラッシュバックのような夢から覚めると、そこは見慣れた送迎の車の中だった。

 車自体は何度か変わっているのに、お祖父さまの趣味とかで内装はずっと同じ車。そんな車の中にいつもと違うところがあるとすれば――


「なぜ正む・・・岡崎君がここに?」


 運転席には執事がいるはずなので、私は中学のころの私として話す。ノンプレイヤーキャラクターに聞かれたところで問題はないだろうけど、それで何かが変わっても嫌だ。

 ちらっと外の景色を見るともう夕方で家に帰る方向に車が走っているのでこのままだと家に正宗センパイを連れて行くことになる。

 それは正直面倒だ。いじめの件よりなにより、うちの家族と正宗センパイが会うというのは本当に面倒なことになりかねない。


「学校で偉そうな爺さん・・・多分雅弓の爺さんだと思うんだけど、なんかその人に雅弓とのことを聞かれて選択肢を選んでいったらこのシーンに飛んできた」


 ああ、なるほど。私との絡みだけじゃなくて、他のキャラクターでフラグ管理をしている部分もあるのか。

 ちなみに私の記憶は正宗センパイと乙女、そして李依との生徒会室のシーンが最後なので、私がモノローグを見せられている間に、正宗センパイだけが行動しているシーンがあったんだろう。


「そうですか、ではごきげんよう」

「っておい!俺の身体を押しながらドアを開けようとすんな!落ちたら死ぬだろ!?」

「どうせ夢の中なのだから、落ちても死にはしないっs・・・しませんわ!」

「そういうことを言ってるんじゃねえよ!」


 そんな風に押し合いへし合いしているうちに車は無慈悲に私の家の門を通過する。そしてあっという間に車寄せまで進み、静かに停車し、私達は執事が開けてくれたドアから外に出た。


「着いたな、ここが雅弓の家か、風情があっていいなあ」

「いや、着いたなじゃな――ではなくて、今からでもお帰りいただけませんでしょうか?」

「無理だな、帰ろうとしても透明な壁に邪魔されてこれ以上前に進めない」


 そう言って正宗センパイはパントマイムの様に手で中空をバンバン叩いてみせる。

 ちょっと怪しいけど、この夢におけるシナリオの強制力についてはさっき私も見ているし、多分本当だろう。


「さてさて、雅弓の家族ってどんな人達なのかなー」

「って、セン――岡崎くんは本当にお祖父さまに言われて仕方なく来たんですよね!?」

「本当だって。っていうか、そうじゃなきゃあの怖い顔した執事さんが俺を乗せてくれるわけないだろ?」

「まあ、そうですけど・・・・・・」


 あれ?さっき車に乗っていたときは気がつかなかったけど、執事が昔から私の面倒を見てくれているジイじゃない。誰だこの執事。


「どうした、雅弓」

「いえ・・・」

「遠慮せずに中に入れよ」

「私の家ですよ!!」


 今のKJK寮での生活になってからはめっきり足が遠のいていたが、相変わらず無駄にでかい。そして無駄に敷地が広い。

 ・・・そして、懐かしい。

 普段は忘れていたが、こうして見てしまうと、この夢から生還できたら一度帰ってみようか。柄にもなくそんなことを思ったりする。


「あ、やっぱりちょっと庭を見てもいいか?」

「いいですけど、見てもたいした物はありませんよ。あと、塀のほうにある雑木林には近づかないようにしてくださいね、センサーとか警報とか罠とか色々あるはずなので」

「お、おう」


 あれ?でも透明な壁があるはずでは?


「お、雅弓の許可を取ったら壁がなくなった」

「・・・・・・」

「な、なんだよその顔。ほ、本当に壁があったんだからな」

「いえ、別に疑っているわけではないですけど。それでは私は一足先に中に入っていますから――」


 ごゆっくり。と言おうとしたところで、いきなりシーンが変わった。

 私と正宗センパイの前にいるのは――


「おお、来たな岡崎少年。それと、お邪魔しているよ、雅弓」


 ――庭の池にかかった橋の上で鯉に餌をやっているお祖父さまだった。







 私がお祖父さまと正宗センパイの夕食と、万が一二人が泊りになったときのことを考えての布団の指示などを使用人達に出し終えて戻ると、茶室ではお祖父さまと正宗センパイ、そしてさきほどの執事同様、私が顔を知らない女中さんが談笑していた。


「まさにそれよ。今日転入してきたばかりだというのに、君は雅弓のことがよくわかっている!見所があるぞ!」

「爺さんも雅弓のことがよく分かってるじゃんか」

「当り前だ。ワシは雅弓の祖父だぞ?がっはっは」


 あー・・・知ってた。

 うん、知ってた。お祖父さま私のこと大好きだもんね。そうなるよね。


「おう、お帰り雅弓。どこ行ってたんだ?」

「ここは私の家だって言ったじゃないですか、家長の私が指示出さなきゃセン・・・岡崎君とお祖父さまの夕食なんて、出て来ませんよ」

「え、雅弓の家ってそういう意味だったのか!?」

「結構前に両親が亡くなってるので」

「・・・・・・」


 そういう顔が嫌だから、今まで両親が生きているていで、コスモセンパイと華音センパイにも言ってなかったんだけど。

 まあ、だから私の家とは言っても実質両親の家だし、未成年の間はお祖父さまが後見人になっているから家の維持に必要な修繕の手配とか税金関係とかそういうものの手配はやってくれていて、私がやっているのはせいぜい使用人の人達に急な業務指示をするくらいなのだけど。


「さて、じゃあ岡崎少年」

「はい、なんすか?」

「雅弓が来たことだし、そろそろ条件を詰めようじゃないか」

「条件・・・?」


 始まった。


「雅弓は息子夫婦の遺した一粒種。半端な男にやるわけにはいかんのだよ」

「は・・・はぁ」

「そこで見込みのある男をワシが育てようということで、有望な男子生徒を青田買いしているというわけだ」

「いや、そこは雅弓に近づく男は排除する的な感じじゃないんですか?」

「そんなことをして雅弓に嫌われてはかなわんからな。それにいつかは雅弓だって結婚して子供を産むだろう。そうなった時、ろくでもない男につかまってしまっていたらと思うと、ワシはもう胸が張り裂けそうになる」

「ええと・・・」


 こっちに助けを求めようとしないでほしい。

 こうなるから、私はセンパイをうちに連れてくるのは嫌だったのだ。


「もちろん、こちらの課題を見事クリアしてもらえれば対価は払うし、大学も就職先もワシらで世話をしようじゃあないか」


 なお、まず第一の課題として次の定期試験からずっと全教科学年一位を取らなければいけない模様。女一人のためにそこまで頑張れる男子がいるか。

・・・いや、いるにはいるんだよなあ。昔のお祖父さまとか、お父様とか従兄弟の匠お兄ちゃんとか、それぞれ自分の親から同じ条件を課されて意中の人のために頑張り切っちゃたんだから。


「ただし、こちらの課題をクリアできなかったらそれ相応の代償は支払ってもらうことにはなるかもしれんがな」


 そして、ただでさえ面倒くさい条件なのに毎度毎度こういう事を言う結果、私に近づく男を排除する効果があったりする。


「お断――んん!?」


 お祖父さまの提案をお断りしようとした結果、強制力が働いたらしい正宗センパイが声にならない声を出しながら目を白黒させる。

 しばらくもごもごと頑張っていた正宗センパイは、それでも那奈センパイに対して操を立てようと思ったのだろう、話を変えるという戦法に出た。


「そ、それより爺さん・・・じゃなかった、理事長先生」

「なんだね」

「今、うちのクラスにはいじめがあって、雅弓はそれを止めようと頑張っているんです」

「なにっ?本当か、雅弓」

「・・・・・・・・・」


 本当はもっときちんと証拠を集めてからというのが本来の話の流れではあるものの、多分これでも全く問題はないんだと思う。というか、多分こっちのほうが平和に解決するはずだ。

 お祖父さまは私に甘い。だから証拠が足りない状態で言っても私を信じて証拠集めをしてくれるだろう。それも私達よりもよっぽど上手く。

 あの時の私達は変に自分達で頑張りすぎてしまったから、あんな事になってしまったのだ。 被害者すらも退学するハメになってしまうという、あんな事に。


「・・・・・・はい、首謀者は蒲田先生で、クラスメイトも何人か結託しています」

「そうか、あとはこちらで処理しよう」


 そう言って私と正宗センパイを見るお祖父さまの目は、先ほどまでの好々爺のものではなく、経営者、教育者としてのそれだった。

 多分、近々蒲田教諭と積極的に加担した生徒達は学校を去ることになるだろう。あとは校長の首がすげ変わって、概要がサラッと公表される程度だろうか。

 長引かず、被害者もこれ以上苦しまず。


 最高の展開だ。


 これでいい。


 これがいい。


 こうするべきだったのだ。






 ・・・・・・まあ、こうしたところで、多分、私にとっては何も変わらなかったのだろうけど。




今年後半あんまり進められなかったし、31日にもう1更新行きたいなぁ

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